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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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24/26

番外編5-夫婦喧嘩はいぬもくわない

監禁シーンがありますので、苦手な方はご注意ください。



「手出したらわかってますよね。死ぬより恐ろしいことになりますよ」


エリアスの冷徹な雰囲気にダニーは硬直した。額に嫌な汗が浮かぶ。


「…そんなことしないよ。俺、ロズとは友達だし。わかってるだろ」


ダニーが反論するとエリアスはにっこりと笑う。


「ええ。わかってますよ。ただ、ロズの眼は魔性なので。万が一ということがありますから」


まぁ、わかるけど。ダニーは親友ロズのうるうるした綺麗な瞳を思い出す。

あれにやられた第1隊の集団アプローチ事件も記憶に新しい。

隣国のヴェルグラード陰謀騒動が終結した後、第1隊の奴らがロズにまた近づく前に

エリアスが権力と実力をもって牽制し、そのあとロズに近づくやつはいなくなったが。

遠い目をしていると、エリアスが再度釘をさす。


「ともかく。2週間、ロズをよろしくお願いしますね。妙な真似をしたら、すぐわかりますから」


にっこり笑うエリアスの眼の奥は全く笑っていない。

ぞっとしながらも、ダニーは


「もう、わかったから。早くそっちはそっちで解決してくれよ」と返すと、エリアスは、目に見えて暗い顔になった。


 騎士団は年に数回まとまった休暇がある。今回、第2隊も夏季の2週間の休みがもらえることになった。休みの間、宿舎が業者による清掃が入ることもあり大抵みんな実家に里帰りをする。

 ダニーも実家に里帰りを予定していた。実家は子爵家とはいえ、あまり裕福な家というわけではなく、田舎の領地を有しているが、領民と一緒に、普通に家畜の世話や農業に精をだすという庶民的な感じだった。とはいえ、みんな家族仲が良く、ダニーも年の離れたかわいい弟妹に久しぶりに会うのを楽しみにしていたのだが……。


 休みがあと3日後にせまった訓練後の自室で、ダニーは荷造りをしていた。

弟妹に町で買ったお土産のお菓子や人形をスーツケースに詰めながら、家族の喜ぶ顔を思い浮かべうきうきしていると、ドアをノックする音がする。

 

ドアを開けると、そこには、涙で目をはらしたロズがいた。


「ロズ、どうしたんだ?」


驚きながらも部屋に入れ、椅子をすすめながらきくと、ロズは

涙を流しながら口を開く。


「ごめん、ダニー。本当迷惑だと思うんだけど、休暇の間、実家に泊めてくれないか?」

ダニーはきょとんとした。


「え、休暇中、実家は親御さんたちとの関係がうまくいってないから、エリアスの実家に泊まるんだろ?」


エリアスがロズと一緒に実家で休暇を過ごすことになったと、嬉々としていたのは数日前の話だ。普段、クールなエリアスが浮かれていたので、嵐にでもなるんじゃないかと周囲から噂されていた。

 

「それが……」


ロズの頬を涙が伝う。

話をきいてみると、経緯はこうだった。

 

エリアスの実家で友人としてロズは過ごす予定だったが、エリアスはそうではなかった。自身の恋人として、そして将来の伴侶として、家族に紹介する予定だったというのだ。

しかも、エリアスは、ロズに何やら大きいサファイヤの指輪を送り(おそらくエリアスの瞳の色をイメージしている)、プロポーズまでしてきた。

 

「それで、お前はなんて答えたの?」


尋ねるとロズは唇を震わせた。


「エリアスは、侯爵家の跡取りだ。もちろん跡継ぎも期待されている。そんな状況で俺が伴侶になれるわけない」


「え、じゃあ、エリアスとの将来はどう考えていたんだ?」


「あまり、想像していなかったけど、俺はなるべく早くお金をためて、老後資金がたまったら田舎で動物に囲まれてのんびり暮らそうと思ってた。そして、エリアスとは、週1くらいで会えたらいいなと……」


あぁ……、ダニーは頭を抱えた。なんとなく、そのあとの修羅場が想像できる。


「それで、お前はそれをエリアスに伝えたと」


「うん。そうしたら、エリアスが怒りだして……」


ロズに詳しく聞くと、エリアスは、体を震わせながら、


「どうしてですか……俺は、あなたのことしか考えてないのに」


「家のことはなんとかなります。親戚の子を養子にとればいい。そんなことよりも、俺はあなたに側にいてほしい。伴侶として隣に立っていてほしいんです」


「週1?!会うの週1回ですか!?なんてことだ。あなたはそれでいいんですか?

俺は1日たりとも会えない日があるなんて耐えられない」


などといって、ロズを責めてきたというのだ。


「それでロズはそれになんて返したんだ?」


尋ねると


「俺は……、『ごめん、お前のことは好きだけど、今は結婚とかちょっと考えられない。

正直、お前の家の家格は俺には重すぎるし、つりあってもない。

ちょっと距離を置いて考えたい。休暇中は誰か別の友達のところに泊まる』って返した」


「なるほど……、それで俺の実家に泊まらせてくれと」

ダニーは渋い顔をした。

「あぁ。だめか?」


ロズは申し訳なさそうだ。

正直、だめではない。

実家も大邸宅ではないが、余ってる客室はいくつかある。

それに家族も、賑やかなのが好きだからロズを連れて帰ったらたぶん歓迎してくれる。


でも……、ダニーは背筋がぞくっとした。

あいつが……、エリアスがどんな反応をするか。

俺、殺されるんじゃない?嫉妬で。


「ちなみにアルバートのところとかは?」


ダニーが尋ねるとロズは顔を曇らせた。


「アルバートの家は俺の実家のすぐ近くなんだ。だから、実家に帰らずアルバートの家に2週間も滞在するのは不自然というか」


あー、それはダメだ、確かに不自然だし、近所からも格好の噂の餌食にされるだろう。


「……正直迷惑だよね。ごめん、急に。だめだったら、全然大丈夫。ミュールさんが、この間遊びにこいっていってくれていたから、ミュールさんのところあたってみる」


あ……、それ絶対ダメなやつ。


俺は遠い目をした。

人型になったドラゴンのミュールは、身長2mのイケメンだ。

たびたび、ロズの休みに遊びにくるが、そのたびにエリアスが嫉妬と、ロズを奪われないかひやひやしているのを俺は目にしている。

そこに泊まりで遊びにいくといったら、エリアスがどうなるか。

多分、ロズは無事ではいられないだろう。


そして、泊まるのを断った俺の方にも怒りの矛先が向けられるのは自明の理だ。


「……ロズ、うちに泊まれよ。歓迎する。家族も人がくるの好きだし、部屋も余ってるしさ」

「いいの?」


ロズが期待して目がうるんでいる。


挿絵(By みてみん)


「もちろん!ただし、エリアスにはちゃんと説明しとけよ。友達の、あくまで友達のダニーのうちに、ロズから頼んだから泊まることになったって」


俺は、「友達」と「ロズから頼んだ」を強調して、エリアスに伝えるよう言った。


それで今冒頭のシーンに戻る。

エリアスは俺に牽制しながらも、俺が早くロズと仲直りするよう言うと、力なく肩をおとしていた。

 

 うーん、エリアスもロズに俺の家への滞在を考え直してくれるよう何度か頼んでいたみたいだけど、断られてたみたいだもんな。ロズ、ああみえて、頑固だから……。

知らないけど、まあ、そのうち仲直りするだろ。俺は、じゃあなとその場を後にした。


 さて、ロズがうちに来て1週間がたった。


ロズの登場に最初緊張していた弟のマックスと妹のスージーはみるみるうちに、ロズに打ち解け、一緒に釣りに行ったり、お菓子作りをしたりと楽しく過ごしていた。

しかも家の羊や馬や犬や猫がみんなロズに寄って行くものだから、家族みんな目を丸くしていて、ロズ自身は「こんな暮らしもいいなぁ」とニコニコしていた。


両親も、人懐っこく礼儀正しいロズに好感をもっており、「騎士団やめたらうちにきたら」なんて誘っていたくらいだ。

その様子をみて、ロズが連れてきた小鳥のピーちゃんは、「ドウシヨウ、ドウシヨウ」と謎にバタバタしていたけど。


それから2日。いつものように、マックスとスージーがロズを遊びに誘い、俺はランチボックスと釣り竿をもって、近くの湖にピクニック来ていた。

 

俺、スージー、ロズ、マックスと横一列で並びで湖で釣り竿を垂らす。

ふと空を見上げると、青い空に白い綿雲がぽっかり浮かんでいる。

近くの森からは小鳥の声が聞こえ、平和だなぁと俺はのんびりとした午前中を楽しんでいた。

すると、横のスージーが顔を赤らめて、ロズに言った。


「ロズお兄ちゃん、私、お兄ちゃんが好きになっちゃった。

大きくなったら、お嫁さんにしてくれる?」


その瞬間、辺りが急に暗くなったような気がした。

気温が一気にマイナスまで下がったように悪寒がする。

後ろを振り向くと、そこには、顔をひきつらせたエリアスが立っていた。


「悪いですが、ロズは私と結婚することが決まってます」


……あぁ、平和な朝が終わりを告げた。

俺は悪くないけど、なんか、死刑台の前に立っているかのような恐怖感が胸に押し寄せる。


「エリアス……!」


ロズが驚く。

すると、エリアスがロズの方をみて冷たく微笑んだ。


「お久しぶりです。ロズ。まるで、1週間が1年のように感じましたよ」


そして、おもむろにロズを抱きかかえる。

驚いて、抵抗するロズにエリアスは「……すみません」と一言つぶやく。

その声はやけに静かだった。


その瞬間エリアスはロズのうなじに手刀を入れた。

ロズは意識を失い、手足がだらんと下におちる。


「おい……!」


驚愕する俺に、エリアスは平然と


「1週間あまり、ロズがお世話になりました。あとは俺が引き受けます」

と告げ、側に置いていた馬にロズをのせ自身もひらりとまたがると

その場を風のように去っていった。

あっという間の出来事すぎて、俺はただ見送ることしかできなかった。

その後どうなったか俺が知るのはずっと後になる。


◇◇◇


 目が覚めたら、そこはベッドの上だった。

天蓋付きのキングサイズのベッドだ。俺は見覚えがなく、「ここ、どこ」とつぶやく。


「ここは俺の家です」


視線を横にやると、エリアスがベッドサイドに立っている。


挿絵(By みてみん)


「正確にいうと、別荘の一つですよ、ロズ」


エリアスは静かに微笑んでいるがその表情は暗い。

どこか泣きそうな表情にも見える。


「なんで俺をここに?」


上半身を起こして、尋ねるとエリアスはふっと笑った。


「ダニーの家での一週間はずいぶん楽しそうでしたね。俺はあなたがいなくて、毎日寂しくて死にそうだったのに」


「ピーちゃんの目を通してみてたのか?」


「ええ、もちろん。ジョナサンを連れて行った時点であなたも想定していたでしょう?」


確かに俺は、見られるであろうことを想定したうえでピーちゃんを連れて行っていた。

ただそれは、俺がエリアスが心配する浮気なんかしていないと証明するという意図もあってのことだ。


「俺は、別に何もお前を裏切るようなことはしてない。

 なんで、そんなに怒ってるんだ?」


「なんで怒ってる?」


エリアスがフーッと深いため息をついた。


「俺は、あなたに1日も会わない日があると、孤独で……つらい。

それなのに、あなたは、プロポーズも断った挙句、友人のところで毎日幸せそうに過ごしている。

正直、俺がいなくても、あなたは幸せなんだと。

あなたの幸せに俺は必ずしもいなくていいんだと知らしめさせられました」

エリアスの影が一段と濃くなる。


空気がじっとりして……重い。

俺は息苦しさを感じた。


俺が黙っているとエリアスは泣きそうな顔でほほ笑んだ。


「……否定しないんですね」

して、俺の肩と腕をつかみベッドの上にゆっくりと押し倒すと、自身のそれを俺の唇に押し付けてきた。そしてそれは徐々に深くなっていく。


「……っ。やめっ」


俺が抵抗すると、エリアスはぞっとするような声で耳元でささやく。


「やめません。俺がいないとダメだって体から教えることにしました。どうか、俺を受け入れてください」


俺は、その言葉に驚いてエリアスの眼をみた。

エリアスの眼尻には涙が浮かんでいる。

そして、その目には不安があふれていた。

あぁ、エリアス、お前不安だったんだな。――俺がお前を不安にさせてたんだな。

でも……ずるいな、そんな顔するなよ。断れなくなるじゃんか。


俺はそのまま、エリアスを受け入れることにした。体の力を抜くと、エリアスはふっと微笑み、俺のまぶたに口づけを落とす。そして、夜は更けていった。


◇ ◇ ◇

 気が付いたときは朝だった。今何時だろ……。

俺はぼんやりと周囲をみわたした。エリアスはいつの間にかいなくなっている。

体を起こすと、体のあちこちが痛んだ。

 

昨日は、あれから、エリアスは自身の寂しさを訴えるかのように、何度も俺の体を攻め立てた。最後に俺が気を失うまで、しつこく己の激情をぶつけてきた。

 

俺は、それに、エリアスがいかに不安を感じていたか思い知った気がした。

俺も、エリアスを愛してはいるけど……、気持ちの強さをまざまざと感じさせられた。


 「――気が付きましたか?」


みると、エリアスが水のはいったグラスを持って立っていた。


「喉がかわいたでしょう?昨日は、かわいい声をたくさんあげてくれましたから」


俺は恥ずかしさで頬がカッと熱くなるのを感じた。


「いいから、水ちょうだい」

手を差し出すと、エリアスは、俺の手をとり、もう片方の手で、グラスから水を口に含み俺に口づけ水を俺の喉に流し込む。


「――っ」


いきなりでびっくりしつつも、俺はそれを呑み込んだ。


「お腹がすいたでしょう?今、食事を運ばせますから」


エリアスが腰をあげようとする。


「いいよ、お腹はすいてない。それよりもー」


俺は、エリアスの眼を見る。


「話をしないか?俺たち、気持ちがすれ違っている気がする」


「どうして?」


エリアスが、冷たい目をむける。


「話したところで、気持ちが変わるんですか?俺のプロポーズを受け入れるとでも?」


「それは……」


俺が言いよどむとエリアスは悲しそうな色をその瞳に写した。


「――無理ですよね。今は」


そうして、食事を支度するよう伝えてくると部屋を出ていった。


◇ ◇ ◇


俺は、どうしたらいいんだろう。

途方に暮れた。

プロポーズを受け入れないと、あいつは、不安なのか?

でも、侯爵家だぞ。しかも公爵家とのつながりも深い上位の家柄。

しかも、平民だと同性との付き合いにこの国は寛容だが、上流階級は跡継ぎの問題もあり

難しい。

エリアスと結婚するとなったら、おそらく、エリアスの家族、親戚が強く反対するだろう。

しかも、俺は目立つのが嫌だし、こわい。でも、今のままじゃエリアスが。


――だめだ、考えがまとまらない。一旦、ここを離れて宿屋にでも泊って考えをまとめよう。


 俺はエリアスが戻ってくる前に、部屋をでようとドアノブをひねった。

――開かない。


あれ、なんで。もう一度ドアノブをひねるが、回らない。

ドアをそのまま押してみたり引いてみたりしてもドアはピクリとも動かなかった。

 

すると、ガチャリという音とともにドアノブがまわり、ドアが開いた。

そこに立っていたのはエリアスだった。

 

エリアスは冷たい顔で俺を見下ろすと、静かに口を開いた。


「――無駄ですよ。中からは開きません」


「……なんで」


「外から鍵がかかる仕組みなんです。私は、あなたが、私とともに生涯を歩むと心がきまるまで、あなたを閉じ込めることにしました」


思わず背筋がぞっとした。


「俺から逃げられると思わないでくださいね」


エリアスが俺の耳元でささやく。

その表情をみると、壮絶な笑みを浮かべていた。


そこに狂気を感じた俺は、なんとかして一度ここから逃げないとと思う。

なんか、よくわからないけど、エリアスはおかしくなっている。


もしかして、これも、この紫の眼の力なのか……。

――ほんと、忌目じゃん。

俺は、自嘲した。


それから一週間。

――もう、休暇は終わったというのに、俺はエリアスに閉じ込められ戻れない。


このままだと、無断欠勤になって、魔法騎士の仕事を失ってしまう。

俺は、エリアスに訴えた。


するとエリアスは、平然と、


「どうせ、俺の伴侶になったら、仕事は辞めてもらうつもりでしたから」

と言い放つ。


そして、

「まぁ、騎士団には、ロズは重篤な病気にかかったと伝えてあります。偽の診断書も提出済みです。病気休暇扱いになってますから。安心してください」


とにこりと笑う。


「それよりもー」


エリアスは俺の頬をその手でなぞりながら、どこかうっとりした目をして俺をみる。


「俺の伴侶になる決心はつきましたか?」


「……」


俺は何も言えずに目をそらした。

そんな俺を、エリアスはため息とともに抱きしめる。


「まだ、足りませんか。毎日体にも教え込んでいるのに」


「――!!」


羞恥から顔に熱が走る。

おそらく耳まで真っ赤になっているだろう。


あれから一週間、エリアスは、毎日昼夜問わず俺を抱き続けた。

俺も騎士団の端くれだから体力はあるはずなのに、エリアスの執拗な責め苦に毎日意識を飛ばすまでそれは続いた。


その間、俺は、エリアスになんとか気持ちをわかってもらおうと、何度も話そうとしたが、おかしくなってしまったエリアスは

「話しても無駄ですから。俺と結婚すると決断してくれたら、存分に話はききますよ」

と取り付く島もない。

俺は、だんだん無気力になりつつあった。


 


――でも。一人ベッドの上で横になりながら俺はぼーっとした頭の中で思いを強くする。


……このままじゃ、だめだ。


俺も、エリアスも完全にすれ違っている。


仮に俺がエリアスと結婚すると決めたとしても

絶対この気持ちの行き違いはしこりになって、本当の意味で気持ちが通じ合わなくなる。


エリアスを狂気の檻から抜け出させないと。

……正直、怖い。でも。

なんとかしなきゃ。

俺は決意を固めた。


 

そこから、俺は、なんとか逃げ出す隙がないかうかがった。

でも、さすがというか、エリアスはなかなか隙をみせない。

 

ドアの鍵も毎回きっちり閉まっているし、鋼鉄製だから、魔法で火弾や風弾をぶつけてもびくともしない。

 


そんな時だった。ピーちゃんが、俺の部屋にやってきたのは。


ピーちゃんは、エリアスが用事で出かけている際に、食事が運び込まれるタイミングで俺の部屋に入ってきた。

給仕係の背中にビターンとくっついて……。

なんか、蛾みたいだった。(ピーちゃんごめん)。

そして、何も気づいていない給仕係が退出するタイミングで、そこから離れ、物陰にささっと隠れた。

 (ちなみに給仕係の人は強力なバリアの腕輪をしており、俺が魔力、物理攻撃をしても効かないようになっている……まぁ、人に危害は加えたりしないけど。

あと、出入りの際も、入り口にバリアの魔法が張られていて、人は給仕係以外は通れないようになっている。)

 

給仕係の人が出て行ったあと、ピーちゃんは俺に向かって飛んできた。


「ロズーッ!久しぶりです!!お元気でしたか?会いたかったです!!」


「ピーちゃんひさしぶり!俺も会いたかったよ。あんまり元気じゃないけど」


ピーちゃんを手のひらに乗せる。

ピーちゃんは俺の頬にすりすり頭をこすりつけながら嬉しそうだ。

 

「大丈夫でしたか?エリアス様が、恐ろしい形相でロズを連れ去ってから、私も心配で。エリアス様、ロズが病気だって周囲に言ってましたが、あの方のことだから、ロズが閉じ込められてるんじゃないかって」

 

さすがピーちゃん!適格な推理!

 

「実はそうなんだ。俺、ここに閉じ込められちゃって。

 なんとか抜け出せないか考えてたんだけど」

 

ピーちゃんはハァーとため息をつく。


「やはりそうでしたか。実は、ロズが病気で騎士団に戻ってこないから、ダニー殿やアルバート殿が心配してまして。

特にダニー殿はロズがエリアス様に連れ去られるところを見てましたから」

 

そっか。ダニーやアルバートは心配してくれてたんだ。


俺は申し訳ないと思いながら心がほっこりするのを感じた。


「ごめん、ピーちゃん、俺がここにいるって、ダニーやアルバートに伝えてくれないかな?」


「もちろんですとも。そんなの私にかかればちょちょいのちょいですよ」

 

俺はふとその時思い出した。


「あ、でも大丈夫?エリアスに逆らって俺を手助けしたりしても。

 ピーちゃんってエリアスの家が使役している魔獣なんだよね?」


ピーちゃんは俺にウインクする。


「大丈夫です。私にまかせなさい!それに、私、エリアス様よりロズの方が好きですし」


「ピーちゃん……」


俺はうれしくて胸がまたあったかくなった。

俺もピーちゃんが大好きだ。

――でも、急がないと。

エリアスがいつ戻ってくるかわからない。

ピーちゃんをエリアスがいるときに外に出すのは危険だ。気づかれる可能性が高い。


俺は、側の給仕の人を呼ぶ呼び鈴をならした。


給仕の人がどうされました?とドアの外から聞いてくる。

おそらくエリアスに入退室は最低限にするように命じられているのだろう。


俺は、スープを皿に口をつけて一気に飲み干すと、おかわりが欲しいとお願いした。

給仕の人は少々お待ちくださいといった後、お替わりのスープを持ってきてくれた。

その隙にピーちゃんは、また給仕の人の背中にビターンと張り付き、外に出ていく。

出ていく瞬間、俺にウィンクをしていった。


ごめん、ピーちゃんよろしく頼む!


俺は上手くいくよう心から祈った。

 

◇ ◇ ◇


翌日。

その日は休日だった。エリアスは上機嫌で俺に朝食を運んでくる。


「ロズ。今日は一日一緒にいれますよ。朝食召し上がってください」


にっこり笑いながら俺の前に食事を並べる。

相変わらず朝食とは思えないほど豪華な料理が目の前に並ぶ。

俺はここに来て、豪華な食事が毎回だされるというのに、あまり食が進まなかった。

それは単純に外出していないせいで、お腹がすかないというのもあったが、気持ちが沈んでいたからだ。


正直今もあまり食欲ない。

でもここを脱出してエリアスと向き合うために体力をつけないとな!


俺はメラメラと闘志をもやして、食事のお祈りを手早くすませると、

カトラリーを手に取って食事を始めた。

エリアスが軽く目を見開く。


「ロズ、食欲が出てきましたか?よかった」


ほっとした笑顔をうかべるその様子に、エリアスは俺のことを心配してくれてたんだなと感じる。

まぁ、それなら、ここから早く出してほしいけど。


それから間もなくのことだった。

階下でドタドタと足音がする。

何やら言い争うような声も。

エリアスが眉をひそめて、様子を見に行こうとするのと、部屋のドアが開くのはほとんど同時だった。


「よぉ、久しぶりだな。ロズ」


そこに立っていたのはアルバートとダニーだった。


「……不法侵入ですか」


エリアスが冷たい声を出す。

アルバートが豪快に笑った。


「俺らが不法侵入なら、お前は誘拐、監禁だろ?」


「……」


エリアスが無言になる。


アルバートが続けた。


「俺の弟分のロズを、いくら好きだからって、こんな目に合わせて。

俺は最初に、無理強いするなって言ったはずだぞ」


アルバートは俺の方を向く。


「じゃ、ロズ。帰るぞ」


「帰しませんよ」


エリアスが怒気をはなつ。


「はっ。ここで一戦交える気か?別に俺はいいけどな。

 でも、……ロズがケガをするかもしれんぞ」


エリアスは、むっとしつつも、その怒気を収めた。


その様子を見ていたダニーが俺の側に来て尋ねた。


「ロズ、エリアスと話すのは、今と後日あらためてと……どっちがいい?」


俺は逡巡し、……そして答えた。


「……今」


その答えに、アルバートがぎょっとした顔をする。


「おい、ロズ。後日がいいんじゃねぇか?

今こいつ、お前を取られそうで、頭に血が上ってるぞ。

距離と時間をおいてからがいいとおもうぜ」


俺はアルバートを見る。


「うん、普通はそうなんだろうけど……、エリアスに俺の今の気持ちを伝えておきたい」


「……ロズ」


エリアスは、少しおびえたような眼をして俺をみた。


あぁ、エリアス、また不安そうな顔してる。

そして、そんな顔をこいつにさせられるのは、

……俺だけだ。


「エリアス。俺、お前のこと好きだよ。でも、今回みたいに俺の意思をガン無視して閉じ込められたりするのは、嫌だ。でも、俺もお前を不安にさせてたんだよな。

結婚のこと、頭ごなしに拒否したりしてごめん。俺もお前との将来のこと

……真剣に考えてみるよ」


エリアスがびっくりしたような顔をし、そして、その顔にはほっとしたような笑みと泣きそうな表情が浮かぶ。


「……ロズ、ありがとうございます」


「それでいいのか……?」


アルバートが小声で独り言をいうが、エリアスとロズの耳には届かなかった。


「――でも」


ロズが静かに口をひらく。


「もし、今度、こんな真似したら、お前と別れてミュールさんのとこに行くから」


エリアスが、ショックを受けたような顔になる。

ドラゴンには誰も逆らえない。

しかも、ロズはミュールにまるで孫のように気に入られている。もし、ロズがミュールのところに行ってしまったら、誰も手が出せない。


アルバートが

「おぉ、ごっつい釘をさされたな……」


とたじろぎ、ダニーが


「もう、これでエリアスはロズに逆らえないね……」


としみじみという。

そんなこんなで、ロズはエリアスの別邸を後にし、宿舎へと帰っていった。


◇ ◇ ◇


その後はどうなったかって?

俺、ダニーの眼からみて、相変わらず、ロズとエリアスは仲が良くて付き合っているようだ。

でも、完璧超人のエリアスは、明らかにロズに尻にしかれているみたい。

ロズがエリアスのプロポーズをどうしたかは、……まあ、それはまた別の話だ。

                                       



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