第十四話ー再調査ー
――二週間後、対人戦闘訓練を終えた私達は中央区域にあったあの教会へと訪れていた。
はずだった。
「本当にここにあったのか? そのアルスが出たって教会が」
そんな緋翠の純粋な問いが投げかけられた。
「本当だって! だよね、陽葵」
「ええ、間違いないわ」
場所は間違っていないはず。
それなのにあの荘厳と聳え立っていた教会が周りの銅像達はそのままに跡形もなくその姿を消していた。
周辺を探してもそれらしい建物はなく、はなからそこには何も存在していなかったかのような感じすらした。
「これじゃあ今日の調査は徒労に終わりそうだな」
「なら早く帰ろうぜ、調査結果は異常なしってことで。俺昨日徹夜でゲームしてたから眠ぃんだよ」
アルスに加えて他のアジャスタに会敵する事態も想定して緋翠と白夜を筆頭にEVEの主戦力が調査に駆り出された。
戦力は充分過ぎる程に揃えてきたのに。
「仕方ない、もう少しだけ周辺を調べて何も出てこなさそうなら今日の調査は切り上げるか」
緋翠の提案のもと周辺状況を見たけど、びっくりするくらい異常は見つからなかった。
何もなさすぎてむしろ怖いくらい。
心なしか異形との遭遇率も少なくなってた気がしてきた。
『瑠奈、どう? 何か見つかった?』
『なんにも。三キロ先に鬼妖が数体いるけど、こっちに気付いてないみたいだから問題はないよ。仕留めてもいいけどどうする?』
高所から情報収集してる瑠奈ですら何も見つけられないとなると、本格的に隠れられちゃった。
「緋翠、ちょっと行ったところに鬼妖を見つけたけど仕留めるかって瑠奈が」
「このまま何もしないで帰るってのもアレだから、少しくらい体動かすか。教会があったって場所に誘き出すように伝えてくれ。あそこなら場所も開けてるし、運動にはちょうどいいだろ」
肩透かしを食らって不服だったのか緋翠がそんな提案をした。
普段ならこんな藪蛇をつつく真似はしないんだけど、私も私でこのまま帰るのも腑に落ちなかったのでその提案を受け入れることにした。
というかそんなことしようもんなら速攻で陽葵に止められるしね。
今日は事態が事態ということもあって陽葵も容認してくれた。
こうなったら訓練の成果でも試してから帰ろう。
軽く準備運動をして待っていると向こうから瑠奈と静月が鬼妖の群れを引き連れてやって来た。
その数は十匹、予想はしてたけど漏れなく変異種。
思ったよりも多かったね。
以前ならもっと焦っていたけど今の私にその感情はない。
なにせこの一ヶ月、あれ以上の化け物を相手にし続けてきたんだから。
今更あの程度にあたふたする私ではない。
と心の中でドヤ顔を決め戦闘体勢を取った。
ちなみに対人訓練では結局あの二人から一本も取ることが出来なかった。
前半は徐々に二人を追い詰めていけたけど、訓練が後半戦に差し掛かってハンデが解除されるにつれて二人の容赦もなくなってきて最終的にはもうボッコボコ。
この短期間で私達もかなり強くなったと思ったけど、それでも全然届かなかった。
そんな地獄を通ってきたんだから、鬼妖からはなんの脅威も感じないね。
「来るぞ」
緋翠の声で気を引き締める。
日輪を展開し体温を上げていく。
日輪の出力は体温上に伴って上がるから今までは出力を上げるのに時間がかかってたけど、今は魔素循環のおかげで体温上昇を待たずして日輪の出力を上げられるようになった。
と言ってもまだまだ自分で生成できる魔素の量は少ないんだけどね。
ただフィンの装備の特性上体温を上げておいた方が機動力を確保できるので身体はちゃんと温めておく。
この前の試作段階では余剰分の熱を吸収して機動力に変換してくれるものだったけど、そこから改良を加えて体温に付随して機動力が変動するような仕様にしてくれた。
これならこっちで調整する必要もないし、より感覚的に扱いやすくなった。
「それじゃ、やりますか」
緋翠達指導組はどうやらこの戦闘には参戦するつもりはないらしく、戦闘状態を解除している。
戦闘に加わるのは私達第四部隊に加えて雷華、澪の五人。
単純計算で一人二匹を相手にしないといけない。
まずは一匹。
瞬時に鬼妖達との間合いを詰めて先頭にいた一匹に斬りかかった。
赫式単刀術――『緋扇』
私の刃を受け鬼妖は為す術なくその場に散った。
そしてこれは新技。
対人訓練の時にやった日輪の炎を体外に放出する技。
生成した炎で鬼妖達を炎で包み込む。
「それやめてって言ったでしょ」
「バカ、さっさと解除しろ」
陽葵と雷華から思いっ切りツッコまれた。
この二人緋翠の訓練を共にするうちに随分仲良くなったみたいで、タイミングも息ぴったり。
「それされると他の人が攻め込めないでしょ。大したダメージにもなってないし。やるならもう少し状況考えてって言ったよね?」
だってやりたかったんだもん。
『いいよ。私がカバーする』
やり取りの最中、瑠奈からの念話が入った。
カバーって、一体どうするつもりなんだろう。
自分でやっておいてなんだけど、あの炎の中じゃ敵の姿も視認できないだろうし。
すると炎に包まれていた鬼妖達が突如として氷の檻に囚われた。
「何が起きたの」
状況が理解できずに立ち尽くす私に瑠奈が声をかける。
『今のうちだよ。私は澪と残りのを片付けるからそいつらの処理は任せた』
そう言葉を残して瑠奈はそそくさと残党狩りに行ってしまった。
目の前の氷塊を見て他のメンバーも呆然としている。
とりあえず何をしたのかは一旦おいておこう。
あとで尋問タイムを設けることが決定した。
赫式双剣術――『桜花乱舞・灼』
二本の剣が織りなす軌跡は森に咲き乱れる花々のように美しく敵を裂いた。
命を絶たれた鬼妖達はその場で消え去ってしまった。
間もなくして瑠奈達が戻ってきた。
「ただいまー」
「瑠奈、さっきの何だったの?」
「何って言われても、私の『月詠』を使っただけだよ」
本人はこう言ってるけど、今までそんな技見たことがない。
明らかに今までの瑠奈の技とはレベルが違っている。
「私の『月詠』の基本性質は属性付与、さっきのはそれを応用させた技だよ。銃弾に天鬼の発生させた炎が発する熱の性質を反転させるっていう属性を付与させたんだよ。それで熱を与える炎が熱を奪うって性質に反転したんだ」
って平然と言ってるけど、これってそんな軽い感じで話す事じゃないよね。
物の持つ性質そのものにまで干渉できるようになったら自然法則すら書き換えることも出来ちゃうんじゃ……。
「まさか瑠奈がここまでの素質を持ってるとは私も思わなかったわ」
「静月さん、一体瑠奈に何をしたんですか」
瑠奈はここ一ヶ月、静月さんの元で訓練していたと陽葵から聞いている。
変わるきっかけがあるとすればそこしか考えられない。
「そんな私は大したことはしてないわよ。ただ瑠奈のスキルに対する理解力を上げるのを手伝っただけ。ここまで応用できるまで持って行けたのはあくまで瑠奈の実力よ」
恐るべし、静月さんの采配。
私がEVE内で手放しで尊敬できる数少ない人格者なんだよね。
指導組に選ばれるってことは戦闘力もかなり高いんだろうな。
あの師匠も静月さんには一目置いているし。
「ほんと、なんで第一部隊のリーダーは静月さんじゃなくて白夜になったんだろ」
「私が白夜をリーダーに推薦したのよ」
……え?
静月さんが白夜を推薦?なんで?
「さっきから一体何を騒いでんだよ」
理由を聞こうとしたところにタイミング悪く白夜が割って入ってきた。
「あなたがだらしないから困ってるって話よ」
「今日は別にそんなこと言われるようなことしてないだろ。てか終わったんならさっさと帰ろうぜ」
静月さんがこれを推薦した理由、今世紀最大の謎だわ。
とりあえず鬼妖の群れを討伐し、やることも無くなったので私達は大人しく帰路に着くことにした。




