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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
二章 信じられない異名探し

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03 ニ章 身近に潜む意 エピソード04 邂逅

「さて、出発といきましょうか」


 眼下には首都サディーへの道をさし示すかのように、俺の影法師が伸びている。エイダの店に長居しすぎた影響だ。既に夜が明けたのだ。

 とは言っても、サディーはここトグサの街からそう遠くはない。元々トグサの街は内陸側の立地であり、サディーには近い方ではある。馬車であれば当日中には着くだろう。


「とは言え、表向きただのお花屋さんが馬車では、目立ちますからね。」


 今回の移動方法――――徒歩であれば三日ほど。そこまで苦しい距離ではない。まぁだからこそ、普通は避けるべき、大き目なカバンという荷物の選択をしたのだ。

 ただ懸念点もある。それは、サディーまでの道中に町はおろか宿屋すらないという事実。これは、普通首都に行く者は、何かしらのお役目か、役職や地位を持っている社会的上位な存在が多いため。要は馬車も使えぬ貧乏人やお上りは、はなからお呼びではない。足切りのような意味合いがあるという事だ。

 そのため、これから三日間は野宿となってしまう。


「やれやれ…………難儀なものですよ」


 噂によれば、フェルメニア大陸の方では、原動機付き車両と言うものがあるらしいが、俺としては見たことも無い代物ゆえ、イメージは湧かない。

 ただ、在るのだろうとは思っている。実際、フェルメニア大陸から密輸入された物の中には、鉄砲という兵器があった。今や裏社会では珍しくもない六発装填式の携帯式小型大砲。

 アレは、げに恐ろしいものだ。漆黒ランク程度の実力が無ければ避ける事すら叶わず、一方的にも蹂躙されるのだ。


 ちなみに言うと、なぜ密輸入なのかと問われれば。別に兵器の貿易が禁止されているからという訳ではない。

 そもそもの話として、フェルメニア大陸は十年ほど前、大陸内での全面戦争に突入し、それからと言うものほとんど『鎖国状態』が続いている。

 最近になってようやく、俺達の住むヴァニラ列島と、ジーランド大陸から、フェルメニア大陸内のギルド復興と言う建て前で――――おそらく本音はフェルメニア大陸内の技術を得ようという魂胆だろう――――ギルドメンバーが出向いているとの話も聞くが、俺の方にあまり情報は入ってきていないため、詳細は分からない。


「…………ない物ねだりは辞めて、地道に足を動かしましょうか」


 正直、魔力を回し走り続ければ、今日中にもサディーへ着くことは出来る。出来るのだが疲れる。

 そして、疲れた時に鬼畜クソ女が蘇っては、反撃におくれてしまう。だから俺は、基本的には疲労が少ない手段を選ぶ。


 トグサの街の縁――――関所に着くと、顔馴染みの衛兵と軽く世間話をしながらギルドカードを確認してもらい、俺は旅路へと着いた。

 背後で響く大きな門が閉じる音を、出発の合図と一歩踏み出し、それからはつつがなく進んでいった。


 青々とした木々を左右に捉える固い土草で作られた道は、度々分かれ道に差し掛かったり、軽い高低差が俺の歩みを遅らせる。

 ただ、分かれ道と言ってもその都度看板が立っているし、高低差にしても、勾配で言えば一度未満の緩やかなものだった。


 しかし、俺の意気揚々とした気持ちも時間と共に萎えていく。

 だって、既に季節は夏である。いつしか前方には陽炎が地面を揺らしているのだ。もしくは熱気に参った俺の視界がブレているのかもしれないが、区別がつかない。


 朝方はまだしも。日が昇った今の俺は、自然の風だけでは物足りなくなり、衣服のえりを摘まみ仰ぎ、風魔術による微風を従える事で涼を得ようと躍起だった。

 それでも暑い物は暑い。たまらず木陰に忍んで、休憩をとった。


 時刻は恐らく正午に近い筈だ。影が真下に落ちているのだから、体感的誤差は少ないだろうと思う。 


 水魔術で大気中の水分を整え集め、手の平に水を溜めると勢いよく飲み込む。この程度はこの世界に生きる者ならば、誰であろうとも出来る事。


「それにしても…………今日は本当に暑いですね」


 貯めた水は気温に影響され温かった。なんならそんな水を飲んだ影響で、体内からも熱さがこみ上げる。

 

「…………冷や水が欲しい所。そう言えば…………魔術王と謳われるソーラル・ディーは、氷を扱えるとか。いやはや、その原典魔術是非ともご教授願いところですが」


 叶わないだろう。

 ソーラル・ディーはフェルメニア大陸に住むものだ。つまり既に十年ほど音沙汰無しと言う事。


「もう少し涼んでから行きましょうかね」


 と、木陰の恩恵に預かるために木の根元へと寄せた時、背後から気配がした。

 ()()()

 俺の背後をとる者など、カイニスくらいだと思っていたが、


「誰ですか」


「うぇ!?き、きづいちゃった?」


 素っ頓狂な声を挙げたのは、木の裏から出てきた人物。刀を腰に携えた女性だ。

 赤茶髪のセミロングで碧眼の見知らぬ女性は、右手に水滴滴る水筒を地面へ置く直前だった。


「えっへへ…………ど、どうもぉ。」


「愛想笑いは結構。誰かと聞いているのです。」


「す、スプーシャ…………何をしてるんですか。あんたは…………もぉ…………大人しくしてろって言ったじゃないですかぁ…………」


 「スプーシャ」。それが女性の名前なのだろう。しかし、その名を口にしたのは女性自身ではない。男の声だ。

 視線を向ければ、スプーシャのさらに後方から、額を押さえつけ渋面を浮かべる、褐色肌で俺と同じ髪色の青年がいた。


 一見すると二人の外見年齢は二十台ほどに見えるが、正直あてにはならない。

 なぜなら、この世界において魔力量の最盛期たる二十代から三十代前半を、魔力の活性化による『老化遅延』によって維持するのはごくごく自然な事。なんなら美容健康法という謳い文句で書物すら出版されている始末だ。

 実際、俺だって若造りと言う名の老化遅延を行っている。当然だ。少なくとも二百歳は生き、大往生するつもりなのですから。


「さて、そちらの女性は分かりましたが、褐色の君、あなたは…………?」


「もう、今さらですかね。」


 まるで観念するように、青年はスプーシャの傍へと寄って、敵意は無いと両手を上げた。


「俺は、アポロ・オーガスと申します。こちらの女性は…………スプーシャ・アールマティ。俺達は、旅のものなのですが。あなたが熱に参っているのを見かねて、どうやら声をかけてしまったようです。」


「…………余計なお世話ですよ」


「は、はは…………ですよねぇ…………本当にすみません。ほら、スプーシャあなたも謝りなさいッ」


「いやだ。だってあたし正しいことしたし!」


 アポロは再度頭を抱える。

 それは俺とて同じ事。


「なんともまぁ…………独善的な思想の持ち主ではありませんか」


 親の顔が見てみたいものです。俺がそう思った瞬間、スプーシャはズイっと俺の顔を覗き込んできたのだ。


「な、なんです。」


 「…………ふーむ」なんて顎をさするスプーシャの碧眼に俺が映りこむ。


「おじさん。名前は?」


「は?何を急に。」


 別におじさんと言われることはいい。他人の表面的評価など俺は別に気にしない。

 つまり問題はそこではなく、


「失礼ですよあなた。見ず知らずの他人に向かい、馴れ馴れしくも口を利くなど、せめて敬語をお使いなさい。親の顔が見てみたいものです。」


「えっへへ…………あ、そうだよね。ごめんごめん。で、名前は?」


「聞いているのですか。」


「お水あげるからさぁ」


 俺はアポロへと顔を向ける。しかし、彼もお手上げと首を横に振るのだ。


「アルマ。といいますが」


「おっけおっけ。アルマさん。はいどうぞお水!」  


 と、渡されてもだ。


「これ、あなたが口を付けた物ではありませんか?そう言うのは、衛生上遠慮したいのですが…………」


「んな!あたしの口が汚いっての!??ひっどい事言うじゃんか!」


「いえ、普通見ず知らずの人の物を飲みはしないでしょう。毒でも入っていたら大変だ」


「もう~…………大丈夫だってばぁ…………いい?見てててね」


 スプーシャは一息に水筒の水を口に流し込んだ。女性特有の慎ましやかな喉が上下に動く。

 なんてことだ…………この暑い夏の中、冷えた水を喉に流し込む姿を見せられる。これほど購買意欲をそそられる事が在るのでしょうか。

 

「プハァ!ね!ダイジョウブ。ドク。ナイ。ハハン?」


「なぜ片言なのか。と言う点は、まぁ、この際一旦おいておきましょう。それでいくらですか、お代は払いますよ。」


「うぇ!?い、いいよ。分けてあげるって。」


「いえ、そういう訳にはいきません。俺は貸し借りを作るのが好きではありませんので」


「いいのいいの。困った時はお互い様!さ、どうぞ!!」


 いえ、あなたは困っていないでしょうに…………まぁ、今は表社会に居るわけですし、長引くのも面倒です。

 俺は水筒には口を付けないよう、水を頂き、すぐに返した。


「むー…………バッチぃみたいな飲み方してぇ~…………ま、いいけどさ。どぅ?潤った?」


「ええ。まぁ、多少は…………しかし、これ硬水ですね。俺は軟水の方が好みなのですが」


「もうっ我儘!我儘だよアルマさん!?」


「おや、失礼。善意の押し売りに対し、拒絶反応が出てしまい。訂正いたします。悪くはなかったですよ」


「下手に出てそれ!?わ~ぉ…………重症だ。」


「そういう時は、謙るというのですよ。お嬢さんいい歳でしょう、言葉使いは丁寧を心掛けた方が、何かと無難ですよ。」


「…………同じこと言ってるよ」


「はて、誰の事です?」


「あたしのお父ちゃん」


「と言う事は…………躾が行き届いていなかったのですね。」


「当然!だってあたし超~~~~甘やかされて育ったからね、自慢じゃないけどお嬢様な感じだから!エッヘン!」


「…………いやはやまったく、御父上に…………いえ、ご両親に会ったらば、一度ガツンと言って差し上げましょう。」


「あーまぁ、おいおいね。でもあたしにチクチク言うなんて、無理じゃないかなぁ」


「なぜ?」


「ふふん!待ってましたぁその問いかけをっ!」


 「だって」スプーシャは自慢するように己が懐から、ギルドカードを取り出し、俺に見せつけた。

 俺はそして、この短時間で二度目の驚愕に直面し、目を丸くするという無様を晒してしまうのだ。


「何を隠そう、このあたしこそ、正義の味方(黄金ランク)だよ。」


 光り輝く金色は、太陽の照り返しであまりに眩しかった。

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