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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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羊のぬいぐるみ

すると、次の瞬間

ロズは後ろを向いた。


「ダニー!お前、喉によく効くシロップ持ってたよな?」


「ああ、持ってる。どうした?風邪か?」


「俺じゃなくて、エリアスがさ。

頭痛とのどの痛みがあるらしい」


「あー、じゃあ、俺、保健委員だし。

ついでに医務室連れてくわ」


「あ、ほんと?

じゃあ、よろしく。

エリアス、あんまり無理するなよ」


――ロズは去っていった。


「…………」


ロズの背中が遠ざかるのを

俺は、いつの間にか見送っていた。


「じゃ、医務室いくか?

あとで、ばあちゃん特製のシロップも届けるわ。

喉にも頭痛にも効くからさ」


ダニーが声をかけてくる。


「……もう治った。じゃあな」


ポカンとするダニーを尻目に、俺はその場をさっさと後にする。


ダニーに用はない、

ばあちゃん特製のシロップにも。


俺はすかさず、次の行動に出た。


先ほどはタイミングが悪かっだけだ。

ならば、再度、ロズの母性本能を刺激するのみ。


――その日の夜。

俺は就寝前にロズの部屋を訪れた。


ノックをすると、ロズが眠そうな顔でドアを開ける。


「……ふぁ~。どうした?」


あくびをしている。

かなり眠そうだ。


「すみません、遅くに。

全然眠れなくて……。

実は最近不眠症気味で。

新しい環境に慣れないせいかもしれません……」



俺は、甘えた声をだした。

さりげなく、「環境に慣れない」と

ホームシックを連想させるような言葉も付け加えた。


――もしかして、「一緒に寝てやる」とか言われるかも。


期待に胸を膨らませる。

もしも、そんな状況になっても、

俺は構わない。


思わず緩みそうになる表情を鉄の精神で防止する。


するとロズは、寝ぼけまなこで、「ちょっと待ってろ」というと

部屋に何かを取りにいった。

そして、おもむろに、白いなにかを俺の胸に押し付けてきた。

思わず、受け取り、見るとそれは

――羊のぬいぐるみだった。


「これ貸してやるよ」


ロズは、にこにこしている。

その表情からは、100%善意しか読み取れない。


「これ、抱っこして、羊数えたら、いつの間にか寝られるから。

じゃ、俺、眠いから寝るわ」


バタンとドアが閉められる。


「…………」


俺は数秒放心したあと、がっくりして部屋に戻った。

羊のぬいぐるみを嗅ぐと、ほんのりロズのにおいがする……。

ちょっとうれしい。

大体、ロズって、羊に似ているところあるよな。

たまに、寝坊したのか、サラサラの髪がくるんって

はねているときあるし。

しかも、なんか、草食動物っぽいというか。

うーん、今度、是非、羊の着ぐるみを着せたいな。

――じゃなくて。なんでこうなるんだ。


俺は、羊のぬいぐるみを深く吸い込みながら我に返る。

……「お母さん作戦」は失敗だ。



翌日。


どうして、こう上手くいかないんだ。


俺は、自室でジョナサンの目を通じ

ロズを眺めながら悩んでいた。


ロズは、ジョナサンを指にとまらせて

「ピーちゃんはかわいいな」

とほほ笑んでいる。


いや、ロズの方が断然かわいい。

その微笑みがまるで俺に向けられているかのように見える。


俺はロズのかわいさに悶えながら、ふと思った。


よく考えたら、俺は今まで自分からアプローチしたことがなかった。

なぜなら、モテたから。

何もしなくても、次から次に女が寄ってきていた。

それこそ幼稚舎のころから、彼女が途絶えたことはなかった。

ロズに一目ぼれするまでは。


訓練後、俺は図書室にいた。


こうなったら、恋愛経験の豊富な先人の知恵をかりよう。

俺は本棚をざっと眺める。

すると参考になりそうな本がみつかった。


「好きなひとを絶対に振り向かせられるノウハウ集~虎の巻~」


俺は本を手に取り、速読する。

いくつかノウハウが載っている。


清潔感が大事→俺は十分クリアしている。

外見を整える→これも十分すぎるほどクリアしている。

余裕がある→これも問題ない。


ポイントをチェックしていくが、すべてクリアしている。

何が問題なんだ。


すると、その時、俺は最後の項目に目をとめた。


「押してだめなら引いてみよう!

相手に対して一度引いてみると、不思議なほどに、

相手はあなたの存在をきちんと意識します。

これによって、あなたへの関心度が高まり、

恋愛相手として意識してくれます♡」


―これだ。


物事をなすには、良いと思ったことは、すぐ実行した方がいい。

善は急げ、だ。


俺は、侯爵家経由で遠方出張の任務を入れることにした。


もちろん、俺がいない間、変な虫がつかないよう、

監視役ジョナサンとの連携もキープできるようにしておく。


「ジョナサン、頼んだぞ。

他の男の影が出てきたら、俺にすぐ連絡するんだ。

それと、俺が戻るまで、妨害工作をしておくように。


あと、毎日俺からロズの姿を見せるよう依頼をした際は、

必ずロズの姿をなるべく間近で写すように」


「はいはい、わかりました」


最近、ジョナサンの態度が生意気だ。


「おい、最近調子に乗ってないか。

『はい』は1回でいい。

それと、考えるのもおぞましいが、俺が戻った時にロズに恋人ができていたりしたら、

――焼き鳥にするぞ」


ひぃっとジョナサンがおびえた。



出発の朝。

一応、俺の指導係であるロズが見送りにきてくれた。

他、隊長および第三隊の面々も見送りにくると申し出があったが丁重に断った。

せっかくのロズとの二人きりの時間を他の奴らに邪魔されたくなかったからな。

 

「先輩……、行ってきます」


俺は名残惜しそうにロズを見つめる。


ロズ攻略のためとはいえ、

会えない時間はやはり辛い。


しかし、俺は一度決めたことは最後までやる主義だ。


たとえ未来の恋人と離れることになろうとも、

この任務、必ずやり遂げてみせる。


......いや。

あまり長く離れると、

さすがに忘れられそうだな。


任務はなるべく早く終わらせて帰ってこよう。


「おう、体には気をつけてな。

危ない目……、といってもエリアスは大丈夫そうだが、

森を抜けるとき強い魔獣に遭遇することもあるかもしれない。

そんな時は、まず逃げるんだぞ」


「はい……。そうします」


俺はジーンときていた。

ロズが俺を心配してくれている。

といっても、恋人を見る目じゃなくて。

どちらかというと、息子を見守るようなお母さんのような眼差しだが。

――それはともかく。


「先輩、俺、先輩のことがやっぱり好きです」


出発前に告白をしておく。

忘れてもらっちゃ困るからな。

すると、ロズはにこっと笑いながら言った。


「そっか、俺もなんだか、

最近お前がかわいくなってきたよ」

(息子としてな……)

なんだかロズの心の声がきこえた気がした。


それよりも!

俺は切り替える。


「先輩、これ貸してもらってありがとうございました」


借りていたロズの羊のぬいぐるみを返す。


「おう。よく眠れたか?」


「はい、ぐっすりと……」


俺は、羊のぬいぐるみをロズだと思い、ここ数日裸で抱きしめて眠っていた。

返すのが少しだけ名残惜しい。

でも、俺の匂いで少しでも俺のことを思い出してもらえたら……。


「そっか、じゃ、気を付けて行けよ」


ロズが俺に手を差し出す。

俺はその手を引き寄せ、ロズの体を抱きしめた。


「おい!」


ロズが不満の声をだす。

だが、俺は無視してぎゅっと抱きしめた。


「先輩、寂しいです。

俺がいない間、他の男を近づけないでくださいね」


「なんだよ、甘えん坊だな」


ロズが笑いながら、俺の背中をポンポンと叩く。

まるで、小さい子をなだめるかのように――。

まだ、お母さんモードが消えていない。


俺は、腕を緩めてロズの手を取り、

そのまま、ロズの頬に手を当て、


――その唇を奪った。


ロズは一瞬、何が起こったかわからないようで、その大きな瞳を見開いている。


俺は、続けてロズの薄く開いた唇に舌を入れようとした。


が、さすがに我に返ったロズに

突き飛ばされた。


「なっ、何すんだよ!」


ロズの顔が真っ赤だ。

俺は笑う。


「おまじないです。

俺がいない間、変な男が近づかないように」


「…………!!!」


ロズは何か言おうとするが、言葉にならない。

いい兆候だ。

少しは意識してもらった……よな……?


「じゃ、先輩、浮気しないでくださいねー」


俺はロズに釘をさす一言を残して出発した。


俺は、その時全く知らなかった。

ロズがそのあと、唇に触れて

「ほんとに……、何なんだよ……」

とさらに顔を赤くしてつぶやいていたことに。



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