安堵
喜びをかみしめた直後、我に返る。
ロズを早く移動させなければ!
俺は、ロズを抱え上げると、乗ってきた馬に乗せようとした。
そのとき、頭にドラゴンの声が響いた。
「我が運んだ方が早かろう。
馬は無理だが、お前と紫の子は運んでやる」
「――!!」
願ってもない申し出だ。
俺は、ドラゴンに王都の騎士団本部まで運んでもらうことにした。
「よし、行けっ!」
俺は、馬の尻をたたく。
馬は自力で中継所へ戻るよう訓練されているのでこれで大丈夫だ。
そしてドラゴンの背中にロズを抱えたまま飛び乗る。
するとドラゴンが再度、思念で話しかけてきた。
「ロズは、気を失っている。
万が一落ちるといけない。
私が手で包み込み運ぶ。」
「――っ!!」
一瞬、カチンときて、ドラゴンにくってかかりそうになる。
俺とロズを引き離す気か?
まさかロズをどこぞに連れ去る気じゃないだろうな?
しかし、すぐに冷静になる。
確かに、背中に鞍がのっているわけでもない。
うっかりロズを落としでもしたら大変だ。
――ここはドラゴンの提案に従った方がいい。
俺は、いったん、ロズを抱えたままドラゴンの背から滑り降り、外套を敷き、
その上にロズを横たえる。
ドラゴンは、その両手というか前足でロズを優しく包み込む。
そして、顎をくいっと動かし、俺に背に乗るよう指示をした。
なんか、カンにさわるが、逆らうのは得策ではない。
俺は、再度、ドラゴンの背に飛び乗ると、背びれの間にまたがり、
その巨大な背びれに掴まった。
ドラゴンは、俺が背びれに掴まるなり、いきなり飛んだ。
地面が一気に遠ざかる。
風が叩きつけるように吹き上がり、視界が揺れた。
「おい!そんなに激しく飛んだら、ロズの体にさわるだろ!!」
おれが怒鳴ると同時に、飛行に適した高度に達したらしく急に水平飛行に移った。
浮遊感は小さくなったが、スピードは緩まらない。
俺は、浮遊感もスピードも平気というか刺激として楽しむタイプだが、
ロズの体に悪そうでひやひやした。
ドラゴンはぼそっとつぶやく。
「ふん!落ちなんだか。これくらいで落ちるようであれば、
紫の子の相手として不足。
そのまま別れさせようと思うたが。
まあまあ、身体能力はあるようじゃの。
…………及第点、といったところか」
風にかき消され、ドラゴンのつぶやいた企みに気づくことはなかった。
俺はロズの体を一重に案じていた。
さすがドラゴンのスピードといったところか。
10分程度で、王都の灯が、遠くに見え始める。
その光を見た瞬間、胸の奥に押し込めていた不安が、ようやくほどけた。
――まだ、終わっていない。
だが、間に合った。
ドラゴンは、なぜか騎士団本部の場所がわかるようで、
騎士団本部の裏手の空き地にその巨体をおろした。
ドォンという地響きが周囲に広がるが
魔獣騒動に騎士団全員出払っているのか
誰も出てくる様子はなかった。
運がいい。
騒ぎになったら時間がもったいないところだった。
ドラゴンは、ロズをそっと地上におろす。
そして名残惜しそうにロズを見る。
その目はどこか慈愛に満ちているようだった。
しかしドラゴンはこのままいると騒ぎになるとわかっているのか
迷いを断ち切るような表情を浮かべ、そして上空へと舞い戻った。
そのあと、ロズを見つめながら2、3周旋回したあと空の彼方へ飛び去って行った。
おれは、急いで本部内にある、救護室にロズを運ぶ。
救護室につくと、医療ケアの最高位にいる医師、Dr.タランティーノが待機していた。
「ドクター!連絡していた患者です!」
「わかった。ミセス・マーブル、すぐ(高速魔力検査)装置を患者に装着して」
ドクターの指示を受けた看護師が、ロズに種々の管のついた装置を取り付ける。
そのうえで、Dr.タランティーノは、ロズの状態を高速魔力検査装置を使い調べる。
「少し、貧血状態ではあるが、後は大丈夫そうだ。
しばらく休養すれば自然と回復する。
回復を早めるため、栄養剤を打っておく」
そして、手早くロズに注射をした。
「――魔力治療じゃないんですか?」
俺が尋ねると、ドクターはウインクする。
「もう、魔力治療は十分施してある。
お前さんがやったんじゃろ。
あとは魔力と薬と合わせ技が一番回復が早い」
「では、入院はさせなくも?」
「…………いや、周囲や自分自身で無理をする可能性がある。
2週間程度はこのまま入院させるほうがよかろう」
俺は愕然とした。
「…………ロズに2週間も触れられないのですか?」
すると、ドクターはうんざりした表情になった。
「わしは、長年、医療に従事してきた。
その経験から、このタイプの患者は、少し元気になると、
それにつけこもうとする見舞客の相手で疲労する傾向にある。
しばらく面会謝絶がベストじゃろう」
「……はぁぁぁ?」
この老医師、何を言っている。
それなら裏から手を回して……。
「――まあ、本人が意識を取り戻して、会いたいという者にはその限りではないがな」
…………なるほど。
それなら、まぁ。どうせ、ロズは俺に一番に会いたいというだろうし。
俺は、ジジイ……、失礼、もといDr.タランティーノにロズのケアを重々頼むと、
ロズを疲れさせまいと一旦部屋を後にする。
扉の前で、一度だけ振り返る。
――そこに、確かにロズはいた。
それを確かめて、俺は静かに部屋を後にした。




