第四話ー幕開けー
夜を過ごし静まり返った街が朝日の訪れと共に動き出し、カーテンから差し込む日差しが一日の始まりを告げる。
「ふぁぁー、もう朝かー」
陽葵と瑠奈は朝から別の用事があって先に部屋を出ていったみたい。
今日の予定は午前中に明日からの調査内容の確認をして午後は三日前に行ったデータ更新結果の確認だけ。
そこからは特に予定ないから買い物にでも行こうかな。
午後の予定に想いを馳せながら着替えを終えラディクシア内の調査会議室に向かう。
会議室に向かう途中見知った後ろ姿があった。
「瑠奈おはよー」
「おはよう天鬼」
まだ少し眠たげにした瑠奈と挨拶を交わす。
「瑠奈今日の午後予定ある? 久しぶりの休暇だし、買い物にでも行かない?」
「特にすることないし、陽葵にも声掛けて三人で行くか」
「よし決まり! ただ私装備取りにSEED行かなくちゃだから途中から合流するね」
「わかった」
明日から始まる調査はまた連日になるだろうし、今日くらいは思いっきり羽を伸ばさないとね。
そうして調査会議室に入ると陽葵を含めたEVEの面々が揃っていた。
EVE内の全部隊が集められてるのを見ると今回の会議はこれまでとは違うみたい。
「揃ったな。では次回の神樹調査対策会議を始める。」
師匠の一言で次回の調査内容の説明が始まる。
次の調査からはいよいよ中央区域の調査が始まる。
中央区域は最も神樹に近い区域で私達がこれまで踏み入ってこなかった領域、正直何が起こるかわからない。
異形の存在ももちろんだけど、何よりEVEが最も警戒しているのは中央区域のもつ異質さだった。
現在の中央区域はかつてが都市だったことを忘れてしまうほどの深い森に覆われている。
しかもナーテルが国家としての機能を失って半年後には既に今の状態になっていたらしい。
明らかに何らかの力が働いているけど、それが神樹によるものなのかはわからない。
ただ一つわかっているのはこれまでの調査とは全くの別物になるということ。
そのため中央区域の調査はこれまでの形式とは異なった形で行うことになった。
これまでの外郭区域の調査は基本的には三日程度滞在して行うものだった。
これに対して次回からの調査は短期間の調査を細々繰り返すことになった。
謎が多い区域故に長期滞在をするのは危険と判断して一日のみの調査を繰り返して調査の都度全体会議を通して情報を共有するという方針らしい。
「その異質さから調査を後回しにしていた区域だ。皆わかっているとは思うが、これまで以上に気を引き締めて調査にあたるように」
この師匠の言葉で今日の会議は終了した。
「さてと、会議も終わったし休暇を楽しみますか!」
「天鬼はSEEDに行くんでしょ? 私も一緒に行くよ。次の調査に向けてカインに相談したいことがあるから」
陽葵はカインに装備の相談を頻繁にしている。
おそらくこの三人の中で一番複雑な作りだから調整も難しいんだろうな。
「瑠奈はどうする? 一緒に来る?」
「そういうことなら一緒に行くよ」
「瑠奈はもうメンテとかは終わってるの?」
「前回調査行った日にテトのところに持っていって次の日には仕上がってたよ。私は定期的にメンテナンスお願いしてるから一回にそんなに時間かからないんだよ」
「瑠奈ってそういうところ案外ちゃんとしてるよね」
「天鬼とは大違いね」
おっと、これは喧嘩売られてるのかな!?
でもまぁ、実際瑠奈からは私と同じ匂いを感じてたんだけど、普段自由気ままなだけでやるべきことはしっかりやるタイプなんだよな。
これじゃ私だけズボラみたいな感じになるじゃん。
いや、ズボラなんじゃなくて少しめんどくさがり屋さんなだけ、決してズボラではない。
「瑠奈の装備って銃器全般でしょ? 私達の中でも一番メンテナンス大変そうなのに、流石瑠奈の専属技師ね」
「そういう陽葵は何を相談するの?」
「大雑把に言えばエネルギーの具現化かな。私のスキル『天照』はエネルギー操作だから、エネルギーを武器としても扱えるようにしてもらってるのよ。最近少し出力が落ちてきてる気がするから、そこだけ直してもらおうかなって」
うーん、なんか難しそう。
私には理解できる気がしないからこれ以上聞くのはやめよう。
このスキルを使いこなす陽葵もすごいけどこんな難しそうな要望に応えてるなんて、やっぱりカインはすごいな。
「おっ天鬼、装備仕上がってるぞ、ってなんだその目は」
もし陽葵の専属技師がフィンだったらこうはいかなかっただろうね。
「いや別に? カインの凄さを再認識しただけだよ」
「よくわからんが、今日は二人も一緒か。カインとテトならラボにいるぞ」
「ありがとうフィン君、行ってみるわ。それと天鬼への装備の受け渡しはどれくらいで終わる?」
「装備の説明と軽く動作確認があるくらいだからそこまで時間はかからないと思うけど。終わり次第天鬼をラボに向かわせればいいか?」
「ありがとう、助かるわ」
フィンはほんと人との付き合い方が上手いな。
洞察力が高いからなのか相手の考えていることを汲み取るのに非常に長けている。
だからこそ私の専属に任命されたんだろうけど。
「それで天鬼の装備だけど、少しばかり仕様を変えてみた」
フィン曰くこれまでの装備は刀身に日輪の炎を吸収させることで斬撃に属性を付与するものだった。
しかし、前回の擬似演習でこの日輪が成長していることが判明した。
端的に言うと発生熱量が増えたことによって刀身に付与するだけでは熱が余るらしい。
そこで余剰分の熱エネルギーを蓄えて機動力に変換できる装備の開発をしてくれた。
要するに日輪で体温が上がると身体の動きが良くなるあれを装備でさらに底上げするってことか。
他にも熱を利用した装備を考えてるみたいだけど、今回はこの改良だけとのこと。
とりあえず渡された装備を着用し、仮想訓練場へと向かう。
「それじゃあ動作確認するか。日輪を発動してみてくれ」
そう言われて私は日輪を展開した。
うーん、正直なところあまり変わらない気がする。
デザインも今の装備と全く同じだし。
「あんまり変化が感じられないんですけど……」
「動いてみればわかるよ。あ、言っておくけど加減はしろよ? 単純計算で機動力が最大五倍にまで跳ね上がるように設計してあるからな」
あっぶなー。
とりあえず思いっきり全解放して走ろうとしてた。
「装備の制御はどうやるの? それっぽい装置ないけど」
「蓄えられた熱の量で勝手に機動力が上がるようにしてある。要するに戦いが長引くほど機動力が上がるから、その振れ幅は身体で覚えてくれ」
「なんでそこは感覚なの!?」
「だって制御装置入れたとしてもまともに操作覚えようとしないだろ? 宝の持ち腐れにならないようにしたんだよ」
「まぁ、そう言われれば確かに」
難しい操作方法覚えるよりも身体で制御覚える方が私の性に合ってる。
戦闘中にそんな面倒な操作なんてやってたら一気に間合いを詰められてやられちゃうし。
ほんとに私のことをよくわかっていらっしゃる。
「それじゃあ前回同様犬獣を五体ほど出すから軽く動いてみてくれ」
了解。
いつも通り刀を構えて犬獣へ向けて踏み込む。
犬獣の首を斬るつもりで刀を振るったが、その斬撃は空を切った。
振り返ると犬獣は間合いから大きく外れた場所にいた。
なるほど、確かに機動力が跳ね上がってる。
いつも通りの動きじゃ刀を振りかぶった時には標的は後方に置き去りになるってことか。
今の熱量でさっきの機動力ってことはこれくらいなら丁度いいかな。
踏み込みの量を調整すると今度はしっかりと機動力に刀が付いてくるようになった。
この感覚を忘れないうちに残りを片付けちゃいますか――。
「お疲れ。なんとなく要領は掴めたか?」
「なんとなくね。でもこれ実戦で慣れるのには相当時間かかるよ」
「そうだな、もう少し調整加えてみるか。それか鏑木長官に修行のレベルを上げるよう頼んどこうか? 最大機動力でも問題なく戦えるように」
「勘弁してください」
今より修行が厳しくなったら間違いなく天に羽ばたくことになる。
でもこれなら多少は師匠と張り合えるかも。
これは装備の完成が楽しみだな~。
「天鬼、ラボ行くついでにこれをカインに渡しておいてくれるか」
「了解」
ラボに行くと陽葵とカインが何やら難しい話を繰り広げているのを見つけた。
「相変わらずあの二人から聞こえてくる話は難易度が高いね」
声のした方向へと視線を下げると薄いエメラルドグリーンの瞳をした少女と目が合った。
「瑠奈の銃器を作ってるテトでもそう感じるんならあの話を私が理解するのは一生かかっても無理みたいだね。陽葵の能力が私に宿らなくて良かった。あんな難しそうなスキル絶対に使いこなせないもん」
「真面目な陽葵だからこそあのスキルが宿ったのかもね。あ、瑠奈なら射撃場に行ってるよ。少し前に出て行ったからそろそろ戻ってくると思うけど、ちょうど終わったみたいだね」
テトの視線の先を見ると下階に狙撃銃を背負った瑠奈の姿があった。
ラディクシアの中だから別にいいんだけど、ああいう銃器って普通ライフルケースとかに収納して持ち運ぶんじゃ。
「テトー、試し撃ち終わったよ」
「お疲れ、どうだった?」
「威力が上がったのはいいんだけどやっぱり重過ぎて扱いにくいよ」
そう言いながら二人は話し合いを始めた。
この二人を見るとなんだか双子の姉妹みたいで微笑ましいんだよな。
テトはアジャスタってわけじゃないけど、髪型と髪色も相まってそう思っちゃうんだよね。
「それ新型?」
瑠奈に持たせてもらったけどこれがまた結構重い。
瑠奈が取り扱いに困る理由もよくわかる。
瑠奈はその身軽さを活かして高所や影からの狙撃で援護するのを基本の型としている。
だから装備の重量と扱いやすさは何よりも重要になってくるとのことらしい。
「やっぱりそうだよね、もう少し改良してみる」
そう言ってテトは自分の工房に戻って行った。
「瑠奈は銃器全般扱えるんだよね? その割に狙撃銃しか使ってるところ見たことないけど」
「二人の戦闘スタイル考えたら狙撃銃使う方がバランス良いってだけだよ。単独任務の時は近距離武器使ってるし」
なるほど、確かに。
瑠奈はその特性を活かして夜間の調査もたまにやってるけど、単独任務で狙撃銃は不向きだもんね。
私は近接戦闘型で陽葵は中距離支援型、そう考えると私達との調査の時は瑠奈が狙撃銃を使うのは納得できる。
そうこうしていると陽葵とカインの話し合いが終わったみたい。
「ごめん、お待たせ」
「全然大丈夫、もういいの?」
「うん、相談したかったことは大体話せたから。それで、この後は買い物行くんだっけ?」
「そそ、せっかくの休暇だしどこか出掛けたいなって」
「それなら二人を待たせちゃったお詫びに買い物した後何かご馳走するよ」
よっしゃ! それはお言葉に甘えさせてもらおう。
瑠奈も目を輝かせてるし、相当楽しみみたい。
ラディクシアには美味しいお店が多いし、どこに行くか迷うな。
これは買い物中は会議だね。
っと、フィンから頼まれてた物渡しておかないと。
「カイン、これフィンからカインにって」
「フィン君から? なんでしょう……」
カインは私達の専属技師の中でも群を抜いて高い技術力を持ち、かつ頭の回転が超早い。
陽葵のスキルの特性を瞬時に理解して装備に落とし込んだのは天才としか言いようがないくらい。
そんなカインがフィンからの贈り物を見てその琥珀色の瞳を輝かせ、子供みたいにはしゃぎ始めた。
「流石フィン君ですね。陽葵さん、これなら先程の件何とかなりそうです」
「ほんと!?」
陽葵も珍しく興奮気味だけど一体カインと何を話してたんだろ。
どうせ聞いてもわからないから聞かないでおこう。
こうして各々の要件を済ませた私達は買い物に向かうことにした。
買い物の後いろんなお店で満足するまで食べたけど、陽葵のお財布事情が悲惨になったのはまた別のお話。




