第7話 薔薇子様は侯爵家の娘で皇太子妃候補でした 4
「恭介!朝ですわ!出かけますわよ!」
俺の部屋にバババーンと押し入り、カーテンをシャーっと勢いよく明け放ち、なんなら窓も全開にしてくれた。
うぅ。寒いんだが?
いつの間に布団も剝がされていた。
羅生門の追いはぎもびっくりだよ…。
こんな起こし方母さんもやらんぞい…。
とにかくこの令嬢、勢いがすごい。
「さ、出かけるのですわ。
わたくしはリビングで勉強しておりますから早く来てくださいね。」
「あい。」
いかんろれつが回らない。
着替えて二階の洗面所で顔を洗い、髪をセットする。
平日は髪を整えた後、最後にわざとクシャっと崩すのだが、今日はデートなのでクシャっとしてない。
俺が支度して降りてきたときには、父さんも母さんもいなかった。
さっきまでなんか下で人の気配がしたんだけどな。
薔薇子は勝手知ったる他人の家といった具合で、しっかり来客用ティーセットを出してきてレモン入りんの紅茶を飲みながら、スマホといつもの夢可愛いノートで勉強していた。もちろんポンポン付のペンを使っている。
「恭介もう9時半ですわよ。
おじさまとおばさまは今日は遅め休日出勤なんだそうですの。
先ほど出て行かれましたわ。お仕事が忙しいんですのね。
物産展について頼まれましたわ!」
使命感あふれていた。
正直翔子はインドア派だったので、ショッピングに付き合ったことがない。デートといったら、花見、水族館、動物園、映画館、喫茶店などだ。
あれ?思い返してみたら、普通にデートっぽいことはたいていしているな。
何かをみるというデートはよくしていたようだった。
というか俺の人生の半分はあいつと過ごしていたのだ。どこでも大半は一緒に行ったことがあった。
それにしても薔薇子の今日の印象はいつもと違う。
いつもは制服や部屋着を見かけることが多いし、どこから引っ張り出してきたのか、翔子が着ないような服を着ていると思う。
薄紫の長めの花柄のロングスカート。上は白いシンプルなカットソーだ。
髪も編み込んであって後ろで髪飾りで留めてある。ベージュのコート。
うん可愛い。
俺はというと、白いシャツ、緑のセーター、濃いグレーの少し緩めのスラックスにコートだ。
「実は昨日は急遽、家の中を大捜索して、翔子さんが着もせず大事にとってあったり、お母さまが着られなくなった服をいただいたりして、ワードローブを整理しましたの。これで足りない服が視える化し、不足しているものを買い足せますわ。」
なるほどさすが侯爵令嬢。流行りすたりに敏感且つ、仕分けなども得意なようだ。
ちなみに翔子はそういうことは苦手で物は捨てられず、服の好みもおばさんや俺が指示した服を着る感じだった。
「申し訳ないのですがまず不要な品をショッピングモール内の古着屋さんで売りたいですわ。」
どうやらリビングに入る前玄関を通った時に置いてあるのを見かけた紙袋のことらしい。大きな袋が7個くらいありましたよね。全部持てるかな。
朝から忙しくなりそうだ。
5秒でコーンフレークを口に掻き込み、歯磨きをして準備を整えた俺は、なんとか無事にショッピングモールへ到着し古着を引き取ってもらうことに成功した。
ショッピングモールは実はなんのことはない、いつも通っている学校や図書館のある駅の反対側にある。
なんで昨日いかなかったのか?
物産展は今日からだったので二日連続で行くのは面倒だし、薔薇子の私服が見たかったからである。
それに持っている服の整理をしたのなら、昨日急にじゃあ今行こう!と誘っていたら薔薇子は困っただろうな。
物産展で頼まれていたものを購入し、そして服屋を回った。ちなみに頼まれていたものポテチにチョコレートがまぶさったものの限定フレーバーだった。
薔薇子が寄りたがったのは普通の服屋だけではなかった。というかロリータ服が売っている店がメインだった。服の素材の質や縫製、値段も見ている。
「ネットショッピングなるものが流行っているそうですが、やはり実際手に取らないとわかりませんわね。写真では気に入っても実際に触ってみてみれば安っぽかったり、逆に写真では興味なかったのに、実物は魅力的なものも多いです。なるほどこの質で大量生産できるのなら特注を頼む人なんていませんわね。現代技術ってすばらしいのですわね。」
そして最後に手芸屋だ。
そこで薔薇子は、なるほど侯爵令嬢っぽいな。
レース編みの棒や糸、刺繍用の針や糸。ちゃっかり会員になって、布なんかも買っていた。
次は自分で来れますわと言っていた。よかった。
そして、今日はいつもと違うカフェだ。
しっかり調べておいた、ケーキがおいしいところだ。
いつもと違って先に頼んで自分でカップを席まで持っていくスタイルではなく、席で注文する形式だ。
「決まったか?」
「えぇ。」
「店員さんを呼ぶ前に、先に何を頼むか言ってみて。」
「アップルティーにしてみますわ。レモンティーにはレモンが浮かんでいますがアップルティーにはりんごが浮かんでいるのでしょうか?」
「それは店によるな。多分浮かんでないのでは?頼んでみないとわからんな。
あとはケーキは。」
「ケーキは…、お金を貯めたいので止めておきます。」
「俺がこの店に誘ったんだ、俺が払うよ。何食べたい?」
「…。
わかりました。ありがとうございます。
じゃあこのチーズケーキがいいですわ。
えーっとベイクド?これで。」
「わかったじゃあ注文するわ。」
店員さんを探して小さく手を振ると、飛んできてくれた。
「アップルティーとカフェラテ、どっちもホットで。
あとベイクドチーズケーキとレアチーズケーキお願いします。」
「今日はカフェラテなんですね。」
「なんとなくな。」
「あと自分で頼んでなんですが、ベイクドとレアって何が違いますの?」
「みたらわかる。あとここのメニューにはないけどスフレもあるぞ。製法が違うから全然味が違うんだよな。」
店員さんが運んできてくれたチーズケーキを2つとも薔薇子の前に差し出した。
「ほら食べ比べていいぞ。多かったら残していい。
食べきれるなら全部食べてくれ。
間接キスになっちまうとまた誰かさんに怒られる。」
「もうもう!素直じゃありせんわね!
でもうれしいですわ…。いただきます。」
薔薇子は殿方のご厚意は素直に受け入れませんとね。と言ってた。
美味しそうにケーキ食べている人を眺めるとおなか一杯になるな…。
「ほ、ほんとうは恭介のなんですから、一口差し上げますわ。だってとっても美味しいんですのよ!独り占めするのはもったいないですわ。」
「俺は薔薇子が美味しそうに食べているのを見ているだけで十分だけど、そうだな。
こういう時は恋人同士なら、どうやって一口あげればいいかわかるよね?」
また懲りずに意地悪を言ってみる。
断られるかな…。
「はい。
これが、お望みなのでしょう?
あーん、ですわ。」
あーん
美味しい。美味しい。
いや、うそ。味しないよ。
多分今俺顔真っ赤になってる。
素直な薔薇子が可愛すぎた。すべて薔薇子が悪いな。
そして元侯爵令嬢様にこんなことさせてるなんて…、背徳感が半端ねぇぜ。
「次はスフレケーキも食べに行こう。」
「はい。楽しみにしていますわ。」
ちなみにアップルティーにはりんごは浮かんでなかった。




