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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
一章 惡の華 リンドウ

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02  一章 惡の華 エピソード18 ド外道君は奴隷商2

「――――ま様。アルマ様」


「…………っはい。なんですか、ミシェル」


 俺が改善報告書へと目を通し、些かの追想に耽っている間。どうやら秘書のミシェルは俺が居眠りをこけていたと勘違いしたらしい。

 プンスカと言う擬音が聞こえそうな程、口をへの字に曲げ、前かがみ気味にこちらを見ている。


「まだ休憩には程遠いですよアルマ様。姿勢を正してください。でないと首をやられます。」


 ミシェルは薄紫髪の長髪を後頭部でバレッタで留めている女性。もう見た目からしてTHE秘書と言った出で立ちである。彼女は俺が雇う前に利き手を怪我して握力が弱まった結果、本職を追われた苦い過去がある。ゆえに、雇い入れた当時の俺は適当な事務仕事を見繕い、任す事しかできなかった。


 とは言え、適性は在ったようで、気付けばバリバリに仕事をこなし、今では俺に異議申し立てすらしてくる鬼へと成っていた。

 しかも、理路整然と正論で殴って来るのでガード不可。恐い。そう言うのは良くないと思う。モラルハラスメントに当たるのではないかと、俺は最近思い始めたくらいだ。


 勘違いしないでほしいが、別にマウントを取られている訳ではないのであしからず。

  

 だからひとまず、俺は曖昧に笑ってごまかした。

 季節はもう夏に変わる頃合いである。俺は改善報告書をうちわ代わりに仰ぎながら、眉間に皺を寄せるミシェルの機嫌を取ろうと軽口を開く。


「そのようにしかめっ面を作っては、せっかくの輝きが鈍りますよ。」


「それでアルマ様が書類に目を通して下さるのならば、このミシェル、いくらでも皺を刻みますが」


「…………冗談です。そのように怒らないで下さい。俺、一応休養中なのですよ?」


「はい。ですから、普段屋敷にいらっしゃらないアルマ様が書類に目を通すまたと無い機会。逃しては、次はまたいつになるやら」


「意地悪。」


「いくら憎まれようと私は構いません。さ、まだまだあります。あと五百枚は今日中に確認をしてもらわなければ」


「…………あの、それこそ幹部の者達に任せればいいと思うのですよ。俺、オーナーであって、経営者ではありませんし」


「いいえ、今回はアルマ様が直々に手を下した一件も含まれますので。アルマ様にも確認の義務が生じております。あと、幹部の大半は今、滅多にない休暇中です。お邪魔をしては申し訳が立ちません。」


「ぇ…………いえ、え?しかし、それは俺もなのですが?」


「理由は既にお話済みですが?」


「強情ですねぇ…………」


「ご安心を。終わるまで、私も付きっきりでお傍に居ります。どのようなご要望にもお応えする所存。」


「さいですか」


 「そうです」とミシェルは薄紫色の髪を揺らし、腰に手を着くと鼻息を荒げた。今は日中ゆえ気温も上がっているのだが、ミシェルは化粧の厚みがあるためか、顔の表面に水滴は見当たらない。

 嘆かわしいことだ。そんな事をせずとも、内面から零れる美しさで十分だというのに。


 彼女は俺の所有する屋敷を拠点とし、文字通り秘書をやっているのだが、正直に話すと俺が留守の間の仕事は、彼女がほとんど捌いている。俺が幹部に仕事を投げればいいといったのはこれが理由である。

 ゆえに俺は()に頭が上がらない。そう極々偶にだ。勘違いしないで欲しいが、いつもは違う。マウントをしもべにとられる何て、まさかそんな。


 けれど、そちらの件を一旦置いておいても、今回ばかりは本当に疲れたし、そもそものところ、普段留守にしている時も別に遊んでいる訳では無い。

 あの鬼畜クソ女が周りにちょっかいを掛けるので、出来るだけ一つ所に留まらず人目から離れ、あの邪知暴虐の悪魔を取り払う術を探し続けて居るだけだ。ちなみにもう、かれこれ十年近く奔走しているが、手掛かりはなし。ほとんどお手上げ。


 だから重ねて言うが、俺は疲れてる。休養を取りたい。あの鬼畜クソ女が視界に映る前に安眠を取りたいのです。

 なんとかミシェルの怒りの矛先を反らすことは出来ないものか…………と、思案を巡らせ目玉をぐるりと回したその時。話を逸らすいい話題が俺のうちわに在ったのだと思い出す。 


「そういえば、ジューン・ホーンさんの処遇。進捗はどうなっていますか?」


 そう、改善報告書に基づいた発展系を口にしたのだ。これならばむげには出来ない。

 実際ミシェルは「それでしたら…………」と表情を解したのだ。


「…………滞りなく。加えて、夫と子供の保護も完了し、今は揃ってジューン・ホーンさんと同じ場所に匿っております」


「あぁ、別に保護したつもりも匿ったつもりも毛頭ありません。今回は例外。損害に対する補填です。勘違いしないで頂きたい」


「相変わらず素直じゃありませんね。だからあらぬ噂が立つんですよ。たとえばそう、ツンデレとか、ダークネスプリンスとか、あと――――」


「――――その件には触れないで頂きたい。俺は傷心しています、まったくけしからん。一体どこの誰がそんな世迷言を…………っ」


「すみません。出過ぎたことを口走り、不快にさせるつもりはございませんでした。」


「本当ですか?」


「はい。我らは皆、貴方様を敬愛はすれど、貶めるなど言語道断。即刻首を斬ってお詫びいたします」


 と、あまりにも滑らかな動きでミシェルはナイフを取り出し首に押し当てる。

 さしもの俺も度肝を抜かれ、「お、お辞めなさい」と冷や汗を垂らしてしまう。


「ま、前から言っていますが、あなた含めた幹部は皆、そうやってすぐ自決しようとする癖を直していただきたい。俺を妄信しすぎです。そもそも、あなた方をそこまで育てるのに、一体いくら人権費をつぎ込んでいると思いか。」


「はい、申し訳ございません。その慈悲に深く感謝し一層の精進を重ねてまいります。」


「勘違いしないで下さい。単に仕事が滞ると思ったまで。」


「…………ツンデレ」


「ひっぱたきますよッ!」


「申し訳ございません。」


「もういいです。それで、クォールの街の方はどうなのです。」


「クォールの街の邸宅も、既に修繕がほとんど終わったと報告を受けております。そちらに常駐させる者は、もうお決めになっているのですか?それとも、土地勘を考慮し、フェリル様を継続させるのですか?」


「いいえ。彼はミスを犯した。ゆえに後任はバーバラを置こうかと思っております。やはり、男性より女性である彼女の方が、気兼ねなく交流できるでしょうから」


「アルマ様」


「なんです?」


「その言い方は、女性蔑視に繋がる発言かと」


「えぇ…………き、厳しくはありませんか、あなた。」


「そうでしょうか。」


「そうでしょう。」


「私としては、最近はそういった運動も多いと聞きますので、忠告も兼ねたのですが。」


「お気持ちはありがたいのですが、奴隷商が女性蔑視をして、何がいけないのでしょうか」


「…………言われてみれば。失礼いたしました。撤回いたします」


「よろしい。」


 「では」と、俺は立ち上がった。


「はい…………え、どちらに!」


「ジューン・ホーンさんの件次の段階へ進めようかと」


「ま、まだ書類の山が!」


「あとは頼みます」


 「ちょー!!!」なんて悲鳴が聞こえたが、俺は話の最中に魔力を回していたため、難なく身体強化を用いて屋敷を抜け出した。

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