恋する天才
俺は、魔法騎士団への入団が決まった後、邪魔なアルバートを追い出すことにした。
そして、家の力を使い、国外調査員にアルバートを推薦した。
国外調査員は、各周辺国を放浪させ、情報を入手し、国に報告する隠密行動をする任務がある。
そのため、国外調査員になったことは、家族にも秘される。
実は、
アルバートと俺は、
学生時代から面識があった。
アルバートも俺も天才枠だったため、中等部と高等部の選抜メンバーの交流会とかで顔を会わせていたからだ。
アルバートが王宮に呼ばれ、国外調査員の任命をされたとき、俺も父親の付き添いで王宮を訪れていた。
そして、王宮の廊下でアルバートに声をかけられた。
「おう、久しぶり。元気にしてたか?ちょっと話があるんだが。」
「……なんですか?」
「ここじゃ、あれだから、中庭で話すか?」
中庭で、アルバートはニカっと笑いながら言った。
「今回の推薦、お前だろ?」
「……なんのことかわかりませんが」
「今更しらばっくれんなよ。
俺は以前から、国外調査員に希望を出してた。
海外を旅して、金ももらえる。
結構人気職なんだよ。
だから、希望者が多くて、大体、強い後ろ盾があるやつから選ばれていく。
俺んちは伯爵位とは言え、そんなに力がある家じゃねぇ。
それなのに、今回急に選ばれた。
おかしいと思って調べてみたら、レーヴェンハルト侯爵家の推薦があったっていうじゃねぇか。」
「へぇ、そうなんですか?知りませんでした」
しれっと答える俺に、アルバートは笑う。
「たいしたタマだな。
まぁ、いいや、お前がくれたせっかくの機会だ。
お前の策にのってやるよ」
アルバートは俺の肩をポンポンとたたきながら、目をのぞき込んできた。
「今回のねらい……、ロズだろ?」
「……っ」
俺は、さすがに動揺して目が泳ぐ。
そんな俺を見ながらアルバートは変わらずにこやかだ。
「図星か」
「なんでわかりました?」
「お前、ちょいちょい、魔法騎士団に来てたじゃねぇか。
そして、その視線の先は
――ロズだった」
「……」
まさか、気づかれていたとは。
そうだ。
俺は、スパイ鳥を仕込むまで、ちょくちょくロズを見に魔法騎士団を訪れていた。
しかも、スパイ鳥を仕込んだ後も、たまには生ロズを拝みたいと
1か月に1回は騎士団に通っていた。
―それをアルバートに気づかれてたとは。
失敗した。
「安心しろ。
俺以外は気づいちゃいねーよ。
俺以外にロズを見ているやつなんていなかったからな。
――お前以外は」
アルバートはニヤリとした。
「お前、ロズのどこに惚れた?」
「なんで、そんなことあなたに言わなきゃいけないんですか?」
「お前にロズを託せるか判断するためだ。
おれはあいつの兄貴みたいなもんだから」
アルバートが急にまじめな顔になる。
俺は計算した。
ここは正直に話しておいた方がいい。
急に気がかわって、やっぱり国外調査員は断ると言い出しかねない。
「まずは、外見のかわいさにやられましたが、そのあと、動物に向ける優しさ、
そして、たいして報われないとわかっていながら、人一倍努力するところ・・でしょうか」
俺は見ていた。
魔法騎士団に入団した後、厳しい訓練に耐え、訓練が終わった後も
残って演習場で自主練を繰り返すロズの姿を。
そんなに頑張っても、決して一番にはなれないのに。
それでも繰り返し練習するロズを。
「人が見ていないところで努力する、その健気な姿に
心が鷲掴みにされたというか」
「――そうか、なるほどな」
アルバートはうんうんと頷く。
「よし、わかった。お前にロズを託す!」
両肩に勢いよくバシンと両手をおかれる。
「あの、痛いんですが……」
抗議する俺を全く気にせず、アルバートは続けた。
「ただ、あいつは難しいぞ」
「……どういう意味ですか?」
「あいつはな……。
あいつは、自分は能力が低いということに
絶対の自信を持っている!!」
「……は?」
「あいつは、自分に自信がないという自信がある!!!」
アルバートは胸を張った。
「……そうですか、
まぁ、見てればわかります」
「いいや、お前はわかっちゃいない。
あいつは自分に自信がないせいで、
人から向けられる愛情に対しても鈍感だ。
自分は他人から好かれるような人間でないと思っている」
「家庭環境が原因ですか?」
俺は問うた。
「なんだ、お前知ってたのか?」
「――いや、詳しくは知りません」
ロズは、下の弟妹が優秀だったせいで、親からあまり手をかけてもらえなかったと
聞いている。
魔法の能力の出現も遅かったこともあって、それまでは、家に居場所がなかったと。
「ロズがあんな風に目を隠している要因と関係がありますか?」
「そうだな」
アルバートは続ける。
「あいつの目は紫だけど、両親は普通にブラウンとブルーの瞳だ。
そのせいで、あいつの父親が母親の浮気を疑って、しばらく、夫婦仲は最悪だったらしい。
ただ、まとまった金ができて教会で神託を仰いだら、
間違いなく、夫婦の子どもだって誤解が解けて関係は修復したらしいけどな。
それがトラウマになって、あいつは目をかくすようになった。
まあ、あいつに惚れた野郎どもがあいつに構ってほしくて、いじめてたってのも原因の一つみたいだけどな」
「――いじめられてたんですか?」
「まぁ、俺がぶちのめしてたけど」
「そうですか」
俺は少し間を置いて聞いた。
「……それと、
あなたもロズが好きなんですか?」
アルバートをにらみつける。
するとアルバートは笑った。
「いや、俺は女好きだ。
男が好きってやつの気持ちはわからん。
女は至高の存在だ。
あんなに、かわいくて、ふわふわな子猫ちゃんよりヤローが好きなんて意味がわからん。
ただ、まあ、ロズはな……。
女みたいに華奢で、色白で、肌はきめ細かいし、
まつげは長いし、
目はキラッキラしてるし、
クラッとくる気持ちもわからんではない。
子供のころは、あいつを女の子と勘違いした野郎どもが惚れて告白してたぞ。
……あれは面白かった」
アルバートは思い出したようで吹き出している。
俺はロズが男どもから告白されていたというのを聞いてイラっとした。
ロズが目を隠していてよかった。
それでなかったら、他の男にモノにされていたかもしれない。
――まあ、そうなっていたとしても、奪い返すだけだが。
その時、ようやく笑い終えたアルバートがこちらへ向き直る。
「お前にロズを任せるといったが、あいつに無体を強いるようなら、お前を許さんからな」
アルバートの目は鋭い。
「そんなことになったら、地の果てからも飛んできて、お前をぶちのめす」
「そんなのわかってますよ。」
俺は迷いなく答えた。
「俺は、あの人の心からの笑顔が欲しい。
俺にあの紫の瞳で笑いかけてほしい。
だから、あの人に無理やり関係を迫ったりはしない」
俺の目を見たアルバートは、「そうか」と納得したようだった。
「ま、せいぜい頑張りな。
――難易度SSランクだけどな」
笑いながら去っていくアルバートを見ながら、俺は早々にロズを手に入れると心に誓った。
――そうだ、思い出した。
アルバートは、ロズが過去、男どもに告白されていたと言っていた。
今思い出しても、むしゃくしゃする。
そして、ロズが目を隠しだした理由はかわいそうだ。
が、しかし。
目を出していたら、他の野郎に襲われて、奪われていたかもしれないとゾッとした。
こうしてはいられない。
ロズが想像以上に鈍すぎるのは予想外だったが、なんとかして振り向かせなければ。




