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天才は劣等感のある年上魔法騎士を逃さない  作者: 青門 利空


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覚悟

それに気づいた周囲が叫び声をあげる。


「ドラゴンだ!退避しろ!」


「立ち向かうな、総員退避―っ。退避―っ」


辺りが一層騒然とし怒号が飛び交う。


命令通り、誰もドラゴンに立ち向かうことなく

まるで波が引くかのように、辺りにいた兵士たちは、列をなして

撤退した。

また、周囲にいた魔獣もドラゴンの出現に周辺からはいなくなる。


俺は、もしかしたら、ロズの行方がわかるかもしれないと

岩陰に身を潜めて様子を伺った。


あの時の、ドラゴンの様子だと、ロズに対して

危害を加える様子はなかった。

あの時のドラゴンなら、もしかしたら――。


ドラゴンは地面に降り立った。

着地の衝撃で、地面が大きく揺れた。

俺は警戒しつつ、ドラゴンを注視する。


すると、ドラゴンはその両前足で持っていた何かを地面におろした。

……何かを、抱えている。

まさか――

――ロズ!!



おれは、ロズに駆け寄った。


「ロズッ、生きていたのか?!大丈夫か?」


ロズは俺の方を目を丸くして振り向く。


「ダニー、無事だったのか。よかった。会えて」


「本当にな。心配してたんだぞ。ドラゴンに連れ去られて。

そのあと、どうしてたんだ?」


「うん、色々あったんだ。

とりあえず俺は大丈夫、…………今は」


「なんか、状況がよくわからないが、とりあえず逃げよう!」


俺は、ロズの手をとろうとした。

が、ロズがはっきりとその手を振り払った。

俺は驚いてロズの顔をみる。


「――ごめん、俺、やらなくちゃならないことがある。ダニーは先に逃げてて」


「…………なにを、言っているんだ?」


俺は困惑するが、ロズは逆に迷いが消えたような顔をしていた。


「じゃあな、ダニー。また会おうぜ」


ロズは、笑った。

そしてそのまま背を向ける。


「待てよっ」


巨大な影。

――ドラゴン。

その巨体が、二人の間に立ちはだかる。

そして俺の目をじっと見た。

その目は、まるで、ロズのやりたいことをさせてやれと言っているようだった。


「……っ。ロズーッ!!!」


それしか、できなかった。

あいつの眼。

いつもどこか自信のなさで揺れていた瞳が、静かに凪いでいた。

俺は、この戦いの中で、何度かそういう目をする奴らを見ていた。


…………あいつ、死ぬ気だ。

 

 

ダニーの叫び声が、まだ耳に残っている。

俺は、深呼吸をする。そして、周囲を見渡す。

ドラゴンが側にいるせいか、魔獣は遠巻きにしてこちらの様子をうかがっている。


俺は、とりあえず、近くにいた犬型の魔獣に目を合わせた。そいつは、

俺と目があうやいなや、目を丸くして、動きを止めた。

そして、キューンといって崩れ落ちた。


まるで、マタタビをかいだ猫みたいに――。


俺は、次に、サル型の魔獣に目を合わせる。

そいつも全く同じ反応だった。

よし、この調子でいけば、イケるっ。

そう、喜んだときだった。

 

その奥には――数えきれないほどの群れがいた。


だめだ……、もう夕方になっている。

日が沈む前に決着をつけないと、夜になったら、

夜行性の魔獣相手だと、圧倒的にこっちが不利になる。


しかも、一匹ずつ目を合わせるなんて……キリがない。


俺は、剣を抜いた。

…………これでいい。

前腕に当てる。

そして――引いた。


腕には一本の赤い筋ができて、そこから、ボトボトと血が流れだした。

少し、深く切りすぎたようで、思ったより多めに出血している。

これぞ、本当の出血大サービスっなんちゃって……。

…………って、何考えてるんだ俺。


っと、痛い……、じんじんしてきた。

周囲をみると、俺の血の匂いに当てられた魔物が

バタバタと将棋倒しのように倒れていっている。


そして、体から、力が抜けていく。

指先の感覚が、消えていく。

たぶん、「魅了」で魔力も大量に消費されているんだ。


そうこうしているうちに、血の匂いに引き寄せられた魔獣が、次々と崩れ落ちていく。

倒れていく魔獣の数は、たぶん、100匹以上はいけたハズ。

でも、それと同時に俺の力もどんどんなくなって……、


あぁ、もう、俺死ぬんだな……。

おれは、自分の体がゆっくり膝から崩れ落ちるのを感じた。

思ったより苦しくない。

…………あぁ、もういいか。

ポンコツにしては、上出来だろ。

なぁ、エリアス。

…………お前、泣くかな。


そう思ったのを最後に――

俺の意識は、途切れた。



戦況は、想定以上に崩れていた。

怒号、悲鳴、命令が入り乱れ、統制は半ば失われている。


エリアスは、西の森に着いたときに、混乱している状況をみた。

そして、手近な兵士を捕まえて現状確認をする。


「戦況はどうなっている!手短に報告しろ」


「あ!騎士殿、先ほどドラゴンが出現しました!

体長はおよそ15~16m程度。

一旦総員退避の指令がでて、

とりあえず、第2隊がバリアを展開しつつ、

他部隊は西の森入り口の簡易拠点まで撤退している最中であります!」


「そうか……、第3隊はどうしている?」


「第3隊は遊撃作戦が命じられ、4人1組で動いていると聞いております!

おそらく、魔獣撃退のエキスパート部隊のためしんがりを務めているかと」


「……そうか、わかった」


報告を終えた兵士は敬礼し、撤退するほかの兵士とともに、去っていった。


なんだか、胸騒ぎがする。

俺は魔鏡を取り出す。

仕込んだチップの位置を映し出す軍用の秘匿装具だ。


悪用されないよう、軍で厳重に管理されており、その存在は幹部クラスしか知らない。


俺は、有力な侯爵家の人間なので、特別に所持が許可されている。

(というか権力という裏ルートをつかい強引に認めさせた)

 

小さいチップは、ロズの靴に仕込まれており、はだしでもない限り所在が把握できる。

魔鏡を見ると、ロズの居場所はここから数100メートルほど先だ。

 

よし、ロズ!今から向かうぞ!

俺は馬を急がせた。




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