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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
二章 信じられない異名探し

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03 ニ章 身近に潜む意 エピソード02 幹部会 2

「アルマ様」


 ジョブズと別れてすぐ。

 応接室から会議室へと戻っている途中で、俺はミシェルに呼び止められた。彼女は折り目が付かぬよう、木の板に挟んで持っていた一枚の書類を俺に差し出してきたのだ。

 受け取り、軽く目を通すと彼女の字だった。しかしながら普段よりも乱れ、脱字も見受けられるところから、速度重視で綴り上げたのだろう事が分かる。

 

 おそらくは出来立てほやほやなのだろう。もはや、崩し書きさながらのその()()()書類の内容は、先の幹部会にて決まった事柄――――議事録だった。


「…………異名追跡のためサディーへの事業拡大。その段取りと言う名の出張…………ですか。赴くのはカイニスとバトーになっていますが、エイダではないのですか?」

 

「すみません。私は決まった事項を聞き、書き上げた次第で。どういった過程を経たのかは定かではなく…………」

 

 ミシェルは気まずそうに、視線を泳がせる。

 そうですよね。会議室にミシェルは居なかったのですし、生地悪な質問でしたか。


「では、本人に直接聞くと致しましょうか」

  

「だろうと思ってさぁ、来たぜぇアルマ」


 俺は()()()。その聞き馴染んだ声に肩を跳ねあげらせた。

 振り返れば無精ひげを撫でつけるカイニスがいる。その後ろにはバトーもだ。


「あなた、普段から言っていますが、気配を断って後ろに付くのをおやめなさい」


「まぁ、そう言うなよぉ。オイラ達に聞きたい事あんだろぃ?」


「ええ、なぜエイダではなく、あなた達が出向くのです。」


 「いえ」俺は一度バトーを一瞥し、「そちらはいいとして」、カイニスへと再度問う。


「カイニス、あなたが出向く必要はないでしょうに。サディーに住むバトー一人で十分でしょう」


「んぁまね。オイラ最近暇だったし、偶には汗水たらそうかと思ったのよ。あと、先に言っとくと、エイダは自分の店があっからさ、出張は厳しい訳。いやぁ面倒くせぇよなぁ…………」


「一文で矛盾するのはお辞めなさい。そんな態度で大丈夫なのですか」


 「クハッ!」と嗤い、カイニスは俺の胸板を叩く無礼をはたらいた。


「まぁ何とかなるなる。ってぇことで支度してくッからあとのこと、よろ~ほら、行くぞ爺様」


 しかし、バトーは言いたいことがあったようで、顔だけを俺に向けた。


「なんです、バトー」


「実は、サディーを中心とし、今密かにもやんごとなき身分の拉致誘拐が発生していると聞き及んでいるのです。アルマ様は、ご存知かな?」


「おや、丁度その話を今、ジョブスさんから聞いたところなのですよ。もっとも、俺に問うという事は、あなたも知らぬようですね」


 「生憎と」バトーは肩をすくめ、満足げにカラカラと笑う。


「ですが、我らには関係の無い事と存じます。ちなみに、その様な者を見かけた場合の対処は?」


「無論、捨て置きなさい。話によると、ソレは島主の親族だと言うではありませんか。我らには荷が重い。手を出そうものならば、足が着くどころか、最悪潰されますよ」


「カカッ、アルマ様ともあろう方が。また弱気な事をおっしゃりますなぁ」


「この世で最も恐ろしいものは、個の力ではなく、数――――国家権力なのですよ。」


 そうだ。一個人がいくら強かろうと、世論が徒党を組んでその一個人を輪から外してしまえば、瞬く間にも、物資の途絶と言う兵糧攻めや、数に物を言わせた物量鎮圧が迫りくる。

 ゆえに、足が付いてはいけない。

 

「しかぁし…………何者にも例外はあるでしょう。アルマ様」


「…………ギルドの介入の事を言っているのですか?」


「左様」


 確かに、あり得ぬ話ではない。

 ギルドは国とは不干渉を謳う武力組織だが、有事の際にはどの規模からでも、『依頼』と言う形で悪を切りに来る。

 しかも発足から既に四百年以上経っている老舗だ。当然どの国にも本部が、栄えある街には支部が点在している。

 しかも、


「今回の件は非公式とも聞いております。そして被害者が島主の親族であることを加味すれば、国が秘密裏にもギルドに依頼をしてしまった場合、漆黒ランクもしくは…………」


「…………黄金ランク。現代を生きる年齢不詳、長命なる兵達が裏社会へと我らを狩りに来る。カカっ、確かに確かに。あの英雄共は一個人で国一つ滅ぼせるしのう。現に十数年前には、ジーランド大陸でとある国が、英雄の戦いに巻き込まれ、滅亡寸前まで陥ったとか、なんとか…………いやぁ、こわひこわひ。」


「黄金ランクがそのような事をするとは思えません。そちらは眉唾ではありますが、ともかく。ギルドと国家権力の脅威はあなたが一番よく理解しているはずではありませんか。いいですね、くれぐれも近寄らぬよう努めなさい。カイニスもです。これは命令なのですよ」


「へーへー言われずとも。だが、それはアルマにも言える事だぜぇ。」


「なんですって?」


「己の胸に手を当てて聞いてみなぁ。勇んでとび出して、異名の原因探ろうなんざしねぇこった。サディーには近寄らず、この周辺で悪魔祓いの情報探しな。」


「…………まぁ、今回は仕方ありませんね。あなた方にお譲りいたします」


 「ミシェル。」と、傍で立場を弁えていた秘書を引きつれ、俺は彼らと別れた。

 別れて、会議室へ向かう廊下から方向転換。私室へと戻った俺はと言うと、


「では、アルマ様。残っている書類百枚。今日中にもお目通しを」


「あぁ、そう、なりますよねぇ…………」


 私室の机に頬づえをつき、俺は項垂れた。


「ハッキリ言っておきます。ミシェル。」


「はい、なんなりと」


「俺は、エクシアのお世話をしなければなりません。せっかくの機会あの子もまだ俺と触れ合いたいでしょう。」


「あの子のお世話は抜かりなく。アルマ様の気にするところではありません」


「では、単刀直入に告げます。面倒くさいのです。あなたがやってください」


「は?嫌です」


 あまりにも無慈悲。バッサリと切り捨てられ俺は放心した。


「…………ぁ」


「そもそも、私の管轄はアルマ様の秘書――――補佐です。なぜ、管轄外の項目まで私が手を出さねばならないのでしょうか。納得のいく理由をお訊ねいたします」


「俺は、組織図で言えば、トップなのです」


「はい。承知しております」


「で、あるならばあなたは俺の命令を聞く義務が生じる。違いますか?」


「違います」


 これが部下の言う事か?鬼の方が優しいとすら感じさせる冷たい瞳だった。


「いくらその端正なお顔を崩されようとも、私には効きません。あなたの言う内面を見ろとの言葉を深く受け止めておりますので」


「…………」


「そもそも、組織図を弁明として口に出された時点で、役職と言う避けては通れぬ項目がはだかります。要は、各々役割を持っているという事です。私の役割は前述したとおり。あなた様の役割は組織の運営に該当いたします。」


「俺は、オーナーで下の者達が集めたお金を貰うのみ。経営は幹部達が」


「オーナーとは即ち経営者と言い換えても過言ではありません。最終決定権を持っているのですから当然の事。それでも私に仕事を全てこなせというのでしたら、この組織は私が譲り受ける事と同義ですが、よろしいので?」


「…………意地悪」


「さぁ、お目通しを。」


「はい」

 

 俺は、視線を下げ書類に目を通していく。

 ミシェルの視線は鋭い。少しでも手を止めようものならば、口を出してくる。


 しかしながら言っておく。俺はマウントを取られてなどいない。断じて否だ。

 今回は可愛い部下のため、己が気持ちを圧しとどめたに過ぎない。当然だ飴と鞭のうち、飴にすぎない。

 重ねて言っておく。俺は、決して、まったく、全然、マウントを取られてなどいないのだ。


「…………どうしてこうなってしまったのでしょうか…………」


「心中お察しいたします」


 あまりにもひどい煽り文句だ。思わず瞳が潤んだ。

 俺は自身の胸に手を当て、ミシェルがこうなってしまった事に対する哀しさを態度で表した。昔はこうではなかった。もっと初々しく。ことあるごとにあくせくと動き、冷や汗すら滲ませていた。

 直後、叱られた。「手が止まっています」と小言まで言われた。

 今では冷や汗を垂らすのは俺の方と言う事ですか…………。


 でも、実は今、俺の意識はミシェル対しては向いていない。


「ぉや?」


 胸に手を当てた時だ。違和感があった。胸ポケットに手を突っ込むと、折りたたまれた一枚の紙が入っていたのだ。


「これは」


 開き、確認するとそれはカイニスの字。おそらくは胸板を叩かれた時、潜り込ませたのだろう。

 しかしてその内容は、のっぴきならぬものだった。 


 曰く、『バトーがなんか企んでるぜぇ、アルマ。お前もサディーに来いよ』


 天啓だ!俺はカイニスはおろか、バトーにすら礼を浮かべ、即座に魔力を回して立ち上がった。


「アルマ様…………ま、さか?」


「あとは頼みます」


 私室を抜け出た時。「またあ!!!!?」との絶叫が聞こえたが、俺は無視した。

 これは、鞭である。

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