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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
二章 信じられない異名探し

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03 ニ章 身近に潜む意 エピソード06 別れ

 逃げる理由はおろか、いとますら見当たらず、俺はそれからの道中――――約三日間をスプーシャとアポロの二人と行動することになった。

 

 ちなみに言うと、初日は驚かされっぱなしだった。

 アポロはともかく。スプーシャが自己申告していたお嬢様と言う名乗りは本当であったらしく、キャンプ機材も知らず、料理も出来なかったのだ。まさに世間知らずの箱入り娘。


 一体黄金ランクに上がるまでの間、何処で何をしていたのかと喉まで出かかった疑問は、なんとか飲み込んだ。

 その時にはさすがにドン引きよりも、可哀想と言う感想にシフトしており、俺は出来るだけ簡潔に彼女へと野営における注意事項や、楽しみ方を教えて上げた。


 そしてその度、『えっへへへ』なんて、スプーシャは笑っていた。

 一体何がそんなに楽しいのかと訊ねれば、『初めての事ってワクワクするよね!』とのたまうのだから、困ったものだ。

 その際にはアポロでさえ、楽しそうに俺とスプーシャを見ていたのだから始末に負えない。この娘はあなたの担当でしょう。と思わず口を突いて出た程だった。


 二日目からはスプーシャが率先して、野営の準備を始めた。

 馬鹿だと思っていたのだが、いや、馬鹿ではあるのだが。案外にも体で覚えるタイプだったようで、言われた通りに陣地は組み上がった。

 ただまぁ、そうでなければ黄金ランクに上がる際の、筆記試験で落ちる筈なのだから、最低限の知能は有しているのだろう。


 その日の夕食は、日中に狩猟した魔物の肉。魔物は体長三メートル程。鉄製の鱗が生えた鳥型で、確か学名はトゥチュスとか言う発音しずらい名前であったと記憶している。

 本来ならば、飛行する魔物など捕まえるのに苦労するのだが、今回は黄金ランクの面目躍如通り、スプーシャが持っていた刀を抜刀すると一息に跳び上がり、あろうことか空中で羽を切り落として狩ったのだ。

 その時のスプーシャは、少なくともニ十メートル以上跳躍していた気がする。いやはや驚きだ。もはや飛んでいると言っても過言ではなかった。

 

 その事をスプーシャに伝えると、彼女は嬉しそうに『えっへへ!』と笑い、タネを教えてくれた。

 どうやら、跳躍の瞬間に土魔術で自身を上に押し上げていたらしい。

 とは言えだ。二十メートル上空から着地して無傷だった点は、やはり彼女が黄金ランクだからなのだろう。


 夕食の調理はアポロが請け負った。彼はとても手際よく肉を捌き、俺の持っていた調味料と合わせる事でスープにした。

 味は及第点にも届かないが、野営であるのだから期待してもいなかった。ただ、アポロの腕が悪い訳ではない。そもそも獣臭い上、鱗が鉄分を多く含んでいるためか、鉄臭さも食欲を減衰させたのだ。

 ただ、貴重な栄養補給減であることに変わりはない。残った肉はその場で水魔術を用い水分を抜き、火魔術で燻しながら乾燥させることで、燻製と為し鉄臭さを軽減させた。要は翌日以降の備蓄だ。


 そして、今日ついに道中最終日となる三日目。少なくとも夕方前にはサディーへと着くであろう歩み具合は、既に正午を回っている。

 残念と言えば残念ながら、この三日間雨は降らず、今日も晴れ。直射日光は俺を親の仇が如く、焼き尽くさんとさんさんと降り注いでいる。

 ただ、幸いな事にも風は強く吹いていた。見上げれば雲の流れも速い。もしかしたら、夕立も降るかもしれない。そうすれば、些かの涼が得られるはずだ。

  

「いえ、夕立が降ってしまったら…………ぬかるんで涼どころではありませんね」


「うぇ!?雨降るのぉ?聞いてないよぉ~」


 歩くたびに髪を風になびかせ、赤茶色の軌跡を空間に作る。スプーシャは、髪をわずらわしそうに押さえつけながら、俺へと苦言を垂れたのだ。


「びしょびしょは嫌だ~気持ち悪いもん…………」


「そんなこと言っていますが、この旅路において、俺はあなたが汗をかいている所を見たことがありませんよ」


「そりゃあ…………ねぇ。ただ歩いてるだけだし?」


「体力お化けですか、あなた。アポロさんを御覧なさい」


 俺が視線を送ったのは最後尾。


「………………………………」


 無言で、無表情で、心頭滅却とでも言う風に黙々と足を動かす亡者。


「あぁ…………アルマさんと変わんない…………ね?」


「いくら風が有ろうともこの暑さです。普通俺や彼のようになりますよ。あなたが異常なのです。異端者めが」


「そ、そこまで言わなくてもいいじゃんか!」


「っ、風を押しのけ声を響かせるのはおよしなさい。頭に響きます」


「なんだよもぉ…………体力ないんだから」


「持たざる者の悩みは…………持ちし者には分からないのですよ」  


「ねね、じゃあさ。おんぶしてあげよっか?」


「…………はい?」


「あ、知らない?おんぶって言うのは、人を背中に担ぐことで――――」


 馬鹿にしているのかこの娘。それぐらい知っている。暑さでグロッキーで無ければ、引っぱたいていたところですよ。


「――――いえ、俺はなぜそのような思考回路に陥ったのか。と聞いたのです」


「だってさぁ、雨降るかもしれないんしれないんでしょう?その前に宿に付きたいのに、二人共速度落ちてるし。」


「なら、俺の事など捨て置いて、アポロさんと二人で行けばいいでしょう」


「ヤダ!」


「な、なぜです」


「あ、あたしは正義の味方だよ!困ってる人を置いて行ける訳無いじゃない」


「はぁ…………アポロさんが承諾するなら、いいですよ」


「だってさぁ、アポロさん」


「お願いします。限界です。元はと言えばスプーシャさん、あなたに付き合った結果でもあります。」


 アポロのあっさりとした承諾に対し、「え」と、俺が二度見した瞬間だった。

 俺の視界が急速にブレ、次に定まった視界はスプーシャの小脇からである。要は荷物よろしく彼女の小脇へと抱えられていたのだ。


「は?は!?な、おんぶと言う話ではありませんでしたか!?」 

 

「えっへへ~メンゴ。流石に二人は無理無理」


「たばかりましたね!?俺をこのような、片手間にするなどとぉ!」


「アルマさん、先に言っておきますが、口を閉じていないと、舌と生き別れる事になりますよ」


 スプーシャの胴を挟んで反対に抱えられているアポロはそう言った。しかも、若干の顔の引き攣りも見て取れる。

 これは穏やかじゃあ、ありませんね。 


「じゃあ、いっくよぉ!荷物ちゃんと持っててねぇッ!」


 俺がギュッとカバンの取っ手を握り締めた瞬間。

 まず襲ったのは浮遊感。そしてそれ以上の慣性。さらにはそれら全てを凌駕する空気圧。


 もはや、空気は壁となっていた。目を開き、口を開けようものならば、体内へ押し寄せる大気の層で、風船のように破裂するのではないかと邪推する程、スプーシャの移動速度はすさまじかった。

 

 これが黄金ランクの為せる業か。

 木々がなぎ、景色が背後へと滑って行く摩訶不思議な光景を、俺は初めて体験したのだ。おそらくは銃弾に近しい速度なのではないだろうか。

 空気の摩擦で皮膚を削られるような感覚も、生まれて初めての感覚だった。はっきり言ってこれだけで人一人殺せるのではないだろうか。


 そして、今だからこそわかる。スプーシャが野営も知らぬ理由がこれなのだろう。だって、この速度を出せるならば、町から街への移動など日をまたぐ必要性が無い。


 そんな死と隣り合わせの時間は、数分間続いた。

 逆に言えばたった数分間で、俺は目的地サディーへの旅路を終えたのだ。


「げほ、ガハッ!」

  

 まさか、まさかこの俺がこのような無様な息継ぎを披露する羽目になるとは…………。

 スプーシャの手元から離れた俺は、地面に突っ伏し肩で荒く息をする。横を見やれば、アポロも同様に息継ぎをしていた。

 これではもはや、陸地でおぼれているのと相違無いのではないだろうか。


「ねぇ、まだかかりそう?」


 ようやく立ち上がり、スプーシャの方を見ると、軽く汗を流している程度だった。何というか、軽い運動を終えたといった清々しさまである始末。

 化物め…………。俺が黄金ランクと関わるのはこれが最後だ。付き合っていられない。


「はぁ…………はぁ、もう、いいでしょう。俺とあなた方の縁もここまでです。」


「え、あ。まぁそっか。だよねぇあたしらも任務があるし。うん、これまでありがとね」


 思いのほかあっさりとした幕引きだが、こちらとしては願ったりかなったり。

 

「ふぅ…………ええ。一応礼は言っておきますよ。おかげで、想定よりも早くサディーへ着く事が出来ました。それと、関所はあちら。俺が指さす方にありますので。アポロさんが落ち着いたら行くといいでしょう。」


「あ、うん。分かった。ありがとアルマさん」


 軽く手を振る事で別れの挨拶とし、俺は関所の方へと歩みを進めた。






           ※※※※※※※※※※※※※※※※






「……………………行っちゃった。アポロさん、もう行っちゃったから疲れた振り辞めてもいいよ?」


「…………はぁ、はぁ…………はぁ」


「あれ、もしかして本当にきつかった?」


「と、当然でしょう。誰が魔力を与えていたと思ってんですか…………し、死ぬかと思った…………」

 

「あ、嘘。吸い過ぎた?」


「俺も『天の落胤(ネフェリム)』として生まれ落ちて居なければ、死んでましたよ。」 


「…………やっぱりすごいね」


「すごいのはあなたです。やはり『至り人』と遜色のない性能だ。さすがは『天使』様。」


「えぇ?!え、えっへへ…………天使って照れちゃうなァ」


「謙遜する必要はないですよ。彼女をよく知ってる俺が太鼓判を押します。あなたは、人の領域を脱している。よくぞ、それほどまでに練磨しましたね」


「ま、まぁでも…………あたしは、作り物だけどねぇ」


「言ったでしょう、謙遜する必要はありません。あなたの努力の賜物ですって」


「そ、そう?そーかなぁ!?まぁね!あたし、めっっっちゃ頑張ったから」


「でしょうね…………声を掛けられた時は驚きましたが、付いてきてもらって正解でした。戦力は多いに越したことはありませんからね」


「ふんむ!まっかせてよ!」


「頼りにしてますよ。スプーシャさん。」


「うん、天国はちゃんとしてなきゃね。あたしも死んだら、そこに行くんだし」

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