第二十五話ー同盟ー
「あるじ様ー! おやつ持ってきたよー!」
ヴィーネさんが一通り話し終えた直後、勢いよく開かれた扉から大きなお皿を頭に乗せたウサ耳の幼女が部屋に突入してきた。
そのままお皿を大テーブルへと置き、ヴィーネさんの元へと駆けて行った。
「申し訳ございません、止める間も無く走っていってしまって……!! すみませんお客様、お騒がせしてしまって……」
その後すぐに長耳の少女が桃色の髪を揺らしながら部屋に入ってきた。
頬を真っ赤にした彼女はその場で膝に手をついて息を切らしていた。
「あるじ様のお役に立ちたかったから急いで持ってきました!」
「ありがとうノンナ、シル。それじゃあここらで少し休憩を挟もうか。少し情報量の多い話をしてしまったしね」
ノンナと呼ばれていた子はヴィーネさんに褒められて満足したのかシルの方へと駆け寄った。
なにこの見てるだけで癒される光景。
息を整えて落ち着いたシルさんはヴィーネさんの言葉に対して一礼し、二人揃ってその場を後にした。
卓上に並べられた菓子はどれもラディクシアでは見たことのないものばかりだった。
フォークで丁寧に掬い上げ口に運ぶとその甘さは不思議なくらい上品で味わったことのない香りがふわりと鼻抜けていく。
美味し過ぎる。ラディクシアにも持って帰りたいくらい。
「俺は甘いものに目がなくてね。この街のスイーツもいくつか俺が監修してるんだ」
そういえば前回この街で食べたスイーツもヴィーネさんが考案したって。
やっぱり甘いもの好きに悪い人はいないんだな。
「それじゃあ俺達の真意も話したことだし、ここからは同盟の詳細を詰めていこう」
同盟の内容は二つ。
一つ目は相互安全保障条約。有事の際にはお互いに戦力の提供を確約するもの。
この世界には今の所戦争も起こってないから妖霊種の魔の手から民を守るのが軸になるのかな。
そして二つ目は相互技術援助協定。これは互いに持っている技術力を共有するもの。
グリーク側からは神樹に関連する研究データ、ラディクシア側は装備関連の情報共有がメインになる。
「そういう事でしたら同盟の件私としては異論はございません。皆んなもそれで良いかしら?」
人類の危機というなら両者協力するのが得策だし、何の異論もございませんよ。
当然のように誰からも反対する声は上がらず、同盟は締結された。
「それと一つ要望を聞いていただけるのでしたら、ラディクシアにお越しいただけないでしょうか? 私達の上司、鏑木がヴィーネ様にお会いしたいとのことでしたので。本来であればこちら側から赴くのが道理だということは理解しているのですが、鏑木は人間故にこの地に踏み入れることが叶いません……」
「そういうことなら招待ありがたく頂戴するよ」
「それでは本日の会談はここまでさせていただきます。後程皆様に議事録の方をお渡しさせていただきます」
「よろしく頼むよ、ザイク」
会談を終えた私達は早々にお暇しようとしたところ、ヴィーネさんのがこの街を案内してくれる事になった。
せっかくならと私達はその提案を受け入れ街に繰り出した。
ヴィーネさんも一緒だったんだけど、これがまた街中大騒ぎ。
みんなヴィーネさんが街に来てくれたことに大興奮で。
気軽に街に来たのにこれじゃまるで凱旋じゃん。
私達もヴィーネさんの客人って扱いでものすごいおもてなしをされてしまった。
「ヴィーネさん、本当に皆んなに慕われてるんですね。なんていうか理想の王様って感じがします」
「王なんて立派なものやってるつもりはないよ。ただ俺はこの街の皆んなと楽しく過ごしたいと思ってるだけで」
ヴィーネさんはなんでもないように言ってるけど、それが街のみんなにとっては良いんだろうな。
上からものを言うんじゃなくて自分たちと同じ目線に立って接してくれる感じが。
恐怖や権力で国を統治するって方法も耳にする事はあるけど、それじゃ本当の意味での国としては機能しないだろうし。
上に立つ人ほど皆に真摯に向き合うのが一番いいよね。
「……あの、差し支えなければ研究所の方を見させていただいてもよろしいでしょうか……?」
私達がシンプルに街の観光を楽しんでいると冥さんがおずおずと口を開いた。
そうだ忘れてた。そのために冥さんにも来てもらったんだった。
ノアがどういった研究をしているのか、少しでもラディクシアに持ち帰って発展させてもらわないと。
ヴィーネさんも快諾してくれて私達はノア内の研究所に向かう事になった。
「これがノアの研究施設の全部だ」
ヴィーネさんに案内されたのはノアの街よりもさらに地下深くに潜った場所。
広大な地下空間に多岐にわたる研究設備が立ち並んでいた。
下手したらノアの街と同等くらいには広いんじゃないかな。
最初は挙動不審だった冥さんもその光景を見た途端目を輝かせて興奮してる。
ノアの研究資料に目を通して何やら独り言を呟いてるけど、当然の如くその内容は全く理解できない。
EVEの頭脳派である陽葵も静月さんも流石に理解できないみたい。
日々研究をこなしている人と私達一般人とでは共通言語の数が圧倒的に違うからなんだろうね。
そのままの勢いでノアの研究員の元に話を聞きに行き、興奮の熱が冷めないまま冥さんは研究トークにのめり込んでいった。
元々人と関わるのが苦手っぽかったけど、こと研究に関する事になるとその苦手意識は無くなるらしい。
「これは凄いですよ……、これらのデータがあればラディクシアの研究を飛躍的に進められます! SEEDと連携すれば皆さんの装備も更にパワーアップ出来るかも……」
思わぬ棚ぼた発言に私達にもその興奮の色が伝播した。
私と陽葵と瑠奈は絶賛新装備に切り替えてるタイミングだし、丁度良いね。
「ヴィーネ様、少しの間冥をこの場に在住させてもよろしいでしょうか」
「……えっ、静月さん。在住って……?」
「ノアとラディクシアの間にナーテルが挟まっている以上アジャスタにしか技術情報出来ないでしょ?」
ノアの研究員は見た感じ人間が大半を占めている。
ラディクシアの研究員も冥さん以外は人間だからナーテルの魔素濃度は有害になっちゃうって事だよね。
魔人なら魔素に耐えられるんじゃと思ったけど、魔人はここで異形から戻って地上に出た事はないから魔素耐性があるかがわからないんだって。
そうなるとノアとラディクシアの橋渡しに慣れるのは冥さんだけと。
私達の誰かがその役割を担ってもいいんだけど、知識のない私達じゃ伝達の際に齟齬が生まれやすいからね。
今のラディクシアの研究を話せるのは冥さんだけだし、ノアで学んだ知識を持ち帰ることができるのも冥さんだけ。
ただこの数瞬で研究データを全て頭に入れろっていうのは流石に無理がある。
そういった意図で静月さんは在住の提案を申し出た。
「俺達は別に構わない。むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」
「ありがとうございます、ヴィーネ様。もちろん移動の際は私達が護衛につくけれど、無理ならまた別の手段を考えるわ」
少しの間考え込んだ末に冥さんはその提案を受け入れる事にした。
話し合いの末、冥さんは一週間に一度の頻度でノアとラディクシア間を交互に行き来する事になった。
研究の件も方がついたと思った頃、ザイクさんがヴィーネさんになにやら耳打ちをしていた。
「すまない、地上の時間のことをすっかり失念してたよ。今日はもう日が落ちてるみたいだし、急ぎじゃなければ出発は明日にして今日はうちに滞在していってくれ」
「良いんですか!?」
「ちょっ、天鬼! 少しは遠慮しなさいよ」
「なんでよ、せっかくのヴィーネさんのご厚意なんだから受けなきゃそれこそ失礼でしょ。それに陽葵も泊まりたい癖に」
図星だったのか陽葵が珍しく黙り込んだ。よし、勝った。
「ははっ、遠慮なんてしなくていいよ。 長旅だったろうし、ゆっくり疲れをとっていくといい」
流石ヴィーネさん、懐が深いですね。
こうして私達はザイクさんの案内され執政宮に滞在する事にした。




