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神之樹  作者: Uyu
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第八話ー第二部隊ー

「それじゃ、やりますか」

『双方準備はいいな。では訓練開始!』

 瞬間『危機感知』が発動する。

 師匠の開始の合図と同時に私達に一本の光矢が迫った。

「嘘でしょ。まさか開始と同時に撃ってくるなんて」

 『気配探知』でも緋翠達の気配が見つからないってことは超遠距離からの狙撃。

 それをここまで正確に射抜いてきた、しかもこれだけの遮蔽物の間を縫って。

 おそらく澪の仕業、飛び抜けた索敵能力と光矢の軌道を自由に操ることができるスキルってところかな。

「作戦変更しよう。相手が私達の場所を完璧に把握してるなら瑠奈を一人後方に控えるのはまずい」

「それなら私が瑠奈の護衛に回る。天鬼を一人にすれば向こうは天鬼を狙撃するはず。天鬼は飛んできた矢を危機感知で対処、矢が飛んできた方向と速度から私達がおおよその狙撃点を割り出す」

 さっきの攻撃はそこまで威力は高くなかった。

 おそらく狙撃距離が遠過ぎて矢の速度が落ちたんだろう。

 それでも『危機感知』がなかったらダメージを負うのは必須だった。

「私は囮ってわけね、了解。なるべく早く見つけてね」

 そうして私が一人先行し、後ろに二人が遮蔽物を伝って移動しながら索敵することになった。

 移動中も絶えず矢が飛んでくる。

 しかも徐々に威力が上がってきている。

 これはエンカウントまでもう少しかな。

 それはまぁいいんだけどさ。

『危機感知発動しっぱなしは流石に疲れるんですけど!? 気持ちが全然休まらない!』

『もう少しだから我慢して』

「見つけたぞ、って雷華と澪だけ? 緋翠はどこ行った」

 その時背筋に悪寒が走る。

『天鬼! 上だ!』

 見上げると大鎌を振りかぶった緋翠が私に高速で接近していた。

 くそっ、上空からの打ち下ろしの分一撃が重い。

 緋翠の鎌を刀で受け地面に倒れこむとそこにすかさず矢が飛んでくる。

「――『女神の加護』」

 陽葵が私の周囲にシールドを生成し、矢を防ぐのと同時に緋翠を私から引き剝がした。

 最悪だ、完全に後手に回った。

『天鬼、そのまま緋翠を引き付けておいて。私と瑠奈で澪の妨害、できれば雷華も無力化させて来る』

『なるべく早く帰ってきてよ。さっきの攻撃受けた感じ勝てる気はしてないから』

『了解』

 さてと、そういうことなら澪の攻撃は二人に任せて私は目の前の緋翠に集中しよう。

「瑠奈と陽葵がいなくなってるな。雷華と澪のところに向かわせたな?」

「さっきから私にちょっかいかけてくる矢が鬱陶しかったからね」

「そういうことなら俺もさっさとあいつらのところに戻らないとな。『異形解放・朱雀』」

 なるほど、これが憑依型か。

 緋翠の黒い髪が燃え盛るような焔の色へと変色した。

 内に秘めていたオーラは膨れ上がり具現化しているようにも見える。

 そこには焔のような荒々しさはなく、ただ静寂を纏うかのように揺らいでいる。

 そして、その目はさながら紅玉のようだった。

 非常に美しい。

 異形が蔓延るこの時代でなければ間違いなく神として崇められていたに違いない。

「さて、やるか」

 緋翠の言葉で私は息を整えて双剣を構える。

 さっきの戦闘の感じ、緋翠に生半可な攻撃は通用しない。

 刀でバランスよく戦おうとしてもすぐに切り崩される予感しかしない。

 ならとにかく攻めて反撃する余地すら与えないようにする。

 一瞬でも攻撃の手が緩んだ時が私が負ける時だね。

 互いに相手の出方を窺い周囲が静寂に包まれる。

 その静寂を打ち破るように私と緋翠は間合いを一気に詰めた。

 私は無数の斬撃を緋翠に浴びせ続ける。

 対して緋翠は大鎌を自在に操り全ての攻撃に対処してみせた。

 赫式双剣術――『桜花乱舞・灼』

 無数の斬撃がぶつかり合い生じる火花はさながら夜空に輝く花火のよう。

 一見互角のようにも見えるが、実際には私がかなり押されている。

 私は大鎌から繰り出される攻撃の軌道を読み切ることができず徐々にダメージが蓄積されていく。

 一旦体勢を立て直すべく緋翠との距離を取ろうとするもなかなか切り離せない。

 それならと廃墟の中へと誘い出し、床に斬撃を入れ崩落させることで緋翠を下層へと落とす。

 加えて廃墟に残っている主要の柱を全て切り崩し緋翠のいた建物を崩落させた。

 その廃墟から少し離れた小ビルの屋上から様子を窺っていると土煙の中で宙に浮いている人影が見えた。

「まじか……」

 柱切った後にやり過ぎたと思ってたのに、見た限り致命傷程のダメージは入っていなかった。

 しかも出てきた緋翠の背には猛々しく燃えるような紅の一対の翼が生えていた。

「いやー、死ぬかと思った。まさか建物ごと崩落させてくるとは予想外だったよ」

「そんなこと言って全然大丈夫そうじゃん。あの崩落で生きてるって一体どういう身体の造りしてんのよ。それにその翼、今まで能力を隠して私と戦ってたってこと? 随分と手を抜かれてたみたいだね」

「手を抜いたつもりはないんだけど、この姿魔素の消費が激しいから少しの時間しか使えない諸刃の剣なんだよ」

 なるほど、それならこの状態で持久戦に持ち込んで魔素切れを狙えば勝機はあるってことか。

「まぁせっかくここまで追い詰めてくれたわけだし、少し全力で相手をしようか」

 その言葉と同時に緋翠の翼が炎に包まれた。

「緋翼――『奏』」

 緋翠の両翼から炎を纏った無数の羽根が私に襲い掛かる。

 流石にこの数は捌ききれないと感じ回避するとその先には既に緋翠が大鎌を構えていた。

 緋翠がいた場所を見るとまだ残像がうっすら残っている。

「ちょっ、いくらなんでも無茶苦茶過ぎるでしょ!」

 咄嗟に出た刀でなんとか攻撃を凌いだ。

 さっきとは比べ物にならないくらいの速度で攻撃が降り注ぐ。

 しかも緋翠の大鎌の対処で手一杯なのにさっき回避した羽根が私を追尾して襲い掛かった。

 赫式単刀術――『八重桜』

 赫式の中でも防御性能が高いこの技は居合に近く、自分の感覚を研ぎ澄ますことで間合いに入ったものを感知し反射的に身体を動かして迎撃する。

 なんとかして防戦一方のこの状況を脱却したいけど、抜け出したところで今までの攻撃は全然効いてる気配なかったし。

 可能性があるとすれば『紅蘭・日暈』だけど、この状況で双剣に持ち替えたら負ける気しかしない。

『天鬼無事だったか』

 絶望の淵で瑠奈の声が聞こえた。

 緋翠の攻撃を回避しているうちに二人の近くまで来ちゃったみたい。

『全く無事じゃないですけど!?』

『こっちも手一杯だけど数発なら隙を見て援護射撃できるよ』

 声色から二人は私ほど追い込まれてはなさそう。

 多分均衡状態なのか、少なくとも劣勢ではなさそうな感じだった。

 それでもここで私がやられればその均衡は一気に崩れる。

 これは何がなんでも負けられないな。

『助かる! とにかく緋翠の動きを止めて! 数秒でいいから!』

『了解。この状況だと少し威力を上げた氷結弾二発が限界、今から作るから一分後に今いる場所に緋翠を引っ張ってきて。くれぐれも勘付かれないようにね』

『合点!』

 これで突破口が見えた。

 ここに戻ってくるまでの一分間、死ぬ気で逃げる。

 私はすぐに双剣に持ち替え、『紅蘭・日暈』に必要な量の魔素を練り上げつつ防御から逃亡にシフトした。

 さっきの攻撃でわかったけど、緋翠が飛ばす羽根は速度はバカみたいに速いけど急な方向転換はできないみたい。

 直線に強いだけだからこの廃墟地帯を利用すれば回避はできる。

 あとは緋翠本人だけど、これはもうどうしようもない。

 羽根ほどのスピードはないけど、どれだけ遮蔽を使っても遮蔽物ごと刻んでくるからとにかく走るしかない。

 私にも空を駆けれる翼が生えてたらよかったのに。

「……緋翠! 少し休憩しない!? ……疲れたでしょ!!」

「確かに少し疲れたね。天鬼が逃げなきゃ疲れなくて済むんだけど?」

「……それって私に死ねって言ってるのと同じなんですけど!?」

 今の状況で前にフィンが作ってくれた装備があれば緋翠を引き離せそうなのに。

 そうこうしているうちに約束の時間が訪れる。

 瑠奈と念話を交わしたこの場所に上手いこと誘き出せた。

『捉えた』

 瑠奈の射程圏内に入ると即座に緋翠の身体に氷結弾が全弾着弾し、身体が氷に包まれた。

「……緋翠! 私達の勝ちだ!」

 赫式双剣術――『紅蘭・日暈』

 日輪の炎が描く斬撃の軌跡が緋翠に向かって乱れ咲く。

 私が持つ中で最大火力の攻撃、手応え的にも確実に攻撃は入っていた。

 これでダメなら負けが決まる。

 恐る恐る振り向くと緋翠はその場で倒れていた。

 胡桃に言われたから少し威力は落としたにせよ、本来であれば獲物の周辺ごと削ぎ取る技なのに緋翠の身体は原型を留めていた。

 それでも身体には大きな切り傷が刻まれており、息が少し浅くなっていた。

 致命傷にはなったけどこのくらいなら胡桃の能力で治癒できるね。

 正直やり過ぎたかなって思ってたから、緋翠の姿を見てほっと胸を撫で下ろした。

 休憩したいところだけど、二人がまだ戦ってる。

 加勢しに行かないと。

 緋翠のことは胡桃に任せて私は『気配探知』で二人のもとへと向かった。

 気配が近づくにつれて戦闘音も大きくなる。

 物陰から戦闘の様子を窺うとそこには陽葵が雷華と刃を交えていた。

 見るからに武闘派の雷華は動きやすさを重視したような軽装に褐色肌なのも相待ってまるで踊り子が舞うかの如く剣を振るっている。

 剣の軌跡に沿うように流れる長い髪は日の光を受けて波打ち、黒髪の奥で光る黄色の瞳は稲妻のように鋭く瞬いていた。

 パッと見た感じ陽葵がやや優勢気味といった感じかな。

 澪の姿を探すと対面の廃墟の柱の物陰から様子を伺う茶髪の猫耳少女がいた。

 弓を下げているのを見ると中々二人の戦闘に介入できないみたい。

 第二部隊の残りのメンバーは近距離戦闘型の雷華と遠距離支援型の澪のみ。

 陽葵は澪の攻撃を警戒しつつ雷華に対して一撃離脱を繰り返し、瑠奈が間合いの外側から波状攻撃を浴びせ体力の消耗を図っていた。

 ただ相手も経験豊富なアジャスタ、互いに一進一退を繰り返していてなかなか決定打には至らない。

「瑠奈!」

 私の声に反応し、瑠奈が上空に向けて閃光弾を放った。

 敵の目が眩んでいるうちに私は二人のもとへと駆け寄り陣形を再編成することにした。

「よく無事だったわね」

「もうほんと死ぬかと思ったよ。瑠奈、援護ありがとね。助かったよ」

「貸しひとつね」

 さてと、これで形成逆転。

「天鬼が来たってことは、緋翠の奴しくじったにゃ」

「いつもの悪い癖が出たか。あいつとサシで勝つなんてあんたもなかなかやるね、天鬼」

「おかげさまで満身創痍だよ。もう休みたいから降参してくれないかな?」

「それは聞けないお願いにゃ」

 部隊のリーダーが脱落したっていうのに二人からはどこか余裕さを感じる。

 というか雷華の言う緋翠の悪い癖って、なんか嫌な予感がするけど……。

「おそらくあの二人まだ全力を出してないわね。手を抜いてる訳ではなさそうだけど、何というかこっちの力量を測ってる感じ」

「そっちもか、緋翠もそんな感じだった。こっちの実力を探りつつ攻めてくる感じだった」

「まぁ何を企んでいようがこれで三対二、戦局はこっちに傾いてる。このまま押し切るよ」

 そこからは完全にこちらが優勢。

 私と陽葵で雷華を相手取り、瑠奈が澪を牽制する。

 数の利を活かした連携を組み、徐々に二人に傷を負わせていき体力を奪っていく。

 でも何だろう、この違和感。

 二人にとって今の状況は絶望的なはずなのに目が全く死んでない。

 何かを待っているかのような。

 まさか……。

 そう思った刹那、上空を見上げるとそこには一つの人影があった。

「お前ら、楽しんでるな」

 楽観的な雰囲気を宿した青年の声がその場に響いた。

「やっと来たにゃ」

「まったく、もう少し早く来てくれてもよかったんじゃないか?」

 なんで、さっき確実に倒したはずなのに。

 息はあったにせよ普通あの傷じゃもう戦線復帰するのは不可能でしょ。

 一体どんなトリックを使ったの。

「天鬼、一体どういうことよ! 緋翠を倒したからこっちに来たんじゃなかったの!」

「倒したよ!傷の確認もした! 即死ではなかったけどあの傷は間違いなく致命傷レベルのものだったよ!」

「二人とも言い合いは後で! 来るよ!」

 どうやら状況を整理する時間は与えてくれないみたいだね。

 緋翠が鎌を構えたのを見て私達の警戒心が最大限に高まった。

 すると緋翠の身体が猛々しく燃える炎に包まれ始めた。

 これに対して瑠奈が緋翠に向かって『月喰』の弾丸を放った。

「時間がなかったから不完全だけどそれでも部位破壊くらいはできる! 腕の一本くらいは置いて行ってもらうよ」

 どうやら瑠奈は緋翠の右腕を撃ち抜くつもりらしい。

 鎌が握られている右腕を破壊すれば緋翠の戦闘力を下げることができると踏んでの狙撃、しかしその狙撃よりも緋翠の一手がほんの数瞬早かった。

「『――迦具土神』」

 ……えっ。

 瞬間、身体に激痛が走る。

 何が起きたのか全く理解できなかった。

 瞬きをするよりも早く緋翠が私との間合いを詰めていた。

 緋翠のいた場所を見るとまだ残像がはっきりと残っている。

 陽葵と瑠奈が何か叫んでる気がするけど、上手く聞き取れない。

 徐々に視界がぼやけ始め、身体の力が抜けていく感覚。

 全身の血の巡りが弱くなって、冷気に包まれたように身体が冷えていく。

 これ、死……。

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