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魔国文官物語  作者: 丘/丘野 優
第2章
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第48話 二人の素性

「……世界探索組合(ギルド)、ですか。凄いですね」


 馬車に揺られながら、私がそう呟くと、同じく馬車に同情している二人は頷く。

 一人は大柄の戦士ラグ、もう一人は小柄な中学生くらいの容姿の少女細剣士リリである。

 

 あれから一緒にミュレイン王国王都に向かうことになった私たち三人であるが、紹介し合ったのは戦闘の腕と名前くらいで、それ以外の身分などについては知らなかったから、言えることだけでもいいので雑談がてら話そうか、ということになったのだった。

 それによって明らかになったのは、ラグとリリはミュレイン王国出身ではないということ、義理の親子らしく、リリの本当の両親はすでになくなっているということ。

 それに、二人が世界探索組合(ギルド)に所属し、色々なところを見て回って旅をしている最中だと言うことだった。

 ちなみに、世界探索組合(ギルド)とは、旧冒険者組合(ギルド)が魔族の勝利によって解体されたのち、それでも未だに人間に襲い掛かる魔物――つまりは妖魔たちの討伐や、普通の人ではとてもではいけない地域に分け入り、素材などを採集することを生業とする人間によってつくられた団体で、つまりは今まで冒険者組合(ギルド)がやってきたことをそのまま引き継いだような形になっている団体の事である。

 なぜ、冒険者組合(ギルド)と名乗らないのか、と言えば、その残党が未だに魔族に対して敵愾心を持ち、反撃のときをうかがっているので、それと同一視されてはたまらないということでこういうことになったらしい。

 それに加えて、下手に魔族を刺激して、国を滅ぼされては困る、というわけだ。

 よく魔族の性格を知る私から見れば、団体の名前くらいの小さいことを気にするような人たちではないのだが、普通の人間からすれば出来る限り危険な振る舞いはしたくないというのは至極当然の話だろう。


 そういうわけで、ラグとリリは、そんな世界探索組合(ギルド)に所属する者で、探索者(サーチャー)というらしい。

 以前は冒険者(エクスプローラー)と言っていたところも変更した、というわけだ。

 ちなみに、探索者(サーチャー)になるのはそうそう簡単ではなく、高い戦闘能力にサバイバル技術などが必須で、それがなければ大した仕事にありつけない厳しい職業でもある(魔国調べ)。

 ラグとリリの二人はその点、先ほど結構な数の魔物を倒していたわけで、確かな実力の一端を垣間見ることが出来た。

 だからこそ、すごい、といったわけである。


 しかし、そんな私の言葉にラグは首を振って、


「いや、俺たちはそんなに大したもんじゃないぜ。ランクもあんまりだし、依頼にも決して勤勉とは言えねぇからなぁ」


 と笑って答える。

 これにリリが、


「……世界探索組合(ギルド)に入ったのは、日銭を稼ぐためで、探索者(サーチャー)として有名になりたいわけじゃない。ラグはそう言って依頼をあんまり受けないから、ランクも上がらない……」


 と理由を説明してくれた。

 世界探索組合(ギルド)の仕組みは魔国調べによるところ、ほとんどが冒険者組合(ギルド)と同様であるようで、依頼をこなせばこなすほど、ランクが上がっていくというシステムになっているらしい。

 ただ、冒険者組合(ギルド)は上から、S~G級というクラス分けになっていたが、この点は少しだけ違っている。

 探索者の位階ランク分けは、上から、金、銀、銅、鉄、という位階ランク分けになっており、それぞれの上位中位下位があるということだ。

 つまり、一番上は金級上位、ということになる。


 この位階ランク分けで言うと、ラグは銀級下位、リリは銅級中位に該当する、ということだった。


「……実際には金級にも匹敵する腕を持ってるのに、勿体ない……」


「お前はたくさん稼いで菓子を大量に買い込みたいだけだろうが」


 リリが評したのをラグはそう言って茶化し、くすぐったそうに聞いているが、嘘という訳ではなさそうだ。

 さっきの戦いぶりを見る限りでも、十分な実力はありそうだったし。


「仲がいいんですね」


 私がそう言うと、二人そろって、


「腐れ縁だ」

「……腐れ縁」


 と言い切る辺り、息もあっていると言えるだろう。

 それから、ラグが私に、


「それで、姉ちゃんの方は? さっきの戦いぶりは堂に入ったもんだったが、探索者(サーチャー)には見ええねぇが」


 と私の素性についての尋ねてきた。

 これについて、私はどう答えたものか、一瞬迷う。

 なぜなら、そのまま正直に言っても全然かまわないのだが、信じてもらえるかどうか謎だし、もともと冒険者だったというのなら魔族にいい印象がないかもしれないな、とも思ったからだ。

 リリが妖魔について正しい情報を口にしていた時点で、そこまでの反感はないだろうとは思っていたが、それでも若干不安な部分はないではない。


 そんな私の逡巡をラグは敏感に感じ取ったようで、


「……いや、話したくないなら別にいいんだぜ。あんたはとりあえず、悪い人間には見えねぇし……そもそも、こんないきなり会った相手にぺらぺら素性をしゃべっちまうわけにはいかねぇってのもわかるからな」


 そう言ってくれたが、そんなラグにリリは、


「……ぺらぺらしゃべっちまった私たちの立場は一体……」


 と大げさなジェスチャーをして顔を覆った。

 ふと笑いが噴き出してしまい、感じていた緊張や不安が解けていく。


「いえ、そう言う訳ではないんですよ。ただ、詳しく言ったところで信じてもらえるかどうか分からなくて。色々と複雑な事情もありますし。とりあえずは、旅の魔法使い、というところで勘弁してもらってもいいですか?」


 もしかしたら王都までたどり着く前に話すこともあるかもしれないが、今のところはこんなところにしておくことにした。

 これに、ラグもリリも頷く。

 それからがラグが、


「旅の魔法使いか……ま、そりゃ、あんなもの即席で作っちまうくらいだもんな」


 と言い、馬車の外を見た。

 そこには、馬車を引いている、巨大な猫の姿がある。

 透明、というか、空気との境界が曖昧な、実体の薄い猫であり、つまりは私が《読み願う魔法》によって作り出した精霊ヘラスだった。

 もともと馬車を引いていた馬はどうやら私がラグたちの助太刀をする前に襲われて逃げてしまっていたようで、しばらく待っても戻ってくる様子もなかったことから、残念ながら森の中にいる魔物に食べられてしまったのだろうと思われた。

 それで、徒歩で近くの村までとりあえず行くか、という話をラグとリリが始めたので、そういうことなら自分が魔法で馬車を引ける存在を呼び出す、ということになったのである。

 まだ魔法にはそれほど慣れてはいないが、それなりに使えるようにもなってきていて、馬車を引く、くらいの簡単な命令なら精霊ヘラスにも聞いてもらえるようになってきているからこその提案だった。


 私の提案に、二人は首を傾げていたが、実際に精霊ヘラスを呼び出して見せると、驚いたような表情をしてから、納得したようで、王都まで馬車で向かうことになったわけである。

 《ヘラス》には意思があるため、御者などなくても普通に牽いてくれるので楽でいい。

 だからこそ、こんな風にのんびりと話す時間が確保できているのであった。


「あれくらいなら、そんなに難しくないですよ」


 私がそう言うと、リリが首を傾げて、


「……わたしもあんまり魔法には詳しくない……でも、他のところで見た魔法使いたちは、もっと……大変そうだった気がする……」


 そう呟いていたが、そうだろうか。

 私の周りの人たちはむしろ楽々とやっていたのだが。


 そう思ってしまう辺り、私も相当に魔国の人間になっているのかもしれない、と思った今日この頃だった。


二年ぶりに書きました……今まで申し訳ないです。

待っていた方がいるかどうかは分かりませんが、完結目指して頑張るつもりです。

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[一言] 「完結目指して頑張るつもりです。」 なにとぞ、お願いいたします。
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