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神之樹  作者: Uyu
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第十六話ー理想郷ー

「違和感を探るって言ってたけど、何か当てはあるの?」

 帰還組と別れた後、私達は陽葵の感じた違和感の正体を探るべく再び教会のあった場所へと戻ってきていた。

「ええ、多分ここに何かがあると思う。地脈に触れた時この周辺で何かに引っかかった感覚があったの」

 陽葵曰く、この地脈エネルギーというのはこの星の核から大地に放出されているエネルギーで自然を形成する一つの要因になっているらしい。

 地下に人工物みたいな異物が埋まっているとその周辺の地脈エネルギーが乱れて上手く操作できないんだって。

「やっぱり、何かが埋まってるわ」

 地面に手を当てて地脈を探った陽葵が呟く。

 周りにあんなに銅像があるんだから、地下にも一体や二体埋まってても何ら不思議じゃないと思うんだけど。

「それじゃここら一帯掘り起こしてみるか」

 掘り起こすって言っても道具も何もないのにどうやって。

 すると緋翠が異形を解放しだした。

「全員一旦離れて」

 言われた通り緋翠から距離を取る。

 雷華と澪はこれから緋翠が何をするのか察しがついている様子だった。

「緋翼――『乱』」

 緋翠が大きく翼を打つと緋翠を中心に大きな火柱が上がった。

 その火柱は渦を巻き徐々に地面を抉り取っていく。

 いやまぁ、凄いんだけどさ。

「森の中でなんて事してくれてんの!?」

 その炎が周りの木々に移り徐々に火の手を強めていった。

「消火部隊ー」

「はいにゃー」

 お二人さん、いくら何でも落ち着き過ぎじゃありませんか。

 何事も無かったかのように澪が辺りの消火を始めた。

「あれが澪のスキルなんだ」

「ああ、澪の固有スキルは水精(すいせい)って言ってな。水に関連することは大体できるってぶっ壊れスキルだ。訓練で天鬼を虐めた矢は澪が生成した水の矢な」

 あれって水の矢だったんだ。

 確かに言われてみると私が防いだ矢の残骸をどこにもみなかった気がする。

「そうなんだ、てっきり探知系のスキルだと思ってたよ。訓練の時、開始と同時に私達の位置が特定されてたからさ」

 訓練の後に聞いた緋翠と雷華のスキルじゃ広範囲の索敵なんてできそうに無かったからてっきり位置情報を割り出したのは澪の仕業だと思ってた。

「あれは雷華と澪の合技だよ。澪が周囲に散布した水粒子を媒体にしてそこに生じるわずかな振動や乱れを電気信号として雷華が拾い上げることで天鬼達の位置を把握したんだ。まぁ気配探知とそれほど差はないけど湿度の高い場所では気配探知よりも広範囲で索敵ができるんだ。あの日は丁度湿度が高かったからな」

 これも緋翠の采配なのかな。

 ほんと、この人は底が見えな過ぎて少し不気味だ。

「それよりも、見つけたぜ、陽葵の言ってた違和感の正体」

 緋翠の示した元へと向かうとそこには地下深くへと続く階段があった。

 しかもかなりの大きさ。鬼妖くらいなら余裕で行き来できるくらいの広さ。

「どうする、引き返す?」

「いや、せっかく見つけた手掛かりだ。また逃げられる前にある程度は調査しておこう」

 緋翠の言葉に皆覚悟を決めて一歩を踏み出した。

 中は一寸先も見えない完全なる暗闇。

 私の日輪で生成した炎で足元を照らす。

 一体この先に何があるの。

 しばらく歩くと徐々に先から光が見えてきた。

 長い通路を抜けたその先にあったのは……。

「どうやらとんでもない当たりを引き当てたらしいな」

 常夜を照らす光が幻想的か空間を演出し、湿り気を帯びた閉ざされた空気の匂いが鼻を抜ける。

 そこには地下空間とは思えない、繁華街が広がっていた。

 何よりも私達が目を疑ったのは。

「なんでこんなにアジャスタがいるの」

 行き交う人々の中に私達と同じアジャスタが多くいた。

 周囲の人もそれに関して特段気にする様子もなく普通に接していた。

「おや、あんた達見ない顔だね。もしかして新入りかい?」

 私達が情報の整理をしきれずに視線を宙に彷徨わせていると近くのお店で呼び込みをしていた黒色の髪を後ろで纏めた少しガタイの良い中年女性の店員さんが声をかけてきた。

「そうなんですよ。ついさっきここに来たばかりで」

 店員さんの問いかけに言葉を詰まらせていると緋翠が咄嗟に対応してみせた。

 ひょっとするとアルセリアの団員かもしれない。

 こっちの事を悟られないように何とか情報を引き出したいところ。

案内人(ナビゲーター)の姿が見えないようだけど?」

「少し目を離した隙に逸れてしまって、迷子になってたところなんです」

「そうかい。今回は随分と大人数を保護してきたみたいだね。案内人が戻ってくるまで中でゆっくりしてお行き、うち自慢の料理をご馳走するよ。代金は取らないから、心配はいらないよ」

 特に敵意らしいものも感じられないし、大丈夫だよね。

 この人数だし、襲われたとしても早々やられることはないでしょ。

 その流れで私達は店員さんの働くお店へと案内された。

「さぁ、たんとお食べ。外の瘴気はここには入ってこないから安心しな」

「瘴気?」

「なんだ、まだ説明を受けてる途中だったのかい。あんた達もう自分の姿に慣れてるみたいだったからてっきり説明は全部受けたもんだと思ってたよ。瘴気ってのはあんた達をそんな姿にしたものの正体さ。地上に溢れている瘴気を人間が吸うと人ならざる者の姿に変えられちまうんだ」

 一体何の話をしてるんだろう。

 私達がこの姿になったのは神樹の果実を口にしたからのはず。

 師匠からそう言われて今まで育ってきた。

「ここは外の世界で瘴気に倒れた人を見つけて保護する場所。人と人ならざる者が分け隔てなく暮らす理想郷、通称ノアさ」

 外界から人々を救うノアの方舟ってことか。

 何なの。この感じ、地上でも普通に人が暮らしてるってことをここにいる人達は知らそう。

 ものすごい陰謀が裏にあるのは間違いなさそう。

「ありがとうございました。こんな美味しい料理までご馳走してくださって。何だかホッとしました」

「そりゃ良かったよ。また困ったことがあったらいつでも頼りな、次回からは食った分は払ってもらうけどね」

 お店を出た私達はこの街についてもう少し探りの手を入れるために二手に分かれることにした。

「それじゃあ三時間後に出口に集合しよう」

「了解」

 緋翠達と別れてしばらく歩いて分かったことがある。

 まずアジャスタの割合だけどパッと見全体の3割くらいはアジャスタが占めている。

 割合だけ見れば少なく見えるけど実態の数としては結構な数のアジャスタがいる。

 このアジャスタ達も私達を特段気にする様子もないし、アルセリアの関係者じゃないのかも。

 というかもはやアルセリアが関わっているのかも分からなくなってきた。

 教団の仕業っていうのもあくまで私達の推測でしかなかったし。

 そして何より驚きだったのが、この空間魔素濃度が異様なくらい低くなってる。

 中央区域から入ってきたとは到底思えない。

 だから人間も普通に暮らせるし、ここに異形が入り込むなんてことは万に一つもないのか。

「何だかここが理想郷って言われていたのも納得できる気がするわ。地上じゃ私達アジャスタが普通の人と普通に暮らすなんてできないだろうし」

 そう言って陽葵は少し寂しそうな顔を見せた。

 もしかしてこの前のことを気にしてるのかな。

「だってさ……。私達はステラの街で暮らす人がこれ以上異形の脅威に晒されないように頑張ってる。それなのに街の人達はそんなこと知らないし、私達のことも受け入れてくれない。私達だって元は人間なのに恐怖の対象としてしか見られない。この前だって……。こんなの理不尽だよ」

 やっぱり。私に降りかかった出来事なのに、陽葵は本当に優しいなぁ。

「もー、なんて顔してるの。せっかくの可愛い顔が台無しだよ」

 そう言って私は揶揄うように笑ってみせる。

 私は大丈夫だって言うように。

「自分の力でどうしようもないことで悩んでも結局どうにもならない。だったらその状況すら全力で楽しもうよ。正直、私はどんな状況でも二人がいれば楽しめる。それに失う事だって悪い事ばかりじゃない。失ったからこそ得られたものだって沢山あるんだよ。私はこの前の出来事があったから自分の弱さを曝け出す恐怖を克服できたし、陽葵と瑠奈の存在を昔よりも身近に感じる事ができた。そう考えたらあの時ああして良かったって思えるよ」

「そんなの綺麗事だって……」

「ふっ、そうかもね。でも綺麗事を吐いても一歩ずつ前に進んでればいつかきっと良い事が起こる、私はそう信じてる」

「現に綺麗事並べてる天鬼は人生楽しんでそうだもんね。能天気って言葉がぴったりなくらい」

 瑠奈さん?

 なんで急に刺してきたのかな?

 さらっと言われすぎてびっくりしたよ。

 うっかり流すところだった。

「最後の一言いらない気がするけど。ま、人生楽しんだもん勝ちって言うし、今を全力で楽しもっ。ね?」

「そうね。……ごめん、考え過ぎだったね」

 良かった、いつもの陽葵の顔だ。

 この前は私が慰めてもらったし、少しはお返しできたかな。

 ちょうど緋翠の約束の時間になり私達は合流地点へと向かった。

 この時間なら日の入りまでに帰還できる、はずだった。

「えーっと、出口は一体どこに行ったの」

「……無くなったな」

 間違いなく私達はここからこの街に入ったはずなのに、出口が見当たらない。

 まさかとは思うけど、私達帰れなくなっちゃった?

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