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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
二章 信じられない異名探し

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03 ニ章 身近に潜む意 エピソード08 情報収集

 カイニスと別れてしばらく。俺は手持無沙汰となり、ふと目に付いた室内に置いてあるフェルメニア大陸の宗教本、ユピテナス教導国家の聖書を流すように読んでいた。

 しかしながら、ここはヴァニラ列島。なぜ十年も鎖国しているフェルメニア大陸内の書物が置いてあるのかとツッコミを入れたくなる。と言うか、ツッコミを入れるためにわざわざ目を通したまであるのだが。


 パタン。と本をたたみ、元あった位置に戻す。


 何と言うか、急に馬鹿馬鹿しくなってきたのだ。なぜマウント(苦言)を上げるためだけに、俺が脳の容量を使わなければいけないというのでしょうか。


「暇となってしまいましたね」


 ひとまず湯あみを済ませ、旅の汚れを適当に落としてから、俺はまた質素な衣服へと着替えた。

 そう、着替えたという事は、外出するという事である。

 思えばこの三日間碌な食事をとっていない。だから食事だ。ここサディーの街は首都であるため、貴族連中御用達のレストランも多数立ち並んでいる。

 グルメには事欠かない。なんなら、以前バトーから何店舗かおすすめのレストランを教えてもらっているのだ。

 俺は意気揚々と立ち上がり、宿を後にした。


 外へ出ると、空は曇り模様へと変わっていた。まだ、日中。午後三時程であるにもかかわらず、どことなく湿気た空気が漂い、視界も灰色掛かっている。

 やはり雨が降る間近なのだろう。遅めの昼食でたらふく腹を満たし、夕食は諦めた方がよさそうだ。


 馬車の騒音や行きかう人々の喧騒を、ぼんやりと聞き流しながらしばらく歩くと、目的のレストランへと到着した。

 外見は瀟洒の一言に尽きる。

 改修や維持に金がかかるであろうクラシックな木造建築は、ところどころへと金細工があしらわれ、それだけで庶民の足を遠のかせる迫力がある。

 まるで聖堂や礼拝堂を彷彿とさせる厳かな雰囲気も感じさせる正面は、ほとんどガラス張りとなっており、店内には身なりの良い者達が、まるで召使化の如く店員へと口を開いているのが見て取れた。


 期待できそうではありませんか。

 しかし、入店しようと一歩踏み出した俺は、正面玄関で門番よろしく険しい表情をしていた店員に、すぐさま引き止められる。


「大変申し訳ございませんが、ここはあなたのような庶民が来る場所ではありませんので。お引き取りを」


「…………お金ならありますが」

 

「代金が在るのは前提。ここは、その上で身なりと地位も持ち寄っていただけなければ…………」


 と、店員は俺の事をつま先から頭のてっぺんまで不躾にも眺め、嘲笑した。


「そのような貧相な装いでは、他の方々のお目汚しになりますので。当店舗の品位も疑われてしまいます。どうか、お引き取りを」


「そうですか。では、また」


「いえ、またの機会はないでしょう。今世でここへ足を運べるようになれるとは、到底思えません。」


 この店員本当に嫌味な男だ。

 ただまぁ、言っている事は分かる。正直ドレスコードを無視した俺にも非がある。

 しかし、俺にマウントとったのだ。いつか後悔させてやる。必ずだ。

 

「失礼しました」


 レストランを離れると、更に暗雲が立ち込めてきた。

 夜のような明度の落ち込み具合は、まるで今の俺の気持ちとシンクロしているかのようだった。






                ※※※※※※※※※※※※






 白頭が視界の端に映り、思わず手を止めていたところ、「どう、されたのです、ファウスト卿。」との呼び声で意識を会食へと戻す。


「まだ前菜ですが、お口に合いませんでしたか?」


 「そんな事は無い。」この言葉は事実。実際、普段の食事よりもジャンクな雰囲気で、これはこれで新鮮だ。


「では、一体…………?」


「ん。さる高貴なお方がお見えになったようだが…………趣向には合わぬかったらしい。」


「なんとっ。ファウスト卿が仰る高貴とは…………公族のどなたかで?是非ともわたくしもお会いしたく存じます」


「カカッ…………野心家だな。だが、ちぃと違うの」


「公族でもない…………では、まさか島主の親族。どなたか…………王子様がこんな庶民派なところへ?」


「言い得て妙だ。確かに、あの方は王となる。」


「はて?」


「分からぬならいいさ。姫の件、話を戻すとしよう」


 「わたくしにはやんごとなきお考えは見通せませぬ」と、会食相手は肩をすくめた。






             ※※※※※※※※






 レストランを後にした俺は、人の流れに身を委ね、いつしかとある食事所へと行きついていた。

 見知らぬ場所ではあるが、人の出入りが激しい所を見るにそれなりに繁盛していると推察する。出入口には、店名と本日のおすすめが黒塗りされた木の板にチョークで書かれており、どうやら肉料理を押し出しているようだ。


「ここでいいでしょう。雨が降ってからでは帰るのも億劫です」


 ドアベルが付いたドアを開けると、謳い文句に違わぬ肉の灼けるにおいが鼻孔を突いた。

 店内は煙が充満しており、光る鉱石を覆い尽くさんと立ち込めている。もはや、今の曇天たる屋外と変わらぬ明度だった。


 俺は店員に人数を伝えると、空いているボックス席へと通され座った。メニューはもう決めていたので、本日のおすすめたる角ウサギのステーキを一つとクラフトビールを一杯頼んだ。

 頼んだのだが、その待ち時間。


「お客様」


 唐突にも店員が俺に声をかけてきた。見やれば少々口ごもり、些かの申し訳なさがにじみ出ている。


「どうしましたか」


「申し訳ありません。今、店内は大変混雑しておりまして、よければ相席となる事をお許しいただきたいのですが…………」


 確かに。あたりを見ると俺が待っている間に満員となっている。

 本当はごめん被りたいが、我儘を言って目立ち、時間をとる方が面倒くさい。 


「構いませんよ」


「ありがとうございます」


 それからすぐ、「失礼する…………」と女性が一人。俺の対面へと会釈の後座ったのだ。

 俺も一度だけ視線を合わせ、会釈にかこつけて女性の事を観察した。


 女性の外見年齢は若く、紫髪で一見すると普通に見える。けれど、座っている背筋はピンと伸びており、一挙手一投足に無駄の無さを感じさせる。それは、武芸を嗜んでいる者の所作。

 おそらく、ギルドメンバーではないだろうか。ここサディーの街はギルド本部があるため、珍しくもない。


 懸念点があるとすれば、俺の立場上敵であるため、素性を知られぬよう、挙動不審を避け、出来るだけ普通に食事を終えようと思う。

 そうこう考えているうちに、俺の頼んだメニューが運ばれてきた。それと同時に女性の方は店員へとメニューを伝えるために口を開く。


「失礼。その肉は何か?」


 しかし、店員は承りましたの一言も無く、女性の前からも立ち去ろうとしない。

 一体何事か。俺が角ウサギのステーキから、ちらと視線を上げた時、女性はこちらを見ていた。


「再度訊ねるが、その肉は何か?」


「…………はい?」 


 俺に聞いているのか?いや、傍目から見ればそうとしか思えない。

 実際、店員はメニューを書き記すメモ帳を持ったまま動かず、俺の方を見て苦笑いをしているのだから。


「…………角ウサギの、ステーキですが」

   

「そうか。回答感謝する。店員、私にも同じものを頼む。大盛りで。」


 話は終わった。

 俺は再度ステーキへと視線を落とし、ナイフとフォークで肉を切り分け口に運んでいった。すると、『ぐぅ~…………』という何とも間抜けな腹の虫の音が、食事の邪魔をする。

 言っておくが俺ではない。俺の正面から聞こえた。


「腹が、減った。」


 言われずとも聞こえている。が、無視を決め込む。

 いや、決め込みたかったのだが、非常に視線を感じる。女性の視線は俺の食事へと釘付け。もはや獲物を狙う狩人のそれだ。よく見れば口の端からよだれが出たり入ったりしている…………。

 なんなのですかこの人は…………。


「もし、あの…………そのように見つめられると、食べずらいのですが」


「む?いらぬならもらい受けるが」


 なんだこの女。頭がおかしいのか?

 

「いえ、そうではなく。あなたの視線が鋭く、気まずいと言っているのです」


「そうか。気にせず食べるといい」


 疑念は確定へと変わった。会話が成り立たない。間違いなく頭がおかしい。こういう輩には関わらない方がいい。

 いや、そうだ。だからこそ早めにご退席願おう。


「…………よければ、俺の物を差し上げますよ」


「っ!いいのか」


「構いません」


 先に食わせ、腹が満ちればこの女は先に退出するだろう。俺はその後、優雅にも悠々と舌鼓を打てばいい。 

 食べ掛けの皿を対面へと滑らせると、女性は目を輝かせ俺の使用済みフォークとナイフを気にも留めず、食事にありついたのだ。

 その勢いはすさまじかった。ものの一分ほどで皿の上のソースまでぺろりと平らげたのだ。もう、食洗すら必要ない程、綺麗に食べ終えた後、女性は口を拭く。

 そして同時に、「お待たせいたしました。」と店員は女性のメニューを運んできたのだ。


「当店自慢、角ウサギのステーキの大盛り、五キロになります」


 五キロ!?度肝を抜かれるサイズだ。ほとんど丸々一匹じゃあないか。見てるだけで胃もたれが凄い。胃酸が追い付かないのが分かる。

 しかし、そちらに圧倒されていてはいけない。俺も再度注文をしなくては。


「失礼、店員さん。俺に角ウサギのステーキをもう一品。お願いできますか?」


「え、あ。あぁ承りました。少々お待ちください」


 そして、店員から顔を逸らし、正面を何気なく見ると、


「嘘でしょう…………もう、三分の一ほど消えているじゃありませんか」


「…………すまない。これは、私のなんだ」


「なっ…………」


 この女。俺が浅ましくも人の物を得ようと思っていると勘違いしたのか!?馬鹿をおっしゃい、あなたと違って俺はきちんと代金を払う。物乞いなどするものか、屈辱だ。

 だがしかし、このスピードで食が進むのならば、俺の肉が来る頃には女性も席を立つはずだ。

 計画通り。我ながらパーフェクトな策謀でしょう。

 果たして、女性が全て完食したころだ。目当てのものが来た。


「角ウサギのステーキの大盛り、五キロになります」

 

 前言撤回だ。「は?」と我が耳を疑ったが、俺の前に置かれたのは紛れもなくソレ。

 俺の視覚情報は、店員の言葉に嘘偽りはないと告げていた。


「ま、待って下さい。俺は角ウサギのステーキを、俺が頼んだのと同じものを注文したはずですが?」


「え、あ。そう、だったのですか。同じものをと言われましたので、五キロの方かと…………」


「申し訳ございませんが、下げていただけますか。普通のものをお願いいたします」


「しかし、角ウサギのステーキはこれで全てとなりまして…………」


「…………と言う事は、これを食べるほかないと?」


「も、申し訳ありません!こちらのミス。料金は通常サイズで構いませんので。どうか、気を静めていただきたく…………」


 くそ。なんてことだ!

 無理だぞ。こんなものを完食できるわけないではないか。あと最低でも五人は呼ばなければ…………。

 俺が冷や汗をかいている時、『ぐぅ~…………』とあり得ない音を耳にする。


「…………あなた、まさかまだお腹が減っていたりしますか?」


「いいのか!?」


「…………構いません」


 俺の計画は崩れ去った。

 なぜ、見ず知らずの人と仲良く分け合うなどという、社会性を披露せねばならないのか…………。

 肉が美味しくなければ、迷惑客になる所でしたよ…………。


 ちなみに言うと、代金は五キロ分を払った。

 当然だ。俺の伝え方も悪かったのだから。

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