天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない
エリアスが去ったあと、まさかエリアスが監視および盗聴していたことなど露も知らない
ロズは、そのあとダニーが発した言葉に衝撃をうけていた。
「ふーん、じゃ、エリアスのこと好きじゃないんだ?」
「いや、そういうわけじゃなくて……、かわいいと思うときもあるし」
「んー、俺、以前好きな奴がいたとき、そいつのこと本当に好きか確かめる方法を
ばあちゃんから教わったんだ」
「……どんな方法?」
「いいか、まず目を閉じろ」
ロズは目を閉じた。
「よし、じゃあ、今までで一番危険だったときの状況を思い浮かべるんだ」
それなら、あの、無数の魔獣を相手にした時だ。
「お前は、もう死にそうになっている。
もう死ぬかもしれない。
……そんなとき瞼のうらに浮かぶ奴は誰だ?
たとえ自分が死んでも、幸せになってほしいと最期に思い浮かべるのは
誰?」
……エリアス。
そう、俺は、あの死の淵に立った時、あいつの顔を思い浮かべていた。
俺の表情を見ると、ダニーはふっと笑った。
「その感じだと、もう自分の気持ちがわかったみたいだな」
ダニーは椅子から立ち上がると
「じゃあな、早く良くなれよ。それと……、早くあいつ呼んでやれよ。ロズに会いたいのに
会えなくて、情緒不安定になってるからさ」
と笑って去っていった。
そうだ、早くあいつに……、エリアスに会いたい。そして、この気持ちを伝えたい。
俺は、決心した。
そして、ベッドから起き上がると、そっと病室を抜け出す。
行先は、もちろんエリアスのところだ。
あいつ、部屋かな……?
俺ははやる心を抑えながらエリアスの部屋へと向かった。
トントン。
誰かがおれの部屋をノックした。
無視だ、無視。俺はもう起き上がる気力もない。
トントントン。
またドアが叩かれる……。
俺は再度無視した。
「あれ、エリアス……いないのかな?」
「このかわいい声は……ロズ!」
俺は飛び起き、急いでドアの前まで行き、……固まった。
ちょっとまてよ。
ロズ、何しに来たんだ?
まさか、……まさか、俺に
「ごめん、好きじゃないことに気づいた。悪いけど、俺はダニーを選ぶから」とか言うのでは……?
そんな……、俺にあんな熱烈なプロポーズ「(一生)守るから」って言ってくれたのに……!!!
だめだ、俺は今そんなことを言われたら死んでしまう。
俺は、居留守を使おうと、そっとベッドへUターンをしようとして、足がもつれて
盛大にこけた。
ビターン!ドンッ。
近くの棚に腕があたり、思いっきり物音がした。
「……エリアス、いるんだな?」
最悪だ。いるのがバレた。
「ごめん、急にきたりして……。でもどうしても聞いてほしいことがあって。ここを開けて」
「……いやだ」
俺は、ドアの前に戻り、ドア越しに返答した。
「なんで?」
「……俺がききたくないことを言われそうだから」
「……っ」
ロズが息をのむ様子が伝わってくる。
「そっか……。お前にとっては迷惑かもしれない。
でも、俺は、この想いを伝えないと
前に進めないんだ」
え、ダニーとの未来にむかってのことか?
俺は歯をくいしばった。
「……いいよ。じゃ、聞くよ。ドア越しでいいなら」
それでお前が前に進めるなら……、もうバッサリやってくれ!
でも面と向かって聞くのは
無理だ……。
今は、ダニーでも誰でもよそ見をするがいい。
……でも、絶対に諦めない。
3か月後、1年後、ダニーにいつか飽きるだろう。
それまで俺はいろんな手をつくし
お前を待つ。……というか絶対にふりむかせる。
「好きなんだ……」
「……ダニーをか?」
「は?なんでそこにダニーが出てくんだよ。ダニーは友達だろ」
ロズは怪訝そうな口調になる。
「俺が好きなのはお前だよ……。エリアス」
「……っ」
今、なんて言った?
俺のことが好きって聞こえた……よな?
俺は、思わずドアを勢いよく開けた。
するとそこには、いきなり開いたドアにびっくりして目が丸くなったロズがいた。
ロズは俺の顔を見ると、顔を赤らめる。そして
「見るなよ……」
とふくれっ面して目線をそらす。
おれは愛しさが胸にあふれるのを感じた。
「ロズ……、こっちを向いて」
「嫌だよ……、ちょっと恥ずかしくて目を合わせられない」
照れるロズがかわいい。
「じゃ……、これだけ許して」
そういって、俺は、ロズの背中に腕を回して優しくそっと抱きしめた。
ロズの体が一瞬強張るのを感じる。
でもその腕は。
……振り払われなかった。
その後、俺たち、エリアスとロズがどうなったか。
もちろん、語るまでもない。
周囲から祝福され、結婚した。そして死ぬまで幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
……なーんてね。
ロズが俺の愛を素直に受け入れ、周囲が妬くくらい、熱烈に見せつけられたら
よかったのに。
俺とロズが思いが通じ合って、晴れて恋人同士になったのはよかったんだが
ロズはたぶん恋愛経験が乏しく(それは大歓迎なんだが)、極度の恥ずかしがりやだ。
――そのため。
「俺たちが付き合っているっていうのは絶対内緒な!」
と言ってきた。
「―なぜ?むしろ、ロズに誰も近づかないよう公表した方がいいのでは」
反論すると
「絶対ダメ!!俺、いやなんだよ。第3隊の仲間とかから冷やかされたりするの……」
ロズは真っ赤になる。……かわいい。
「俺、そんなことになったら、恥ずかしすぎて多分訓練の間中、お前とわざと
距離とっちゃいそうだし」
――それは困る。
俺は、ロズの申し出を飲むしかなかった。
その代わり、プライベートでは遠慮しない。
俺は、訓練終了後、汗を流した後、ロズの部屋を訪れるようになった。
ロズをゆっくりベッドに押し倒す。
そのまぶたに、そっと口づけを落とした。
「……愛してる」
耳元で囁くと、ロズの体が小さく震える。
顔はもう真っ赤で、視線を合わせようとしない。
——かわいい。
胸の奥が、じわりと熱を帯びた。
そっと唇を重ねる。
ロズは一瞬だけ戸惑ったように息を止め、
それでも、逃げなかった。
ぎこちなく、けれど確かに応えようとする。
その不器用さが、どうしようもなく愛おしい。
「……無理するな」
そう言ったはずなのに、離したくなかった。
——今夜だけは。
誰にも邪魔されない、この距離を。
俺は、ロズをもう一度強く抱き寄せた。
そして——そのまま、灯りを落とした。
目を覚ますと、柔らかな光が差し込んでいた。
——朝か。
ぼんやりとした意識の中で、違和感に気づく。
……重い。
いや、違う。
温かい。
ふと視線を落とすと、胸元にロズの頭があった。
すやすやと、規則正しい寝息を立てている。
……近い。
近すぎる。
昨夜の記憶が、一気に蘇った。
「……っ」
思わず息を呑む。
その気配に気づいたのか、ロズがわずかに身じろいだ。
「……エリアス?」
まだ眠そうな声。
半分閉じた瞼のまま、こちらを見上げてくる。
——反則だろ、それは。
「……おはよう」
できるだけ平静を装って言うと、ロズは一瞬きょとんとして、
そして——
みるみる顔を赤くした。
「……っ!」
ばっと飛び起きようとして、シーツに足を取られる。
「うわっ」
慌てて腕を伸ばして支えると、そのまままた距離が近づいた。
「……見るなよ」
目を逸らしながら、ロズが小さく呟く。
「無理だな」
そう言うと、さらに顔が赤くなる。
——かわいい。
「……昨日のこと、忘れてないよな?」
そう問いかけると、ロズは観念したように小さく頷いた。
「……忘れるわけないだろ」
その声は、まだ少し震えていた。
「……ならいい」
俺は、そっとロズの髪に触れる。
今度は、振り払われなかった。
窓の外では、朝の光がゆっくりと広がっていく。
——これからも、ずっと。
こいつの隣にいよう。
そう思った。
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