第二十六話ー最強ー
次の日ノアから出立した私達はヴィーネさんを連れてラディクシアへと向かっていた。
護衛役としてザイクさんが同伴する事になったが、出発の直前にノンナちゃんが突撃してきて一緒に行きたいと駄々をこねた。
ノンナちゃん、常にヴィーネさんの側に居たいんだね。
道中聞いたんだけど、ノンナちゃんはこれでも戦闘になるとかなり強いらしく前衛職ではアルスと並ぶほどだとか。
めちゃめちゃ強い主人に従順なロリ、最高です。
デルタも来るんじゃないかと思ってたけど、どうやらデルタは外交の場で話をややこしくする可能性が高くなるからってことで今回は留守番を命じられていた。
留守番を命じられた本人は崩れ落ちてたけど。
ちなみにアルスは胡桃の治療を受けるための治療中。
どうやら胡桃の治療は万能というわけではないらしく、あまりに傷を受けてから時間が経っていると再生が阻害されて全快まで持っていけないらしい。
だから胡桃の治療で完治できるようにまずはノアで可能な限りの処置はすると。
正直片腕を失った時点で腕を取り戻す事はできないと察し、再生治療を受けていなかったんだって。
でも胡桃の登場で可能性を見出せたから改めて治療を受けている。
ということで今回の同伴はこの二人だけだとのこと。
「今更なんですけど、ヴィーネさんはこの魔素濃度は平気なんですか?」
「ああ、元々物質体に妖霊種の精神体があったおかげで魔素への耐性は残ったままなんだ」
それならよかった、てっきり見た目が人間だから耐性ないのかと思った。
その時周囲を偵察していた澪から念話で報告が入った。
どうやら私達の進行方向上に変異種の群れがいるらしい。
ヴィーネさんもいるし、なるべく戦闘は避けたいんだけどな。
万に一つでも客人に怪我なんてさせられないし。
何よりノアにとっての保護対象に危害を加えることができない。
「ヴィーネ様少し迂回しましょう。仲間からこの先変異種がいるとの報告が入りました」
「問題ございません。私が先に行って対処して参ります」
「ザイクが行くなら私も行く!」
標的がいると知ってヴィーネさんの護衛が揃って声を上げた。
だいぶ血気盛んなんですね。
一応私達もザイクさん達に着いていく。
見えて来たのは疾狼の変異種が五体。
異形の姿を目視するとザイクさん達は各々獲物を抜いて変異種に向かって歩み始めた。
ザイクさんは槍を、ノンナちゃんは短剣を一対構えた。
装備を見る感じ私達のとは違ってだいぶシンプルなものだった。
「あのザイクさん。もしかして異形を狩るつもりですか?」
「あれらの異形は保護対象には当たりません。何せあれが木々の物質体に妖霊種の精神体が宿った姿ですから。と言ってもあのタイプは物質体の練度が低く、本来の妖霊種の力は殆どないみたいですが。それに物質体と精神体が馴染んでいないせいか知能も低くなってしまっているようですね」
変異種が妖霊種ってマ!?
だから変異種が外郭区域に出ることが殆どなかったんだ。物質体を維持できないから。
ってことは妖霊種って結構な数いるんだな。
今までそこそこの数の変異種に出くわしたし。
「私は左を担当します、ノンナは右を」
「はーい!」
「それじゃ私達も行くよ」
静月さんの指示で私達は二手に分かれた。
私はザイクさんと同じく左の担当。
「アタシ達のスキルがどんなものか教える時間はなさそうだな」
「問題ありません、試練のデータを通して皆様の能力は大体把握しております」
ぐう有能。
流石ヴィーネさんの執事。
最早欠点ないでしょこの人。
槍さばきも相当なもので動きの早い疾狼にも何でもないように対処している。
一切の無駄を感じさせないその動きは宛ら演舞のようだった。
どの角度から襲われようとも全て見えていると言わんばかりに槍を扱う。
何が怖いってこれでまだ何のスキルも使ってないところなんだよね。
「雷華様、奥義の準備を。中央の個体の箇所に狙いを定めてください」
「よくわからんが、わかった!」
するとザイクさんは中央を除いた個体の元へ駆け寄った。
刹那、全ての個体がザイクさんの指示した個体の元へと集まっていた。
「雷華様、お願いします」
「『迅雷轟雷』」
異形の周辺一体に凄まじい落雷が発生し、一匹残らず灰燼に帰した。
何が起こったの。
あれだけ散開してた異形が急に一箇所に現れて。
「ザイクさん、一体何をしたんですか?」
「私のスキルで異形を一箇所に集約しただけです」
だけですって。多分ザイクさんが前に言っていた空間系統のスキルの効果なんだろうけど、速すぎて何も見えなかったよ。
空間と空間を繋ぐスキルだっけ。
戦闘には若干不向きなスキルなんじゃと思ってたけど、そんなことは全くなかったらしい。
どんな力も使い方次第ってことだね。
すると向こうの方も片付いたらしい。
「ノンナちゃん、凄かったわ……」
こっちもこっちでノンナちゃんの戦いが衝撃的だったらしく、陽葵が若干放心状態になってる。
これ本当に私達と同盟結ぶ必要あったのかな。
ノアだけで大抵の敵はどうにかなりそうだけど。
それ以降は特に異形と会敵することもなく、私達は無事にラディクシアへと帰還した。
ヴィーネさん達の案内含めその他諸々の報告は静月さんがしてくれるとのことで私達はその言葉に甘える事にした。
「さてと、暇になっちゃったね。何する?」
「私はちょっと寝てくるよ」
そう言いながら瑠奈が目を擦る。
まぁ確かに今日朝早かったし。
かく言う私も若干眠い。
「特にすることもないし、たまにはゆっくりしましょうか」
昨日あれだけもてなされて今日もだらけるとなんか罪悪感感じるけど、いっか。
シャワーで汗を軽く流してから布団に潜る。
「おいお前ら!やばい事になったぞ!」
それからどれくらい経っただろう。気持ちよく寝ていたところに興奮気味の雷華が私達の自室へと駆け込んできた。
「そんな慌てて、なにがあったの?」
「長官とヴィーネがこれから一対一の決闘するって!」
……はい?
雷華の発言に私は耳を疑った。紅茶を飲んでいた陽葵も雷華の発言を聞いてむせこんでる。
瑠奈はまだ夢の中……いや起きろよ。
「何でそんな事になってるのよ!?」
「アタシにもわからないよ! 今から特別装甲訓練場でやり合うらしい」
特別装甲訓練場ってガチじゃん。仮想訓練場とかでもないの。
とりあえず瑠奈を叩き起こして特別装甲訓練場へと向かった。
中央のステージには師匠とヴィーネさんが対峙していた。
他の皆んなはどこに行ったかと辺りを見回すと周りの回廊で二人の戦いを見守るみたいだった。
「静月さん! 一体なにがあったんですか!?」
「あら天鬼、来たのね」
「そりゃきますよ! それより今のこの状況何なんですか!?」
「何と言うか、成り行きでこうなってしまったのよ」
静月さんがいながら成り行きでこんな事になるかな。
「申し訳ございません。この話を持ちかけたのはヴィーネ様からなのです」
ザイクさんもその場にいたなら止めてよ!
もはや止められる雰囲気じゃないし、見守るしかないのか。
師匠はいつも通り見慣れた刀を腰に差してる。対してヴィーネさんも妖艶に輝く刀一を本の装備している。
「これ、怪我じゃ済まないんじゃ」
「そのために妾が呼ばれたのか、まったく。慎二の悪い癖よの」
気だるそうな胡桃が口を吐きながらやってきた。
あー、これ本気だ。
お互いに発する気迫に訓練場の空気がピリつく。
これだけでも気圧されそう。
二人の一挙手一投足に皆んなの視線が集まる。
次の瞬間には二人は刀をぶつけ合っていた。
あまりの速さに音が遅れて到着し、それと同時に凄まじい衝撃波が生じた。
なにが起こったの。何も見えなかった。
一部を除いて大半の人は私と同じ反応だった。
「今の数瞬で三回斬り合いましたね」
「そうですね。今のところ実力は同等といったところですかね」
ザイクさんと静月さんには見えてるみたい。
ほんと化け物染みてるよ。
……あれ試してみるか。
――『神楽』
日輪の炎を全身に着る。
陽葵達と戦う時に使った手法。
体温を強制的に限界値まで上昇させて機動力を底上げした時、体感時間もゆっくりになるような感覚になった。
原理は全くわからないんだけどね。
でもおかげで二人の戦いがかろうじて見えるようになった。
その様子は凄いとしか言いようがないほど。
一撃一撃が必殺になり得る威力。
少しでも気を抜けば命を落としかねないとも思えるけど、二人は未だ無傷。
こんな戦いをしておいて二人からは疲れどころか余裕すら感じられる。
「少し、本気を出しましょうか」
「受けて立ちますよ」
この言葉を皮切りに二人が繰り出す斬撃はさらにスピードを増した。
斬撃が繰り出す余波で私達が先に倒れそうなくらい。
この訓練場強い衝撃にも耐えられるように設計されたのに二人の戦いを受けて既に修復が困難に思えるくらいボロボロになっていた。
徐々に二人の顔には力が込められ始め、互いに与える傷も増えていった。
「思ったんですけど、ヴィーネさんって未来を視る魔眼を持ってるんですよね? それなら師匠の攻撃もどう反撃すればいいかも全部わかるんじゃないんですか?」
「ヴィーネ様の魔眼はあくまで未来の断片的な情報を見るだけで全ての事象が見通せるわけではありません。なので戦闘にはやや不向きなのです」
それじゃあ素の力であの化け物師匠と渡り合ってるってこと!?
「驚きなのは鏑木様の方です。人の身であのヴィーネ様と互角に渡り合っている。そんな人間この星どこを探しても他には見つかりませんよ」
度肝を抜かれているのはお互い様ってことね。
すると二人の剣戟がピタリと止んだ。
お互い次の一撃で決めるつもりなのか、場には尋常ではない気配が立ちこめていた。
次の瞬間その空間全てを吹き飛ばすような衝撃が走り、咄嗟に腕を顔の前へかざした。
「いやー、参りました。俺の負けですね」
「ご謙遜を。ヴィーネ殿の腕に刀が付いてきていないだけですよ」
その衝撃の結果、ヴィーネさんの刀身が真っ二つに折れていた。
二人には小さな切り傷はあれど大きな傷は見当たらない。
あれだけのことをしておいて何で無事なの……。
すぐに胡桃が二人の元へ治療を施しにいった。
なんか、どんなに訓練してもあそこまでは行ける気がしないな。




