第十話ー課題ー
「今日は一体どんな地獄を見せられるんだろう」
「わからないけど生半可じゃないものがくるのは確かね」
「ここに招集されるってことは、またとんでもないことをさせられるのは確定みたい」
私達はここ特別装甲訓練場に招集された。
ラディクシア内でも特別強い衝撃にも耐え得る場所。
昨日の訓練場みたいにナーテルを再現したような施設ではない。
中央のステージを囲むようにして何層もの回廊が巡る、どちらかというと闘技場という表現の方が近いのかな。
「もう昨日みたいな目に会うのは御免だよ」
そう言いながら訓練場にやってきたのは昨日の白夜蹂躙事件の被害者の一人、第三部隊のリーダー幽鬼だった。
私と同じく鬼妖に適合したアジャスタ。
黒に染まった長髪、額には重い前髪から覗かせるのは一本の白い角。
紺青色の瞳を持つその姿は私とは正反対な雰囲気を醸し出している。
「あー、幽鬼。昨日は散々だったね。うちの陽葵のおかげで命拾いしたんだからご飯の一つでもご馳走してくれてもいいんだからね?」
「なんで天鬼がそんなに大きな顔できるんだか。あなたは顔を大きくする前にもっと大きくしなくちゃいけないところがあるんじゃないんですかぁ?」
「よし、殺す」
こいつ、煽るためにわざと視線を私の胸に落としやがった。
少し、ほんの少し私よりもスタイルがいいからって調子に乗って。
別に、ちっとも羨ましくなんてないし。
「はい、その辺で終わりにしましょうね」
幽鬼と取っ組み合ってると陽葵からの手刀が私の鳩尾に炸裂した。
「クスクス、怒られてやんのー」
「幽鬼が天鬼のことを煽ったのが原因でしょ。ごめんね陽葵、これはこっちで躾けておくから」
幽鬼の方を見ると第三部隊のメンバー、彩音にチョップをかまされて頭を抱えて蹲ってる。
いい気味だ。
「まったく、なんで天鬼は幽鬼に会うと精神年齢低くなるのよ」
「喧嘩ふっかけてきたのは向こうだよ!? 私悪くなくない?」
「そんなんだから成長するところもしないんじゃ……」
「瑠奈! 聞こえてるからね!」
私だって普段は心の広い立派なレディーなのに、何故か幽鬼に煽られると対抗しちゃうんだよね。
同じ門下生だからかな?
「全員揃ってるな」
何故か師匠が装備を整えて訓練場にやってきた。
私との修行でも木刀は使うことはあっても武装してきたことはないのに。
「ここからは対人戦闘訓練を執り行う。やることはシンプル、俺達を相手にした実戦訓練だ。それぞれの固有スキルの系統、戦闘スタイル、その他諸々を考慮し俺が独断でチームを組んだ」
師匠の言葉と共に緋翠、白夜、静月が前に出てきた。
まさかとは思うけど、このメンバーと戦えってことかな。
「部隊メンバーと対戦相手を発表する。まずは幽鬼、天鬼、雷華の三人、相手は俺と緋翠が担当する。次に陽葵、瑠奈、紫音の三人と彩音、澪、乃亜の三人でそれぞれ一部隊ずつ構成する。相手は白夜と静月が担当だ」
うん、無理。
EVE内でも最強格の面々を相手にしないといけないなんて、いくら何でも壁が大きすぎる。
「長官、それは無茶じゃないですか?昨日の訓練で身をもって経験しましたけど、流石に実力差があり過ぎます。それに、もし仮に白夜さんにあんな戦い方をされては私達の成長も期待できないと思うんですけど」
いいぞ、陽葵もっと言え!
しっかり者が抗議すれば師匠も聞く耳を持つはず。
「今すぐに勝てるようになれとは言わない。猶予は一ヶ月、それまでに勝てるようになれれば良い」
ははっ。
とうとう師匠も頭がおかしくなったみたいだね。
あの化け物相手に一ヶ月以内に勝てようになれって。
「とは言え陽葵の言うとおり実力差が大きいからな。最初のうちはこちら側にハンデをつける」
「ハンデですか?」
「ああ、こちら側のアジャスタにはSEEDに開発してもらったこの装置をつけてもらう」
そう言って師匠はチョーカーのようなものを持ってきた。
「これは体内の魔素の流れを阻害する装置だ。陽葵、魔素についてどれくらい理解してる」
「神樹が発するとされている、主に異形にとっての酸素代わりとなる元素。あと、半異形のアジャスタにとっては魔素はスキルを発動する上で燃料になるくらいの認識です」
私も同じ認識だった。
空気中にもこの魔素は含まれてるけど、ナーテル外の地域なら濃度が低いから人間にはそれほど影響はない。
この魔素濃度の低さが異形がナーテルの外にでない理由の一つらしい。
もし人が長時間高濃度の魔素に晒されると身体機能に悪影響が出るらしいけど、今のところその被害に遭った者はいない。
ナーテルの魔素がここまで高まる前に危険区域に指定されて、それ以来人間は立ち入れなくなったからね。
あとは高濃度の魔素が干渉すると機械の類が使い物にならなくなるくらい。
アジャスタにとっては酸素とまではいかないけど、スキルの発動には欠かせない元素。
ナーテル内は神樹と距離が近くて周辺都市よりも魔素濃度が高くなってるから魔素切れの心配とかは全くないけどね。
「そうだ。つまり魔素を制限するとスキルの威力を低減される。それだけじゃなく、体内魔素濃度を小さくすることで身体の動きもかなり制限できる。今日のところは実力の半分も出ないように調整してもらってる」
なるほど。
それならまだやりようはあるのか。
でも一番重要な事案がまだ残ってる。
「もちろん師匠にもハンデはつけるんですよね?」
「当然だ。だいぶ古典的な方法だが、俺は体重分の重りをつけて戦う。魔素を制限しようと俺には無意味だからな」
重りかぁ。
それっぽっちのハンデだと若干不安が残るんですけど。
正直、師匠なら手刀でも平然と私達を相手にできそうな感じがするし。
「これらのハンデは訓練の進行と共に徐々に度合いを緩めていく。もちろんこの訓練にも胡桃を同席させるから安心しろ。初戦は陽葵、瑠奈、紫音チーム。開始は三十分後だ、それまで各々作戦を練るなりして準備を整えておくように」
あぁ、なんか命が軽く扱われてる気がする。
とりあえず一戦目は出番待ちだから私達の番までにある程度作戦は練っておきたい。
「まさか、天鬼とチームを組まされるなんて思わなかったよ」
そう言いながら怪訝な顔をした幽鬼がこちらにやって来た。
私だってまさかこんな組み合わせになるなんて思ってなかったよ。
「おそらくアタシ達がEVE内で特に近接戦闘を得意とするからだろうな。相手も近接戦闘型の長官と緋翠だし」
まぁ、そうだよね。
幽鬼も大斧振り回す近接タイプだし。
「雷華は師匠と手合わせをしたことはあるの?」
「いや、無いね。特訓の相手だったら緋翠が請け負ってくれてたから」
じゃあ師匠の指導を受けたことああるのは私と幽鬼だけか。
幽鬼とは修行の中で何度か手合わせした事がある。
戦績は四勝七敗、悔しいけど現段階では私よりも実力は上。
雷華の腕は昨日の訓練だと私の方が勝ってるって感じだったけど、スキルの詳細がわからない以上何とも言えないかな。
「とりあえず各々のスキルの性質擦り合わせて戦略立てるか」
「私の固有スキルは『日輪』。魔素によって形成された炎を操作するのが主な性質。刀身に炎を纏わせたり、体内温度を上昇させて機動力を上昇させるのが今できること」
改めて考えると日輪ってスキルとしての威力弱すぎない?
私も緋翠みたいに明らかに強いスキルが使いたかった。
「アタシのスキルは『雷帝』。軸としては電子操作だが、やれることは結構幅広いぞ。放電、帯電はもちろん電子移動による磁力操作もできる」
雷華の口から予想外の言葉が出てきた。
私の勝手なイメージだと雷華は結構野生味を感じてたから、こんなに繊細そうなスキルを使っているのは意外だった。
これって私自身のスキルに対する理解が低いだけでちゃんと読み解けば雷華みたいにやれることの幅も広がるのかな。
「最後はボクだね。ボクのスキルは『影狼』。このスキルの基本的な使い方は移動、範囲内にある影に身体を転移できる能力。攻撃にはあんまり使えないかな」
幽鬼はこう言ってるけどこのスキルがこれまた相手にすると結構厄介なんだよね。
戦場でどう立ち回っても自分の足元には必ず影ができる。
つまり幽鬼に会敵したら戦場の全てが幽鬼の間合いの範囲内になるということ。
しかも物体に生じる影にも転移できるからどんな奇襲も回避も幽鬼にとっては児戯にも等しい。
シンプルなのに実際に戦うとめちゃ混乱する。
私とのスキルとの相性も最悪。
炎を出せばそこが光源になってまた新しい影が生まれる。
日輪を使えば使うほど自分の隙になるっていう究極の無理ゲー。
ただ今回は味方だからむしろ私のスキルで幽鬼の行動範囲を広げる事ができる。
「今回の相手は近接戦闘の鬼だからな。長官の強さ言うまでもなしだが、緋翠も緋翠であいつの魔素量底が見えないからな。少なくとも異形全開放の状態を維持させないと魔素切れは期待出来ないな」
真っ向から戦っても負ける未来しか見えないし。
何かしらの作戦を立てたいけど、どんな攻撃を仕掛ければあの二人にダメージが入るのか全くわからない。
というか。
「緋翠を倒すなら手持ちの加護を全部消費させなきゃじゃん。そこまで追い込んだらEVEの戦力ダウンになっちゃわない?」
同じことを思っていたのか幽鬼が私の考えていた懸念点を口にした。
「緋翠の加護の話聞いてたんだ」
「昨日の惨劇の後に一通りね。もう絶句したよ」
ですよね。
「その点に関しては大丈夫みたいだぞ。アタシも同じこと思ったから長官に聞いたら、一つでも加護を失った時点で緋翠には退場してもらうって」
それもそれでどうかと思うけど……、善戦すれば加護を一つ奪うことになる訳で。
まぁ、少なくとも昨日みたいな目に合わなくていいのはありがたい。
残機が複数あるってだけでだいぶ状況変わってくるし。
「それじゃあ情報の整理もできたことですし、作戦会議始めますか!」




