届かない想い
俺は、心の中に嫉妬の炎が一瞬で燃え上がるのを感じた。
が、しかし、そこで怒りをマネジメントできるのが、この優秀な俺、エリアスだ。
俺は、冷静さを瞬時に取り戻し、側に待機していたジョナサンに目配せで指示をする。
ジョナサンは俺の合図に気づくと、ミセス・マーブルが
「じゃあね、ダニー。あまり長いするんじゃありませんよ」
と言い残し、去っていく瞬間を見計らい、ダニーの背中に
びたーんと瞬時に貼りついた。
その姿は、まるで、壁にはりついている蛾のようだった。
ダニーは背中に張り付いているジョナサンに気づかず、ロズの病室に入っていく。
病室にジョナサンを侵入させるのに成功した。
--これで中の様子は把握できる。
そうしたら、もうこっちのものだ。
ジョナサンは、病室に入るやいなや、ダニーに気づかれないよう、
部屋のカーテンの影に身を潜めた。
もちろん、ロズとダニーの顔が見える位置だ。
ジョナサンの目を通して、コンパクトの通信鏡にロズの姿が映し出される。
あぁ、ロズ……!久しぶりに顔をみれた。
相変わらず……かわいい。
少しやせたか……?
退院したら、美味しいものをたらふく食べさせてあげたい……!!
俺は、胸から溢れる愛しさを抑えきれず悶絶した。
そんな俺に気づくことなく、ロズとダニーの会話が交わされる。
「よぉ、ロズ。大丈夫か?」
「ダニー、久しぶり。
うん、もう大分元気になったよ」
「そうか。
あ、こればあちゃん特製シロップ持ってきた」
「ありがとう。これ効くんだよな」
ロズが微笑む。
あぁ、かわいい―!!。
その笑顔はダニーではなく俺に、俺に向けてほしい・・!!!
くそ、ダニーめ。
ばあちゃんもといミセスマーブル作のシロップでロズに微笑みかけられるとは。
そういうのは、「他人の褌で相撲をとる」と遠い異国のことわざでいうんだ。
覚えてろ。
ロズとダニーの間でしばらくどうでもいい会話
(第3隊が全員無事だったこと、頼まれたジョナサンの餌をダニーがやっていることetc)
が交わされる。
「そういえば、ロズ、あいつに会っていないんだっけ?」
ん?あいつって俺のことだよな?
……エリアスは期待に胸をふくらませる。
ロズは、顔をくもらせた。
「あいつ……って?」
「エリアスだよ」
だよな……!
俺は耳を研ぎ澄ませる。
ここからは一言も聞き漏らすわけにはいかない。
「……あぁ」
ロズはため息をついた。
なぜだ、なぜため息をつく。
恋のため息か?
なんか……、そんな雰囲気ではなさそうな。
「おれ、あいつに会うのがちょっと億劫で……」
がーん!!
おれはショックで頭がくらくらするのを感じた。
なぜだ!!
なぜ「億劫」なんだ!!!
俺たち、あの時、ロズが一命をとりとめて、俺にむかって微笑みかけた時。
頭をなでながら、「(一生)守ってやる」っていってくれたよな!
あれは、いわばプロポーズ。
俺たち心が通じ合ったはずだろ?!
まさか、まさかと思うが他に好きな奴が……?
よもや目の前のダニーという名の
ちんちくりんが好きになったとか言わないよな。
――もしもそんなことになったら、速やかにロズの目の前から消えてもらうぞ……。
おれがめらめらと嫉妬の炎を燃やしていると、ロズが続けた。
「なんか、俺、あいつと会うの怖い…………」
がーん!!二度目のショックが今度は胸にきた。
くっ。
膝から崩れ落ちる。
ショックで足が立たない。
俺は床に手をつき、衝撃に耐えた。
はぁっ……・、はぁ……。なんて破壊力だ。
心臓がつぶれそうだ。
そんな俺のことなど露もしらず、ロズとダニーの会話は続いていく。
「なんで怖いんだ?」
「なんでだろ……。
俺、あいつに好きって言われたんだけど、
自分のどこがあいつに好かれているのかわからない。
一時の気の迷いなんじゃないかって思うんだよ」
「お前、魔物をなんかすごい力を使って服従させたんだろ……。
詳しくはしらないけど。
お前が、ヴェルグラード側に魔獣を追っ払ったって聞いたぞ。
国を救った英雄じゃないか。
お前が回復したら国から表彰されるんじゃないかって噂だぜ。
もっと自信持ってもいいんじゃないの?」
「…………いや、それって結局、俺が努力とかで勝ち得た力じゃないからさ。
俺はそんなにすごいやつじゃないし、
それに……目立ちたくない」
「あぁ、エリアスといると目立つしな…………」
ロズは目を伏せた。
「それも正直なところある…………。
でも、エリアスが本当に好きなら、他人の目なんて気にならないはずだろ?
でも、俺は気になってしまう。
それって結局、エリアスのこと本当に好きなのかってわからなくなる」
あぁ、もう、だめだ。
俺ことエリアスはふらふらと立ち上がった。
このあとの会話はジョナサンに後できこう。
今日はもう衝撃に耐えるHPがない。
俺は、逃げるように自室に戻った。
…………人生で初めて敗北したような気持ちだ。
いや、いったん戻って作戦を練るだけだ、俺はこの程度じゃめげない……はずだ。
精いっぱい虚勢をはりながらも、俺は泣きそうになっていた。




