第六話ー作戦会議ー
ラディクシアに帰ると私達はすぐに瑠奈を生体治療院へと連れて行った。
陽葵の治療のおかげか目立った傷は無く命に別状はないとのこと。
大事をとって瑠奈はこの後の会議は欠席して休養することになった。
ほんとに無事でよかった。
安堵していると私達のもとに師匠から調査会議室にて全部隊の報告を受けるとの連絡が入ったので私と陽葵はすぐに会議室へ向かった。
会議室に着くと私達の他に二部隊が既にその場にいた。
あとはあの部隊だけか。
「お、もう全員揃ってるのか」
ヒーローは遅れて来ると言わんばかりの登場をしたこの白と黒を織り交ぜた短髪の男は白夜、第一部隊のリーダー。
遅れていることなんて気にも留めてないように眠そうな目を擦りながら大きく口を開け欠伸をしながら入ってきた。
「私達が遅刻してんのよ」
そんなだらしのないリーダーを後ろに控えていた女性が律するように白夜の頭を軽く小突いた。
滑らかな腰ほどの黒髪、立ち振る舞いからも品位を感じ取れる。
ほんとなんでこの人じゃなくて白夜がこの部隊のリーダーしてるんだろ。
「痛ってぇな。なにすんだよ静月」
「白夜が会議に行くのぐだったからこんなことになってんでしょう。遅れてすみません、第一部隊現着しました」
白夜が雑な性格をしてるのは知ってるけど、これは静月さんも大変そうだな。
「静月さん、お互い自由人には苦労しますね」
陽葵さん?
まさかとは思うけどその自由人って私のことを言ってるんじゃないよね?
いくら私でもあそこまでひどくはないよ!?
私は単なるめんどくさがり屋さんなだけであって雑ではないからね?
陽葵の言う自由人が私じゃなくて瑠奈のことを言ってるってことにしておこう。
そうしてると師匠が部屋に入ってきた。
「それではナーテル中央区域の調査報告および会議を始める」
各々の部隊が調査から得られた結果を報告し終え私達の順が回ってきた。
もちろん今回の報告もほとんどは陽葵に任せてある。
「では第四部隊の報告に入らせていただきます。まず中央区域に関してですが、周辺区域以上に高濃度の魔素が充満していました。その中で私達が遭遇した異形の種類は鬼妖、疾狼、豚人、角兎、犬獣の五種類。小型の異形以外はいずれも変異種であり集団行動をとっていました。異形との遭遇率の高さに加えて外郭区域では発見されなかった虫型の異形の発生も確認できました。ここまでは他部隊の調査結果とほとんど差異はないです。ここからが他部隊とは異なる調査報告です。結論から申し上げると、私達は調査の最中にアジャスタと遭遇しました」
「馬鹿なっ! 俺達以外のアジャスタがいたって!?」
第二部隊のリーダー、緋翠が思わず声を上げた。
その気持ちも理解できる。
私達も銅像を見つけた時点で可能性として考えられる程度にしか思っていなかった。
「順を追って説明します。私達は調査の最中に謎の人工物、何らかの宗教を匂わせる銅像を発見しました。調べたところ状態もそれほど劣化していなかったことから少なくとも中央区域が今のような状態になった後に造られたものだと推測しました」
陽葵の報告に周囲がどよめいた。
「さらに神樹の方へ調査の手を伸ばすと銅像の数も増えていき、最終的に石造りで構成され彫刻が施された建造物を発見しました。内部構造は教会に似たもので正面の壁面には大きな壁画が描かれており、そこに隠し扉の痕跡らしきものを発見したため調べようとしたところ襲撃を受けました。襲撃人数は二人、一人は黒のローブにフードを深く被った謎の人物、声の感じからおそらく男性であると推測しました。そしてもう一人がそのアジャスタ、若干紫がかった黒髪の男性で身長は百八十センチほど、その額には漆黒に染まった一本の角を有していました」
「このアルスとか呼ばれていたアジャスタがとんでもなく強かった。戦闘の中で陽葵が立てた仮説だとアルスの固有スキルは自身が認識した攻撃の無効化、どれだけ強力な攻撃をぶつけてもアルスに認識された時点で無意味になる。しかも、このスキルを掻い潜って攻撃を与えてみたけど、そもそもの身体が硬過ぎて私の斬撃でも薄皮一枚斬るくらいしかできなかった」
自慢じゃないけど私の戦闘力は全部隊の中でも上位に位置している。
そんな私でも全く歯が立たなかったとなると今のEVEの中でアルスに勝てる人はいないんじゃないかな。
「戦闘への順応も異様に早く、瑠奈の着弾箇所から身体を崩壊させる『月喰』を腕に受けた際も腕を切り落とすことで崩壊の伝播を断つというような行動をとっていました。その後瑠奈が大きな傷を負ったため私達は即座に撤退しました」
「瑠奈の容体は」
「命に別状はないとのことでしたが大事をとって現在治療院で休んでいます」
「報告にあった銅像と建物の規模からすると今回襲撃してきたその二人の他にも関与している者達がいると考えるのが自然だろうな」
「そうね、アジャスタもアルスだけとは考えずに対策しておいた方が良いと思われます」
緋翠の意見に陽葵も賛同する。
皆がそれぞれ議論を重ねる中、私はふとあのフード男が発した言葉が気になった。
「ひとつ気になったことがあるんだけど、あのフード男私達のことを神に選ばれし者って言ってたんだよね」
この発言を聞いて師匠が口を開いた。
「まさか、アルセリア教団の残党か」
「アルセリア教団?」
師匠曰く、神樹がまだ人類に崇められていた頃、神樹を信仰の対象として特に強く崇めていた宗教団体があった。
それが宗教団体アルセリア。
かつては多くの教徒がアルセリアにはいたが、ナーテルが荒廃都市になった頃に神樹を調査することが神への冒涜だとして教団員全員が武装しラディクシアを襲撃した結果、返り討ちにあったらしい。
「あの時アルセリアは根絶したものと思っていたが、未だに神樹のことを信仰するのは奴らくらいだろう」
「仮に敵がアルセリアだとして団員数はどれくらいいると考えられますか?」
「少なく見積っても百はいるだろうな」
ひゃく!?
そんなに多いの!?
そんな大人数を今いる四部隊で相手しないといけないって、絶望的にも程があるでしょ。
それにその中でアジャスタが何人いるかわからないし、複数人いたとして全員がアルスみたいな強さだとしたら勝ち目なんて全くないじゃん。
陽葵も聞かなきゃ良かったって顔してるし。
「アルセリアならまた何か良からぬ事を企んでるやもしれんな。よし、次回の調査は全部隊で該当建物およびその周辺を調査する。それに向けて明日より暫しの間は中央区域の調査は諜報部隊による偵察に留め、代わりに調査部隊は戦力増強のために全体訓練を執り行うこととする。では今日の会議はここまで、各自休息をとり明日からの訓練に備えること」
こうして中央区域の調査報告及び会議は終わりを告げた。
「アルセリアかぁ、陽葵聞いたことある?」
「いいえ、私も初めて聞いたわ」
神樹を信仰する宗教団体か、普通ならただの信仰目的であんな危険地帯に拠点を構えないとは思うんだけど。
それにあの壁画のところにあった跡、何か裏があることは間違いないだろうね。
とりあえず今は自分の身を護るためにももっと強くならないと。
「とりあえず瑠奈のところに様子見に行きましょうか」
「そうだね」
病室に入ると瑠奈はベッドでぐっすり眠っていた。
「相当疲れていたんだろうな。検査が終わった瞬間に沈み込むように眠ってしまったわ」
この伽羅色の髪をした狐耳の幼女はうちで唯一治療系の固有スキルを有した狐妖のアジャスタ、胡桃。
どんな重傷でも生きてさえいれば大抵の傷は癒せるなんてとんでもスキルを持っている。
「私のスキルのせいだよね。いくら周囲のエネルギーを使ったとはいえ基本的に傷の治療は本人の治癒力に依存してるから」
「仲間がやられて慌てるのもわかるが致命傷でないのならその治療はしないように。生命エネルギーを無理やり促進するということは下手して暴走すればその者の命を奪うことになる。生きてさえいれば妾が全部治せる故治療は必要最低限に抑えること、良いな?」
「はい……」
なんか陽葵が怒られてるの見るの新鮮だな。
耳も垂らしてかなり凹んでるみたい。
仕方ない、後でこの天鬼お姉さんが慰めてあげますか。




