空回り
俺は策を練った。
可及的速やかに、ロズの心をつかむために、何が一番有効か――。
俺の優秀な頭脳にかかれば、おのずと答えは導き出される。
そして、俺は、作戦を立案した。
作戦その1「訓練で俺の活躍をみせる」
王道だが、有効なはずだ。
魔法騎士たるもの、能力が高いやつに、必ずあこがれの念を抱くはずだ。
それからというもの、俺は訓練の度に周囲との差を見せつけた。
しかも圧倒的に。
まず、的にそれぞれの属性から作り出した弾を命中させる訓練では、
他の奴らが、距離が遠かったり、弾の威力が足りなかったりして、
2~3弾を的にあてるのが精いっぱいな中。
俺は、20弾中、20弾、各属性の弾を的の中央に当てた。
「おぉ~っ、すごすぎる!」「天才か?!」「あんな正確にしかもあんな速いスピードで
当てる奴、初めて見た……」
周囲は、どよめいている。
(ちなみにロズは弱い威力の風弾を1弾のみ当てていた。
しかし、ロズが放った風弾は威力こそ弱いが、
ふわりとした軌道が美しかった。
……いや、今は関係ないな)
剣の模擬戦では、3人を相手にした。
まずは一人目の攻撃を受け流し、体制を崩させ、のど元に剣を突き付ける。
そのあと、同時に左右からかかってきた2人を右の剣を弾き、踏み込んで柄で顎を打った。
そして、そのまま振り返りざまに、もう一人の剣を払って軽く手首に当てた。
ものの十秒もかからなかった。
自分ながら鮮やかな試合だったと思う。
周囲はまたもや、「すげー!!早技すぎる!!!」
「今の動き、見えたか?」
「いや、見えなかった……」
「1人で3人ぶちのめすの早すぎだろ」とどよめく。
(ちなみに、ロズは1対1の試合で、十秒で剣を薙ぎ払われていた。
相手のやつめ、ロズの腕の細さを知らないのか。
いくら男だからって、痣でもできたらどうする。
あいつの名前は……、ハリーだったな。
覚えておこう。もしも、ロズの体に少しでも跡がのこっていたら
――異動させるしかないな)
また、詠唱して魔法を出現させる授業では、他のみんなが、詠唱の文句を思い出したり、正しい発音をしたり、魔力を練り上げたりするのに四苦八苦していた。
そんな中、俺は無詠唱で魔法を出現させた。
周囲はまたまた、「今、無詠唱じゃなかったか?!」「すごっ、魔法発動まで一瞬だったな……」
「武術系だけじゃなく、魔法まで得意なのかよ……」「最早、こえーわ」などと、どよめいていた。
(ロズは、詠唱の文句を、一生懸命思い出しながら、
たどたどしく途中までは言えていたが、最後までは思い出せなかった。
でも、一生懸命な姿がかわいらしかったな。
――だめだ、どうしてもロズのことになると脱線してしまう)
他にも、圧倒的な魔力と戦闘力を何度も見せつけた。
さぁ、ロズ、俺に惚れたよな!!と思っていたら……。
なぜだろう。
最近ロズの姿をみかけない。
ロズを見つけたと思って、話しかけても、「あぁ、うん、俺、ピーちゃんに餌あげないと!」
と駆け足で去っていく。
しかも目も合わせてくれない。
(ちなみにジョナサンは、ロズの留守中に勝手に部屋の鍵を開けて、
俺の屋敷へ高級餌を食べに来ている。
だから放っておいても大丈夫なのだが)
――明らかに避けられている。
俺は、ジョナサンに理由を探るよう指令をだした。
すると、ロズが浴場で汗を流している間に、ジョナサンが通信してきた。
「あの、エリアスさま。避けられている理由……、わかりました。」
「よし、報告しろ。」
俺は息をのんだ。
まさか、ロズに恋人でも――。
「ロズ、言ってました。
『エリアスさまが強すぎて、自分とは別世界の住人だ』って」
「!!」
「『アルバートとは比べられて、自分の能力の低さを実感していたけど、
エリアスは、もはや異次元すぎて、比べる気にもならない。
仕事以外ではかかわらないでおこう。』
って」
「―――――― ッ !!!」
人間ショックをうけると、声も出ないって本当だな。
そう、俺はどこか他人事のように感じていた。
――まさか、俺の強さがロズの劣等感を刺激しすぎて、
というか超越して、関係ないと思わせてしまうなんて。
俺は、幼いころしか泣いたことないが、
今十数年ぶりに、涙が出そうだ。
…………。
いいや、泣いている場合ではない。
ロズを手に入れるという目標達成のためには、次の策を考えよう。
何事にも大事なのは、PDCAサイクルだ。
これは常識である。
今、俺がなすべきことは、
A(アクション:改善)。
ロズの劣等感を刺激した。
それが今回の敗因だ。
ロズの性質を、俺は正確に把握できていなかった。
ならば改善点は一つ。
ロズの「やさしさ」を突く。
ロズは動物に対して非常に愛情深い。
ならば、精神的に未成熟な年下に対しても、
同様に世話を焼く傾向があるはず。
つまり――
ロズの母性を刺激する。
ロズは動物=守るべき存在に弱い。
ならば俺が弱れば――。
これが最適解だ。
――作戦その2「お母さん作戦」を実行するとしよう。
ロズは少し前まで、俺が「好きです」と告白したのを、
ホームシックが原因の、
母親に対する愛情のような「好き」と思っていた。
――それを逆手にとる。
まずは、甘えて
(すごく苦手分野ではあるが)、
ロズの母性本能を刺激して、
距離を縮める。
その後
警戒心が解けたところで、振り向かせる。
――今度は完璧な作戦なはず。
翌日。
「先輩!」
俺は訓練が終わった後、ロズに声をかけた。
すると、ロズはすでに
「俺ピーちゃんに……」
と逃げる体制に入っていたので、すかさず、ロズの手を取って言った。
「先輩……。俺、頭が痛いです……」
しんどそうな表情を作り、頭を片手で押さえる。
ちらりと、ロズの顔をみると心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
空いている方の手で俺の額に手を当てる。
「熱はなさそうだけど……」
俺は内心歓喜に震えた。
ロズが俺の額に触れている。
「実は……、喉も痛いような」
さらに甘えてみる。
「そっか……。それは心配だな」
ロズは、さっきより、さらに心配そうな顔になる。
(ちなみにロズの目は、長い前髪に隠れているが
俺はロズのことを愛しているので表情を読むことができる)
――よし、かかった。
俺はこの作戦の成功を確信していた。




