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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 乱神 エピソード20 太古の昔話

 俺達が連れてこられた場所は、以前訪れた道場然とした場所だった。

 到着するや否や、「これにて。我らは夜回りに戻りますが。」そう言った着物姿の面々はリッカにのみ一礼し、夜闇に溶けるようにこの場を後にする。

 それから俺達は振り返り、もはや勝手知ったる我が物顔で、門構えを抜け敷地内の空き地を素通りし、道場へと上がり込んだ。

 道場内は蝋燭が数本立っており、怪しく揺らめく炎が柔い暖色系に彩どっている。蝋燭の灯りによって俺達の影が映し出されると、それを確認した小上がりに居座る男が反応を示した。

 

「来たね。」


 それは、額に手拭いを巻いたクサナギ・エーランドだ。彼は秋ゆえに衣替えしたであろう厚着の着物姿の上から、更に一枚肩に羽織った重装備だった。まぁ、このエンバス地方は冬季期間が厳しいものになると聞いているし、早め早めの対応なのだろうと思う。

 道場内にはその他の者が居なかった。今ここにはクサナギが小上がりに一人居るだけだ。夜間であるためか、それとも俺、アルマ・サンが居る以上、何人警護が居ても無駄と判断して人払いを済ませたのかは定かではない。

 クサナギは、俺を忌々し気に見た後、初見であるフェリルへと視線を移し、訝しげに眉をひそめた。だが、リッカを見た途端、表情を和らげ、待ってましたとばかりに厚手の着物姿を正し、彼女へと微笑みを寄越した。


「あぁ、リッカ。また大きくなったかな」


 何をとぼけたこと言っているのか。それが俺とリッカの心中である。当然だ。クサナギとリッカが再会してまだ半年も経っていない。と言うかそもそもリッカは少女ではなく、既に成長が止まっている女性。見当違いも甚だしい挨拶だ。


「兄貴、もうぼけたんすか」


 だから、鋭い双眸を更に薄目にしながら言ったリッカの返事は的確だ。

 その時のフェリルはリッカ関係に首を突っ込んで地雷を踏みたくないのか直立不動であった。しかし、俺は鼻で嗤ってやったさ。


「鼻をすすったね、風邪かい、アルマ。だとすれば、十格をこんな便利屋程度に扱った罰かな。」


「ご心配には及びません。失笑です」


「まったく、君を見ていると額の傷がうずくよ。」


「それは傷ではなく装飾。リンドウを世に知らしめる広告塔なのですよ、クサナギ様。」


 俺の挑発に対し、「これ程心の伴わない敬称もそう聞く事が無い。」と、クサナギは獰猛に笑った。


「本当にいけ好かない男だ。勢力ではまだ、こちらの方に分があるのだぞ?」


「おっと、あまり俺に対しマウントを取らぬ事です。」


 「さもなくば」、そう言った時にはもう、俺の懐へとリッカが恍惚にも自ずと寄ってきている。


「この娘を殺します」


 と、リッカの首筋に手を添え告げれば、


「っ…………分かっている。」


 クサナギは歯ぎしり混じりに観念する。形勢が逆転するこの瞬間は本当に滑稽で愉快。ゆえに、先ほどの彼の言葉は水に流すことにしましょう。


「だから、リッカから離れるんだ、外道者。」


「よろしい」


「そして早く座るといい。こちらも、手短に済ませたい。」


 俺はリッカを盾にするようにクサナギの正面へ座らせ、その後ろへと腰を下ろした。ちなみに言うと、フェリルは俺の隣だ。その際、「そこは私の席だろうが」と言わんばかりの瞳で、リッカがフェリルをジロリと睨んできたが、俺が一喝しクサナギと見合いでもしていろと前を向かせた。


「さて、話によるとミシェルから連絡が入っていると伺っておりますが、念のため確認をば。一体どこまで知っているのですか?」


 クサナギは軽くため息を吐いた後、不承不承であると態度で表すように、脇息に身を預けて口を開いた。


「君が胡散臭い集落に身を寄せ、チャーチヒューズ工業の事業に首を突っ込んだ事。それと、俺達が奉る荒神様について聞きたいことがある…………そうだな?」


「簡潔ですね。大体あっております。」


「…………まさか君に信仰心なんて殊勝なものが備わっているとは思わなかったよ。」


「おや、あるとお思いなのですか。だとすれば、あなたは途轍もない浅慮ですね」


「ハァ…………まぁだろうとは思ったけどな。じゃあなぜ知りたいんだ。君に何の利がある」


「おっと、勘違いしないで下さいね。この場はあなたが俺に質問するために設けられたのではない。俺が、あなたに、問いを投げる場なのです。お分かりか?」


「っ、君は…………ほんとに…………。」


「なんです」


「皮肉や毒を吐かずにはいられない性分なのか?少しは配慮ってものを持ち込んだらどうだ」


「同等の立場であるならば、俺もそうしましょう。」


 「しかし」俺がリッカの肩越しにクサナギを見やれば、それだけで彼は立場を理解する。


「悪人は全て俺の玩具。俺を楽しませる()以上でも以下でもないのです。以前、お伝えしたと思いますが…………まだ、その体に刻みつけねべならぬようなら――――」


 俺が足を崩し立ち上がろうとした途端、「わ、分かった。もういい」と、クサナギは狼狽えを隠すように、厚着の着物の襟を解した。


「――――ほんとに…………疫病神に魅入られたな。俺は」


「ははは、日頃の行いの賜物でしょうね。」


「ちっ、同じ穴の狢だ。君もいつか罰が当たる日が来る。」


「…………もう、当たっていますよ。俺はその罰を祓うため、あなたに助言を貰いに来たのですから」


 俺は今回ここに来た経緯をミシェルの文を補足するように伝えた。それは、ワダツミ様――――レヴィのお願いから始まり、俺についている悪魔へと移り、そして、その封印のためと語ったのだ。

 一通り聞き終わった頃には、クサナギは神妙な表情で脇息から身を離し、俺の話を吟味していた。


「…………なるほど、感想としてはざまあない。としか言えないが。」


「不服ながら、その言葉は受け入れましょう」


「ハッ、なんだ存外、君も中々に苦労しているんだな」


 返答として俺は肩をすくめ頷いた。


「しかし、悪魔ね。にわかには信じがたい。今ここに居るのかな?」


「さぁ。どうでしょうか。少なくとも俺から奴を好んだ場へ引っ張り出す試みは、成功した事がありません。アレは、気付けば傍にいる。それも、俺が嫌がるタイミングで、神経を逆なでするような最悪な時に。」


「だが、今は小休憩中なのだろう?なら、そのままでもいいんじゃないか」


「馬鹿をおっしゃい。奴の気まぐれがいつ終わるとも計れないのだから、遠ざける方法があるならそれに越したことは無いでしょう。」


「なるほど。それもそうか。」


「その再考は賢明ですよ。手遅れになれば、最悪リッカにすら魔の手が忍びます」


「…………っ。君な、逐一俺の妹をつり餌にするのは辞めろッ」


「では、話しなさい。」


「ハァ…………いいだろう、言って聞かせてやる。俺達の祀っている神様は、その昔この地域を荒らしまわっていた荒神様――――名をフールフュールと言う。」


「で、それを封印せしめたというのは誰で、どんな方法を使ったのです」


「そう急くな。物事には順序ってものがある。」


 そう言ったクサナギは、少し意地悪な表情を作った。口元を歪ませ、俺を挑発するように見やったのだ。おそらく俺の焦燥感を掻き立てるためだろう。気に食わないが、下手に刺激し嘘八百を語られても困る。それゆえ、今回ばかりは静観の姿勢を取った。


「まず、事の始まりは大昔。暦すら存在しなかった太古と伝わっている。その時代は魔術が全て。文明などないからな。差別も殺しもなんでもござれ。それらを決めるのは全て魔術。ゆえに、魔術の優れた使い手が世を征していたらしい。」


 「極まった弱肉強食ですか」。今の俺達からすれば蛮族の思考回路だ。しかし、見方を変えれば単純明快でもある。何しろ魔力量さえ備わっていれば正論も、政治も、常識すら暴力でねじ伏せられるのだから。それこそ、脳みその足りない馬鹿ですら生きていける世の中だったのでしょう。


「そして、その中でも一等際立った力を持って暴れ回っていたのが、先のフールフュール様。見た目は雄鹿に近いらしいが、誰も彼を狩ろうとはしなかった。むしろ、ソレが視界に入った瞬間逃げまどっていたらしい。」


「その時代で逃げる選択肢をとると言う事は、会話が成り立たないのは当然として、強いと言う事ですね?」


「そうだ。曰く、フールフュール様の通った後には、その足跡以外、何も残らなかったらしい。だが、そのせいで畏れ以上に怒りと憎しみを買った。だから、一人の女が立ち上がった。名は確か…………ゼナ・セーゲル。」


 「おや、男かと思っていましたが」と俺が率直な感想を述べたところ、「水を差すな。」と強く一喝を貰った。


「その女は、金色の髪に紫紺の瞳を持っていたらしい。これは眉唾だがその瞳は未来を見ることが出来たとも言われている。」


「まさか…………魔眼。ですか?」


「もしそうならば一等級以上は確実だがな。ただ、彼女の原典魔術かもしれない。遠い昔の話だからね。実際は知らんよ。むしろ、尾ひれがついたと考えるのが妥当だろうさ…………まぁともかく、彼女に鼓舞を受けた数名が共に立ち向かい、多大な犠牲を払いながらもなんとか封印するに至ったという訳だ」


「…………いや、その封印の方法は?はぐらかされては困るのですが…………」


「賢者の石だ。」


「なんですって」


「うん?集落でその存在を見たと聞いているが。もしかして気付いていなかったのか」


「い、いえ。確かにその時エーテル結晶――――賢者の石の存在を知りました。知りましたが、それでどう封印したのですか」


「ゼナ・セーゲルは、賢者の石を作り出すことが出来たらしい。フールフュール様はそれに閉じ込められ封印されている。君も知っての通り、賢者の石は高密度の魔力体に等しい。しかも、風景と言う――――物質ではない存在不確かな空間を写し取る力も持っている。だからこれは仮説だが、君がその魔力体(悪魔)に有効打を当てられるのと同じ効果を、賢者の石は持つことが出来るのだろう。」


 その言葉は、俺を愕然と前かがみに陥らせるだけの衝撃があった。だって、クサナギの話が真実ならばアクイスの居る場所――――あの集落――――は、俺にとってなんとしてでも死守しなければならない聖域となるのだから。

 そんな俺の反応に気分を良くしたのか、クサナギは幾分声音を高くした。


「ゼナ・セーゲルは秀でた魔術師であり、それ以上に最高峰の錬金術師でもあった。魔眼の真偽と違いこれは事実だろうさ。もちろん、創造方法は伝えられていないがね。だから、俺達エーランド一族には、ゼナ・セーゲルの事を、『黄金の大賢者』と口伝する者も居たくらいだ。」


 この世界における魔力を扱う者は、魔術師と武芸者に加えもう一つ存在する。それが錬金術師。彼らは魔力を使い己が心を世界に反映するのではなく、現存する物質を他の性質へと変容あるいは置換させる。

 もっとも、市場に影響を与えぬよう、届けを出し研究等の限られた場合でなければ黄金や銀といった高価な物質の錬成は厳重に管理され禁忌とされている。しかも、どんな物でも黄金足りえる訳でもなく、その物の成分や質量と密接に関係する独自の手法を用いるらしいのだが、俺は専門外であるためその程度の触りしか知らない。

 そして、錬金術師の代表例としては、黄金ランク『空触』のベレト・シェヘムが挙げられる。彼女は研究の末、異名通り空に作用する『原典()術』を産み出した。ゼナ・セーゲルもその類だろう。

 つまり、錬金術によって賢者の石を作り出したのだとするならば、それは黄金ランク並の偉業。今の俺には不可能な御業。


「ならば封印方法――――閉じ込める詳細までは、じゃあ?」


「ああ、残念ながら。しかし、君の話を聞く限りその悪魔もフールフュール様同様、魔力体なのだろう。なら、試行錯誤の末、成し遂げられるのではないかな…………と。俺が知っているのはここまでだ。どうだい、参考になったかな。」


「…………ええ。多分に。いえそうだ、今更ですが、なぜあなた方エーランド家がそのような事情を抱えているのですか?」


「単純明快。古代、ゼナ・セーゲルと共に立ち向かったうちの生き残り。それが俺達の祖先だ。ゆえに、ゼナ・セーゲルがこの地を離れる際ここの管理を預かった。それが幾星霜を経るうちに、管理が支配へと変容し、傲慢にも権力と暴力に溺れ…………まぁ、いまの俺達があるのさ。」


「なるほど、時間とはやはり毒ですね。」


「見方によっては、万物を癒す治療にも使えるがね。まぁ、この件に関しては君の言葉が正しい。」


「言い訳は結構。それで、ゼナ・セーゲルが何処に行ったか。それは知らぬのですか」


「知らん。そもそも知ってどうする。暦すら生まれる遥か昔の話だぞ。生きているわけが無い。血脈すら存在しているかどうか…………」


「…………そうですね。失礼、正気を失いかけていたようです。」


「だが、その時代を見ることは出来るかもしれないよ」


「どういう意味です。」


「賢者の石は世界を写し取る。そして注ぐ魔力量に準じて再演を可能にする。君ほどの力があれば、あるいは拝めるのではないかな。」


「何をです」


「察しの悪い男だ。分かるだろうに。当時、ゼナ・セーゲルがどのように封印したのか…………に決まっている。」


「と言う事は、あるのですか。ここに、賢者の石が」


「この道場ではないがね。今も俺とリッカの生家、その地下に。恭しくも祀っているよ。」


 「ならば今すぐにでも」。そう思い立ち上がったのだが、「今日はもう遅い」そう言って、クサナギは首を横に振った。


「こちらにも準備がある。おいそれと他者の視線に晒していいものではないんだよ」


「何をもったいぶって、言いだしたのはあなただッ」


「当然だろう。俺も当時に興味がある。だから日を改め明日。実行に移そうじゃないか」


「言いましたね。なら、違える事は」


「ない。そもそも、リッカを人質に取られている俺に、拒否権なんてものは存在していない。理解しているさ。だから今日はここで寝ろ。明日リッカに案内してもらい、生家へと来るといい。」

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