第5話 薔薇子様は侯爵家の娘で皇太子妃候補でした 2
今日も俺たちは放課後、学校最寄り駅にある図書館併設のカフェにいた。
以前の翔子は、いつもチャイティーを注文していた。
だが薔薇子は違う。色々な味に挑戦してみたい派なのだ。
今日の薔薇子はキャラメルラテを注文していた。紅茶だけでなくコーヒーの方もたしなむようになったようだ。
俺は変わらずブレンドコーヒーにポーションミルクだけ入れている。
「今日もあなたはブレンドコーヒーなんですね。」
「あぁ、また味見する?」
にこっと笑って提案した。
慎みある元侯爵令嬢様は好奇心に駆られて恥ずかしげもなく間接キスを体験してしまったことがトラウマになっているようだ。薔薇子は侯爵令嬢だったにもかかわらず苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
隣にいたら腹パンされていただろうが、今は向かい合わせだ。
足を踏まれそうになったが華麗にかわす。
ふふっ、俺はできる男なのだ。
悔しそうにする薔薇子を眺めるのは大変楽しい。
「今日はまだ口をつけていないぞ。」
「いいえ!遠慮しておきますわ!」
強めに拒否された。
ちっ、なんかむかつくな。揺さぶってみるか…。
「そうか…。俺ってキモイかな。
俺と間接キスなんて嫌だったよな…。
ごめんな。一口勧めたときは正直間接キスのことは気が付かなったんだ。
気が付いたとき、恥ずかしくなって調子に乗ってしまって…、だからあまり気にしないでくれよな。
それに一応カレカノなんだし、幼馴染だし、家族同然に育ったし、回し飲みなんて当然でキスってもんでもないだろ?
それに先に飲めば安心じゃない?」
シュンとした俺の態度に薔薇子は焦ってフォローを入れてくれる。優しいなぁ。優しさが胸にしみるぜ。
「そ、そうですわね。
わたくしの方こそごめんなさい。強く当たりすぎましたわ。
乙女としても過剰に反応しすぎですわよね。あなたとは家族同然ですのに…。
よかったらまた一口味見させてくださいませんか?
お砂糖がたっぷり入っていないコーヒーは味見するにも勇気が出ませんの。」
「あぁ、もちろん。はい、どうぞ。」
優しく微笑んでお渡しした。
一口飲む薔薇子。
「あら、少し苦いけれどこの前より美味しく感じますわ!」
とてもうれしそうだ。
「それはよかったな。」
だめだ我慢できない、
ぶふっ吹きただしてしまった。
「な、なにがおかしいんです!?」
「い、いや、何もおかしくないぞ。」
手をくいくいっとしてコップを返してもらう。
そして笑いながら、乾いた喉を潤すためにそのカップからコーヒーを…
ガシッ
腕を力ずよく握られた。
「お待ちになって?」
笑ってるけど顔が怖い。
「気が付きましたわ、私が初めに飲めば…ならないと勘違いしてましたわ。」
「えぇ?」
「そのカップもう一度かしてくださらない?」
「さっき貸しただろ?俺のコーヒーだよ。」
「ふふふ、一杯おごらせていただきますから!おかえしください!」
半泣きだ!
可哀そうなので折れることにした。
「仕方ない。いいぞ。」
「今買ってきますわね。」
薔薇子は俺のカップを受け取ると自分のキャラメルラテのカップの横に置き、席を立った。
見えなくなる薔薇子を見送る。
俺は自分のカップをまた引き寄せ、コーヒーを一気飲みしたのだった。
その後新しいコーヒーを買って戻ってきた薔薇子の羞恥心と怒りに満ちた顔がふと思い出だされ、数日間楽しく過ごせた。




