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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 乱神 エピソード21 エーランド城

「アルマ様。こっちっす」


 クサナギの昔話から一夜明け。翌日の朝方。俺とフェリルはリッカに連れられ、エーランドファミリーの街並みをさらに奥へと足を踏み入れた。

 砂利道を踏みしめていくと、エーランドファミリーの構成員がちらほらと顔を覗かせ、目的地周辺まで来ると、警護のようにそこかしこに険しい顔で佇み始める。

 とは言え、クサナギから既に話がついているのか、構成員から受ける粗相は、俺とフェリルを睨む程度で済んでいる。さらに言えば、リッカに対しては厳かにも腰を折り、膝に手を着いて首を差し出すような姿勢を見せるのだ。

 そうして連れてこられたのはほとんど城だった。俺達が寝泊まりした道場が質素で謙虚に感じる程立派なお屋敷である。おそらく二階建てだと思うのだが、土台が様々な形状の石を組んで均され、その上に生活圏たる木造構造物が鎮座している。一見すると、高床式のように生活圏が浮いている感覚を覚えるので、実際は四階建てに等しい高さがある。

 ちなみに言うと、俺が城と形容したのは建造物の周囲に掘りがあったからだ。水が溜まったそれの上に開閉式の橋が四方に設置されており、招かれざる客への関所として機能していると見た。

 豪華絢爛ではないが、趣と風情がある。自然物や歴史を重んじるエンバス地方に沿った時代の名残りだろう。

 つまり、どう考えても一般人の家屋ではない。


「ここが実家っすね。」


 そう告げられた後、フェリルはリッカと城を何度も交互に見やり、


「ほんとに、お嬢様なんだな。お前」


「今、何つったフェリル。お前…………?」


「ぁっ、しま、ち、ちがって。今のはっ」


 その直後、弁解の余地もなく。フェリルは口を滑らせた代償として、リッカの平手打ちにより頬に紅葉を作った。

 「いやはや…………秋模様ですね」と苦笑した後、「さて」と気を取り直す。


「最後まで案内頼みますよ、リッカ」


「はいっス」


 その後はつつがなく城へと進んで行った。俺達が正面へ来ると、何の予兆も無く橋が渡されたので、堂々と渡った。

 堀を超えた城内部は、一瞬森と錯覚する程自然豊かである。背の高い木々が俺達を見下ろし、この地方特有の動植物が足元を横切るのだ。その代り、人工物はほとんど見当たらない。目に付く物を上げても木造のベンチが時たま、景色の良い開けた方向を向いて置いてあるのみ。

 もっとも、これらは人間の手が入っている事も見て取れる。その最たる例が、俺達が今歩いている道。整地された石が飛び飛びに埋め込まれたこの道標には、背の高い木々や草木であっても、不可侵のように一片たりとも邪魔をしてこないのだ。謂わば人間にとって都合の良い自然環境であることを言わずもがな示していた。

 つまり、この森はクサナギ・エーランドにとっては文字通り単なる庭なのだ。

 

「いったい、年間を通して幾らの維持費をかけているのでしょうかね」


「さぁ…………私が生まれた時からこんなんっすよ?」


 となると、私事ではあるが、少し気になる点が出てくる。 


「リッカ、あなたもしかして俺の屋敷の事を、常日頃ちゃっちいとか思っていたりはしませんよね」


「え、まさかそんな。」


「ほんとですか?」


「当然ス。たとえ小さい犬小屋だって、アルマ様の居る場所なら最高級のスウィートルームっすよ」


 この娘、今俺の屋敷の事を…………い、犬小屋って言いましたか?

 「いえ」きっと気のせい。深読みするな。たとえとしての言葉です。そうであってほしい。


「え、どしたんすかアルマ様」


「なんでもございません。話しかけないで下さい。今、俺は、自尊心を保つので精一杯なのです」  


「?そ、そうっすか。」


 それからしばらくは、若干重苦しい雰囲気が俺達の足取りを遅めた。

 しかし、それもようやく終わりを告げる。リッカが指さす石組みの土台の地点には木製の扉があり、その奥には上へと昇って行く階段があったのだ。

 と言うか、最近はこんなのばっかりな気がする。 


「また、登るのですか。」


 まぁ、馬鹿と煙は高い所が好きと聞く。権力に溺れたエーランドもその類なのだろうさ。


「大丈夫っす。そんな急じゃないっすよ」


 リッカの言う通り、階段はうす暗く狭いらせん状であったが急では無かった。むしろ階段一つ一つの奥行きは三メートル以上はあるためほとんど平地と感じた程だ。リッカ曰く、敵襲の平衡感覚を狂わせると同時、一人一人撃破できるようにとの計らいらしい。

 なるほど、理にかなっていると思った。先ほど馬鹿と貶したのは撤回しましょう。

 

「お、ようやくっすね」


 リッカは声を弾ませ、最上段の両開きの扉を開け、廊下へと足を踏み入れた。

 一方、これまで階段の薄暗闇に目が慣れていた俺とフェリルは、屋内の光に少し目が霞み、全貌を確認するのに時間を有する。


「我が家へようこそーアルマ様。と、フェリル。」


 その声に導かれ、ようやく内部を確認した。

 しかし、


「…………思いほか、普通ですね」


 一般家屋と比べれば広く立派ではあるのだが、俺の想像よりも家屋内は豪勢では無かった。

 左右に長く続く廊下には土足で上がり込んでも問題が無いよう布が敷かれているが、目立った点はその程度。廊下の隅に装飾品や家具と言ったものも置かれていない。まるで引っ越し前の新築のようなあっけらかんとした空間だ。


「当然っすよ。敵が来た時装飾があったら、逃走にも反撃にも邪魔っすし」


「合理的なのですね。」


「あとは、エンバス地方特有の価値観っすね。装飾とかよりも、今さっき見た庭とかの方で、その家格を示すんすよ。手入れが行き届いているってことは、それだけ金がある…………みたいな?確かそのはずっすね。」


 なるほど、自然を大事にする風土がそうさせたのか。


「理解しました」


「じゃ、行きましょ。おい、フェリルお前もジロジロ見てねーで、行くぞ」


「お、押忍」


 リッカに続いて俺達が右の廊下へと歩き始めた時、沈黙を嫌ったのかリッカがフェリルへと声を出した。


「てか…………なんか欲しいもんでもあったんすか?」


「いや、自分もアルマ様と同じ。こういうところにしては何もなく珍しいなと」


「ああそう。なんか欲しもんが有ったら交渉してやってもいいっすけど」


「え、いや。別に。自分はそういうのはいらない」


「っち…………ほんとに面白みのない男っすねぇ、お前は」


「…………すまない。」


「まあ、いいっすけど。」


 なんだろうかこの雰囲気は。まるで俺とお姉さんのやりとりを客観的に見せられているようで、非常に胃がキリキリする。今後はこの二人との同行は控える事にしよう。

 

「んぉ?アルマ様お腹痛いっすか??」


「いえ…………なんでもありません。」


 と、そこで俺は隣のフェリルのみに聞こえるよう、声を落とした。


「フェリル、あなたも言いたいことがあれば、ガツンと言ってやりなさい。」


「…………アルマ様」


「なんです。そんな情けない目をして」 


「アルマ様に、姉君がいらっしゃる事は存じております。」


「だからなんです。リッカの方があなたより年下でしょう。既に教育も終わっているのですから、言い返す権利はある筈です。」


「アルマ様と姉君も、既に縁が切れたも同義の年月が過ぎたとか。しかし、ミシェルから聞いた話では再開した際…………その、自分の口からは憚られる態度であったとか」


「……………………ぅ。ヴん…………まぁ…………」


「その、そう言う事です。」


 その身に刻まれた理不尽(恐怖)が抜け落ちないと言う事か。


「…………お互い、苦労しますね」


「はい。出来れば今後は、リッカと同じ任に就かぬよう配慮を頂きたく…………出来ればヴォルド当たりが自分としてはやりやすいです。」


「そうですね、俺も想像力が足りなかったと反省いたしました。よろしい。検討しましょう。」


「なんの話っすか」


 リッカが無邪気にも話に割って入ってきたため、俺とフェリルは一旦離れ何事も無かったかのように振舞った。


「何でもありません。それより、まだ着かないのですか」


「いえ、ここっすよ。なんか、ふたりでコソコソ話してるんで。聞こえてなかったんすかね?」


 と、リッカが肩をすくめたと言う事は、何度か俺達へと声出しを行っていたのだろう。


「失礼。では参りましょう」


 その途端、フェリルとリッカの二人は扉を甲斐甲斐しく開き、俺の行く道を作った。むろん、礼など言わない。当然のことだから。

 しかし、


「やっと来たか。早く入れ」


 室内では、待ちくたびれたと言わんばかりにクサナギがため息を吐き、俺を睨んだのだ。彼の服装は昨晩よりも厳かで動きにくい礼装のような着物姿である。

 俺が入室した後、フェリルとリッカの二人も続いた。室内は道場と似たり寄ったりで質素。木製の床と土壁のにおいが混じり合い独特なにおいを放っている。

 ただ、この場においてはテーブルを挟み込むように椅子が五脚仕舞われており、クサナギはその最奥――――上座へとふんぞり返っていた。


「ここは…………あなたの私室なのですか?」


「馬鹿を言え。そんな訳があるか。ここはただの空室、待合室とでも思っておくといい」


「待合室?」


「今から行く地下は、女人禁制であり、滅多なことが無ければ人目に触れさせる事も許されていない。今回は特例。だから、そこの男とリッカの二人にはここで時間を潰してもらう」


 俺の後ろでフェリルがうんざりと肩を落としたのが気配で分かった。その直後、「あ゛?」とリッカの一喝が聞こえたのだから、おそらく間違っていない筈。


「ただ、くれぐれも言っておくが、そこの男。フェリルだったか、リッカに手を出せば殺すぞ」


「クサナギ・エーランド様、それだけは無いと断言します。」


「…………君はあれか。俺の妹に魅力が無いとでも言うのか」


「ですから、断じて。」


 おお、良く言ってのけましたねフェリル。女に虐げられる俺達男からすれば、希望の星ですよ。

 ただまぁ、その後リッカのあたりが非常に強くなったのは言うまでもない。


「…………どいつもこいつも。俺の妹を何だと思っているんだ」


「別に。誰も彼も、何とも思っておりません。」


「…………不愉快な奴だ」


「膿は吐き出しましたか?では、案内を頼みます」


 立ち上がったクサナギは不満たらたらと足音を大きく発しながら、俺を地下へと誘った。

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