四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード18 神との決まり事
リミックの死から13日が経った今日も、俺はワダツミ様とやらを信仰するこの集落に滞在していた。
工事についてはハンスの呼びかけもあり、リミックの死後に一旦中止されている。もっとも、その点についてチャーチヒューズ工業の面々は最初こそ首を傾げ訝し気な態度であったが、現場責任者の死を鉱石発掘作業における安全面管理上の不備、及び危険予知評価の不足と位置づけ、安全性の再確認が出来るまでの辛抱である。と命令を出したハンスの言葉に対し食ってかかる者は少なかった。それに加え、リミックが死んだのは皆が寝泊まりしていた安全地帯と定めた地域であったため、最終的に当面の寝泊まりできる場所を提供してくれることとなった集落内の人たちと交流を深めていき、今では渋々と農作業に精を出している。
そして、その間の俺はと言うと、工事を中止させた功績をこれでもかと誇張表現したおかげで、巫女さんとマイルスを手足のようにこき使い、肩を揉ませたり、背中を流させたり、愉快な話を持ってこさせたり、味の濃い農作物をたらふく食らうと言う、贅沢な日々を過ごさせてもらっていた。
しかし、その夢のような日々も終わりを告げる。
「アルマちゃん来たわよ」
そう言って俺の滞在している社の一階にある部屋を開けたのは、普段通りのゴスロリ衣装に身を包んだマルファであった。彼は俺の自堕落な生活によってちらかった社の室内を、辟易と軽蔑を混ぜ合わせた表情を浮かべながら近づいてきたのだ。
「はて、何の用でしょうか」
「だから来たんだってば。アルマちゃんが呼んだ人たちが。」
と言う事は、おそらくは俺の駒の話だろう。
遡る事十三日前、俺は最寄りの街まで飛んで行き、リンドウへと人員召集の手紙を出したのだ。理由は二つ。一つは当面のこの集落の見守り役。二つ目はクサナギ・エーランドの居るエンバス地方への切符である。
「あぁ、では向かいましょう」
起き上がって軽く伸びをし、姿勢を正した俺はマルファの言う境内へと足を運んだ。
境内は俺が足を運んでから代わり映えしない。いつも通り濃い霧が足元へ立ち込めているのだが、そこには、見知った顔が三人横並びに立ち、その後ろへと見知らぬ顔が二人控えていた。
そしてそのうちの一人。黒と青のツートンカラーの男が、代表するように一歩前で出た。
「息災ですか。フェリル」
「押忍。お久しぶりです。アルマ様。フェリル、並びにアクイス、リッカ…………さん、の三名に加え、人員として二名。ここに参りました。」
その畏まった態度に俺が満足げに頷くと、その横でマルファが「あ、悪趣味ねぇ…………」と苦笑した。
しかし、今の俺は機嫌がいい。マルファの言葉は一旦聞かなかった事にする。
「それにしても、手紙を出して既に十三日。些か到着が遅くは無いですか?あなた方、まさか走りもせず、ダラダラと観光でもしていたのではないでしょうね。」
「招集が掛かった時、自分達も任務中でしたので、急ぎ終わらせ参りました。」
「は?俺と任務どちらが大事だと?」
「無論、アルマ様です」
その時またも横から「面倒な彼女みたいなこと言うわね」なんて苦言を貰うが今回も無視をした。話が膨らんでも困るからな。
それになにより、俺には今疑問が湧いている。そちらの解決の方が優先だった。つまり、俺が招集をかけた人間とは別の人物がいる事である。
「なぜ、カイニスではなくアクイスが来たのですか。」
俺が名を呼ぶと、フェリルと入れ替わる様にアクイスが前へ出た。
アクイスも幹部の一人である。彼は後頭部から顔の正面に向け一本のねじれた角がリーゼントのように生えている。もっとも、それ以外に人間との相違点は無い。逆関節でも無いし、瞳孔が獣をもしている訳でも無い。尻尾も無いのだから割と素朴目な鬼種である。
アクイスは、フェリル同様俺に対し畏まった挨拶を行った後、自身が来た理由を言った。
「僕は今回、尊い犠牲となったカイニスの代わりに来たんですよ。」
その言葉を聞いた瞬間、エイダの件が脳裏をよぎる。
しかし見やればリッカは苦笑し、フェリルも口元を気まずそうに歪ませ頬を掻くのだ。と言う事は、死傷者が出たとか、そう言う物騒な理由ではないと分かる。
ではなぜか。そう思った時、アクイスは俺の方をおずおずと指さした。
「はい?なんですその指は。まさか俺の指示が悪かったとか、言いませんよね。」
「指示じゃないですよ、アルマ様」
「ですよね。では、なんですか」
「アルマ様自体が悪いんですよ」
「…………はい?」
「そのー…………出発する間際の事です。運悪くアルマ様の姉君がトグサの街に訪ねてきて、『ミー君は?帰った??』なぁんて上がり込んできまして…………カイニスはその対処に。その後、最も近くに居た俺が代わりに呼ばれたって感じ…………ですかね。は、はは」
あ。そう言う事ですかぁ…………。それは…………どう取り繕っても俺の立場を悪くするだけ。良い言い訳が全く浮かばない。つまりは…………俺のせいだな。
「コホン…………で、では、一応訊ねますが…………あ、あなた方は逃げ切れたという事でよろしいのですね?」
「はい。ご安心を。全力で遠回りしながら走り抜けてきましたので。」
なるほど。だからこれ程時間がかかったのか。
「納得です。そして失礼。愚姉が迷惑を掛けました。」
「はい。ぁ、いえ。と、とんでもないです」
今本音が漏れたなこの男。まぁ、今回に限ってはいいけども。
「しかしそうであるならば長居は無用ですね。これからここを発ちましょう。」
「は、え?あるまちゃん。もう行くの??」
「当然でしょう。彼女が追ってこないとも限らないのですから」
「彼女って…………さっき話題に上がったお姉さん?」
「ぇ?あー…………そうで、すね。そうです。一応あなたには最終防衛ラインとして伝えておきましょう」
「え、何々。もしかしてヤバい話?」
「はい、解釈の違いによっては…………ですがね。実は、俺を追っている者。黄金ランク――――デイジー・ベネットという女は俺の義姉です。」
俺はマルファへとデイジー・ベネットと俺と関係性。そして、彼女が俺に対して持つ執着期間たる十余年の歳月を、不本意ながら簡素に伝えたのだ。
すると、当然ながらマルファは目を真ん丸にして、口に手を当て驚きをあらわにする。
「う、うそでしょ?」
「嘘であったらどんなによかったか…………」
「…………アルマちゃん、捕まるのも時間の問題じゃない?」
「言わないでくれますか。俺が一番戦々恐々としているのですから。なので、もしも彼女がここに来ても俺の事は内密に。そしてその事を各位にお伝えしてほしい。本当にお願いします。俺が捕まれば、学者先生、あなたも芋づる式に危ないのですからね?」
「わ、わかったわ。言っておく」
「よし」ひとまずはこれで、お姉さんがここに来たとしても足止めできるはずだ。
そうなると、あと確認する事はアクイス達が招集された理由をきちんと理解しているかどうか。手紙には簡素に要点だけをまとめ上げたからな。一応口に出し唱えてもらいましょう。
「あなた方、ここでの役割は理解していますね」
「もちろん。まずは僕がこの集落のお守りを。連れて来た部下はリミック・イーアンの死体をゾンダー先生の下へ送り届けた後、僕の役目に合流。そして、フェリルとリッカの二人をお供にアルマ様はエンバス地方へ行くんですよね?」
「その通り。ミシェルや他の者も、この件理解していますね?」
「はい。カイニスから通達を受けているはずです。」
「よろしい。では、手抜かりなく頼みますよ。外部から来るであろうチャーチヒューズ工業からの追撃を躱し、探りを払いのけなさい。」
「御意御意。」
「いや、御意は一回言えばいいのですよ。」
「御ょー意」
「…………あなた、さては俺の事を馬鹿にしていますね」
「御意」
「は?」
「間違えた。し、してないです。」
「脊髄反射でものを言うのは辞めなさい…………」
「御意」
その言葉から察するに、俺の言葉がまるで響いていないと見える。思わず額に手がいき、ため息が漏れる。
「…………もう、いいです。勝手にしなさい」
アクイスはこういう男なのだ。浅慮でも俺を軽んじているわけでもないのだが、悪戯好きと言うか、天邪鬼と言うか、小賢しい問答を好む傾向がある。しかも、空気を読んだ上で俺の機嫌を損ねないギリギリを責めるのだ。これには毎回話の腰を折られ困っている。
もっとも、空気を読んでの言動であるため、俺も容認しているのですがね。
「さて、フェリルとリッカ。準備はよいですね?」
俺が呼びかけると、リッカは「っス。」と自身の手荷物を軽く掲げた。フェリルも同様に準備は済んでいると頷いた。
「では、参りましょうか」
一旦社の室内に戻った俺は、散らばっていた私物を旅行用の鞄に押し込み、コートの襟を正した。そして、マルファにのみ別れの挨拶をしたのち、この社を去ったのだ。
階段を降り、村人に見つからぬよう村の端っこをコソコソと移動し、あっという間にも集落の出入り口付近たる、Yの字の分かれ道へとたどり着く。
しかし、そこには一人の少女が居た。
「お兄ちゃん、行くの?」
それは巫女さんでもなく、マイルスでもない。一番初めに出会ったシーサーと言う少女。彼女は出会った時と同じ、質素なワンピース然とした衣装に、黒髪でツインテールだった。
リッカとフェリルを先に行かせた後、俺は少女へと向き直った。
「ええ、問題は解決しましたので。お嬢さんには最初、道案内でお世話になりましたね。」
「いいよ。こっちこそ迷惑かけてごめんね。」
「それは、山の件についてですか?」
「うん」
しかし、その件は巫女さんとマイルスくらいしか詳細を知らない筈だ。百歩譲ってもこんな子供が理解しているわけが無いのだが、
「どうしてあなたが知っているのです?」
「妾がそう、お願いをしたから。」
その途端、シーサーの声質が変わったのだ。
それまでの無邪気な子供の甲高いものではなく、どこかで聞いた事があるような、既視感に彩られた清楚な声。
「あなた、誰です」
「なんとなく、分かってはいるんでしょう。ほら、夢でも見ていたみたいだし」
「…………ワダツミ様。ですか」
「うん。」
「いつから、いや、もしかして、お嬢さんは元から存在していないと言う事ですか…………っま、まままさか、ゆ…………ぅれい…………?」
「ううん。この子はちゃんといるよ。少し、体を借りてるだけ。シーサーって名前の子に対しては、妾と縁が出来るから。でも、普段はこんなことできないんだけどね…………。」
名は体を表す。確か、ウィズ・キャネルがそんな事を言っていたか。
「そ、そうですか、なら、別れのあいさつに来たのですか?」
「うん。その他にも少し。お兄ちゃん、エンバス地方へ行くんでしょう。あそこには、妾と同じお柱様がいるから、注意事項を聞いてほしいなって。」
「何をです」
「彼はね、すごく扱いが難しい性格なの。気性難かな。基本的には謙って会話に望んだ方がいいよ。じゃないとプンスカ怒り出すから。」
「俺が謙る…………難しいことですね」
「き、キヒヒ。お兄ちゃん姉様みたいに高慢だもんね」
「な、失礼な――――って…………ん?ほう、あなた姉が居るのですか。それはさぞ大変でしょう。心中お察しいたしますよ。」
「お兄ちゃんもね。姉様と二人三脚は大変でしょう?」
「ぇ……………あの、その言い方は非常に不穏なのですが。まさか…………」
「そうだよ。お兄ちゃんが鬼畜クソ女って呼んでる神様が妾の姉様。」
呆気にとられ俺は返事が遅れてしまった。でも、これであの鬼畜クソ女が大人しくしていた理由が腑に落ちる。
そんな俺を見て、ワダツミ様は苦笑気味に感慨深そうな表情で続きを言う。
「姉様は彼方様が最も最初に造りだした、神の試行品にして至高品。妾も含め、この世界の神々は姉様を基に作られた。かつては最も美しく、全ての寵愛を一身に受けていた。そしてそれに釣り合う存在だった。」
「ハッ、言っちゃなんですが、考えられませんね。あのゴミが?」
「キヒヒ。そ、そうだよね。今じゃ見る影もないよね。で、でもね、今こうしてお兄ちゃんと話せるのも姉様の計らいのお影なの。」
「どういう意味です?」
「普段の妾って弱体化してるから。一方的に言葉を送るだけなんだけど、今回は姉様がお兄ちゃんの魔力を妾に分けてくれてるから、こうして会話できてる」
「…………俺は、そんな許可はだしていませんが」
「ご、ごめんね。いやだった?あぅ…………その、嫌な気持ちになったなら、謝るよ…………」
「まぁ、当然謝罪は頂きますが…………それはそれとして、あなた本当に神様なので?」
「うん。そうだよ。でも友達みたいに接してくれたら、妾すっごくうれしいな…………なんて。」
「鬼畜クソ女の身内にしては…………随分と毛色が違いませんかね。何というか、交友的ではありませんか?敵意が微塵も感じられない。」
「き、キヒヒ。だってわ、妾は人間さんが好きだから。ここの人たち含め、人間さんが笑って一生を過ごせるならそれでいいの。それがね、妾にとっての幸せ。だから今回、殺しを辞めてくれてありがとうね」
「ま、リミック・イーアンは死にましたがね」
「うん…………哀しかった。でも、人間さんの寿命が短いのも事実だから。あれが彼の選択なら仕方ない」
「おや、存外割り切りがいいのですね。」
「もうずっと見てきてるからね。いろんな別れを。でもだからこそ、その短い生涯を妾は笑って過ごして欲しい。どんな人間さんであっても、面白おかしく、誰それを妬み僻み嫉む事も無く、安寧に平穏に。その生涯を終えて欲しい。」
「そうですか…………あぁ、もう仰らないでいいですよ。あなたの在り方は大体分かりました。どうやら俺の苦手な人種のようだ。」
「ごめんね、その細かいことだけど、妾神様だから。人間さんじゃないの」
「…………では、神種と言い換えましょう。で、話は終わりですか?部下を待たせておりますので行っても?」
「あ、うん。一つねお願いがあるの。ここにね、文明の利器をあまり持ち込まないで」
「は、なぜ」
「だって、便利な物を知ったら、村の人たちはそっちに頼るでしょう。そうしたら、妾の事なんて忘れちゃう。それはヤダ。人間さんには妾を見てて欲しいの」
「…………我儘な。」
「…………だよね。分かってるよ。人間さんがそっちに目移りしてそれで笑って生きていけるなら、我慢する。でも、妾はそう言う風に造られてるから。出来れば、このままでいて欲しい…………」
「なら、アクイス達にはそのように通達を出しておきます。これでよろしいか?」
「う、うん。ありがと。その、代わり…………って訳じゃないんだけど…………いつか、海辺で困った時が有ったら、妾の名を呼んで。今回のお礼に助けになるから。」
「ほう、悪くない報酬ではないですか」。何しろここはヴァニラ列島。周囲を海に囲まれている以上、海辺への遠征も少なからずあるのだから。
「その時はワダツミ様と?それとも、シーサーと?」
「ワダツミ様は尊名。シーサーは種族みたいなものだからどっちも違うよ。」
「では、なんと?」
その時、ワダツミ様は優しく笑ってこう言った。「レヴィ」と。
しかし、俺はその名を聞いてまたもや返事が遅れてしまった。その間に、ワダツミ様は自身の存在を語るのだ。
「彼方様から頂いた妾の名前は、レヴィ・ア・サン。『アルファ版』のおとぎ話を象った、嫉妬に渦巻く海の大蛇。」
「いや、ま、待って下さい」
聞きたい事が増えたが、最も気になったのはその名だ。
「それは、鬼畜クソ女のものでしょうっ」
「違うよ。姉様の名前はレヴィじゃない。でも、妾の口から言うのも憚れるかな。出来れば仲良くなって彼女の口からきいてほしい。きっとそれが、姉様を払いのけるのに一役買うと思うよ。」
「仲良くって…………土台無理な相談を。では、質問を変えます。アルファ版とは。彼方様とやらは一体何者なのですか。」
しかし、俺の質問に対する答えをワダツミ様改め、レヴィが口にすることは出来なかった。
なぜならば、
「���̐̐̐EȆOOAAZZZZIIIIIIqqqqqqEEɂ玔玔玔玔ꂩꂩOÔ̂̂ƁB……………………なんだけど」
レヴィの口から流れたのは美しい旋律であったのだ。それは誰それに伝える声ではなく、一方的な警告音のように俺には聞こえた。
それからレヴィは喉を抑え、何度か調子を整えるように咳払いをしたが、何度やっても結果は同じ。
「あぁ、やっぱりだめみたい。干渉を受けちゃう。」
「鬼畜クソ女の時もそうでしたが…………あなた方を管理する上位存在が居ると解釈してよろしいか?」
「厳密には違うけど。まぁ、そうだね。ここの人たちに無用と判断された情報を絞られてるの。」
「それを行っているのは、まさか、ウィズ・キャネルですか」
「ウィズ・キャネル…………って?」
「壮麗な赤毛。気だるげな白色の虹彩を持つ女です。」
特徴を挙げると、レヴィは即座に反応を見せた。ビクンと肩を上げ、目を大きく見開いた。
「まさか、会ったの。あの人に。じゃあ、姉様も?」
「ええ、それでどうなのです。彼女の意向ではないのですか」
レヴィは首を横に振る。ただ、その表情からは当たらずとも遠からずと言った気配を感じた。
「あの人と今の座に居るのは別人。あの人はそう言ったことに、関りを持つことを嫌っているらしいから。この干渉は今座にいる『譬ケ迥カ繧キ繧ケ繝?Β』――――『クリフォト』による独断のはずだもの。」
「クリフォト…………」確かそれは、俺が屋敷を出る前ウィズ・キャネルが取り立てに来た時に言っていた五文字だったはずだ。
「…………それが、神を束ねる者の名か」
「束ねられてるなんて、妾達は思ってはいないけどね。それを出来るのは、崇高思考たる彼方様だけ。」
「じゃあ、ウィズ・キャネルとは何者なのですか――――」
とさらに踏み込んだ時。遠くから俺を呼ぶリッカの声がした。見やれば待ちくたびれと言わんばかりにしゃがみ込み、口をすぼめて文句を垂れている。
レヴィも話が長くなったと思ったのか、名残惜しそうに肩をすくめ、俺を見る。
「――――ごめんね、久々の人間さんとのおしゃべりが楽しくって、時間をかけすぎたみたい。もう時間だね。」
「いや、まだです。ウィズ・キャネルについてお教え願いたい。」
「ううん。この会話にはお兄ちゃんの魔力を使ってる。それも結構大量に。常人ならとうの昔に干からびてる。だから、ここまでにしよう。」
「そんなっ――――」
俺にはまだ余裕がある。と言いかけた時、立ち眩みが発生し、リミック・イーアンを殺しに行った日に感じた倦怠感が俺の膝をつかせた。
そして、その状態は悪化していった。息が荒くなり、脂汗がじわりと浮かぶのだ。
「――――な、んだこれは」
「ね。魔力を消費しすぎたの。鉱石を見てからまだ日も浅いその状態じゃあ、落胤と言えど、神様のバッテリーには心もとないよ。」
「…………っくそ。」
「そんなに悔しそうにしないで。また機会があるときに教えて上げるから。」
「はい」、そう言ったレヴィは小指を俺に差し出した。
「な、何の真似ですか」
「指切り。妾、約束は守るよ。だから、はい――――」
俺はしばらくの間、その細く小さな指を見つめていた。でも、その間にも俺の体調は悪化していく。そうして結局、限界を迎える前に、諦観がレヴィの小指へと俺の小指を絡ませた。
「――――指切った。これで決まりごとが一つ。縁が出来たね。キヒヒ、人間さんと約束しちゃった。嬉しいな」
「…………っ。」
「あ、もう喋るのも難儀なんだね。分かった。なら最後に一つ。願わくば妾の名を呼ぶようなことが無いことを祈りつつ…………でも、頼って欲しいとの矛盾も妾にはずっとある。だから、妾を蔑ろにも呼ばないなんて、そんな嫉妬に狂わせることはしないでね…………その事をゆめ忘れちゃだめだよ。お義兄ちゃん。」
そう言った後、レヴィはハッとするように表情を和らげた。それと同時、俺の倦怠感も噓のように楽になって行く。
遠くからリッカとフェリルが駆け寄り、レヴィを訝しげにも見つめるが、
「お兄ちゃん何してるの?お腹痛い?」
どうやら、既にレヴィはシーサーの中から去ったようで、ここまでの記憶が無くなっていた。




