第十五話ー急襲ー
中央区域の再調査の報告をするべく私達は会議室へと訪れていた。
そこへ少し遅れて師匠が部屋の扉を開けた。
「随分と早い帰還だな。その様子だと成果は芳しくなかったか」
「はい、アルスに遭遇しなかったどころか私達が以前発見した建物すらも姿を消していました」
「まさか一ヶ月で拠点ごと姿を消すとはな」
予想していなかった事態に部屋の空気が重くなるのを感じた。
それでも今できる状況整理をするためにEVEの頭脳派が意見を交わす。
主に陽葵を含め、静月さん、緋翠が中心に相手の行動心理を読み解こうとしている。
雷華も要所で話し合いに加わるのを見て知的な一面もあるんだと改めて思った。
他の面子は話し合いについて行けず蚊帳の外状態。
そりゃ他人の行動だけで相手がどう思ってるのかなんて普通わからないでしょ。
でもちゃんと話は頭に入れている、一名を除いて。
白夜は気がついた時には爆睡をかましていた。
もういちいち気にしても埒が開かないから今後は放置しよう。
「こうも早く拠点を畳んだのを見ると他に本拠地がある確率が高そうですね」
「若しくはそもそも少数で動いてるから拠点の移動に躊躇いがないか」
「私は静月さんの意見が濃厚だと思います。小規模な組織ならあんな荘厳な建物を構える理由がありませんし、何より隠し扉の痕跡のことも考慮に入れると裏で巨大な何かが動いているとしか思えません」
拠点の一つを潰してまで隠したい何かがあったのかな。
なんて事を考えていると、突如部屋の扉が激しく叩かれた。
落ち着きのないその音がただ事ではないという事を告げている。
「報告します!先刻、ナーテル中央区域にて大型異形の出現が確認されました!」
EVEの職員が血相変えて飛び込んできた。
「何? 今さっき調査部隊が帰還したばかりだぞ」
「映像出ます!」
会議室に映し出された映像はおよそ現実のものとは思えないものだった。
そこには山とも思えるほどの巨体を持つ巨人型の異形の姿があった。
少なくとも私達がナーテルにいた時はあんなのいなかった。
あれだけの巨体を持った異形なら気が付かない訳がない。
一体どこから出てきたの。
『総員戦闘準備、街に被害が及ぶ前になんとしても阻止する。非戦闘員は国民の避難誘導、パニックを起こさないように最大限配慮しろ。今回は緊急時につき、空からの出撃とする。戦闘員は準備が出来次第飛行場へ向かえ』
師匠からラディクシア全体に指示が飛ばされた。
各々が早急に自身のやるべき事に動き始めた。
なんとしても国に被害が出る前に阻止しないと。
私達調査組は調査を終えた後、その足で会議室に向かったからこのままでも出撃できる。
あとは幽鬼達待機組を待つのみ。
って思ってたけど、飛行場に着くと既に待機組の出撃準備は整っていた。
「随分早いじゃん」
「そりゃ天鬼達が調査に行ってる間も訓練してましたからね。放送を聞いてそのまま飛んできたよ」
異形出現の報告を受けてから時間にして十数分で全部隊が異形を討伐すべく空へと飛び立った。
「ここからは長官に変わり俺がこの討伐作戦の指揮を取る」
ナーテルに向かう途中、航空機内で緋翠が言い出した。
人間である以上師匠はナーテルに入れないからこうするしかないんだろうね。
訓練の時もそうだったけど、緋翠は各々の能力を把握した上で戦略を組むのが上手い。
指示も的確だし、いわゆる軍師向きってやつかな。
まぁ正直なところ私は静月さんが指揮を取ると思ってたから少し意外。
「時間がないから簡潔に伝える。第三、第四部隊は時間まで巨人の足止めを担当。第一、第二部隊はその間に最大火力を準備、俺の合図で一斉に仕掛ける。構造が分からない以上精密攻撃は捨ててあの巨体ごと消し飛ばすぞ」
いつもとは雰囲気の異なる緋翠の様子にその場にいた全員が気を引き締めた。
白夜も珍しくちゃんとしている。
「第三、第四部隊は役目を終えたら死ぬ気でその場から退避だ。俺も渾身の一撃を叩き込む、半径百メートルは離れないと巻き添えを喰らうからな」
白夜の渾身の一撃、おそらく訓練で見せた『獄天』のことだろう。
訓練の時のあれって全力じゃなかったんだ。
改めて白夜の出鱈目ぶりにドン引きしていると降下の指示が入った。
「リミットは巨人がナーテルの外に出るまで! 必ず仕留めるぞ!」
緋翠の掛け声と共に皆次々と航空機のハッチから空へ躍り出た。
目下には異形によって荒らされたナーテルの姿が広がっていた。
異形は私達の存在に気が付くとその口を大きく開けた。
「陽葵、全員にシールドを展開! 急げ!」
異形の動きから何かを察した緋翠が刹那の判断を下す。
次の瞬間には辺り一体が眩い光に包まれ、轟音と煙が巻き上がった。
陽葵のシールドの生成が間に合い私達は誰一人として欠けることなく着地できた。
「どうやら歓迎されてるみたいだな」
「それじゃ、作戦通り行くぞ!」
緋翠と白夜が異形を開放したのと同時に私たちは各々の役割を果たすべく動き出した。
「あそこまで大きいとダメージを通せるメンバーも限られてくるわね。可能性があるとすれば、瑠奈いける?」
「いけるよ。一発でも『月喰』を撃ち込めれば脚くらいは破壊できる。あの大きさだと崩壊させられるのは精々膝下までだろうけど」
流石の瑠奈の『月喰』も万能と言うわけではなく、崩壊を伝播させる範囲には限度があるみたい。
それでも脚を破壊できるなら足止めには充分。
「よし、それじゃあ今回は瑠奈を軸に展開する。瑠奈は後方で狙撃準備、天鬼は私と来て。瑠奈の攻撃が少しでも通りやすくなるように前方で準備する」
「ボク達の部隊も援護に専念するよ。乃亜は高台から敵を観測、エンカウントまでの時間を算出して。高台まではボクが連れていく。彩音は天鬼のサポートに」
そう言うと幽鬼は『影狼』で乃亜を連れて消えてしまった。
幽鬼がいかにもリーダーっぽいことしてる。
私に対する接し方との落差で風邪引きそう。
「待って、彩音は私と来て。やってもらいたい事がある」
「わかった」
やってもらいたいこと、彩音のスキルの話かな。
どんな固有スキルを持ってるか気になるけど、今はそんな時間は無いし後にしよう。
「天鬼、行くよ!」
「はーい」
陽葵の言う準備をする為私達はナーテルの深い森の中を進んでいく。
異形が森を荒らす轟音が絶え間なく空気を揺らす。
「準備って言ってたけど、一体何をするの?」
「私が地脈のエネルギーを利用した罠を設置するから、巨人が罠にかかったら表皮を最大火力で焼いて。あの感じ多分皮膚も桁違いに硬くなってると思う、瑠奈の狙撃が弾かれないように少しでも装甲を剥がしたい」
「そう言うことね」
「二、三分あれば足元崩すくらいのものは作れると思うから。天鬼も魔素循環回してできるだけ高火力で焼けるように準備しておいてね」
私含め陽葵も雷華もかろうじて魔素循環で魔素を生成できるところまで持って行けたけど、まだ全然生成量が少ないから高火力の技を使うのは少しだけ時間がかかる。
陽葵が罠を設置してる間に回しておきますか、他にやる事もないし。
やろうと思っても地脈エネルギーの操作になると私が手伝えることなんて何もないしね。
陽葵がせっせと罠を設置しているのを横目に暇していると巨人の動きを偵察しに行った幽鬼から連絡が入った。
『二人共、巨人との会敵までの時間が出たよ。このままの速度で進行を続けた場合、エンカウントはおよそ五分後。瑠奈達にも伝達済みで五分もあれば問題なく弾を作れるって』
『了解』
それじゃあ後は私達が作戦通りに動けば万事解決じゃん。
陽葵はスキルの操作に集中しっぱなしで多分さっきの報告は耳に入ってないから後で伝えておこう。
今回は刃の届かない相手、赫式が使えないから私にで来るのはただ炎を放出することだけ。
ただ焼くために温度を高めることだけを意識する。
炎を拡散させないで一点に集中させるイメージで。
生成した魔素を全て炎の温度を上げるためだけに使う。
「罠の設置完了。あのサイズだと罠で動きを止められるのは精々十数秒だと思う。いける?」
「やるだけやってみますよ。あ、陽葵さっきの報告聞いてなかったみたいだけど、後一、二分でここに来るって」
「全然聞いてなかったわ。そう言うことなら私は後ろに下がってるわね。後は任せたわよ」
「任された!」
徐々に巨人の気配が強くなり、木々が震え出した。
もう間も無く。こっちの準備は万端、私史上最高火力をお見舞いして進ぜよう。
巨人の足が陽葵の罠を踏んだ瞬間、爆音と共に地盤が落ち、巨人の両足を沈めた。
罠の作動を確認し、準備していた炎を一気に放出する。
炎の余波を受けて周囲の木々は焼かれ、辺り一体が焼け野原と化していく。
陽葵の予想通り巨人の皮膚は中々に硬く、私が浴びせた炎は受け流されてしまった。
ならどうするか、受け流せない量の炎を浴びせ続けるだけ。
高音の炎を浴びて巨人の皮膚が徐々に爛れ始めた。
魔素が切れるまで炙り続け、遂には巨人の表皮を焼き切った。
これなら瑠奈の弾丸も通るでしょ。
『瑠奈、舞台は整えたよ』
『それじゃ、一曲踊るとしますか』
後方から来た瑠奈の攻撃が見事に炸裂し、巨人の両脚を完全に崩壊させた。
異形はその場で体勢を崩し、完全に進行を止めた。
その様子を見て陽葵が緋翠達後衛チームに連絡を入れる。
「緋翠さん達の攻撃が来る! 皆んな退避するよ!」
白夜に半径百メートルは離れておけって言われたけど念の為にもう少し遠くに逃げておこう。
幽鬼のスキルを利用して森の中の影を矢継ぎ早に移動し緋翠達の攻撃範囲外へと退避すると、次の瞬間大地に怒号が走った。
「こりゃまた規格外だね」
元いた場所を見るとそこには巨大なクレーターが出来上がっていた。
巨人の姿は見る影もなく、周辺の森ごと綺麗さっぱり消滅していた。
緋翠の元へと戻ると全く疲労の色を見せない、飄々とした感じでくつろいでいた。
ほんと、あの人達が味方で良かったよ。
「迎えを呼びたいところだけど、この魔素濃度じゃ通信機器も使えないし。仕方ない、歩いて帰るか」
「ちょっといいかしら」
帰路に着こうとした足を陽葵の一言が止めた。
「さっき地脈に触れた時に少し違和感を感じたの。何と言うか、地下に大きな異物が埋まってるみたいな……。気になるから少しだけ調べてから帰るわ」
「流石に一人で残す訳にはいかないから、帰還組と調査組で別れるか。俺達が同伴するよ。第一、第三部隊は帰還して長官にこのことを伝えておいてくれ、今日中には帰るようにするから」
「分かったわ」
こうして私達は静月さん達と別れてもう少しナーテルに残り調査をする事になった。




