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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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指導係

挿絵(By みてみん)


幼馴染兼天才アルバートがあっけなく騎士団を去って1か月後。


新しい団員達が入団してきた。


俺は、アルバートが去ったあと、多忙になり胃薬を手放せなくなったランドルフ管理官には気の毒だが、少し解放感に浸っていた。


幼馴染で両親や周囲から常に比較されていたアルバートがいなくなったことで、

比べられることがほとんどなくなり、気持ちが穏やかになっていたのだ。


まあ、天才の抜けたあとの人的資源が乏しくなり、上層部は大変だろうが、

一兵士の俺はそんなのは知らない。


正直、隣国との情勢は落ち着いているし、

このまま、目指せ!定年まで安定公務員(騎士団は国立なので公務員になる)生活☆である。


そして、定年後は、こつこつためた貯金と退職金をもとに、

田舎で動物に囲まれ、のんびりスローライフを送れたら最高だぜ!

ああなんて堅実で素敵な完璧人生設計!!


俺は、浮かれていた。


そして、そんなハッピーライフは間もなく音をたてて崩れるのである。


「おい、ロズ!ちょっといいか?」


ディートリヒ・ランツベルク騎士団長が、訓練後に声をかけてきた。


「はい、なんでしょう」


「お前をこいつ、エリアスの指導係にする」


「……え?」


え~、面倒くさいが正直な感想だった。


今年の新団員6人にはそれぞれ指導係がつくが、他にもっと優秀な奴らがいるのに、

なんで、いつも影がうすい(そう努力している)、能力も冴えない俺を指導係に任命するんだ?


「……決定ですか?なんで俺なんですか?」


「お前は、真面目で努力家だろ?馬や使役獣にも優しいし、お前が適任だ」


……いや、馬や使役獣に優しいのと人にやさしいのは違うだろ。


と心の中でツッコミをいれる。


そんな俺の胸中を知らずに、ランツベルク隊長は、


「じゃ、よろしくな。

しっかり面倒みてやってくれよ」


とさっさとその場を後にして去っていった。



「先輩!よろしくお願いします」



挨拶をされ、みると、そこには

爽やかな笑みを浮かべたエリアス・レーヴェンハルトが立っていた。

――というか俺を見下ろしていた。


エリアス・レーヴェンハルト。

朝礼で新団員の紹介があった時に、ひときわ目立っていた男だ。


身長はたぶん185cmくらい。

金髪に、透き通った青い目、すらっとしたいわゆる、女にもてそうな男だった。

なんか、他の団員が優秀とか言っていたような。

俺は、あんまり人間に興味がないので新人の前評判は聞き流していた。


「……よろしく」


あんまり、役に立たないと思うけど……と心の中で言い、エリアスを見上げる。

すると、エリアスは見上げたせいで、わずかに流れた前髪の隙間から見える

俺の目を見つめていた。


「……きれいだ」


ぽつりとエリアスがつぶやく。



「は?」


「いえ、なんでもありません」



エリアスが、咳ばらいをする。


なんか、変なことをきいたような。


「おい、新人!食堂当番の時間だぞ!」



他の隊員が夕飯の準備をするようエリアスに呼びかけてきた。


「では先輩。また後ほど」


とエリアスは去っていった。


「ロズ、馬を馬小屋に連れて行ってくれ」


同僚のクラークから言われ、俺は「あ、そういえば頼まれていた!」と

少しあせりながら、厩舎脇の繋ぎ場へ向かった。



がやがやと団員達の会話でにぎわう食堂で、

俺は空いていた席に座り、食事をとっていた。


騎士団の食事は国から支給される交付金で賄われている。

そのため、実質、大盛無料、食べ放題である。

家にいたときに食べていたようなディナーとは違うが、ここの定食はおいしい。


今日は、雑穀ライス、ゴロゴロ野菜のミネストローネ、豚肉のロースト、ビールだ。

俺はアルコールを受け付けない体質なので、ビールでなく水を飲みながら、

滋味あふれるミネストローネを口に運んでいた。


「ロズ先輩!お疲れ様です」


エリアスが夕飯ののったトレーを俺の前の席に置き腰かけた。


「食事、ご一緒していいですか?」


「返事する前に座ってるけど……」


俺のツッコミを完全に無視し、エリアスはグラスを俺の方にだす。


「はい、先輩。乾杯しましょ」


「何に?」


「俺の入団を祝して」


歓迎会はもう終わったけど……と心の中で再度ツッコむ。


「まあ、いいけど」


俺は水の入ったコップを持ち上げた。


「あれ?先輩。ビールじゃなくて水なんですか?」


「ああ、俺、アルコールに弱くて。というか飲めない」


「へー、そうなんですか」


エリアスはにっこりとほほ笑む。


「そうそう、こいつアルコール飲めないんだよ」


俺の同期のダニーが、今空いたばかりの隣の席に夕飯をもって腰かけてきた。


「なんだよ。悪いかよ」


むっとすると


「いやー、アルコールは騎士団の大事なコミュニケーションの手段よ。

まあ、でも一口飲んだだけで真っ赤になるし、

俺たちの新人歓迎会のときはさ。

お前、ビール一気飲みして、倒れて医務室に運ばれたもんな」


ダニーがおれの肩を抱き寄せて昔の話をむしかえす。


「昔の話を持ち出すな。しかも新人の前で。」

「いや、先輩の体質を知っておくのは大事だろ。

戦場で、うっかり、アルコール攻撃をする魔獣に襲われたりしたら、

お前を優先的に守らんといかんし」

「そんな魔獣いねーよ!」


ツッコむと、黙ってきいていたエリアスが無表情で立ち上がった。


「そういえば、忘れてました。

ロズ先輩、さっき食事がおわったら、騎士団長が話があるって言ってましたよ」

「え、まじか。お前先に言えよ」


俺はほぼ終えてた夕飯のトレイを抱え、慌てて立ち上がった。


トレイを返却口に返し、足早に団長室に向かう。

後をついてきたエリアスに、

「団長室に行けばいいんだよな?」

と確認すると

「ああ、団長に呼ばれてるってウソです」

とエリアスは、しれっとした顔で返してきた。


「は?」


おれは、頭が真っ白になった。


「……お前、何言ってんの?なんでそんなウソつくんだよ」


「いえ、だって見るに堪えなかったので」


エリアスがにじり寄ってきた。

俺は思わず後ろに下がる。

なんかわかんないけど、冷たい圧がエリアスから感じられる。


背中が壁についた。

そのまま、エリアスは壁に手をついて

俺を上から見下ろす。


「先輩、人との距離近すぎません?

 ―あまり人を近づけないでください」


「……さっきから何言ってんの?」


背中に冷たい汗が流れる。

俺、緊張してる……?


「イライラするので。

なるべく、穏便に手に入れたいんですよ」


何を?

心の中で疑問を抱きながら、

俺はその場の得体のしれない緊張感に飲まれて口に出せない。


エリアスは俺の顎に手を添える。

そして、壁についていた手で俺の前髪をそっとかき上げた。


「――ああ、この目だ」


どこか懐かしむような、

うっとりとした目で俺の目をのぞき込み、エリアスは笑みを浮かべた。



「零れ落ちそうに大きくて、潤んでいる。

そしてまるで、夜が生まれる直前の空みたいな色だ。

その中に、星が瞬いている」


お前は詩人か……?

騎士じゃなくて詩人に転向したらいいのでは……?


俺は思わず心のなかで今日何度目かのツッコミをいれた。


エリアスは額をおれのそれにあてると、

ささやくような声でつぶやく。


「先輩、好きです」


俺は、衝撃的な言葉にはっと我に返る。

そして、フリーズしていた両手でエリアスを突き飛ばした。


構えていなかったエリアスの体が離れた隙に

壁とエリアスの体の間から抜け出す。


そして、自分の部屋に向かって全速力で駆け出した。


なんだこれ。

なんだこの状況。

意味が分からん、もう脳が限界だ。

とりあえず部屋へ逃げよう。


エリアスは追ってくる気配はない。

俺はそのまま、別棟の寮へ向かって走り続けた。


「少し、事を急かしすぎたか……?

まあ、いい、どうせ俺のものになるなら、一日でも早い方が変な虫がつかないからな」


不敵な笑みをエリアスが浮かべているなんて知る由もないまま・・・。



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