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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード15 邂逅

 ハンスからリミックの居場所を聞き出した俺は単独で乗り込む事にした。理由としては、多少の荒事になることを想定し、マルファが居ては邪魔になると判断したからである。

 それゆえに、今回の移動は初っ端から飛行手段を取ることが出来たため、ものの数十分で目的地へと着いたのだ。

 行き先は工事区画の近くから下り、通り道にほど近い平地にある地点。元々木々が少ない場所だったのか、見晴らしがよいそこには簡易テントが数十個整然と並んでいた。話によると、四人から五人一組で共有して眠っているらしい。しかし、彼らのほとんどは単なる仕事として出向いているため、見張りはいなかった。時間帯も夜中であるためか、明かりも灯っていない。


 新月に近い今晩の暗闇ではリミック・イーアンの居場所の特定は難航しそうなものなのだが、実際は直ぐに見つかった。それと言うのも、ハンス含めた位の高いものは機密情報も扱うと言う表上の名目――――実際は優遇措置――――で、一人に一つづつテントをあてがわれており、情報共有も容易に行えるよう区画分けがなされていたからだ。


「さて…………ノックは必要ないでしょう。そう言う間柄でも無いし。」


 そもそもテントの布に対して行うものではないしな。行ったところで衣擦れの音が響くだけだ。

 ただ速やかに連れ去り話を聞き出すためにも、防音措置は行っておく。風魔術の低級を微かに発動し、音を相殺しながら出入口のコノ字型のチャックを開けた。

 すると、テントの外から侵入した俺の影が、寝入っているリミックの姿に覆いかぶさった。暗闇ゆえ全貌は確認できないが、微かに寝息が聞こえる。どうやら毛布にくるまって安眠中らしい。

 俺はゆっくりとテント内に侵入し、リミックを見下ろしながらその毛布をはぐった。そして、疑問の吐息を零すことになる。横たわっていたのはリミックでは無かったのだ。毛布の下に居たのは人影を装った荷物の束。

 しかも、頭部の枕部分には、視認できる感じで紙に描かれた陣が二つ張り付けてあった。つまり先ほどの寝息は風魔術を施された陣の左様だろう。


「では、もう一つは…………まさかっ」


 その時、マルファから聞いたチャーチヒューズ工業のよからぬ噂が脳裏をよぎる。そう、ナンバリングを省いた陣の不良品――――


「罠っ」


 ――――咄嗟に身をかがんだ瞬間、暗闇の黒を爆風の赤が塗り替えテントが吹き飛んだ。

 油断からの緊張。その時の一瞬の緩急は俺の魔術発動に遅延を誘発したのだ。幸い致命傷は避けたものの、無様に十メートル程吹き飛んで地面を転がってしまった。


「…………っ、くっそが…………っ。」


 口の中に鉄の味がいっぱいに広がっている。おそらくは内臓を痛めたのだ。

 霞む視界の奥には赤い炎が黒い煙を纏い登っていた。

 もっとも、耳は正常に作用していた。いや、視界が霞んだ影響か普段よりよく聞こえるくらいだ。それによると、これまで寝入っていたチャーチヒューズ工業の従業員が避難し始めているのが、騒音から確認できる。

 つまり、人払いは勝手に済むと言う事だ。治癒魔術も問題なく使える。


「ふざけやがって…………っこ、この俺に傷を付けましたね…………っ」


 俺は憤怒にかられ立ち上がった。

 今や暗闇は過去のもの。明度は上がり彩度は赤一色。一足早くやってきた朝方を彷彿とさせるその光景こそが、俺にダメージを与えたにもかからわず、皮肉にもその明るさが俺に対し、目的の人物を映し出したのだ。

 それが彼。燃えるテントに近づいた寝間着姿の壮年男性。

 

「あなただな。リミック・イーアンは」


「あぁ…………白髪頭、だから…………アルマだね」


 皮肉気に口角を上げるリミックは「ざまあない」と嗤っていた。


「アポイトメントも取らずに来るからさ。教養が無いんじゃない?それとも無いのは常識かな。まぁ、どちらにせよ、採用はお祈りさせてもらうとしようか。」


「こちらの質問も受け付けずよく喋るではないですか。このような騒ぎを起こしておいて。圧迫面接ですか?」


「ああ問題ないよ。お前のせいにする。もみ消しさ」


「やはり…………あなた、悪人ですね」


「えぇ?そんな事は無いぞ。誰であれ、多かれ少なかれ嘘や見栄は張るだろう。面接なんてそれと同じだ。嘘も方便。優しい嘘つきこそが世渡り上手だ」


「お気になさらず。俺も質問をしているのではない。()()()()()()()。」


「ふぅん…………そっか。で、これからどうするんだ?」


「あなたを捉え、エルモアについて吐いてもらう」


 その名を出した途端、リミックの表情が一変した。彼は顔を軽く伏せ「やれやれ」と首を振ると俺を睨んだのだ。


「どこでそれを?」


「吐くのはあなたであって、俺ではない。立場を弁えなさい」


「…………んーそうか。ただの盗人にしてはしつこいとは思ってたが…………やはり。」


「なんです」


「いやね。ハンスには荷が重かったようだ。これは俺の采配ミスだな。彼とその家族には悪い事をした。」


「ははは、俺は彼を殺してなどおりませんよ。」


「えぇ、そうなのかい。あぁ、じゃあもう()()()()()()()()って事かな」


 言葉に詰まった。だって、その言い草はまるで。


「なんだいその顔は。図星を言い当てられて固まるなんて、人生経験が浅いから起こるんだよ?」


「…………俺の事をご存じで?」


「まあ、薄々がお前の表情で確信になったってとこかな。特徴と名前は知ってたけど顔は今まで知らなかったわけだし。ほら、お前アレだろう…………たし、か…………だ、()()()()()()()()――――」


 その先は言わせなかった。俺はその言葉尻を撃ち落とす様に己の怒声をかぶせたのだ。


「――――口に気を付けろッ、その舌根っこ引き抜いて殺しますよ!」


「こ、こわいなぁ…………あぁーそうだ思い出したよ。マンハンターのなんとかだったかな。ん?違う?」


「…………憎らしい記憶力をお持ちのようだ。素晴らしい。」


 と言う事は、この男間違いなく俺達側の人間だ。

 俺はもはや迷うことなく魔力を全身に流し始めた。


「ははは、これで心置きなくあなたを嬲れる。」


「ぶ、物騒だなァ…………」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 そして、火の中級魔術を口ずさむ。


「火炎の柱、我が眼にて顕現せし、立ち昇らん」


 とは言え、俺の魔力量で放たれたそれは、常人で言えば上級魔術に匹敵する。立ち昇る爆炎と、そこから迸る火の粉は小規模な火山の噴火だ。

 にもかかわらず、リミックは平然としていた。それどころか、花火でも見るような気軽さで口笛まで吹いたのだ。


「やるねぇ…………」


 その態度は気に食わない。見世物ではないのだぞ。

 だから、文字通り目に物を見せてやる。俺は魔力の枷を外しもう一つの魔術も併用する事に決めた。


「天下の割れ目、我が頻脚にて地ならし、飲み込まん」


「そ、そりゃあ!」


 そうだ、土魔術の上級。

 その途端、地響きが起こり大気まで揺れ動く。そして、リミックの足元が真っ二つにも地割れし、彼の下半身を飲み込み固めた。それはまるで、大地が開けた大口に飲み込まれるようにすんなりと事を為したのだ。


「ま、まじか。ここまでとは」


 そうだ。その反応を望んでいたのです。

 俺は満足感を嚙みしめながら、リミックの傍へと近づき炎であぶりながら見下した。


「…………エルモアとは?」


「いや、いう訳ないだろう。」


「ほう、気概がおありだ。ですが、何時まで持つでしょうかね」


「お前はアレだな」


「はい?」


「慢心が過ぎる――――」


 その言葉より先を俺は聞き取れなかった。

 なぜなら、顎下から受けた一撃により俺の全身が宙に投げ出されたから。


「――――は?ぁ??」

 

 痛みより衝撃が脳内を占領していた。リミックに魔術を発動する隙は無かった。しかし、俺は何かを受けた。

 なんだ。分からない。

 結局、滞空中に結論は出ず、時間切れをつげるように俺の背中が地面へと落ち息が詰まる。


「がっ…………ぁ」


 二度目だ。これで二度も奴から傷を負わされた。

 

「く、屈辱だ。こんな事がぁ…………っ!!」


「思いのほか頑丈だな。」


 リミックは数歩先の距離からそう言った。見やれば俺が造り出した地割れは、更に大きな裂け目によってガバガバに開かれていた。


「意識を刈り取るつもりだったんだが」

 

 そう言いながら、リミックが俺の襟首を掴み上げた時、地割れから抜け出せた理由を垣間見る。彼の手にはこれでもかと土が付着していたのだ。

 つまり、


「自力で?脱出を…………っ馬鹿な。この俺が放った上級魔術だぞっ?」


「自惚れが過ぎるなぁ。お前は黄金ランクにも届くのか?」


「なっ、その言葉こそ自惚れでしょうがッ」


「俺のは自負であり、事実だ」


 そして今度は地面へと叩きつけられた。

 目の前が明滅する。右肩が動かないところを見るに、鎖骨が折れたらしい。


「…………は!はぁ…………っはぁ…………っくそがぁああああ」


 死んだかと思ったぞ。

 嫌な予感に駆られ、治癒魔術を発動したから事なきを得たが、数秒でも発動が遅れていたら、間違いなく意識は刈り取られていた。

 

「ふざけるな。ふざけるなよ。俺に弄ばれる玩具の分際でぇ…………っこんな、こんな粗相を!!」


「いや、俺としてはドン引きだよ。なんで死んでないんだ。今お前が居る場所を見てみなよ。」


 見ずともわかる。俺が叩きつけられた周囲はアリ地獄のように窪んでクレーターを作っており、俺は今中心に立っている。

 一方リミックは窪地を覗き込んで俺を見ている。

 つまり、リミックに見下ろされている。マウントを取られている…………。


「俺を見下ろすなぞ、万死に値する愚行だぞ。何様のつもりかッ!!?」


「だから言っただろう。黄金ランクに届くってさぁ」


「与太をこくなァ!」


 何か絡繰りがあるに決まっている。

 火の中級魔術を再度灯した俺は、今度は威嚇無しにリミックへと放った。

 しかし、そこで俺は信じられない現象を目の当たりにする。リミックへと迫った俺の魔術が、跡形もなく消えたのだ。

 いや、もっと正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「そ、それは――――」


 リミックの衣服の袖は灼け切れたが、彼自身は無傷。だがそんな事よりも、その時あらわになった彼の右腕に入った入れ墨に対し俺は目を奪われていた。


「――――『陣』!?」

 

「ぁ?…………あぁ。見えたかぁ」


「と言う事は…………あなた、被検体か」


「その反応、訳知り顔だなぁ。もしかして、この陣の効力も知ってるのかな?」


「合点がいきましたよ。忌々しい…………その怪力も俺の魔術を吸い、底上げしたものですねっ」


「ご名答。襟首掴んだ時にねぇ、ちょっと吸わせてもらったよ。」


 なんだと。ならば地割れを引き裂いた時は自前だと言うのか!?


「化け物がァ…………」


 吐き捨てた言葉への返事は、後ろから聞こえた。


「いやいや、お互い様だろ。その魔力量で言われても説得力がねぇ…………」


 瞬く間に回り込まれた。

 そう気づいた時、背中に受けた衝撃によりクレーターから打ち上げられた俺は地表へと帰還した。

 

「ゲホっ…………ええい…………埒があきませんね」


 咳き込みながらも治癒魔術で癒していると、クレーターを一息に跳んで地表に戻ったリミックも、同様の感想を嫌そうに吐き捨てた。


「こっちのセリフだよ。器用なもんだね治癒魔術まで…………さて、どうしたものかな。」


 とは言うが、速さは向こうが上だ。

 先ほどから魔眼を使っているが、彼の速度を目で追えても俺の体が付いてこない。もっとも彼に武芸のたしなみも見られなかった事は幸いだ。

 それでも、致命傷に対し魔術を挟み込む事でクッションとし、避けるので精一杯。だから近寄られればまず勝ち目がない。 

 しかも、リミックは魔術を使用せず身体性能で迫ってくるのだから、俺の原典魔術も効果を為さないだろう。

 ならば、


「んぉ!…………すごいな飛べるのかお前」


 一か八か。黄金ランク相当の自負を持つリミックが到達できぬ事を祈り、制空権から、


「我がカイナ、諸人送るカシワデにあらず…………」


 本当に不愉快だが、火の上級魔術を放つ。


「…………誰がシンゾウ、ただ朽ちる灯にあらず――――」


 赤い景色が俺の魔力によりさらに眩く輝きだすと、さしものリミックも表情を渋く染める。  

 最悪、情報を抜き取る前に殺してしまうかもしれないがこの際仕方ない。俺はそれだけ、苦汁をなめさせられたのだから。


「――――其の瞳、唯それのみを煉獄映す鏡となす。」


 そして俺の頭上、天空にある白炎の目玉模様の光球を囲むように光輪が成る。

 光輪はギルメリングのように重なりあう円環から、また一つ、また一つと、目玉模様を軸として回転するごとに数を増やしていく。

 やがて、光輪は翼の形へと幾重にも重なり合うことで安定し、合計六枚の翼が彩雲を纏う。

 

悪徳の火(ソドム)


 白炎の目玉模様から熱線がリミックへと降りそそいだ。その射線上は昼間と同等の光量を放ち、大気中に含まれていた水分が弾けるように蒸発し、リミックへと迫っただけで、彼の足元が赤く溶けだし溶岩のように泡立った。

 しかし、


「ひゅぅ…………お前凄いねぇ。ヒヤッとしたよ。暑いのにさ」


 リミックは右腕を突き出し依然としてそこへ立っていた。上半身の衣服は跡形もなく消え、左半身を中心に全身外皮も焼けこげてはいるものの、軽口をたたくだけの余裕がリミックにはあったのだ。


「っ、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な…………ぁあぁ、あってはならない!!こんな事!!」


 本当に愕然とした。だって今のは俺の上級魔術。それも殺傷力の最も高い火属性だぞ。

 いや、この際現実は受けとめるとしても、俺の知っている陣の被験者フェリルであれば、死ぬか戦闘不能には陥っている威力の筈だ。

 なのに、焦土に降り立ちリミックの健在を確認すると、俺の愕然は怒れる業火へとくべられ、燃焼材へと変わる。


「どこまで、どこまで…………この俺を馬鹿にすれば気がすむのですか!貴ィ様はぁッア!!!!!!」

 

 俺が腹立たしかったのは、この時点で既にリミックの持つ陣の性能が、フェリルを軽く凌駕している事が決定付けられたからだった。

 否。そんな事はあってはならない。俺が持っている駒よりも性能がいいなど…………許せるはずがない。

 フェリルも、エクシアも、好きであの体になった訳では無いのに…………その価値すら貶められたような気がしたから。

 俺は、腹が立ってしようが無い。


「怒髪天だ。こんな気持ちにさせられたのは…………あの鬼畜クソ女以来の快挙だぞ。()()が」


「ん、何がそんなに気に食わないんだ。現実かな?」


「黙れ、テメェの呼吸も心臓の音も、視線も、何もかもが気に食わねぇ…………」 


 もういい。もうこの男が死のうが生きようがどうでもいい。

 本気だ。全力でこいつをこの世から消す。俺の駒の方がこの世で最も強く、性能がよくなければならないのだ。そのために、その状態へと還すために。

 

「…………すごくまずい気配がするなぁ。」


「察しがいいな。それは、死の気配だ」


 魔力の枷は既に解いているが、これ以上を放つのは俺史上初めての経験になる。 

 

「俺を不愉快にさせる出来損ないの玩具などこの世に一つもいらん。グロテスクにも引き伸ばし、すり潰し、ミンチにしてやるよ。だからそれまで、死ぬんじゃねぇぞ。」

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