すれ違い
それは武器を使った訓練を終え、午前中の魔法の訓練に移ったときだった。
余談だが、早朝訓練後、軽い朝食を終え、武器を使った訓練という一連の流れの中、
エリアスはずっと俺と一緒だった。
まぁ、俺はあいつの指導係だから一緒なのはわかるが、
別にずっと一緒でなくてもいいのに。
あいつ、俺を親鳥とでも思ってるのだろうか。
俺は目立たないのが好きなのに、目立つこいつといると
注目を浴びるから普通に嫌なんだが。
ちょっとげんなりしていると、魔法使用の模擬試合が始まった。
試合は、隊長が適当にくんだペアで1対1で行われる。
練習場が広いので、最初は6人の3組からだ。
そこで、エリアスは相手のオーウェンを火弾で一撃で倒した。
試合が始まって1分もたたないうちに。
周囲がどよめく中、隊長がエリアスに問う。
「よし、エリアスは1回5人相手にやってみよう。
お前、何属性の魔法が得意だ?」
「別に、なんでもいけます」
エリアスは淡々と返した。
「すごいな。オールマイティ型か」
隊長は、ほぉと感心する。
「それなら、各属性でやってみるか。
水属性からカール、火属性からエドモンド、風属性からサミュエル、
土属性からクラーク、光属性からジェシー。
全員、位置につけ」
名前を呼ばれた騎士たちが戦闘配置につく。
「よし、始めろ!」
団長の号令で試合が開始された。
風刃、火弾、水流、土槍、光弾。
五つの魔法が同時にエリアスへ襲いかかった。
エリアスはそれを無詠唱でバリアをはり、跳ね返した。
そして間をおかず、今度はエリアスが風魔法を放ち5人全員地面に叩きつけた。
5人とも、動く気配がない。
……あまりの攻撃威力に失神したのだ。
「よし、試合終了!」
団長が試合の終了を告げ、倒れている5人の安全を確認する。
――そして
「お前、すごいな!」
とエリアスをほめる。
試合を見ていた周囲の団員も歓声を上げ、
次々にエリアスをほめる。
「すげー。5人全員一気になんて」
「強すぎ」
「アルバート並みだよな」
「いやアルバート以上じゃないか?」
そんな中、エリアスは淡々としていた。
そして、俺の方をみた。
俺は思いっきり目をそらしてしまう。
俺の心の中には、
あぁ、天才はやっぱりすごいな、
……また力の差を見せつけられるのか
と暗い思いがよぎっていた。
その日の訓練は終わり、訓練後、各自が部屋に戻ったり、共同浴場に行ったりする中、
エリアスが話しかけてきた。
「先輩。俺の試合どうでしたか?」
「あぁ、うん、お前すげーよな。天才なんじゃね?」
「はい、よく言われます」
思わず、エリアスの目を見る。
エリアスは、ニコニコとほほ笑んでいる。
「……自分で言ってんじゃねーよ」
呆れると
「でも、先輩がほめてくれるのが一番うれしいですよ、俺は」
とエリアスが答える。
「なんで……?」
「先輩のことが好きだからにきまってるじゃないですか」
「...…っ」
なんか、俺のこと好きっていってる。
この「好き」って「隙」の方じゃないよな……?
「それって、隙間の隙……?」
「何言ってるんですか?
それだと意味が通らないでしょ。
もうとぼけるのはなしにしてください。」
にっこり微笑みながらも、なんだか圧を感じる……。俺は震えた。
「……お前、人のことからかうんじゃねーよ。第一俺男だし。」
なんとか声を振り絞り、反発すると、
「今の世の中、男だとか女だとか関係ないでしょ。俺は、先輩のことが恋愛の意味で好きです」
「…………」
俺は、頭がフリーズした。
もう、完全に脳が思考を停止した。
こういうときにとる方法はひとつしかない。
「おれ、ピーちゃんに餌やらないと……!」
俺はその場を走って逃走した。
部屋に駆け込み俺は、部屋に念のためカギをかけた。
小鳥のピーちゃんが、「ロズ、オカエリ~」と言いながら、肩にとまってくる。
俺は、ピーちゃんの頭やのどを指でなでながら、
「ピーちゃん、癒されるよ~」
と目を細めた。
ピーちゃんは、俺の頬に頭をこすりつけながら
ピュルピュルと甘えた声を出す。
あー、マジで癒される。
俺のHPは30/100くらい回復した。
ピーちゃんに餌をやりながら、俺はピーちゃんに愚痴っていた。
「ピーちゃん、俺、なんか、後輩に告白されたんだけど。
どうしたらいいかわかんないんだよね。
第一告ってきたの男だし。
なんか、俺、女の子じゃなくて男にしか告白されたことないんだけど。
なんでかな~。
男らしくないのかな?」
ピィちゃんは小首をかしげて「ピ?」と鳴く。
かわいい。
俺が、ベッドに腰かけるとピィちゃんは、餌場からパタパタと飛んできてまた肩に止まった。
「……俺、あいつ勘違いしてると思うんだよね。
だって、まだ会って、そんなに経ってないというか、実際話し出して2日目だし。
ホームシックかなんかで、俺、お母さんポジションなんじゃないぁ?
……。
…………。
…………………!!!」
おれは、手をうった。そうだ!きっとそうだ!!
俺ってすごい、ひらめきの天才なんじゃない?
あいつは、家族と離れた寂しさから、俺に母親的な愛情を求めているんだ。
それを異性(同性だけど)相手の恋愛と勘違いしているんだ……!!
ふっ、天才とかなんとかいっても、中身は子供なんだな。
「俺は、あいつのお母さんなんだ!!」
「ピーちゃん、絶対そうだよね!」
ピーちゃんを喜びの目で見て言うと、ピーちゃんも「ピィピィ!」と同意してくれているようだ。
あー、なんだ、心配して損した。
俺は、安心して、鼻歌を歌いながら浴場に汗を流しに行った。
「なんでそうなる!!!」
俺は、自室で叫んでいた。俺はエリアス・レーヴェンハルト。天才だ。
そして。
いずれロズ・エルヴェインの夫となる男だ。
俺とロズの出会いは4年前。俺が中等部2年の時だ。
季節は春。ちょうど高等部3年生が卒業する時期だった。
俺は放課後、魔獣舎でたまたまロズと出会った。
ロズはちょっとした有名人だった。
魔力が遅れて出現して、高等部2年の終わりに、魔力専門科へ普通科から移ったからだ。
でも、その能力は極めて平凡という噂で俺は全く歯牙にもかけていなかった。
ただし、あの、運命の出会いの時。
俺は、初めてあんな美しい人間に出会った。
あの美しい紫の目。
そして、よく見ると、体も華奢で背も低くて、まるでかわいい女の子のようだった。
そして、魔獣と触れ合うときの無邪気な笑顔、
暗くてほとんど笑わないやつって周囲から言われてたが、
天使かと見紛うばかりの無垢さ、可憐さ。
――俺は、一目で恋に落ちた。
そこから俺は速やかに行動に移した。
まず、ロズ自身のことを詳しく知らねばならない
。
俺の実家は伯爵家で隠密部隊が存在している。
俺は隠密部隊を使って、ロズの生い立ち、周囲の人間関係などを調べた。
その結果、かわいそうなことに、ロズは両親の愛情に飢えて育ったこと、
アルバートという天才(俺ほどではないが)の幼馴染がいて、卒業後の進路も魔法騎士団で一緒になること、
アルバートはロズにとって心を許せる存在でありながら、同時に両親に激しく比較されたことから、劣等感を抱いていることをしった。
俺は、アルバートに対して、「こいつ……、邪魔だな……」と思ったが、
ロズの精神的な支えでもあることから、しばらく様子をみることにした。
それと、好きな人のことは、常に知っておきたいものだ。
今は一緒にいられないが、姿は毎日見たい。
俺はスパイを仕込むことにした。
ロズは動物が好きだ。
傷ついた動物をほっておくことなどできない。
俺は、使役魔獣として家で訓練していた魔鳥を使うことにした。
こいつは小鳥だが、知能が猿以上にあり、人語を操ることができる。
名前は「ジョナサン」だ。
魔力を有しており、その目に写るものは、この通信鏡に映るという能力がある。
ちなみに鳥の耳で聞いた音も通信鏡から流れる。
ある雨の日、ロズの寮の部屋の窓から、ジョナサンを傷ついた羽をかばうようにして侵入させた。
ちなみに、全然けがはしてない。
血は絵具、そしてあとはジョナサンの演技力でいかにも重傷を負ってますという印象を与えさせた。
ロズは、ジョナサンを見ると青ざめて、手当をし、治ると自然に戻そうとしたが、
懐いて飼い主の元を離れない小鳥のふりをジョナサンにさせ、まんまとロズの部屋に住みつかせることに成功した。
そこからは、毎日、かわいいロズの姿を堪能している。
警戒されるといけないので、ジョナサンは魔鳥でなく、言葉をいくつか覚えられる普通の小鳥というふりをさせている。
ロズはジョナサンに「ピーちゃん」という平凡な名前をつけ、なんの疑問も抱かずかわいがっている。
ジョナサンの目に映る、ロズのかわいい寝顔、
前髪の隙間から覗く寝起きの眠たげな眼、
そして、着替えるときにのぞく白いきめ細やかな肌、
俺はそれらを眺め、ロズを手に入れる日を指折り数えて待っていた。
それなのに。それなのに……、なんだこの事態は。
想定外だ。
俺の想いがすぐに通じない可能性も考えていたが
(同性婚に寛容な国とはいえ、貴族レベルになるとまだ反発がある)、
よりによって「お母さん」だと……?!
なんでそんなに鈍いんだ!!
俺は震えた。
まぁ、いい……。
どのみち結末は決まっている。
それにしても、さっき聞き捨てならないことをきいたな。
「女の子じゃなくて男にしか告白されたことないんだけど」だと。
それを聞いて、俺は思い出した。
アルバートとの会話を。




