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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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番外編4-朋有遠方より来る

 あー、もうイライラする。


エリアスは木剣の打ち合いの訓練中にブチきれていた。


「おいおい、女みたいにイライラしてんじゃねえよ。生理中か?」


今日のエリアスの相手になっているアルバートがからかってくる。

それにエリアスは顔に青筋をたてて木剣をアルバートの頭上に振り下ろした。

アルバートはそれを木剣でなんでもないように受け止める。


「デリカシーのない男は黙っていてください」


「そんなにイライラしているからロズがおびえてるぞ」


アルバートの言葉にエリアスはあせってロズをみる。

するとロズはエリアスの様子には気づかずダニーと普通に打ち合い訓練をしていた。


「よそ見してんじゃねえよ」


アルバートがいい、気がそれていたエリアスの木剣を自身の剣で跳ね飛ばした。

カランと木剣が落ちる。


「……参りました」


エリアスがいうとアルバートは豪快に笑った。


「お前の弱点はロズだな~。で、イライラしてんのもロズがらみだろ?」


ぐっとエリアスが詰まる。


「なんだよ、話聞いてやろうか?」


アルバートの申し出にエリアスは答えた。


「……普段なら丁重にお断り申し上げるところですが、どのみちあなたに頼まないといけない用件もあるのできいてもらえますか」


「おっ、なんだなんだ」


アルバートは聞く姿勢に入った。

エリアスは「こいつ興味本位だな……」と半目になるも

事の次第を話し始めた。


「実は家の用事でロズと約束していた今週末の町のお祭りにいけなくなったんです。代わりにロズと行っていただけますか?」


「お、なんだ、その件か。もうロズから頼まれてるぜー」


「そうですか。ではロズをお願いします。くれぐれも変な真似はしないでくださいね」


「へーへー。するわけないけどな、お前相変わらず執着すごいなー」


「は?」


氷点下の声をだすエリアスにアルバートは全く動じることなくツッコミを開始した。


「で、家の用事ってなによ?」


「あなたに関係あります?」


冷たく返すエリアスにアルバートはにやりとした。


「お見合いだろ?」


「は?」


なんでわかったんだ?とエリアスは一瞬戸惑うも、すぐ察した。


エリアスの家は侯爵家でエリアスはそこの一人息子である。

しかも、先日のヴェルグラードの陰謀事件の際、ヴェルグラードの王女がエリアスに一目ぼれし、人質という形でもよいとエリアスとの結婚を迫ってきた。

エリアスは歯牙にもかけず丁重に断ったが、今回再度の申し出があった。

国家間の話になるので、全く会わずに断るわけにもいかない。

実家および国からも要請があり、祭りの日に会う羽目になった。

国からは、一度会えば縁談は断っても構わないと約束を取り付けているが、

念のため、叔父でもある宰相の弱みも握っている。


アルバートは実家が伯爵家だが、侯爵くらいの地位が実質あり、その関係で今回の話が耳に入ったのだろう。


「……ロズに言ったら許しませんよ」


「おーこわ。ま、ロズにいらん心配をかけたくないから言うつもりは元からなかったがな」


アルバートはエリアスの両肩に手を置いた。


「頑張ってな。俺はロズとそれとロズが誘ったダニーと3人で祭りを楽しんでくるわ」


「ほんとに苛つきますね」


エリアスがアルバートの手を振り払おうとすると同時にアルバートはパッと手を放す。

ちょうど訓練も終了時刻だった。

アルバートはじゃーなーと去っていった。


「なんか、お前機嫌悪い?口がへの字になってるぞ」


寝る前、ロズの部屋を訪れ、一緒にお茶を飲んでいるとロズが心配そうに言った。


「いえ、なんでもありません。お祭りに一緒にいけないのが残念なだけです」


エリアスがそう伝えると、ロズが「こっちこいよ」と自身がかけているソファーの隣に誘った。

ロズの横にすわると、ロズはエリアスの頭を自身の膝にのせ、優しく頭をなでる。


「祭り、楽しみにしてたのに残念だな。でも家の用事ならしょうがないよ、祭りはまたあるから楽しみは今度にとっておこうぜ」


「……今回ロズと行きたかったです。」


ロズがお祭りで、おいしいものをほおばったり、笑ったりしている姿を見たかった……。

そして、俺に笑いかけてほしかったのに。

しょんぼりしていると

「せめて今は甘やかしてやる。エリアスはいいこだな」

と言われ、エリアスはまた、お母さんモードになってる……と思いながら、その優しい手に身をゆだね癒されたのだった。


 祭り当日、エリアスはジョナサンに祭りについていくよう命じた。ロズは「え、なんで?」

と尋ねると「俺の安心のためと、寂しさを紛らわすためです」とロズを暗い目で見つめてきたので、ロズはそれ以上何も言えなかった。


「とっとと終わらせてきます!」

とエリアスが見合い会場である王宮に向かった後(ロズには実家に向かうと言っているが)、

ロズとアルバート、ダニー(と、ジョナサン)が祭りにむかう。


アルバートが「このメンツで行くの初めてだな~」というとダニーが


「確かに。最近ロズ、エリアスに独占されてたもんね」


としみじみという。ロズは、


「まぁ、確かに、最近休みの日はあいつとばっか過ごしてたかも」


と思い出すように答えた。


「ロズは寂しいかもしれんが、まあ、楽しもうぜ」「そうだよ、ロズ、たまには俺らと遊ぶのもいいかもよ」とアルバート&ダニーがからかうと、「や、別に俺なにも言って無いじゃん」とロズはふくれた。


そんなやり取りをしているうちに、祭りの会場についた。祭りは人でごった返しており、

射的、りんごあめ、牛肉串、焼き鳥など出店がずらっと並んでいた。


「おーにぎわってるなぁ、どこから回る?」


とアルバートが尋ねた時、ロズは一人の男に気づいた。

おそらく、200cmはある長身で、青い長髪を結わずに流しており、その目は金色の美形だ。

男はロズをまっすぐにみており、ロズが男の視線に気づくとにこにこしながら、近づいてきた。


「ロズ……、久しいな。元気にしておったか?会いたかったぞ」


誰……?ロズが怪訝な顔をする。


アルバートが「知り合いか?」ときくが、全く見覚えがない。

男はにかっと笑った。


「わからなんだか?わしはミュールだ」


ロズは目をみひらく。


「えっ、ドラゴンのミュールさん?!なんで人になってるの?!」


「ロズに会いに来たんだが、ドラゴンの姿だと騒ぎになるじゃろ?だから人の姿になったのじゃ」


会話を聞いていたダニーはびっくりし、アルバートは驚きつつも面白そうな顔をした。


「よく祭りに来るってわかったね」


ロズが驚くとドラゴンはにっこりする。


「この祭りは1年の中でもっとも大きいんじゃろ?

絶対、ロズは恋人と一緒にくるとおもったんじゃ。

あれ、今日はあのエリアスとかいう坊主はいないのか?」


「家の用事でいないんです」


ロズが少し寂しそうにすると、ミュールがニカっと笑う。


「なんじゃなんじゃ、じゃあ、わしと遊ぶぞ!なんでも、好きなものおごってやる!」


「え、お金もってるの?」


ロズがきょとんとすると


「なんじゃ、わしはドラゴンじゃぞ。金鉱をいくつか知っておるわ」


と黄金の塊を手のひらにのせて出してきたので、ロズ、ダニー、アルバートまで目が点になった。


挿絵(By みてみん)


「……すご」


ダニーがつぶやく。


「じゃあ、ロズ。案内してくれ。人間の祭りとやらをな」


ミュールの声をきっかけに、ロズはダニー、アルバートと一緒に屋台を回りだした。

まずは、射的へ向かう。

おなじみのコルク弾をこめた銃で陳列されたお菓子やおもちゃをねらう遊びだ。

くさっても魔法騎士団。

ロズをはじめ、ダニー、アルバートみんな、5弾中5弾あててしまい、陳列されているもの全部当ててしまった。

店主は「お客さん~、困りますよ~。これじゃ、商売あがったりだ」と頭を抱える。


その様子をみてミュールはがははと笑い、「じゃ、次、わしな」と言い出す。

店主が銃とコルク弾をわたすと、ミュールは、

「こんなものはいらん」と銃を店主に返しコルク弾を右手の親指と人差し指で挟み、ピンとはじいた。


すると、コルク弾が剛速球で飛び、商品の人形を貫通していった。

目を丸くする店主に「ごめんなさーい」とロズはミュールの腕を引き連れ去る。

そのあとを、「おもろ……」と笑いをこらえるアルバートと青ざめたダニーが追いかけていった。

 

「意外と、面白いの」とミュールは牛串5本ほおばりながら、楽しそうだ。

ロズは「それはよかった……」と半目になりながら、牛串1本をほおばる。


「それも焼いて食べるのか?なんなら、俺の炎で焼くぞ」とミュールはロズの肩に止まっているジョナサンを指さすので、ジョナサンは「ひぃぃぃっ……!!」と震え、その様子を見ていたアルバートは笑い、ダニーは「まるでコントだ……」とつぶやいた。


 そうしているうちに、ジョナサンが、「あ!」と反応し、


「ロズさま!エリアス殿が通信したいと連絡してきました」


と報告してきた。ロズが「わかった」と返すと、


「じゃあ、このままつなぎますね。私の目をみてください」


とロズの目を見つめてくる。

ロズの方には、エリアスの姿や声は聞こえないが、

エリアスの方は、ロズから返却してもらった通信鏡で見える状況である。


ロズは「やっほー、エリアス。見えてる?」と話しかけた。


エリアスは、疲れていた。

ヴェルグラードの王女とのお見合いの際、叔父が「王女とのことを考えてもいいんじゃないか?」

ととりなそうとしてきたからだ。


エリアスは


「相思相愛の相手がいますので……」


と断ろうとするも


「妾という形をとればいいじゃないか。王女も許してくださるだろう」


と言い出したので、叔父の耳元で


「叔父さんの奥さん、もと皇女のウィルフィリナ様に叔父さんの最近できた愛人の件をお伝えしても?」


と囁き、叔父を脅すことで王女との縁談を断ることができたが、イライラで心底疲れていた。

 

「こんな時は愛する人の顔をみて、なんとか心を安定させよう」

とジョナサンに通信鏡を取り出しロズの顔を映すよう指示した。

すると、間もなく、


「やっほー、エリアス、見えてる?」


と愛しのロズの顔が映し出された。

エリアスは思わず笑みをこぼす。

しかし次の瞬間、エリアスの顔は強張った。

ロズの横に知らない高身長イケメンがいた。

しかも、「ん?誰と話してるんじゃ?」とロズの顔に自身の頬をくっつけ、

カメラ(ジョナサンの眼)をのぞき込んでくる。


「~!!!!」言葉にならない感情がエリアスの心の中に吹き荒れた。

「なんじゃ、通信鏡か?誰かしらんが、ロズと楽しい時間を邪魔するんじゃないぞ。無粋な奴め」

といきなり手をかざし、そして、通信がきれた。


「……はぁ?!」


エリアスはブチ切れた。

そして、こうしちゃいられないと、乗ってきた馬車でなく、城で一番早い馬を駆りロズのもとへと急ぐ。イライラで血圧が上がっている気がする。

誰だ、あの見知らぬ男は。

あんな奴はロズの周囲にいなかったはず。

まさか、ナンパされた相手と遊んでいる?

そんな、ロズに限って。しかも、ボディガードのアルバートとダニーは

一体どこにいって何をしているんだ!


疑惑が頭をかけめぐりながら、エリアスは馬を急がせた。


「あれ、通信きれた……?」


ロズが首をかしげると、ジョナサンが少し震えながら、


「わたしは何もしりません」


とつぶやく。


「ん~、どうした?」


少し離れたところで牛串をほおばっていたアルバートが寄ってくる。


「なんか、エリアスがピーちゃん使って俺の姿をみたいって言ってきたらしいんだけど、

一瞬つながってすぐ切れたっぽいんだよね」

「へぇ~、それはそれは」


アルバートがにやにやし始める。

一方でダニーは


「俺、ちょっと用事思い出したから、悪いけど先に帰るわ、じゃな」


とひきつった笑いを浮かべ帰っていった。


「おー、気を付けてな~」


ダニーに声をかけるロズにミュールは


「なぁ、ロズ。わしはこの牛串が気に入ったぞ。チーズがかかったのも食べたい」

と催促する。


「わかりました、アルバートも食べる?」


ロズは能天気にアルバートとミュールを連れ立って、牛串の屋台に向かった。


それから、息をきらした馬とエリアスがロズのもとに現れたのは30分後だった。


「ロズ―!!」


リアスはぜぇぜぇ息を切らしながらロズの前に現れた。


「エリアス、来たんだ?家の用事早く終わったのか?」


笑顔になるロズの腕をつかみ、エリアスはミュールからロズを引き離す。


「お前は誰だ?俺のロズに許可もなく近づくんじゃない」


ロズを背中の後ろにかくし威嚇するエリアスにミュールは不敵な笑みを浮かべる。


「ふーん、ロズはお前のなのか?結婚の報告は受けていないが?ずいぶん余裕がないのう」


エリアスはかっとし、攻撃態勢に入ろうする。ミュールもそれを受け、威圧する雰囲気を出した。


「ちょっと、二人ともまって!」


ロズがエリアスとミュールの間に割って入った。


「ロズ。後ろに下がっていてください。……あなたがどう思っていようと、関係ありません。

でも、その男は俺が排除します」


エリアスが氷点下の声をだす。


「ちょっと落ち着けって。俺は浮気していないし、この人は……」

「坊主。お前、恋人を信頼してなんだな。そんなんじゃロズはまかせられんぞ」

「お前……っ」

ミュールの言葉にエリアスがきれて攻撃態勢に入ろうとしたとき。


「……エリアス」


ものすごく低い声が響いた。

みるとロズがうつむき、肩を震わせていた。

驚きから戦意を喪失したエリアスがロズの側によると

ロズは顔をあげる。その目からは一筋の涙がこぼれていた。

「お前、俺を信用してなんだな。もういいよ」


そして息をはくと


「実家に帰らせていただきます!」


と叫び走り去っていった。

放心してしばらくその姿を見送ったエリアスは、正気を取り戻し「ロズ!」と慌てて追いかけていく。

その様子を見送ったミュールは「やれやれ、未熟じゃの。今日は帰るとするか」と去っていき

アルバートは芸能人のゴシップを楽しむ大衆のように「おもろ……」とわくわくするのだった。


「ロズ……っ」


ロズに追いついたエリアスはロズの手をとった。

ロズは前をむいたままだ。


「すみませんでした。さっきは、別の男といるあなたをみて頭に血が上ってしまって。

……あなたを信用してないわけじゃないんです。ただ、あなたがあまりに魅力的で、

不安になってしまうんです」


「それって、結局、俺のことを信用してねーってことじゃん」


「いえ、そういうわけではなく!……自分に自信がなくて」


ロズが振り返る。その目は驚いたように見開かれていた。


「お前が自分に自信がない……?天才と言われているお前が?」


「……あなたに関してだけはいつも自信がありません。正直、俺はあなたのことを

愛していますが、あなたをつなぎとめるだけの魅力が自身にあるかいつも不安です。あなたは俺に絆されて付き合ってくれただけな気がしてます」


「いや、そんなことは……」


ロズは否定しようとして、ふと止まる。

俺、エリアスのどういうところが好きになったんだっけ?

なんか、ダニーに危機に瀕したときに助けたいとまぶたの裏に浮かぶ人間をきかれ、エリアスが思い浮かんだったよな。


「やっぱり、そうなんですよね。でも構いません。

俺はあなたが俺のことをどう思ってようが、きっかけがなんであろうが、放すつもりはありませんから…!」


エリアスをみると、涙ぐみつつキリっと宣言していた。その様子をみるとかわいいような、ほほえましいようなくすぐったい気持ちになった。


「……おかしー。俺ら男二人で泣いて、絵面的になさけないよな」


「そんなことはありません。俺はともかく、ロズの泣き顔は美しい」


「クッ」


俺はおかしくなった。


そうだ、俺は、こいつのこの一途でまじめで、そして俺しか知らないかわいいところが好きなんだ。


「俺、お前のこと好きだよ。お前が信じてくれなくても、お前のことが好きだ」


そして、エリアスを抱きしめる。

エリアスは一瞬硬直し、それから俺を抱きしめ返してきた。

俺ら、まだまだこれからだけど、こうやって一歩ずつ絆をはぐくんでいきたいな。

そう思ったときだった。

エリアスが抱きしめる腕をゆるめ、俺の目をみてのたまった。


「あ、でも、さっきのイケメンは誰です?回答次第によっては消しておかないと」


俺はガクッと崩れ落ちた。

それから、俺はミュールさんの話をし、誤解は解けたが、それからちょくちょく遊びにくるようになった人型ミュールさんにエリアスがイライラするのは……それは、また別の話だ。


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