合同訓練
エリアスが任務で遠方へ出かけて行った。
東側国境の結界が弱まり、
隣国アルカ国に生息する危険度Sランクの魔獣、
ヨルムンガンドが侵入したという噂が流れていた。
エリアスはその調査に行ったのだ。
……あいつ、大丈夫か。
俺はエリアスを見送ったあと、訓練を終え、部屋のベッドに寝ころびながら、エリアスを心配していた。
まぁ、あいつ自身が化け物かってくらい強いから、きっと大丈夫だろう。
しかし、あれは何だったんだ。
エリアスは旅立つ前に俺にキスしてきた。
しかも、こともあろうに、舌まで入れようとしてきやがった。
普通に、キモい。
あいつはなんだ。母親に対しても口にキスするのか?
そういう、ご家庭なのか?
だとしたら異常すぎる。
それかもしや、……あいつは何度か俺のことを好きだと言ってきた。
もしかして、本当に恋愛の意味での「好き」だったんだろうか。
でも、俺に他人から好かれる要素あるか?
……ないな。
一応魔法騎士団に所属してはいるが、魔法はあまり得意じゃないし、
剣の扱いも下手くそだし……。
しかも、背は低くて、貧弱な体型で外見的にも男らしさに欠けるし。
だめだ、自分で言ってて落ち込んできた。
こういう時は、早く寝るに限る!
俺は、羊のぬいぐるみを抱えて、数を数えだした。
羊が1匹……、羊が2匹……、羊が3匹……。
訓練の疲れもあって、すぐ眠気が襲ってくる。
羊が4匹……、羊が5匹……。
なんか、落ち着く。
この羊、エリアスの匂いがする。
いつの間にかエリアスの顔が浮かんできた。
あいつって、いつもは自信満々でクールぶってるけど、たまに、が~んって顔してるんだよな。何にショックを受けているのかわかんないけど、あれはかわいいな……。
いつの間にか、俺は、眠りについていた。
翌朝。
俺は、ぐっすり寝たせいか、昨日感じた劣等感もそこまで気にならなくなっていた。
寝るのはやっぱり元気の源だよな。
顔を洗って身支度を整えると、ピーちゃんに餌をあげ、いってくるね!と声をかけて
早朝訓練にでかけた。
「おはよ~」
いつものようにダニーが声をかけてくる。
「おはよー」
「今日は、早朝訓練からまる一日、他の隊と合同練習するらしいよ」
「え、そうなんだ。どこと?」
「第一隊、攻撃魔法部隊と」
「へー、アーノルドがいたとこだ。
エリート中のエリートとか」
俺は内心げんなりした。
優秀な奴らと一緒に訓練すると、
自分のできなさが浮き彫りになるから。
ま、仕事だ。しょうがない。
俺は腹を決めた。と、同時にふと疑問に思った。
エリアスはあんなに、段違いに強いのに、なんで、第1隊でなく第3隊なんだろ。
普通、あの実力なら、第1隊の中でもトップがとれそうなのに……。
……ま、いいか、別世界の人間の思考なんて俺にはわからない。
俺は考えるのをやめた。
早朝訓練、武器使用訓練はなんとかこなした。
武器使用訓練は、ペアを組んで、一人が木剣、一人が盾防御をする流れだったので、
俺と実力が同じくらいのダニーと組んだため、特に下手さが目立たなかった。
問題は次の魔法訓練だ。
今日の魔法訓練の内容を団長が発表した。
「得意な属性の魔法同士、第1隊、第3隊でペアを組む。
第1隊が攻撃側、第3隊が防御側だ」
まじか……、一番いやな形の訓練だ。
俺は肩を落とした。
それでも仕事だからやるしかない。
俺は風魔法を使うので、第1隊の風魔法の使い手のダンとペアを組むよう言われた。
ダンは、なんとなく知っている。
アーノルドの強さを慕っていたアーノルドより2歳下の奴だ。
だから、アーノルドと同年齢の俺とも2歳差になるが、そうは思えない風体だ。
たぶん身長、2mくらいある。
体の幅も厚みも俺の倍はある。
こいつが相手なのか……。
「よろしく~。
たしか、お前、アルバート先輩の腰ぎんちゃく……、じゃなかった、知り合いだったよな。
特別に手加減してやるよ」
にやっと笑うダンに俺は悪印象を抱いた。
なんだ、こいつ。俺、お前より先輩なんだけど。
アルバートにはペコペコしていたくせに。
絶対見た目で弱いと思っているな。
でも、そのとおりなので手加減はしてほしい。
「じゃあ、始めろ!」
団長の掛け声とともに、ダンは俺に詠唱して風刀を放った。
俺もバリアを詠唱して張る。
しかし、ダンの風刀の威力が強すぎて、俺は後ろに吹っ飛んだ。
思いっきり背中を打ち付ける。
顔にもピリッと切れたような痛みが走る。
……なんだよ、手加減するんじゃなかったのかよ。
いてて……、と俺は体を起こそうとしながら、顔に手をあてる。
すると、前髪がざっくり風刀で切れていたが血は出ておらず、かすっただけのようだ。
ああ、でも。
この気持ち悪い目が隠せない。
周りからどんびかれるんだろうな。
ダンが「わりーわりー、手加減したんだけどな」と俺を起こす手助けをしようと近づいてきた。
そして、俺と目が合うとフリーズした。
なんだよ、そんなに俺の目は気持ち悪いかよ。
ダンの顔が真っ赤になる。
そして、女性にするかのように丁寧な手つきで、俺を優しく抱き起こした。
「あの……、すみませんでした。
少し乱暴な感じになってしまって」
「……?」
俺は態度が急変したダンに戸惑う。
なんだこいつ……。
急に態度が変わったな、
なんか……、気持ち悪いぞ。
そして、俺は他にも視線を感じて、周りをみた。
第1隊のやつらが、全員こっちを目を見開いて
驚愕の表情でこっちを見ている。
そして、その顔は、一様に赤い。
なんだ?
感染力の強い伝染病に感染したのだろうか。
そして、みんなゾンビのようにじわじわとこっちに近づいてくる……。
なんだ?
なんか、なんかよくわからんけど、
……怖い。
そのとき、
「ピィ―!!!」
小鳥にしては、大きな鳴き声があたりに響いた。
おれはハッと鳴き声の方をみる。
ピーちゃんだ!
ピーちゃんは、空中から俺の目の前の地面に、フラフラと力を失うかのように墜落する。
「ピーちゃん!!」
俺は、金縛りが解けたかのように、ピーちゃんにかけよった。
ピーちゃんはけがをしているようで、赤い血が翼にべっとりとついている。
もしかして、部屋から抜け出して、猛禽類にでも襲われたのか?
俺は泣きそうになりながら、ピーちゃんをそっと両手ですくい上げる。
「ピーちゃん大丈夫か?ケガしたのか?」
「ロズ……、タスケテ……、ヤキトリハイヤダ」
そしてガクッと意識を失う。
「ピーちゃん!!必ず助けてやるからな!!」
そして、団長に向かって
「すみません、家族がけがしたので、今日は早退します!!」
と連絡し、慌てて部屋へ向かって駆け出した。
部屋に戻り、慌てて、ピーちゃんの手当をする。
血をぬぐい、どこをけがしたのか確認しようとする。
……あれ、傷はどこなんだ。
出血箇所は……、ないような……。
「ピーちゃん、どこけがしたんだろ……」
思わずポツリとつぶやいた。
ピーちゃんはそれを聞くと少しあわてたように
「ピィッー、ピィッー」
と、翼で喉を指し示し、吐くような動作をする。
「そうか、吐血したんだな……っ!!」
「ピイ、ピイ」
ピーちゃんはうんうんと頷く。
「……大変だ。
吐血ってことは、なにか重い病気にかかっているかもしれない。
獣医さんにみせないと!」
ピーちゃんはまた、慌てたように
「ピーッ!!」
とブンブン首を横に振る。
「ピーちゃん、病院に行きたくないのは分かるけど、ピーちゃんの病気を治すためだよ」
鳥かごを部屋の奥から持ち出してくると、
ピーちゃんは、何かを棚から、頭を使って押し出してきた。
小さな緑色の瓶だ。
瓶にはなにか手書きのメモがついている。
「小鳥用の滋養薬。すぐ飲ませること。エリアス」
そうか、これを飲ませればいいんだな。
俺は緑色の瓶の中身をスポイトで取り出し、
ピーちゃんの嘴に持っていくと
ピーちゃんはそれをおいしそうに飲んだ。
そして
「ロズ、アンシン、ビョウキナオッタ、ゲンキヒャクバイ!!!」
と両方の翼を広げる。
「そっか、よかった~。さすが、エリアス。天才だな。
……でもなんでこの瓶ここにあるんだろ。
あいつ、俺の部屋の中に入ったことなかったような……?」
少し疑問に思っていると、ピーちゃんが何か慌てたような様子で、
いきなり、俺の肩に止まってきた。
「ピィ、ピィ、ピィ」
そして、俺の頬にほおずりをする。
そして、そのつぶらな瞳で俺の目をじっと見つめ、小首をかしげる。
「ピィ……♡」
「かわいいっ……!!」
俺は、そのあと、いつも以上に甘えてくるピーちゃんと癒しのひと時をすごした。
きっと、体の具合が悪くなって、心細くなったんだな。
もー、ピーちゃんかわいすぎる。
――その肩の上で、ピーちゃんはほっとしたように小さく息をついた。
次の日。
あれから、ピーちゃんはすっかり回復したようだ。
部屋の中を元気に飛び回ったり、
覚えている歌(元気のマーチ~365日いつでも元気で踊りだしそう~)を
「ゲンキスギテー、カラダガオドリダシソウ、ソラモトベソウ♪」
と何度も歌っていた。
そして、なぜかチラチラとこっちを見てくる。
甘えてるのかなぁ。かわいいなぁ。
朝から餌をいつも以上に食べている。
これなら動物病院に連れて行かなくても、大丈夫そうだな。
俺はホッとした。
よかった、ピーちゃんが元気になって。
そして、俺はいつものように身支度を整え始めた。
顔を洗おうと洗面台の前に立つと、ふとそこにあった鏡が目に入った。
そこには、昨日の訓練で前髪が切れた、俺の顔が写っていた。
紫の目が見えている……。
イヤだ。
昨日は、第1隊の奴らがおれの目が露出した瞬間、
ガン見してた。
きっと「気持ち悪い目の色だ」って思われたんだろう。
重めの長い前髪で目が隠れていたから、安心していたのに。
おれは、ふーっとため息をつく。
そして、ざんばらに切れた前髪を自力でハサミで整えた。
せめて、眼鏡でもあればな。
今度の休みに町まで買いにいくか……。
それまでは、なるべく目立たないようにしよう。
重い足取りで、訓練場へ向かった。




