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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 乱神 エピソード19 エンバス地方再び

 集落を出発して五日後。俺とフェリルとリッカの三人はエンバス地方へと足を踏み入れていた。

 もっとも、本来ならば常人の足で一か月はかかる道程なのだが、そこは俺の風魔術による直線距離とリッカとフェリルの駆け足の賜物である。

 今の時刻は朝。エンバス地方の末端近くの宿に身を寄せているのだが、これから身支度を整え出発すれば、クサナギ・エーランドの居る地域へと今日中には到着する筈だ。

 とは言え、部下が居るのだから俺が自らあくせく動く必要はない。フェリルとリッカに指示を飛ばすと、彼らは黙々と俺の前を動き回った。ただそうなると、俺は手持ち無沙汰にも窓から景色を眺めていることになる。だからその度に、出発の準備をしているフェリルとリッカには、暇つぶしも兼ねて集落内での騒動を語ってやっていた。


「自分はにわかには信じられません。が、神様とやらはほんとに存在すると?」


「まぁ、俺としてもフェリル、あなたと同意見です。やはり、神様というよりも新種珍種の魔獣の線をまだ疑っております」


 しかしだ、


「そっすよねー。そんなのが居るなら世界は和やかな筈っすよ」


 リッカの便乗に対してだけは、片眉を上げざるを得なくなる。 


「なんすか、アルマ様。私変なこと言ったすかね?」


「そうでしょう。これから向かうのはあなたの生家。神様とやらに所縁がある筈でしょうに。」


「んーそうは言ってもっすよ。小さい頃なんであんま憶えてないっす」


「逃げ出した当時のあなたは、大体13歳ほどでしょう。物心は付いていた筈ですが」


「だぁってその時ってハチャメチャトラベルだったんでー…………あいまいみーっすねぇ。そうでなくとも、神棚に女が近づくなって言われてた気がするしぃ…………」


「…………それは、後者の理由が強いのではないですかね」


「かもっすね。ま、とにもかくにも兄貴に聞けば分かる事っすよ。」


「確かに。では急ぎましょう」


「っすね…………っと、おいフェリル。」

 

 リッカに呼び止められ、フェリルの肩がビクンと跳ねる。そして、見るからに恐る恐るとリッカの方を見るのだ。


「な、なんだ」


「オメェさっきからよちよちと歩き回ってッけどさぁ、アルマ様の分も含めた支度、終わったんか?」


「お、終わってるに決まって――――」


 その返事の瞬間、リッカはずいっとフェリルへ顔を寄せた。睨みつけるようにしたから見上げ、眉間に皺を寄せるのだ。


「――――だったら、終わりましたの一言くらい言ったらどう。あ?」


 そしてまたもフェリルがたじろぐ。見ていて可哀そうだがこれには訳がある。と言っても、リッカがフェリルを嫌っている訳ではないし、フェリルがリッカに対して粗相をした過去もない。

 この主従関係に至った発端は、かつて、フェリルの教育係をリッカが担当していたからだ。

 ゆえに、リッカはフェリルに対しては非常に強気な態度をとる傾向がある。俺からすると、お姉さんを彷彿とさせるため、正直胃が痛い案件である。そしてだからこそ、あまりその件に首を突っ込みたくない。関わりたくない。

 だから知らんぷりして静観した。


「ぉうフェリル。私何か間違ったこと言ったか?」


「い、いや。だが、リッカもアルマ様とお話をして――――」


 フェリルの言葉尻を撃ち落とす様に、リッカはフェリルの頬を優しく叩いた。そして間髪入れず、緩急をつけるように『ダンッ』とリッカの震脚が苛立ちをあらわにしたのだ。その際、実は俺も内心でビビったのはここだけの話だ。


「――――リッカ、()()。な?」


「…………ひゃい。」


「あ?とぼけたこと言ってんじゃねぇぞ。オメェは雄だろうが、なら押忍だろうが。ボケ。っとによ…………そんな軟弱者に教育した憶えないんすけど」


「お、おすぅ」


「声がちいせぇなぁ?」


「お、おす!」


「もっと腹から!」


「ォオ押忍ッ!!」


 と、意を決し渾身の咆哮を唱えた直後、「うるせぇ!!!」とフェリルは頬をぶたれた。

 フェリルは理解が追い付かないと言わんばかりに、己が頬をさすり、困惑濃厚な表情でリッカを見る。

 すると、


「んな大声出さなくても聞こえてんだよ!他のお客に迷惑だろうが!!ミジンコ!」


 あまりにも理不尽。俺ですら啞然と口が広がったほどだ。


「…………っ。」


 情けない悲鳴と共にフェリルから俺へと、助けを求める視線が向けられた。…………そんな目で俺を見るな。あなたの気持ちは痛い程理解しています。

 だから俺は、一度柏手を打って締めとしたのだ。


「さ、さて。そろそろ行きましょう。」


「待って下さいっす、アルマ様。これからこいつをシバキ上げるんで。調整に時間をくださいっす」


「ま、まあ待ちなさい、リッカ。」


「いえ、ジューン・ホーン一家の件も私の教育不足が招いたんす。ここらで一発、根性を入れ直した方がコイツのためっすよ。」


 お、おいおい。さすがにそこまでする必要はないだろう。

 見みてみろ。フェリルの見事な体躯が小型犬のように縮み上がって震えているぞ。


「俺としてはフェリルには十分な仕事をしてもらっています。それに、既にケジメは俺がつけました。あなたが口出す事ではありませんよ。」


「っ…………でも」


「違いますか?」


「…………はいっす。」


 渋々と口をすぼめ、リッカはそっぽを向いて退いた。

 フェリルはそれから、リッカの機微に触れぬよう、荷物を俺に手渡す動作で、おもむろにも俺へと近づいた。


「…………アルマ様、一生付いて行きます」


 フェリルの瞳は潤んでいた。いい大人が小娘に泣かされたのだ。屈辱でしょう。だから、これに関して言葉はいらない。俺はフェリルの肩をそっと叩いて宿を後にした。

 





            ※※※※※※※※※※※※※






 エンバス地方はクサナギ・エーランドの居る地域へと到着した時、時刻は既に夜だった。

 俺が訪れた直近から時間が経ってはいないので、目に映る景色は変わらない。近場に生えている柳や竹林がざわざわと音を奏でていた。一見すると普通の街並みにしか見えない家屋と砂利道にも人影はおらず、薄らぼんやりと松明の火が等間隔で並んでいるのみだった。

 しかし、そう思っていたのは俺だけ。砂利道に入った途端、フェリルは俺を庇う様に一歩前へでた。リッカも何かしらの気配を感じ取ったのか。夜闇の虚空をじっと見つめたのだ。

 それからしばらく経つと、彼らの反応は正しかったと俺も理解する。リッカの帰還を喜ぶように砂利道の奥の薄暗闇から、踵をこするようなすり足が聞こえ始めたのだ。そして、ほどなくして行燈を携え、狐面を被った男女数名の着物姿の出迎えが、俺達の対面へと集まった。

 

「お帰りを、首を長くしてお待ちしておりました。お嬢様。」


 お面によりくぐもった挨拶は、言葉の内容とは裏腹に不穏に響いた。呼吸音もその際に動くであろう上体の上下運動も抑えられた彼らの所作は、人間性が排された無機質さで、どこか不気味である。

 リッカもその事を良く思わなかったのか、軽く嘆息を吐いた。


「っとに、根暗な出迎えっすね。なんでわかったんすか」


 問われると、着物姿の男は行燈を掲げ俺を見た。


「そちらの男――――リンドウから、文を頂いております」


 しかし、俺には身に覚えが無かった。今回は切符――――リッカが居れば十分に事足りると思ったゆえである。だから、「はてな…………」と首をひねった時、


「ミシェル、とはリンドウの者ではないのですか?」


 なるほど、彼女の指示か。気が利くではありませんか。


「文には何と?」


「それは、我々ではあずかり知らぬ事。」


 「ゆえに」着物姿の男は行燈の灯りが照らす場所を、俺から砂利道へと移した。


「どうぞこちらへ。我らが家長。クサナギ・エーランド様がお待ちしております」


 彼らが歩き出したので、俺達三人もリッカを先頭に続いた。

 それからしばらくは殆ど無言。時たま俺が砂利道から突出した人骨としか思えない突起に足を取られたり、真新しい血痕に目を奪われたりした程度だ。

 

「精がでているようですね」


「おかげさまで。しかし、お見苦しい所をお見せしました。普段はもっと清潔なのですが」


「なにかあったのか。」 


 フェリルの問に対しては、お面の上からでも返答に逡巡が混じったのが分かった。

 しかし、フェリルに便乗してリッカも訊ねたことにより返答を蔑ろに出来なくなったのか、着物姿の者達はひそひそと密談した後、足を速めながら語った。


「最近、襲撃を受けました。」


「エーランドにっすか」


「はい。ただ、相手は木っ端です。群れではなく個。名も知れぬ殺し屋達でした。ゆえにこちらの被害はゼロ。ですが、腑に落ちない。」


「そっすね、『十格』に仕掛けるなんて自殺行為だし」


「いえ、彼らは我らの巡回ルートを知っていました。ゆえに、ここまで侵入を許してしまった。」


 それは流石に聞き捨てならないですよ。まさか、「裏切り者がいると?」。


「エーランド様は二通りの意見を仰いました。一つはリンドウ、あなたの言った通り裏切り者。もう一つは、巡回ルートを元々知っていた。」


「つまり…………足抜けした者から情報が漏れたと言うのですか。」


「はい。ですが我らとしては可能性は薄いと思っております。その理由として、この夜回りの巡回ルートは、日ごとに変えているからです」


「ほぉ、ですが、長らく行っていればパターンも出来上がってしまうのでは?」


「左様。エーランド様はその点を鑑み、仰られたのです」


 リッカとフェリルが顔を見合わせた後、俺へと肩をすくめて苦笑した。その行動が有する意味は、気にする事でもない。よその問題だとの暗示。それには俺も同意見だ。今回の目的は神様とやらの情報を聞く事。そしてあわよくばそのまま鬼畜クソ女を封印する手掛かりとする。

 だから、面倒事には関わるべからず。


「心中お察ししますが、今はリッカが居る以上、あなた方の警備に期待していますよ」


 その途端、着物姿の面々から軽く舌打ちを貰うが、俺は一切合切を知らぬ存ぜぬと貫き通した。

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