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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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番外編6-杯中の蛇影

「ロズ……、相談したいことがあるんだけど」


肩をおとしたダニーが訓練後ロズに話しかけてきた。


ダニーの眼の下には青黒いクマが刻まれている。


「んー、いいけど。どうしたの?深刻そうだね」


ロズが心配するとダニーは深いため息をついた。


「そうなんだ。悩みすぎて夜も寝られなくて」


「そっか……、もしあれなら羊のぬいぐるみ貸すけど。



 エリアスに以前貸したらぐっすり寝られたって言ってたし」


ロズは、以前エリアスに貸して、安眠に一役買った羊のぬいぐるみを貸し出す

ことを提案した。


実は、エリアスはロズを口説くために寝られないふりをしただけで、実際は睡眠不足

でなく、しかも借りたぬいぐるみを裸でだきしめて、ロズとの間接抱擁を楽しんだ

挙句、自身の匂いをつけて、ロズに自分を思い出させようとしたことなど、ロズは露ほども知らない。


「いや、いいや……。なんか別の用途に使われてそうだし」


ダニーがぼそりとつぶやく。


「ん?」


ロズは聞こえず聞き返すが、ダニーはスルーした。


「それよりも、話をきいてほしい。そういえば、今日はエリアスは?

 いつも訓練後、べったりくっついてるのに」


ダニーの疑問にロズはひょうひょうと答える。


「今日は、なんか実家に呼び出されたかなんかで、泊りがけで行ってくるらしい。

 だから、話ゆっくり聞けるよ」


「あー、そうなんだ。そっか」


ダニーは、そういえばエリアスは今日訓練中イライラして、練習相手を遠慮なくやっ

ていたなぁ、そのせいかと今日の訓練を思い出し遠い目になった。


「とりあえず、俺の部屋にきてほしい」


ダニーのお願いに、「わかった、じゃあ、シャワー浴びたあと行くわ」

とロズは了承した。


ダニーの部屋を訪れると、ダニーがハーブティーをだしてきた。

ソファーとベッドにはおそろいのキルトカバーがかけられている。

ロズはダニーにうながされソファーに座り、ダニーは真向かいのベッドに腰かけた。


「なんか、落ち着くな~。お前の部屋。田舎のおばあちゃん家に遊びにきたって感じ」


ロズの言葉にダニーがうなずく。


「ああ、だって、このベッド、ソファーカバーとハーブティー、全部ばあちゃんの手作りだから」


「あぁ、ミセスマーブルの……」


ロズの頭に、ザ・おばあちゃんって感じの保健室の看護師が思い出される。

きっと、このカバーとハーブティーにはダニーへの愛情がたっぷりつまっているのだろう。


「ところで、悩みって?」


ロズが切り出すとダニーははぁ~とため息をついた。


「実はさ。俺、以前、魔法学園にいたとき付き合っていた女子がいたわけ。で、結局魔法騎士団に入った後、すれ違いで別れたんだけど」


「そっか」


ロズがうなずくと、ダニーは一口ハーブティーを飲んでつづけた。


「名前はルーシーっていうんだけど。そのルーシーが最近よりを戻したいって言って  きて。でも、俺、別に今恋愛する気ないし、その子束縛系だから、断ったんだよ」


「うん」


「そしたら、毎日大量の手紙が届くようになって。見てこれ。1か月でこの量だぜ」


ダニーが大きめの段ボールにぎっしり詰まった手紙の束をとりだした。


「なんかすごく重さを感じるね……。物理的、精神的ともに」


「だろ、正直こわくなってさ。中身もみてよ。私とよりを戻さないと絶対後悔する。

毎日、神に祈りをささげてる。これを持っていると、私の愛がわかるはずだとかいう

手紙とともに封筒にあやしげな人形やら髪の毛でつくったブレスレットとか入ってるんだ……」


「なるほど……。それはこわすぎる」


「だろ?俺、会ってもう無理って何度も言ったんだ。でもその子、わかったって言って一旦帰るのに、翌朝記憶喪失になるのか、やっぱりあなたしかいない、つきあってくれって言ってくるんだ」


ダニーがベッドに仰向けに倒れる。


「もー、どうしたらいいのか!!」


「う~ん」


ロズはハーブティーを飲みながら思案する。


「とりあえず、手紙でも書いてみたら?」


「え?」


ダニーが不思議そうな顔になる。


「その子、口で言ってもわからないんでしょ?しかも自分は手紙で想いを伝えてくる。

だったら、手紙の方が気持ちが伝わりやすいんじゃ?」


「……一理あるかも」


ダニーがうなずいた。


「よし、じゃ、早速手紙をかいてみるよ。出来上がったら、みてみてくれないかな?」


「わかった。がんばって、ダニー」


急にやる気をだして机にむかったダニーを見て、ロズは部屋に戻った。


(しかし、エリアス以上にやばいヤツがいるんだなぁ)

心の中で独り言をいいながら、部屋でピーちゃんに餌をやり、勉強後、寝る支度をしていると、部屋のドアをノックする音がした。

ドアを開けると、そこにはダニーがいた。


「どうしたの?」


ロズがたずねると、ダニーが手紙を差し出す。


「これ、ルーシーに向けた別れの手紙、内容チェックしてほしい」


「え、もうできあがったんだ?」

手紙を受け取りながらロズはダニーを安心させるようほほ笑んだ。


「わかった、じゃ、明日の朝までにみてみるね」


「よろしくお願いします!はぁ~、今夜は少しはゆっくり寝られそう」


安心した様子で部屋に戻っていくダニーの後ろ姿を見送り、

ロズは部屋でダニーの手紙を読み始めた。



拝啓


君のいいたいことはよくわかった。

僕に向けてくれる愛情も、すごく伝わってきた。

こんなに愛してくれてありがとう。

君が言うように、君ほど僕を愛してくれる人はいないかもしれない。


でも。本当にごめんなさい。

僕には君の愛情が重すぎるんです。

重すぎて、つぶされそうになっているんです。

君が僕にむけてくる愛情がこわい。もはや執着通り越して呪いのように

感じる時もある。


今まで、色々あったね。

君と過ごした時の中で本当に楽しい時もあった。

でも、もうそれは過ぎてしまった時間だ。

ここら辺が潮時だと思う。

僕の気持ちは君にはない。

全く、これっぽっちもない。


むしろ、申し訳ない。嫌い通り越して怖いんだ。君の愛情が。

金輪際君の姿はみたくない。


君を傷つけてしまったかもしれないね。

でも、未練を残させることがないように、ここはあえてはっきり

言わせてほしい。

君とはもう人生が交わることは、ない。

理解してくれ。



手紙を読み終えたロズは


「別れたいという気持ちは伝わりそうだけど……、相手が逆上しないかな? 」


と心配しつつ、明日、ダニーにそれを伝えることにして、部屋の明かりをけして床に

ついた。


そして、まどろみながら心の中で


「エリアス、実家どうだったかな……。おやすみ、エリアス」


と恋人のエリアスのことを気にかけながら眠りに落ちていったのだった。


――深夜。


ロズの部屋のドアがキィと開いた。

ん?と片目を開けたピーちゃん(ジョナサン)が見たのはそっと部屋に入ってくるエリアスだった。


ピーちゃんは、エリアスの側に飛んでいき、小声で話す。


「どうされました?今日は帰ってこないはずでは」


「ロズの顔がみたくて、切り上げて帰ってきたんだ」


エリアスは外套をかけると、ロズの寝顔をみて愛しそうにほほえむ。


「あぁ、やっぱり帰ってきて正解だった。

 本当に愛らしい。

 この顔を見ずに眠りにつくなんて、最早ありえない」


ピーちゃんは、いつものことか……とあきれ顔になりながら、


「すみません、わたくしめはもう寝ますね」


と言って、巣箱にはいって行った。


しばらく、ロズの寝顔をながめていたエリアスはふと、テーブルの上に乗せられた手紙に気づいた。

エリアスは躊躇なく、その手紙を手に取り目を通す。


手紙を読み終えた後、エリアスの表情は無となっていた。

そして、すばやく行動を起こす。

異変を感じたピーちゃんが、巣箱から顔を出すと、部屋は誰もいなくなっていた。



◇◇◇


翌朝。


朝をつげる小鳥の声と部屋に差し込む日の光に目が覚めたロズは、そこが自分の部屋でないことにすぐ気づいた。


体を起こそうとして、左足が引っ張られ、鎖につながれていることを理解する。


「なんか、以前にもこんなことあったな……」


朝から、どっと疲れを感じながら、ロズはとりあえず、上半身をベッドの上で起こした。


「おはようございます」


部屋のドアがひらき、エリアスが入ってくる。その表情はにこやかだ。

しかし、目の奥は笑っていない。


挿絵(By みてみん)


「朝ごはん、用意させましょうか?」


エリアスの言葉に、ロズは淡々といった。


「……朝食はあとでいい。それより、今度はなんだ?」


「なんだといいますと……?」


「なんかあったから、俺を監禁しようとしてるんだろ?」


エリアスはふっと笑った。


「しらばっくれるんですか?俺と別れようとしておいて」


「なんのことだ?」


「手紙、読みました。別れの手紙、書いてましたよね。ショックで死ぬかと思いまし  た」


「……手紙?」


ロズは一瞬怪訝そうな顔をし、あっと手を打った。


「もしかして、お前、あれ見たのか?テーブルの上にあった手紙」


「そうですが……」


ロズの様子に、エリアスもいぶかしむような顔になる。


「あれは、お前宛の手紙じゃない。書いたのも俺じゃない」


「え……」


「あれは、他の人から預かったものだ。勝手にみるなよ」


むすっとしたロズにエリアスが問いかけようとすると、ドアをノックする音がした。


エリアスがドアをあけると、黒づくめでマスクをした男がたっており、そのままエリアスに耳打ちをする。

すると、エリアスの顔がみるみるうちに青くなった。


「それは間違いないんだな」


「はい」


「わかった。さがってよい」


「はっ」


黒づくめの男が去った後、エリアスがロズに向き直った。


「ロズ……」


エリアスは気まずそうにうつむいている。


「なんだ?」


「すみません、俺がひどい誤解をしていたみたいです」


ロズははぁーっとため息ついた。


「そうだな」


「本当にすみません。許してください」


「……」


無言になるロズの側でエリアスはひざまずきロズの手をとる。

そして涙目で許しを乞うた。


ロズは、エリアスの眼をみると

やれやれという顔になった。


「もー、しょうがないな。お前、俺のことそんなに信じられないの?」


「すみません、あなたが魅力的すぎて不安になるんです。あなたが信じられないというより、あなたのことに関してだけは自分に自信がなくて」


ロズは、その華奢な腕でたくましいエリアスの体を抱き寄せる。


「俺、お前のこと好きだって言ったろ。信じろよ」


「はい、もう疑いません……たぶん」


エリアスの言葉にロズは、笑った。


「正直だな。たぶんか」


「ええ。あなたのことが好きすぎてどうしても」


エリアスがロズの腕をとり、そのままゆっくりとベッドにその体を横たえていく。


「ですから、このまま愛の証明をさせてください」

エリアスがその唇をロズのそれに触れさせようとしたとき、


ロズはエリアスの唇を手で覆った。


「……ロズ?」


目をまるくするエリアスにロズはにっこりと告げた。


「俺を疑った罰。1週間はしないから」


「えっ」


顔を青くするエリアスにロズはさらに続けた。


「あと、寝室も別ね。お前、自分の部屋で寝ろよ」


「うそ……」


青くなるエリアスにロズはにこやかに告げた。


「さっ、じゃあ、とっとと俺を寮に戻して。早くしないと2週間にするかも」


その後エリアスが無言で迅速に動いたのは言うまでもない。


ダニーはその後ルーシーと無事に別れられたそうだ。


手紙をロズの機転でエリアスにもっていかせたら、彼女はあっさりとエリアスに恋に落ちたらしい。


でも、まあ、エリアスがルーシーとどうこうなるはずもなく、彼女は傷心の旅に出たそうだ。


その後、事態が解決して、ロズに感謝したダニーがミセスマーブルの新しい手作りのキルトベッドカバーをプレゼントし、ロズはそれを愛用している。


エリアスが


「なんか、それが引いてあると、ムードが……。なんか、親や身内の前で愛をかわしているみたいで、嫌なんですけど……」


と顔をひきつらせているのをみて、ロズはお腹をかかえて笑ったのだった。



あと一話番外編を明日投稿したら完結です。

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