第十八話ー情報収集ー
「いらっしゃいませー!」
「今日は見ない顔が多いね。お嬢ちゃん達新人ちゃんかい?」
「そうなんですよ、店長さんにスカウトされちゃって」
店長さんに接客の基本を一通り叩き込まれた後、私達は実際にホールに出る事になった。
ここに来るお客さんは常連さんも多く、結構な頻度で話しかけられられる。
「それじゃこの街に来たのも最近だったり?」
「そうなんです。だからまだ何にも分からなくて。良かったら色々教えてくださいね」
とまぁ、こんな感じでお客さんとのコミュニケーションの中で情報を集めてる。
お酒の場っていうのもあって結構皆んな色んな情報を喋ってくれる。
もちろんそれが全てブラフって可能性も無きにしも非ずだけど、今そんなことを考えてもしょうがない。
そこを考えちゃうと私の脳では処理しきれなくなっちゃう。
「それにしても鬼の角とは珍しい。俺も長い事この街にいるけど、鬼の角を持つ魔人はあの人しか見た事ないな」
「あぁ、それってアルス様の事だろ」
おっと、初日からビンゴ。
「アルス様?」
「おっと、まだ大使館は案内されてなかったか。街の中心部にでかい施設があったろ? そこで働かれている方でね、大使館を案内される時に面会する機会があるはずだよ」
街の中心部、昨日この街を散策してる時に見つけた行政施設っぽいあの建物のことかな。
それとひとつ気になったのが、このおじさんの魔人って言葉。
おそらく私達アジャスタの事を指してると思うけど、アルスと一緒にいたフード男が言ってた神に選ばれし者って言い方をしないあたりやっぱりこの街の人はアルス達とは無関係の可能性が高そう。
「じゃあそのアルス様ってすごく偉い方なんですね。早くお会いしてみたいな。ちなみになんですけど……」
「こら天鬼、何時までもそんなとこで油売ってるんじゃないよ! あんた達も若い娘が増えたからって鼻の下伸ばしてんじゃないよ!」
「すいませーん!」
怒られちゃった。
話に夢中になり過ぎてホールの仕事忘れてた。
こりゃ仕事しながら上手い具合に情報集める練習もしないとね。
と徐々に店内が混み始めてそんな事考える暇もなくなってきた。
接客って調査任務とはまた違った大変さがあるね。
「五名様入りますにゃー」
「ほらここからもっと客は増えるよ! なあんた達気合い入れな!」
まだ増えるの!?
こんなの情報収集どころじゃなくなるよ!
怒涛のような数時間をなんとか耐えきり私達の初仕事は終わった。
「あんた達なかなかやるね。正直ここまで動けるとは思ってなかったからびっくりだよ」
そういうと店長さんは私達の腰掛けていたテーブルいっぱいに様々な料理を並べた。
「今日の晩御飯だよ、召し上がり」
出された料理を口に運ぶと今まで感じていた疲れが吹き飛ぶような美味しさだった。
昼間食べた時は警戒してたからかあまり料理をじっくり味わえなかったから。
こんなに美味しかったんだ。
ラディクシアのお店の料理とはまた違った美味しさを感じる。
一心不乱に料理を口に運んでいると店長さんが嬉しそうに声をかけてきた。
「良い食べっぷりだね、作った甲斐があったよ。それじゃ私は締め作業してくるから、喉に詰まらせないようにゆっくり食べるんだよ」
なんか店長さんお母さんみたい。
私にお母さんがいたらあんな感じだったのかな。
「それじゃここで少し情報の共有をしておきましょう」
陽葵の提案でこの場で軽く情報共有を行う事になった。
と言っても奥で店長さんも居るから私達の素性がバレないようにだけど。
「俺が得た情報はこの街についての情報がメインだな。ミウさんから聞いたものだけだからそこまで新規情報はないけど」
つらつらと得た情報を並べていってるけど、その前に一つ気になった事がある。
「あれ緋翠元に戻ったんだ。てっきりしばらくはアホのままだと思ってた」
「その件はすまん。我ながら危ない綱渡りだと思ったよ、今後は気をつける」
話を戻そう。緋翠が得た情報はこの街についての概要だった。
このノアの街は神樹が異形を生み出し始めた頃にナーテルの人々の手によって作られた、謂わばシェルターのような役割を果たすものらしい。
地上に異形が溢れた結果、皆んなここで生活せざるを得なくなったとか。
「それでここを生活圏として利用する事が決まった時に人々を先導したのが今この街を統治してるグリークって連中らしい。んで、そのグリークの長がヴィーネって名前の魔人らしい」
「それってアルセリアとは別物なのかな」
「全くの別物らしい。数年前、アルセリアは内部対立が原因で抗争が起こったみたいでその時に教祖が殺害されたのを機に解体されたって話だ」
じゃあアルスも謎のフード男もアルセリア教徒ではないんだ。
緋翠以外の話ではこの情報に加えてアジャスタ、この街では魔人だっけ、についての情報を得ていた。
この街にいる魔人はグリークによって地上で瘴気に倒れたところを保護されてこの街にやってきた。
魔人は私達とは違ってスキルを所有せず、ここでは普通の人間と区別されること無く普通に働いたり生活している。
でも多分使う機会が無いってだけで内にはスキルが宿ってるんだろうな、多分。
「例外としてグリークに選ばれた魔人は大使館ってところで働く事を許可されてるらしいにゃ」
「じゃあアルス様はグリークに選ばれたってことなんだ」
私の発言で時間が止まったように場が固まった。
明らかにアルスって言葉に反応したけど、店長さんがいる手前迂闊にはリアクション出来なかったんだろうね。
「アルス様?」
「そそ、この街の中心部にある建物にいる人らしいよ」
「……選ばれる魔人と選ばれない魔人の違いってなんなんだろうね」
「それは試験を突破できるかの違いだね」
陽葵が呟いた疑問に店長さんが答えた。
どうやら裏でする作業はあらかた終わったみたい。
「試験ですか?」
「ああ、大使館にいる魔人はみんなその試験を突破してるんだよ」
「その試験ってどんな事するんですか?」
「私も実際に受けたって訳じゃないから、人伝に聞いた話にはなるが、体力試験に近い事をやらされるらしいよ。多分大使館の魔人は仕事で地上に出る事もあるからその適性を測ってるんじゃないかい?」
体力試験ね。店長さんはこう言ってるけど、本当の目的は少し違ったところにあると思う。
地上での偵察の適性を測るっていうのは間違って無さそうだけど、可能性が高いのは戦闘力を測る試験かな。
アルスも相当な強さしてたし。
でもそうなるとフードの男もアジャスタって事になるけどどうも引っかかるんだよね。
もし本当にアジャスタならなんでアルスと共闘しなかったのか分からないし。
もう状況が複雑すぎて私には分からないよ。
「気になるならナビゲーターが見つかったらすぐにでも試験の案内をしてもらうといいよ。あんた達動きも良いしきっと選出されるよ」
うーん。試験の事は気になるけど。
流石にこの状況で敵陣地に突っ込んで行けるほど肝は座ってないかな。
アホになった緋翠ならやりかねないからそこは見張っておこう。
「さっ、もう夜も遅いし上に行って休みな。明日もガッツリ働いてもらうからね」
店長さんに促されて私達は上階へと向かい、就寝の準備をした。
この生活あとどれ位続けなくちゃいけないんだろ。
こんな所じゃ気も休まらないし熟睡なんて出来ないよ。
早く地上に帰れる出口を探さないと。
とりあえず明日は空き時間に周辺の壁を調べられる所まで調べようかな。
地上の皆んなは今頃どうしてるんだろ。




