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神之樹  作者: Uyu
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第五話ー中央区域ー

 ナーテル中央区域調査当日、私達は中央区域北ブロックの調査をすることになった。

 といっても基本的に調査内で私達がすることは今までの調査とさほど変わらない。

 ただ一つ、明らかに変わったのは……。

「もう今日これで変異種に遭遇するの何回目ー!」

「これで三回目。流石に気が滅入るわね」

「この異様なほど高い魔素濃度のせいかな」

 何が厄介って、ここにいる変異種は軒並み数体でまとまって行動している。

 外郭区域にいた変異種は大抵普通種を従えて行動する。

 というのも変異種同士で行動を共にすると力の上下関係が原因で同士討ちが始まってしまうらしい。

 それなのに中央区域に来てからというものやたら数匹で固まって動く変異種に出くわす。

 しかも、外郭区域では見たことのない虫型の異形まで湧いて出てきた。

 でも正直この虫型の異形は取るに足らない相手、何も問題はない。

 厄介なのは変異種の存在だけ。

 周辺の環境をちゃんと理解した上でこっちの出方を窺いつつ攻撃を仕掛けてくるとなると毎回の戦闘で消耗する体力がこれまでの比じゃなくなる。

 気を抜かなければなんとか対処はできるけど、このままのペースだといずれ体力切れになる。

「二人とも少しの間任せるよ」

 「「了解」」

 私が指示を出すと二人は異形から私の気が逸れるように立ち回った。

 どうやら私が何をしようとしているのかを瞬時に読み取ったらしい。

 流石、長い付き合いなだけあるね。

 二人の行動に安心感を覚えつつ私は魔素を高密度で練って双剣を構える。

 現段階の私が使える中で一番の大技。

 この技を使うにはどうしても溜めが必要になるから実戦で使うには周りのサポートが必須になるんだよね。

「二人とも!その場から退避!」

 この声と同時に二人は豚人達から大きく距離を取る。

 赫式双剣術――『紅蘭・日暈』

 私は一気に豚人達へ切り掛かり、その巨大な上半身を根こそぎ刈り取った。

 討伐したことを確認した私達はすぐにその場を離れることにした。

 さっきの戦闘音を聞きつけて新しい異形が襲ってくるかもしれないしね。

 とりあえず私達は交代で気配探知を発動して索敵しつつ休める場所を探すことにした。

 しかし、辺りを見回しても廃墟らしきものはほとんど見つからない。

 外郭区域だったらそこら中に廃墟があったから休憩場所には困らなかったんだけどな。

 そうしてしばらく歩いた私達が目にしたのは……。

「なにこれ……」

 いつも冷静な陽葵が面食らった顔をしている。

 まぁ無理ないか、だってこんな森の奥深くに豚人同等の大きさの銅像があるんだもん。

 しかもそれほど劣化してないのを見ると作られてからそこまで時間が経ってないのがわかる。

「誰かがこれを作ったってこと?」

「一体誰が何のために……」

「わからない、けどただの人じゃないってことは確かね」

 ナーテルは異形が蔓延る危険地帯だってことは周知されてる。

 そんな場所にこんなものを作れる人間なんているはずがない。

 作れるとしたら異形に遭遇しても何の問題もなく撃退できる力を持った何か。

「私達以外のアジャスタの仕業とか」

 瑠奈の発言に私達は息を呑んだ。

 これまでEVE以外でアジャスタの存在は確認されていない。

 調査中はもちろん街でもそういった報告はこれまでされたことがなかった。

 私達アジャスタのほとんどは異形の特徴を宿した外見をしているから、もしアジャスタが人の街に現れたとなれば間違いなく騒ぎになる。

 ただの人からしたら私達アジャスタは異形とほとんど変わらないもんね。

 そういった騒ぎを防ぐために私達はラディクシア内で暮らしてるわけだし。

 だからアジャスタが私達以外に存在するなんてことは考えもしなかった。

「他にもこれと似たものがあるかもしれないし、もう少し奥まで行ってみましょう」

 薄気味悪さを感じつつ私達は調査を続行することにした。

 陽葵の予想は的中し、森の奥に行くにつれて銅像の数は徐々に増えていった。

 そのどれもが何か宗教的な意味を持っていそうな姿をしていた。

「ここまで来るといよいよ気味が悪いわね」

「ねぇ、二人ともあれ見て」

 瑠奈が指差した先にあったのは左右対称にデザインが施された石造りの建物だった。

 ここまでの異常事態、普通ならすぐにでもラディクシアに戻って報告するべきなんだけど。

 このままじゃ対策しようにも何も情報がなさ過ぎるので私達は軽く内部を調べることにした。

 中に入るとそこにはまるで教会を模したような空間が広がっていた。

 高い天井に石造りの柱が連続して並びステンドグラスから差し込む光が幻想的な空間を演出していた。

 祭壇の壁面には神樹らしきものが大きく描かれた壁画があった。

 その中でも私達の目を引いたのは神樹の下に描かれていた人影だった。

 この教会の信仰対象だろうか、人と異形が入り乱れる中で一際神々しく描かれていた。

 ただ不気味なのはその顔が描かれていなかったこと。

 一体これが何を意味しているのか全く見当もつかない。

 そんな中瑠奈があるものに気がついた。

 壁画のすぐ下の床にあった円弧状の何かを引き摺ったかのような跡。

 まるで扉を開け閉めする時にできたような……。

 もしかしてと思い壁の端を押し込もうとすると『危機感知』が発動する。

 私達に向かって飛んできた飛翔物を刀で瞬時に弾き飛ばす。

「おかしいですね、本日は来客があるという報告は受けていないのですが」

 声のする方に視線をやるとそこには二人の人影があった。

 一人は黒のローブにフードを深く被った、声の感じからおそらく男だろう。

 ただ私達の目を引いたのはその隣にいた男。

 歳は二十代後半だろうか、百八十センチほどの身長に若干紫がかった黒の髪、瞳には紫の光を宿していた。

 そして何より驚きだったのはその額には漆黒に染まった一本の角を有していたことだ。

 まさか、ほんとに私達以外にアジャスタがいるとはね。

「おや? どうやらあなた方も神に選ばれし者のようですね。まさかこんなところでお目にかかれるとは……。」

 神に選ばれた? 言ってる意味がわからない。

 とてつもなく気味が悪いけど今はそれどころじゃない。

 隣のアジャスタ、本能がコイツはやばいって警鐘をガンガン鳴らしてる。

 即刻本部に連絡したいけど、ここまで高い魔素濃度じゃ通信機もまともに機能しないだろうし。

「あなた達は一体何者? こんなところで何をしてるの? この建物はあなた達が作ったの?」

「おやおや、随分な質問攻めですね。そんなに焦らなくても教えて差し上げますよ。大人しく私達に付いてくるのであればね」

 いやいや、こんな怪しい連中にひょこひょこ付いて行くわけないでしょ。

「生憎、知らない人には付いて行っちゃだめって教えられてるもんで」

「力ずくでも情報を吐いてもらうよ」

 私と瑠奈に続いて陽葵も戦闘態勢を取る。

 フードの男は無視でまずは隣のアジャスタを無力化しないと勝機は無い。

 そう思い二人に目配せすると、そんなことわかってると言わんばかりに静かに頷いた。

「やれやれ、あの方からの言いつけなのでできれば手荒な真似はしたくなかったのですが、仕方ないですね。アルス」

「了」

 すると今まで動かなかったアルスと呼ばれた男が刀を構え私達に襲い掛かった。

 一瞬で私との間合いを詰められ首に刃が迫った。

 それを何とか『危機感知』でかわし距離を取る。

 今の一振でこいつと私達とで力の差が圧倒的に開いていることがわかった。

 このままじゃ確実に死ぬ未来しか見えない。

 命の危機を感じた私は日輪の出力を上げた。

 ギアを上げたことで攻撃力と機動力が底上げされたが全ての攻撃が刀でいなされて全く届かない。

 そこで瑠奈が援護射撃でアルスの動きを牽制し、そこに陽葵がスキルで拘束を試みる。

 拘束は一瞬で破られたが私は構わずに切り掛かった。

 赫式単刀術――『緋扇』

 私はアルスの首元目掛けて刀を振るうもその刃は届かず刀で受け止められた。

 それなら……!

 赫式単刀術――『陽炎』

 アルスの攻撃の中にある隙を見つけ出す。

 そしてアルスの攻撃を弾きほんの少しだけ生じた隙を見逃さずに私は装備を双剣に切り替える。

 赫式双剣術――『桜花乱舞・灼』

 アルスの防御をかいくぐりその身に刃を当てるも皮一枚斬ることもできずに弾かれてしまう。

「ちょっ、いくらなんでも硬過ぎるでしょ!」

 確かにアジャスタは普通の人間よりも身体は強化されてるけど、これは次元が違い過ぎる。

 まるで巨大な岩に刃を当てているような感覚。

 その時背後から陽葵が放った光の槍を受けてアルスは一瞬たじろぐ。

 チャンスだと思い私達は攻撃の限りを尽くした。

 私の斬撃の合間に陽葵と瑠奈がそれぞれ光の槍と狙撃を撃ち込む。

 教会内に轟音が絶え間なく鳴り響き、辺りの空気は震えだした。

 違和感。

 ここまでやっても手応えが全然ない。

 絶望感に駆られてると陽葵から念話が入る。

『二人とも聞いて、アルスのスキルだけどおそらく攻撃の無効化だと思う』

『なにそれ、そんなの勝ち目無いじゃん』

『いや、見た感じ全部の攻撃を無効化できるってわけではなさそう。アルス自身が認識した攻撃を無効化するスキルってところかしら』

 なるほど、確かにさっきの陽葵の死角からの一撃は効いていた気がする。

 これが本当なら、勝ち筋が見えてきた。

『私は天鬼と一緒に囮としてアルスの気を引くから瑠奈はタイミングを見て死角から狙撃して』

『私のスタミナももうほとんどないから次の一撃で仕留めてくれると助かる』

『了解。次の一発に全てを注ぐ』

 作戦を聞いて瑠奈は次弾生成に取り掛かった。

 この攻撃が今の私達が出せる最大火力、これが通用しなかった時は撤退するしか選択肢はない。

 陽葵も前衛に上がり二人がかりで攻めの手を増す。

 陽葵の推測は正しかったのか今まで私の攻撃は全く効かなかったのに陽葵の攻撃の裏で死角から切り込むと確かにアルスの身に刃が通った感覚がした。

 それでも薄皮一枚切れたくらいで大したダメージにはなってない。

 陽葵の方もそれといった傷を与えることはできてないみたい。

 常に全力で攻撃を仕掛けてるからどんどんスタミナが削れていく。

 そんな中瑠奈から念話で準備ができたとの報告が入った。

 あとはできるだけアルスの気を引いて瑠奈が狙撃できるだけの隙を作るのみ。

 とある作戦を思いついた私は念話で陽葵に共有する。

 私はさらにギアを上げて攻撃の手を強めていった。

 その結果徐々に前のめりになり、勢いづいたところを見切られ双剣を弾き飛ばされてしまった。

 次の瞬間、ガラ空きになった私の心臓にアルスの刃が迫ったが貫かれる直前で静止した。

 私の胸には陽葵の光の盾が多重に生成されており、刃をギリギリのところで受け止めた。

 私の命を囮にしたこの行動で今度はアルスの背後がガラ空きになった。

 あとは瑠奈に全てを託そう。

「スキル『月詠』最大出力! 『月喰』!」

 瑠奈の全身全霊を乗せた一撃。

 眩い光を纏ったその弾道は周囲の空間を削ぎ取りながらアルス目掛けて一閃の軌跡を描いた。

 完璧に決まったと思ったのも束の間、アルスは生存本能から命の危機を感じ取ったのか上半身を捻った。

 それでも残された腕に弾丸は着弾した。

 瑠奈の『月喰』は着弾箇所から崩壊を伝播させ最終的に跡形もなく消滅させる、当たった時点で私達の勝ちになる。

 だが、実際はアルスの方が一枚上手だった。

 アルスは崩壊が始まった腕を自ら切り落とし崩壊の伝播を絶った。

 そして次の瞬間には瑠奈の背後にまわっていた。

「瑠奈!!」

 そう叫んだ時にはアルスの振り下ろした刀が瑠奈の左腕を飛ばしていた。

 振りかぶり方から首を狙っていたと思っていたが、アルスの腕を見ると光の鎖が巻き付いていた。

 どうやら陽葵のおかげで軌道がずれたらしい。

「二人共、撤退するよ!」

 陽葵の声で私達は即座にその場から退いた。

 さっきの一撃を防がれた時点で私達の負けは確実、自分達の命を守るため撤退を決意した。

 幸いアルスもフードの男も追って来る気配もなく何とか逃げ切ることができた。

 そうして私達は中央区域を抜けて比較的安全だと思われる外郭区域の廃墟にたどり着いた。

「瑠奈! 傷口見せて!」

 陽葵が慌てて止血を始める。

「動かないで。『生命の雫』」

 陽葵が技を発動すると瑠奈の失った左腕が生成されていった。

「いつ見てもすごいスキルだね」

 この技は簡単にいうと周辺のエネルギーを人体の生命エネルギーに変換して再生を促進させてるらしい。

 ただ生命エネルギーを無理に促進させる分、副作用も大きいらしく瑠奈はぐったりして随分とだるそうな様子だった。

「これで大丈夫だとは思うけど、すぐに本部に戻って治療院に連れて行きましょう」

「ありがとう、陽葵」

 よかった、とりあえずこれで一安心かな。

「それにしても一体何なの、あのアルスとか呼ばれてたアジャスタは」

「とても私達と同じだとは思えないわね」

 あの戦闘力に加えて攻撃無効のスキル持ちとなるとEVEの総戦力を以ってしても勝てるかどうかわからない。

 私達が全力で戦ってるのにアルスは息ひとつ切らせている様子もなかったし。

 あの何をしても通用しないと感じさせる強さ、まるで師匠と戦ってるみたいだった。

「他の部隊は大丈夫かな」

「無事であることを祈るしかないわね」

 そんなにアジャスタが何人もいるとは考えられないけど……。

 とりあえず今日の調査はここで打ち切って本部に報告しないとね。

 こうして私達はその場を後にしラディクシアへ帰還することにした。


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