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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
一章 惡の華 リンドウ

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02  一章 惡の華 エピソード09 心に巣食う化物2

「ハァ…………ハァ!」

 

 私は北側の廃墟へと翔けた。屋根伝いに一直線にも夜を抜ていく。私の心臓が張り裂けそうな程強く脈打ち、耳の裏で早鐘を打っている。

 何度か背後を見やったけど、アルマは付いてきてはいなかった。気配も無い。

 

 でも、後から追いかけるという、奴の言葉に嘘は無いと分かっている。

 

 数十分前。閑散とした街並みを高みの見物と洒落込んでいたのが嘘のように、今の私は人通りの無い下道が怖かった。まるで、この世界に一人取り残されたかのような孤独感が私の脚の回転をさらに早める。

 その時の私は、一秒でも早く人に、仲間に合流したかったのよ。


 でも、それは叶わない。

 なぜなら、


「…………まって、まってよ。ナニこれ」


 廃墟なんて無くなっていた。ほとんどが砂のように崩れ、平らかにも均されていたの。


「あぁ、遅かったですね。エルモーさん。寄り道でもしていたのですか?」


 ビクリとした。喉を鳴らして、恐る恐るそちらへと首を回す。

 

「残念ながら、ここにあった生ごみの群れは、早々に焼却いたしました」


「アルマ…………」


 椅子として残されたたった一つの瓦礫の上に、白髪の美男子が悠然と足を組み、余裕ある態度と、何の感慨も持たぬ無表情で私を見ている。

 それはまるで、お人形のように美しく。

 それはまるで、お人形のように能面だった。


「なんですその顔は。まさか、俺の――――悪人の言葉を信じるおつもりか?」


 そうよね。いくら私より早く着いたからって、ものの数分でここが更地になるわけが無い。出来る訳が無い!


「ペラペラと余裕かまして、いい気になってんじゃないよ!で!?だから何!?他の奴らはどこへやったの!!!!」


「それでよろしい。先の言葉は嘘ですよ。」


 と、奴はただ天空を指さした。

 意味が分からず、意図を読み取れず、私が苛立ちに声を張り上げようとした時、先んじて、アルマの方が答え合わせを放った。


「既に、このシュバルの街のダリオファミリーは、あなたを除き全てあの世です。」


「嘘だ!あんたは、私のところで悪意を振りまいてたじゃないか!」


「如何にも。ですから、あなたの所へ行く前に、既に殺していました。」


「…………な、嘘だ」


「信じられなければ、それでもかまいませんが…………事実は覆らず――――」


 その言葉尻は声音が一段低くなり、唸る様に奴は続けた。


「――――また死者も蘇らない。」


 そして、打って変わる様に普通の調子で「さて」と、アルマは優雅にも立ち上がり、漫然と私との距離を詰めてきた。

 暗闇を押しのけ歩み寄る。アルマの存在感が私の視界を埋め尽くす。


「ひ…………来るな」


「そう怯えないで下さい。あなたはかのジーランド大陸から渡ってきた、強者でしょう。さぁ、見せてください。あなたの力を」


「や、なにを…………」


 「いけません、何を呆けているのか。」と、アルマは表情一つ変えず、肩をすくめて首を振る。その動きはまるで、人間の振りをする、何かのようで不気味で怖ろしい。


「怨敵があなたの得意で戦って差し上げる…………と。言って聞かせているのです。さぁ、お見せなさい、あなたのお力を。」


 「それとも」と続けたアルマの声に、嘲笑が混じった。


「ジーランド大陸は、たかが薄汚い奴隷商一人に壊滅させられる程度と言う事でしょうか?」


 その時、仲間の顔が脳裏をかすめ、私の中で何かが弾けた。


「なめ…………やがってェックソガキガァ!!!」


 魔術は全四属性ある。水、風、土、そして火。そして、威力は三段階。低級、中級、上級。これはこの世界の共通規格。

 私は中でも、火魔術の上級魔術の詠唱を、がなり声で放った。

 

「我がカイナ、諸人送るカシワデにあらず!誰がシンゾウ、ただ朽ちる灯にあらず」


 私の全霊に呼応し、魔力の火が立ち上り、立ちどころに獄炎へと昇華する。


「其の瞳、唯それのみを煉獄映す鏡となす――――」


 上級魔術はその人の心のあり方を映し出す。私の発した炎は、長い柄を持つ槍と何物も溶かしつくす灼熱の盾となって、世界に浮かび上がった。


「――――紅炎矛盾。攻めても、守っても、あんたは死ぬのよ」


 「先の詠唱は上級ですね。」と、アルマはわざとらしく拍手を行った。


「いやはや、なんとも。漆黒ランク相当ではないですか、御見それしました」


 その声は言葉とは裏腹に、嘲笑を孕んでいるのが良く分かり、


「くっ、そが!どこまでも舐めやがってェ!!!!出せよ!!あんたの魔術を!あぁ!?得意でやるんでしょう!!!?」


「ええ、もちろん。あなたの()()()()ではここはまだ暗い。助力となるよう、俺も火を灯しましょう。」


 その無表情は、虚空に手を伸ばした。


「何しろ俺は、マウントを取るのが大好きでして。だって、尊厳を粉々にするのにこれ以上のもはありませんから。」


 そして、世界に光が満ちた。


「は!?何!??」


 違う。光なんて温かな言葉では形容しがたい暴挙だ。

 アルマの頭上に、燦然と輝く、太陽が昇っていた。


「勘違いしないで下さいね。これは中級魔術です。ご存知だと思いますが、魔術の『(クラス)』は基本的にはそれ相応の威力しか出ません。威力を上げるのなら級を上げる必要がある。我らが常日頃扱う『体系魔術式』がそういう風に出来上がっているのだから、仕方ありませんが。それゆえに、負けてしまったら…………恥ですよ。」


 私は、アルマの言葉を上の空で聞いていた。だって、傍目にもわかったの。あの光球は上級に匹敵する熱量と、威力を持っているって。


「ありえない…………」


 そう、あってはならない。

 アルマが言った通り。級を上げずに威力を出すなんて馬鹿のする事。出来なくはないが馬鹿げている。なぜなら、燃費が悪くなる。中級魔術で上級魔術並みの威力を出すとするならば、それは上級魔術を使用するより、魔力を消費する自虐行為に他ならない。


「しかも、無詠唱で…………これを!?あ、、あんた一体何なのよ!!!」 


「俺に勝てれば、お教えしましょう。さぁ、どうぞ。あなたへ先手をお譲りしますよ」


「~~あぁああ!!!貫けェ!!!」


 勝負は一瞬だった。

 私の放った赤い矢じりは、たかだか中級魔術の光球に飲まれ、燃やされた。

 そして、


「では、俺の番ですね」


 アルマの放った光球が、私の灼熱の盾を濡れ半紙のように容易く貫き、私は光に飲まれたの。


「…………!?え、あれ…………?」


 でも、死ななかった。地面に倒れ、全身に火傷はおったものの、致命傷には至らない。私の上級魔術を二つも破ったゆえ、威力が落ちていたのだろうか。真偽は分からない。

 でも、「なんで」と思ったのも束の間だった。私はアルマに顔面を踏みつけられ、這いつくばらされていた。

 靴の裏の味を知ったのも、生れて始めてだった。


「さて、俺はとてもいい気分です。あなたを打ち負かし、お仲間を殺し絶望の淵へ叩き落したに飽き足らず、そのプライドをズタズタに引き裂けた。もう少しお付き合いいただけたら、あなたをうっかり逃がしてしまいそうなくらいには、いい気分ですよ」


「ぁ、なにが…………望ぃよ。」


「よい判断です。では、俺の身の上話を聞いてください。自分語りはマウントをとった者の特権ですので」


「…………ふきにふれば(すきにすれば)


「よろしい。俺は生まれつき、共感性と罪悪感と言うものが欠如した欠陥品でした。」


 あぁ、でしょうね。言われなくてもそうだろうと思っていたわ。


「そのせいで、俺は他者を傷付ける事が多かった。物心つく前なのでうろ覚えなのですが、その異常性に嫌気がさした両親は俺を捨てたのだと思います。そして、世界を彷徨って物心がついた頃。俺はとある一組の一家に拾われました。」


そりぇは(それは)…………しょのかじょくも(その家族も)しゃいなんでしょうね(災難でしょうね)


「同感です。何しろ俺は拾われたその日には、その夫婦を殺し金品を奪おうと、寝静まった寝室へとナイフ片手に忍び込んだのです。さて、結果は…………どうなったと思いますか?」


ほろした(殺した)


「いいえ、ですが散々です。俺は瞬く間にナイフを取り上げられ、床に組み伏せられた。後から分かった事ですが、俺を拾った一家は、夫婦ともに漆黒ランクのギルドメンバーだったのです。負けて当然。でも、本題はここからです。俺を組み伏せたお父さんは、俺に対してこう言いました。『ははは、子供はもう寝る時間だから、明日また遊ぼうな』…………と。」


「…………ひはえてる(イカレテル)


「またも同感です。ですが、あなたもご存知の通り、漆黒ランク以上に至る者は、ギルドからの厳正な精神鑑定や、筆記試験をクリアしたエリートであり、精鋭。特権を持つ者です。そして明朗快活な者。実際、彼らは俺の殺人未遂などは根にも持たなかった。それどころか、翌日の朝食では笑い話として明るい食卓がそこにはあったのです。」


「で、はんたはおれで(あんたはそれで)ほうせいしっての(更生したっての)?」


「いいえ、まさか。俺はそれから十一年間。お父さんを殺すため朝昼晩と仕掛けました。あの時にはもう、金品を奪うとかより、子供特有のムキになっていたと、今なら分かります。そして、遂にその時が来たのです。」


 アルマはそこで、初めて感慨深そうに、深呼吸をしてから満を持して口を開いた。


「とある晴天の日。とうとう、お父さんの頬をナイフで一筋斬りつける事に成功しました。俺は喜びに打ち震えました。次に成果を見てやろうとお父さんへ視線を向けた瞬間。俺の目に飛び込んできた頬を伝う赤い一筋を見て、自身が犯してきたこれまでの罪と真正面からかち合ったのです。いつも笑顔を与えてくれた、無償の愛を与えてくれていた者に対し、俺はなんて浅ましい感情を抱いていたのかと。自身のおぞましさに嫌気がさし、躊躇なくナイフを己の首に押し当て、引き斬ろうとしたのです」


 「直後」アルマはまた、そこで初めて能面を崩し、微笑みを浮かべた。


「俺は生まれて初めて、お父さんに殴られました。これまでとは比較にもならない力でもって、地面へ組み伏せられ、俺の眼前には、逆光伴うお父さんの哀しそうな表情が覗いておりました。後光差す彼はこう言いました『俺達ならばいくらでも傷つけていい。でも、お前が傷つくのは見たくない。俺達に、子供が死ぬ様をみせないでくれ」…………と。感銘を受けました。感服です。その日初めて、俺は罪悪感を知ったのです…………いいえ。実はずっと持っていた。ただ、俺のそれは非常に小さく、感じずらいだけだったのです。」


「…………で?」


「はい。俺はその日以降、ピタリと彼らを襲うのをやめ、代わりにこの歪んだ心を矯正する道を模索し始めた。心理療法。瞑想。魔術による心を操る術…………古今東西、あらゆるものを試し、全て惨敗でした。結局、彼らの傍にいては迷惑になると思い、十五の歳。俺は書置きを残し家を出ました。ゆえに、分かりますか?」


「…………は?あにが(何が)?」


「俺にとって、罪悪感とは。俺に残された最後の人間性なのです。善良な方々が邪悪に蹂躙され、啜われる様を見る事は、罪悪感を感じさせる。だからこそ、俺はこの裏社会に居るのです。あなた方は、俺を人間だと知らしめてくれる、重要な存在。あぁ…………悪人、大好きですよ」


「…………サイコパスのバケモノが」


「バケモノに成らぬよう、俺はこれからも決して一般人(カタギ)は襲わない。彼らは能天気にも、人生を謳歌し、幸せにも老衰していれば良いのです。これが、俺があなた方を殺す理由でしょうかね。」


 と、その時。本当にアルマは私の上からどき、距離を離して伸びまでしてきた。


「どういう、つもり」


「気分がいい。どこへなりとも消えなさい。ただし、ダリオファミリーの壊滅は決定事項です。あなたの余命はいくばくかですが、最後を謳歌して逝くといいでしょう。」


 私は警戒を敷いて、ジリジリと後退した。でも、アルマはまるで興味を示さない。

 ある程度離れた後、私は魔力を全身に巡らせ、瞬時に踵を返した。


「がっ!?…………あ?」


 そして、また地面へ倒れ伏した。

 背中が熱かった。恐る恐る見やれば、腰のあたりにナイフが刺さっている。


「な、んで。?」


 刺したのは、もちろんアルマだった。


「はて、なんでとは。様々な解釈が出来ます。最も可能性が高いのは、なぜ俺があなたを刺したのか。もしくは、何が起こったのかとの自問自答。いったいどれですか?」


「に、逃がしてくれるんじゃなかったの?」


「と言う事は、前者ですね。さてそうなると、説明が難しい。これは言語化が難しいのですが…………あぁ。よいたとえを思いつきました。あなた、()()()()()をしたことはありますね?」


「はぁ?っ」


「石けり遊び。帰路に着くまでに手ごろな石を蹴って帰る。ただそれだけの遊びです。子供時代を経ていればどなたでも経験があると思うのですが。もちろん俺もしていましたので。」


「だから!それと、刺したのはなんの関係が!」


「ええ、あなた石蹴り遊びをする際、その石を理由があって蹴りますか?そして、その石でなければ蹴れない理由はありますか?」


「……………………なにを、言って」


「ありませんよね。そこに石があったから蹴った。目に付いたからその石に決めた。それが石けり遊びの始まりです。俺も同じ。()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけです」


 その表情は本当になんの感情も浮かんでおらず、私はまるで、暗闇と話しているような錯覚に陥った。


「…………ひ、ば、ばけもの…………あんた、人間じゃない!そんな、…………人の事、何だと思ってんのよ!!!」


「悪人とはすなわち――――金。性欲のはけ口。それと…………体のいい駒。言い方を変えれば、玩具。でしょうか」


「…………いや、来ないで!あっちいってよ!!いや、こないでぇ…………」


「おやおやおやおや…………乙女のように泣きじゃくるなんて…………案外、可愛らしい所もあるのですね」


「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 それからの事はよく憶えていない。

 喉が枯れるまで叫んだと思うけど、四肢がもぎ取られ、自身の臓物を咀嚼させられた後、私の意識は完全な闇に沈んだ。






              ※※※※※※※※※※※※






「あぁ、動かなくなりましたか。ジーランド大陸製ならば耐久性が高いと思ったのですが、残念です。」


 俺が気付いた時にはもう、エルモーはただの肉塊となり果てていた。四肢は千切れ、大腸は彼女の口の中で悪臭を放っている。


「排せ物を口にしたことなどないでしょう。冥土の土産になりましたね。」


 俺は持っていた布巾で丁寧に自身の手を拭い、ナイフに付着した黄色い脂肪をふき取った。

 そして、適当に遺言をでっちあげたのだ。『私はダリオファミリーのエルモー。この度の殺人はすべて私の為した事。謹んでこの身で禊ぎを行います』と。


「まぁ、普通の感性があれば、このような遺言効力を持ちませんが。衛兵もきっと、この異様な事件を長びかせ、捜査に人員を割くことは避けたいでしょう。」


 そして、この死体を境に死者が出なければ、俺の思惑通りに事は進むはずだ。

 だから俺は、そのまま闇夜に紛れ帰宅した。

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