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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード16 英雄模倣

 これから俺が行う事は、数ある魔術師の中で最高峰の実力を持つ者の真似事である。

 この世界には名の在る魔術師がごろごろいる。原典魔術だって一朝一夕で作れる代物では無いが、時間を掛ければ誰であろうと作り上げられると俺は思ってる。つまり、難儀ではあるものの、決して不可能な事柄ではない。

 しかし、前代未聞を難無くやってのける化け物はれっきとして存在する。

 たとえば、『天帝』シグレ・ワンがそうだ。彼女は原典魔術を持っていないそうだが、基礎を固め上げ黄金ランクに上り詰めた。その異名の理由こそが汎用魔術の併用による天候操作である。


 その他にも、汎用魔術を様々組み合わせ噴火を誘発する者。逆に水魔術と土魔術を極め自然を促進する者。その者が通った後には破壊のみが残ると言われる竜巻の権化や、その後始末をするように、草木を操る原典魔術で世界を修復する者もいる。


 そして、決して外せないのが俺達の頂点――――『魔術王』と名高いソーラル・ディー。彼女は百以上の原典魔術を操り、それを自在に組み合わせることで臨機応変な対応を見せる。その昔大陸へと落ちかけた流星を撃ち落とした逸話すらある。英雄の中の英雄にして化け物中のバケモノ。


 彼ら彼女らはギルドメンバーであるため、俺は普段から意図してそちらの真似事を避ける傾向があった。敵だからな。当然だ。悪目立ちは避けるべき。関りたくもない。

 でも、今回はそんなプライドすらどうでもいい。この俺をダークネスプリンスと貶し、俺の駒の価値を落とした不届き者に()()を与えなければならない。

 ゆえに、今回の俺は再現性が最も高そうな選択をした。

 まず土魔術の上級を再度放ち、リミックの動きを一瞬止めると同時、先ほどの地割れをさらに深く抉る事で地下水脈を掘り当てる。マルファから工事区画の近場に川が流れているのは聞いていた。だからあるだろうとは思っていた。果たしてビンゴだ。

 続いて、風魔術を用いることで再度制空権を取り返すと同時、水魔術も併用し大気中の湿度も上げる。

 そして間髪入れず、


「火炎の柱、我が眼にて顕現せし、立ち昇らん――――()()()、葬風が成る。我が息吹は終わり、世間を床に臥せん。」


 火の中級魔術を風の中級魔術により火力と範囲を広げる。そして、それを上空へと何度も打ち上げる。


「…………なんだい、何の真似だ」


 むろん、『天帝』シグレ・ワンの猿真似だ。

 やがて俺の目論見通り、空へと暗雲が立ち込め始める。

 その時、「まさか」とリミックの顔色がこれまでで最も悪くなる。口元を引きつらせた後、周囲一帯を見て、背の高い物体が身近に無いかを確認したのだ。

 その理由の一端として、俺の頭上では既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  

「確か、こんな業だったか――――」


 リミックが身構え戦線離脱するよりも早く。稲光が俺に対し、早く落とせとせっついた。 


「――――下界への鉄槌(ケラウニオス)

 

 リミックのほど近くへと稲妻が絶縁破壊を轟かし落ちた。腰を抜かし体を震わせるリミックだったが、直撃ではないためかその体に傷は無い。

 それでも俺は確信を得た。それはシグレ・ワンの業の威力にではなく、


「やはり、貴様の陣の性能は他者の魔術や他者の魔力を吸うのみ。自然発生した現象に対しては無力のようだ」


 リミックがビクリと俺を見上げる。

 あぁ、その反応で十分だ。フェリルに埋め込まれた陣もそうだったから、もしやと思ったのだ。どうやらその点において、改良が難航していると見た。

 まぁ、俺にとっては追い風になる。

 それに、先の雷の衝撃で俺もこの業の制御方法を一つ思い出した。こういうのを青天の霹靂と言うのだろうな。いや、文字通り閃き――――才気煥発と言った方が正しいか。


「水の流れ、わが手を押し返し、津波とならん」


 俺は下方の水源から水魔術の中級で十分な水分を引き込み、自身の周囲へと纏わせた。

 直後、暗雲から第二射の充填が済んだと雷鳴が鳴る。


「ま、まて!こ、殺す気か!俺を!?」


「何を今さら。命乞いなど訊く気もない――――」


 風魔術が水魔術を補助する。無色透明な大気中の水分は、稲妻の通り道を作り上げた。


「――――下界への鉄槌(ケラウニオス)

 

 一瞬の閃光。そして遅れてやってきた轟音の直後。


「ぴ…………ぁガッ…………ァ」


 全身を焦げ付かせ跪き、口から黒い煙を上げるリミックの姿が俺の眼下にはあった。だが、地面へと降り、リミックの傍へ寄ると彼はまだか細く息をしている。

 死んではいないが「虫の息だな」。

 リミックの黒焦げた体にはうっすらとミミズ張れ――――雷紋が浮かんでいる。稲妻が直撃した証だ。その他にも、雷が体内を通り抜け出た箇所は醜く融解し、筋繊維をさらけ出している。間違いなく致命傷。運よく生き残っても後遺症が残る事は間違いない。

 しかし、 


「不愉快な…………たかだか一撃で死へ逃げようってのか」


 俺の怒りは収まりが着かない。まだ、まだまだまだまだっ、何度でもこの男を嬲らなければ気が済まない。だから、水魔術の中級を再度唱えた。

 そして、俺の怒り――――雷が落ちる。


下界への鉄槌(ケラウニオス)


 だが、


「キヒヒ、いったぁーぃ♡」

 

 避雷針を果たしたのは、滑り込むように現れた鬼畜クソ女だった。しかも、雷をその身に受けて尚、奴は急速に体を再構築し綺麗な体で、リミックを庇う様に俺へと立ちはだかったのだ。


「…………キヒヒ。不思議そうな顔だねぇ?」


「当然だっ」


「残念だけどぉ、自然現象じゃあ私は殺せないよん☆」


「そう言う意味じゃねえ。どこまでも俺の邪魔をしやがって。なぜリミックを庇う、どういうつもりだッ!!!」


 「まったく…………」そう呟いた鬼畜クソ女の口調は直後、静粛なものへと変わった。


「君の方こそ、頭を冷やしたらどうだ。彼を殺せば、手掛かりが遠のくではないか。」


 なぜ鬼畜クソ女が俺の目的を知っているのか。そんな事は今どうでもいい。

 今はそれより、


「俺に理性を説くんじゃねぇ。今は憂さを晴らすことが優先なんだよっ!」


「そう。けれど私はここを退くわけにはいかないの。」


「あ゛ぁ!?」


「ここの神様はね。人死にが出る事を望まない。とっても優しい神様なの。だからどうか引いてほしい。」


「ざけんなよっ、そいつが先に仕掛けてきたんだろうが!?」


「冷静に。ね?盗みに入ったのはアルマ。君だよ」


「知るか」


 「お願い」と言われた時、俺は我が目を疑った。鬼畜クソ女は腰を折って髪を重力に垂らしていたのだ。俺に対しあの鬼畜クソ女が、頭を下げている。

 

「…………ッ…………。」


 その時、暗雲から土砂降りが降ってきた。この季節の雨は酷く冷たい。鬼畜クソ女の行動に対し、面食らった事で水を差された俺の怒りに火照った体が、頭に昇った血が、急転直下で冷まされていった。

 だから、「…………今回だけだ」。俺は前髪をすき、左の魔眼を隠すことで戦闘終了を示した。対して鬼畜クソ女は肩をすくめた。


「ありがとう、アルマ。」


「名を呼ぶなっ殺すぞ!!」


 その何気ない感謝の言葉ですら、はらわたが煮えくり返る。


「いいか、勘違いはするな。今回俺が殺しを辞めたのはお前のためじゃあない。ましてや、神様とやらのためでもない。情報を抜き取るためだ。俺が、俺の意思で考えを改めたに過ぎない。」


「分かってる」


「だから二度と…………二度と俺に対し願いを掛けるな。お前の意に沿うなんぞ甚だ不愉快だ」


「分かってる。」


 「…………くそが。」吐き捨てると同時、鬼畜クソ女を殴りつけリミックの傍からどかした俺は、治癒魔術を半端に掛ける事で彼の死を捻じ曲げた。とは言え、死なぬ程度に治しただけだ。リミックの体の傷は深いまま。雷に侵された体の傷は痛々しい融解の痕が所狭しと刻まれている。


「…………ぁ…………ぐ」


 無様に喘ぐリミックの姿は滑稽だ。よく見ると、彼の右手は胴体と癒着し、思うように動かせなくなっているようだ。その様はまるで羽化に失敗した芋虫。

 思わず失笑が漏れる。


「ハッ…………さて、リミック、お前にはその陣の情報を吐いてもらうぞ」


「…………っ!…………!!」


「この期に及んで口を割らないと?大した忠義じゃねぇか。」


 それとも、口止めされて言えないのか。あるいは知らないか。しかし、どちらにせよ是非は口にしてもらわなければならない。

 俺はリミックの襟首を掴み、上空へと持ち上げた。


「吐け。さもなけばここから落とす。関節を増やしたくは無いだろう?」


 リミックは俺の顔を見て怯えをその目に灯した。そして、自身の口を大きく開き、しきりに口内を指さした。見やると、下の根が溶けて口をきけなくなっている。これでは物理的に話せない。


「面倒な」


 治癒魔術を再度施し、喋れる程度まで舌を再生してやった。

 すると、


「ま、まへ。い、いうはら!いうはら、おろしてへれ」


 舌ったらずにも、リミックはそう言ったのだ。


「だめだ。逃げられても困るここで言え。」


「…………ほーか。はら、しょうはない」


 いうや否や、人体が発してはいけない音と共に、リミックの顔が九十度傾いた。この男、自由が利く左手で己が首をへし折りやがった。

 もちろん、即座に治癒魔術を施したが時すでに遅し。傷は治ってもリミックの目は虚ろなまま。即死だったのだ。


「…………使えねぇ…………やろうだっ」


 一体誰のせいでこうなった。いや、考える間でも無い。鬼畜クソ女が俺を止めたからだ。

 こんな事ならば、俺が止めを刺した方が幾分気が晴れたと言うもの。


「どいつもこいつも…………こ、この俺を愚弄するのか!!あぁ゛ッ!!?」


 苛立ちに突き動かされ俺はリミックの死体を燃やしかけた。しかし、冷えた雨音が再度俺を諫め、頭を冷やせと打ち付ける。

 そのおかげか肩を上下させていた荒い呼吸が、次第に落ち着きを取り戻し、いつしか通常に戻った時。今回の失敗――――情報源の消失を取り返す下方修正を思いついた。 


「そうだ…………この体は持って帰ろう。ゾンダーに解剖してもらうことにするか。」


 それから俺は、リミックの死体を風魔術で空中に浮かせたまま。マルファの居る所へと引き返したのだ。

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