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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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運命の出会い

挿絵(By みてみん)

放課後の訓練場は、もうほとんど人がいなかった。


エリアスは校舎の影を通りながら、ふと魔獣舎の方を見た。

白い大型犬の魔獣が一頭、柵の前で尻尾を振っている。


――その前に、人がいた。


細い体。

目元を覆うほど長い前髪。

まるで目を隠しているかのように不自然に長かった。

顔を上げても、その奥の表情はほとんど見えない。

制服の袖をまくり、何か話しかけている。


ロズだった。


噂だけは聞いたことがある。

「魔法が遅れて発現した生徒」

「努力型」

「大した才能はないらしい」


エリアスは正直、興味を持ったことはなかった。

だが、その光景は少し妙だった。

魔獣がやけに嬉しそうなのだ。


ロズは柵の隙間から手を伸ばし、魔獣の頭を撫でている。


「お前、ほんとに大きくなったな」


魔獣は嬉しそうに鼻を鳴らした。

そのまま、ぐいっと顔を近づける。


次の瞬間、

べろり。

魔獣の舌がロズの頬を舐めた。


「うわっ」

ロズが笑いながら顔をそむける。

その拍子に、長い前髪が崩れた。


いつも隠されている目元が、夕方の光の中にさらされる。

そして、

目が見えた。


紫だった。


エリアスは息を止めた。

こんな色の目を見たことがない。


ロズは気づかないまま、魔獣の首に腕を回している。


「寂しくなるな」


小さくそう言った。

魔獣がもう一度、嬉しそうに鼻を鳴らす。


エリアスは思った。

――こんな顔をする人間がいるのか。


胸の奥で、何かが動いた。

それが何なのか、

その時はまだわからなかった。

ただ、胸の高鳴りが止まらず、エリアスはその場に立ち尽くすだけだった。



どのくらい時がたっただろう。


「じゃあな、元気でな。」


ロズは名残惜しそうに、魔獣の頭をなでると、寂しそうに微笑み、去っていく。


「……っ」


エリアスは、声をかけようと一歩踏み出すが、声はかけられず、ただロズの華奢な後ろ姿を見送っていた。


春の穏やかな日差しの中、一陣の風が舞って行った。




ここは、フォルセイン王国。

北東に存在し、東西を外国に挟まれている。

北と南は海に面し、水産資源が豊富である。また、北東に位置するものの

海流の影響で冬の寒さは厳しくなく、農業も盛んにおこなわれている豊かな国である。


一方でその豊かな資源をめぐって、外国から攻め入られてきた歴史があり、

武力の強化にも力を入れられてきた。


中でも、千人に一人、魔力を持った人間が存在し、彼らを中心として、最強と名高い魔法騎士団が形成されている。


俺、ロズ・エルヴェインはそんな魔法騎士団に所属する騎士のひとりである。


3月のまだ肌寒さが残るが、おだやかな春の日差しが差し込みだす中。

俺はいつもと変わらない日常を過ごしていた。


……はずだった。


俺の同期であり幼馴染であるアルバートが、爆弾発言を投下してくるまでは。



「おう、ロズ。俺、騎士団やめることになったから」


「は?」


なんの冗談かと思った。あの、優秀で出世街道を大驀進している魔法騎士団始まって以来の大エースが、騎士団をやめる……?


「……なんで?」


声をしぼりだすように理由をきくと、アルバートは、少し笑みを浮かべた如才ない表情のまま答えた。


「ああ、俺、放浪の旅に出ることにしたんだ。金もたまったし、この人生いろいろな国を回って世界をみてみたい」


え、騎士団は?親御さんは?結婚は?家督相続は?国からの期待は?

いろいろ背負っているものがあるはずなのに、アルバートは、それらの重みを感じさせることなく、軽やかだった。


「あー、騎士団の仕事も楽しかったけど。

まあ、俺がいなくても組織ってやつはまわるし。


それよりも世界をみて、武者修行的なのもやってみたくなったんだよな。

やっぱ、未開の地で自分の力がどれだけ役立つかってのが大事だし。


親父もおふくろも、もう俺のことはあきらめてるよ。

ちょっとは反対されたけど、俺の兄貴と弟、どっちもまじめで、

もう結婚もきまっているし。

アルバートは言い出したらきかないから仕方ないって苦笑いされたわ」


俺の心の声が聞こえたのか、アルバートは苦笑いしながら俺の疑問に答えてきた。


「国は、お前や、ほかにも優秀な奴がいるし、俺の後任もみつかったらしいし、ま、今平和だし?少し引き留められたけど、退団届受領してもらったよ」


え、退団届受領してもらった……?


そういえば上官のランドルフ管理官が、最近何か悩んでいるような、青ざめた表情をしていたが……。少し引き留められたじゃなくて、ものすごく辞めないでってすがられたのまちがいだと思うが……」


心の中でつっこみながら、あまり言葉が出てこずに、ぼうぜんとアルバートの顔を見る……。


「まあ、かわいい弟分のお前の行く末が少し心配ではあるけど、

まぁ、なんかあったら魔術通信で連絡よこせ。

連絡魔法騎士団の未来については、後はお前に託すわ!元気でな!!」


俺のことを心配といいつつ、まったく心残りのないようなさわやかな表情を浮かべ、アルバートは、荷物でパンパンに膨らんだ重そうな布リュックをひょいと背負い、去って行った。


「……えええ~」

俺は気の抜けた声を出し、その場に立ちつくしかなかった。




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