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神之樹  作者: Uyu
20/27

第十九話ー共栄ー

 店長さんのお店で働き始めてはや数日、今日が初めての休日。

 私達はノアの街を散策することにした。

 店の中に籠ってても良いんだけど、やっぱりこの街の事を知るなら外に出た方がいいよね。

 そんな感じで私達は部隊毎に分かれ、この前買い揃えた衣装に身を包んで意気揚々と街へと繰り出した。

 前も見て思ったけど、この街はとにかく雰囲気がいい。

 アジャスタと人間が分け隔てなく会話をして笑い合ってるし、一体何をすればこんな事が実現するのか教えて欲しいくらい。

 とりあえず手頃な甘味処に足を運んだ。

 別にお店から漂う匂いに釣られたって訳じゃないけどね。

「いらっしゃい! お客さん見ない顔ですね!」

「最近この街に来たもので、今街を見て回ってるんです」

「そうなんですね! それじゃあいっぱいおもてなししないとだ!」

 中に入ると元気のいい店員さんが私達を出迎えた。

 お店の中は結構賑わってるみたいでアジャスタも何人かいたけど、普通にスイーツを楽しんでいた。

 店員さんも私達の姿を見ても特に何も思ってないみたい。

「お客さんこの街に来たばかりならここを選んで正解ですよ! 何せここのスイーツは街の名物ですからね!」

 何もわからず席についた私達にさっきの店員さんがケーキを運んできた。

 皿の中央に置かれたケーキは見るだけでその味を想像できそうなくらい美しいものだった。

 まるで雪原のように柔らかい印象を与えるクリームの上には色とりどりの艶やかな果物が飾れている。

 これ絶対に美味しいやつだ。

 目の前の宝石箱に想いを馳せながらひとくち口に運ぶ。

 何これ美味し過ぎる。

 舌に乗ったクリームは驚くほど軽いのに濃厚でフルーツの酸味とも相性抜群。

 スポンジはしっとりしているのに噛むとふわりとほどけた。

 スイーツとしての甘さはありつつもどこか上品さを感じさせるような味わい。

 思わず笑みが溢れるような美味しさだった。

「美味しいでしょ! それヴィーネ様が考案されたものなんですよ!」

「ヴィーネ様ってどんなお方なんですか?」

「そうですね、とっても暖かいお方ですよ!」

 清々しいほどの笑顔で店員さんはそう言った。

 その顔からは一切の嘘も感じられない、心からの本音を語っている顔だった。

「見た目は可愛いのに、とっても大きな方よね」

 私達の話を聞いて別の店員さんも会話に混ざってきた。

「私達みたいな一介の民に対しても真摯に接してくれるしね!」

「この前街でお見かけたしから挨拶したら手を振って答えてくれたんだ」

「ええー、いいなぁー!」

 まるで憧れの人の話をするかのように彼女達は語った。

 そこから彼女達のマシンガントークは止まる事を知らず、遂にはお店の上司らしき人に捕まって連れて行かれていた。

 その後こっ酷く怒られたのかお姉さんは萎れ顔で戻ってきた。

「先ほどは失礼しました。ヴィーネ様の事となるとつい周りが見えなくなって熱く語っちゃうんですよね。お客様のお時間とらせてしまった分、本日のお題は結構ですので」

「そんな、いいんですか?」

「はい、私達のトークに付き合ってくれたお礼だと思ってください!」

 そういう事ならありがたく頂戴しましょう。

 結局最後まで私達に丁寧な接客をしてくれた。

 稀有な視線を向けられた感じもないし、本当にここでは種族でどうのこうの言うって発想がないように感じた。

 他の店に行っても、どんな人と会話をしてみてもこれは変わらなかった。

 それどころか皆んなヴィーネって人の話しかしない。

 この街全体の中心にいる人なのはたった数時間街を散策しただけで伝わってきた。

 何やかんやで夕食時までこの街を堪能してしまった。

 この空間には日が落ちるって現象がないから分かりにくいけどね。

 もちろん情報収集って目的は忘れていないよ。

「随分と休日を満喫できたみたいだね」

 居候先のお店に戻ると店長さんが出迎えてくれた。

 私達の事を監視してたって思うくらい完璧なタイミングで夕食を作ってくれていた。

 緋翠達も帰ってきて皆んなで食卓を囲んだ。

「いただきまーす!」

 店長さんが作ってくれた料理を突きながら街の事について話す事にした。

 緋翠達も一日街を散策して私達と同じ印象を受けたらしい。

 人とアジャスタが共存する共栄圏がこの街では確立されている。

 この街の事を聞けば皆んな二言目にはヴィーネの名前を出していた。

 それだけでもそのヴィーネって人が一体どんな人なのかが想像つきそうなくらい。

「店長さん、一つ聞聞きたい事があるんですけど、魔人てこの街に最初からいたんですか?」

「ああ、いたよ。ヴィーネ含めたグリークの幹部連中がこの街の生みの親だからね」

 店長さん曰く、正確にはこの街ができたのは異形が発生してから少し経った後なんだって。

 それまでナーテルで生き残った人達は各々身を潜めながらその日その日を何とか生き繋ぐ生活をしていた。

 でも異形の数が増加して魔素濃度も日に日に高くなった結果これ以上人間が地上で生活する事が難しくなった。

 そんな時に現れたのがヴィーネだった。

 ヴィーネは仲間のアジャスタと協力し、地下に巨大空間を創出した。

 そこに生き残った人達を避難させ、この街を作り上げたんだとか。

「いくら非常事態とはいえ、異形のような姿をした人をよく信じれましたね」

「ヴィーネ含めたグリークの幹部の何人かはナーテルで初期に魔人になった連中でね、それこそ最初は異端者として敬遠されていたよ。でも異形がナーテルの平和を脅かし始めた頃、ヴィーネ達が異形の脅威から多くの人間を救ったんだ。それ以降、皆んなの彼等に対する見方が変わってね」

 それがあって街の人のあの反応なのか。

 この街の人にとってはヴィーネは救世主的な存在なのか。

 いよいよ敵か味方かがわからなくなってきちゃった。

 話を聞く限りは味方っぽいんだけど、私達は過去にアルスに殺されかけてるわけだし。

 地上の銅像もおおよそまともな人の仕業とは考えにくいんだよなぁ、というか考えたくない。

「さ、食べ終わったら食器を片付けとくれ。明日からもしっかり働いてもらうんだから。よく寝て万全の状態にしとくんだよ」

「はーい」

 なんか頭がごちゃごちゃしてきたし、お風呂にでも入って頭の中整理しよっと。

 お店のお風呂はラディクシアみたいな大浴場ではない。

 でも一人でゆっくりする分には十分な広さだった。

「街の救世主、ヴィーネ……ね」

 何とかグリークの実態を掴みたいところだけど。

 この魔素濃度じゃスキルもまともに発動しないだろうし、そんな状態で敵の本拠地に足を踏み入れるのは危険すぎるよね。

 スキルが使えないのは向こうも同じだろうけど、アルスはスキル抜きにしても相当な強さなんだよな。

 私もスキル根本の威力が低い分剣技の方でそれなりにカバーしてきたから、ある程度は戦えると思うけど。

 多分魔素濃度の低いこの街限定なら私達の中で一番戦力になるんじゃないかな、……多分。

 もしこの場に師匠がいたら即断即決で向かっていけるのに。

 せめて向こうの戦力を正確に把握できればこれからの動きも決められるんだけど。

 でも情報収集のために外に根を張ればその分リスクも上がっちゃうし。

 同じ街にいる以上アルスとかと鉢合わせるってことも無きにしも非ずだし。

 あーあ、何かの手違いで出口がそこら辺に現れたりしないかな。

 それかラディクシアの誰かが天井を突き破って助けに来るでもいいよ。

 実際、この街って地上からどれくらいの深さにあるんだろ。

 長い暗闇の中を進んでこの街に来たからここの正確な座標も分からないまま。

 これ仮に帰れたとしても再調査できそうにないね。

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