02 一章 惡の華 エピソード10 懺悔
シュバルの街のダリオファミリー壊滅後。俺はまた夢を見た。
フワフワと空を漂っていたと思う。そのうちまた、四肢が伸び激痛が襲い。シュバルの街を見下ろせる時計塔から、
「キヒヒ…………」
悪魔の声を聞く。
その最悪の目覚めの後。俺はシュバルの街を朝早く出発した。
今日は雲の流れが早い。俺は幾度も日陰と日光の間を反復横跳びしながらも、おじさんの故郷である村を訪れていた。
おじさんの家は直ぐに把握できた。なぜなら、非常に辛気臭い表情を浮かべる憔悴した女性が、とある民家の庭先で、洗濯物を干している最中だったからだ。
「もし、奥様。先に起こった痛ましい事件の関係で、お伺いいたしました。少しお話をよろしいでしょうか」
「ぇ…………」
俺は女性にこれまでの経緯を簡潔に伝えた。まだ、犯人は捕まっていないが、容疑者と思わしき者が死亡した事を前置きとし、生前のおじさんには良くしてもらった事を大仰に口にしたのだ。
「アルマ…………さん、でしたね。」
「ええ、お互い自己紹介すら未だでしたが…………彼は初対面の俺にも、親切に接してくれました。事件を聞きつけ、一度顔を出さねばと。重ねてお悔やみを申し上げます」
「ご丁寧に、ありがとうございます。内容は重々分かりました。主人の最期が楽しい時間であったなら…………何よりです。あの人は、いつも稼いだら上機嫌に酔って帰ってくるんですよ。でも、暴力を振るわれた事は一度もありません。それに…………いくら遅くなっても…………帰ってこなかったことも…………一度だって…………っ」
胸が痛い。罪悪感を感じる。
「申し訳ございません。あの夜。俺は彼を放って帰ってしまった。」
「ふ、ふふ…………あなたが謝る事なんてありませんよ。むしろ、いやいや付き合わされたのでなければ、恩の字」
いや、嘘だ。気丈にも振舞っているが、内心は穏やかではないはずだ。
「…………こちらのご主人とは知り合って間もないのですが、近くに居た知人が俺だけでしたので、捜査で忙しい衛兵から、彼が稼いだであろうお金を預かり届けに来た次第です。さぁ、受け取ってください。」
俺は自身の旅の資金のうち、九割――――大体、立派な家三棟が建つ程度の金を渡した。
「本当にこんなに…………何かの間違いではっ?」
「いいえ。」善良なるものの命にに比べれば微々たるものだ。こんな事ならば、トグサの街を出る際、もっと沢山懐に入れておけばよかった。
「今回は旅行者も多かったようでよく売れたのでしょう。実際、おじさんは連日シュバルの街へ足を運んだと聞いていますよ?」
「いえ、確かにそうでしたが。でもこれはあまりにも…………う、受け取れません。絶対おかしい」
「ですが、俺の物でもない…………、こう言った言い方は酷かもしれませんが、ご主人を失った以上、今後は経済状況に不安が残ると存じます。」
「いえ、でも」
「おじさんからの気持ちだと思って、お納めください」
「…………はい。でも主人は、息子のためにお金を貯めていました。これは、その時まで、いざと言う時までは使いません」
「ご子息は、体が悪いのですか?」
「え?あ、ぁあ違いますよ。医療費とかではなく…………あの子、将来はお父さんを楽させたいって。勉強してもっと簡単に畑が出来るようにって。お金はその、学費のためです」
「それはそれは」
あぁ、なんと素晴らしい。ミーコ然り、ご子息然り。
家を出た俺とは違い、親を助けようと尽力するとは…………なんと美しいことか。
「ご子息は…………大成するでしょう。名をお聞きしても?」
「ええ、マルコス。といいます。マルコス・ヤン」
「では、ご子息にもよろしくお伝えください。時間を取ってしまいました。俺はこれで」
「あ、粗茶しかだせませんが。休まれていっては?マルコスにもお礼をさせたいのですが」
「いえ、お気持ちだけ。先を急ぐ身ですので。」
「それに」俺は会釈し、踵を返す。
「ご子息に対し俺は、あまり情操教育によろしくないでしょう」
「まぁ、ふふ、ご冗談が上手ですね」
冗談なものか。子供は感化されやすく、感受性が高い。万が一にも俺に当てられ外道にそれては一大事だ。
「では、機会がありましたら。また。」
※※※※※※※※※※※※※※※※
「キヒヒ…………」
あぁ~あ。行っちゃった行っちゃった~~。ド外道君行っちゃった~~。
私を置いて行っちゃった~~。私に気付かず行っちゃった~~。
「キヒヒ…………キヒヒ!!あぁ~~今、あの女殺したラドンナ顔するかなぁ。子供は最後だよねぇ…………うんうん、ん?いや!そうだっ!!子供にあの女殺させちゃお☆キヒヒ…………」
草葉の影から姿を現してぇ。
一歩一歩噛み締めるように膝を上げてぇ、踏みしめるようにぃ歩行してぇ。
「キヒヒ…………だぁって、ずるいもんねぇ。私を差し置いて他の人とおしゃべりなんてぇ…………ま、構ってくれても同じだけどぉ」
視界にあの民家が映る。
まだ、あの女は洗濯物を干している。吞気に浅慮にいつものルーティーンをなぞってるぅ。
「そうだぁ。あのお金の事もぉ…………他の皆に言ってあげようぅ。うんうん。皆で分け合った方がぁいいよねぇ。仲良くなれるよねぇ~。だって、一人だけお金持ってるとかずるいもんねぇ――――」
よぅし決めた!今日はあの家族をぐちゃぐちゃにしちゃうぞぉ。
「――――ぐ、ぷ…………あぇ?」
喉の横が痛い。冷たい。熱い。
ナイフが、刺さってる?
「い゛だのぉ…………ド外道君」
「来ると思ってた。お前は俺が最悪な時と、最高な時を狙って現れる。下衆が。あの方々に手出しはさせない。」
「ぎひひ…………以心伝心。相思相愛だねぇ」
「一方通行。依存偏愛だ。お前のそれはな。悍ましい。」
「キヒヒ、照れ隠しぃ?ぴっ」
あぁ、首が千切れてくぅ。腹が割けてくぅ。
でも、無駄。
私は彼から離れない。私は彼から離れられない。
「地獄に落ちろ。悪魔が」
あぁ、愛しい愛しい私のド外道君。かつて赤土の魔王の落とし子だった者。白き落胤賜りしネフェリム君。
どうか苦しんで。もっと私を見て。
この嫉妬に狂う、彼方様の被造物たる私を。




