第4話 薔薇子様は侯爵家の娘で皇太子妃候補でした 1
今日俺は薔薇子の一緒に帰りましょうという誘いを断り、学校から先に帰宅していた。
そして今、中野家にお邪魔している。つまり薔薇子の家に先に帰ってきた。
中野家は敷地の大きい平屋の家だ。翔子の祖父母の住んでいたころからある家で、立派だが結構ガタがきていて古めかしさが目立つ。
現在の中野家の経済事情では大きい補修は無理なようだが手入れだけは常のしっかり行き届いていた。
「最近寒くなってきたわね。恭介君もこたつに入って。お菓子もおみかんも食べてね。」
俺は遠慮なくみかんをいただく。うちの母親は安いみかんしか買ってこないが、ここの家で買っているみかんはわざわざお取り寄せしているみたいで、甘くておいしいのだ。だが俺が週一くらいでお邪魔し、箱の三分の一は隣人の俺が食ってしまってる。
今日は遠慮して三つくらいにしとくか…。
「最近翔子はどうかしら。」
「はい、変わらずおかしいです。」
「やっぱり~?もう治らないのかしら?
前からいい子だったけど、さらにいい子になってしまって、つまらないのだけど?」
「いや知らんがな。」
「以前は勉強が好きじゃなかったのに、今はすごく勉強してるみたいなの。しかも不 器用だったのに、ボタン付けとか裁縫も、絵も歌も上手なのよ!?
鼻歌がジャ〇アンだったのに、今はプリンセスだもん。この前なんて掃除してるときにナイチンゲールの歌を歌ってて、シンデレラかと思ったわ。
しかも最近髪の毛も巻いてるし、超かわいくない!?
ねぇ事故で頭打つと能力が全部上方修正されるときあるの?恭介君どう思う?」
「さぁ、わからんです。」
俺はせんべいをバリバリ食いながら答えた。
いや別人になってんだよなぁ本人曰くだけど。
でもおばさんがそれに気が付かないのもわかる。
翔子っぽさも残ってるのだ。
だから俺が苦しくなってる。
ただちょっと記憶がおかしくなってるだけで元に戻るかもなんて、諦められない理由だ。
ふとしたときの表情。髪のかき上げ方、字の書き方、振り返ってにこっと笑った時。
本人は翔子は死んだ。そう言ってはいるが、以前と違う点もあるのに、同じ点も多い。
薔薇子は意識が戻ってすぐ医者に、私は翔子じゃないと言ったそうで、中身が変わった云々は翔子の母親にも伝わっている。
ただ現代科学現代医学では逆異世界憑依なんてそんなこと証明されるわけもない。
大人からしたらただおかしくなってよくわからんことを言っている…といった具合なのだ。
そして中野家母子のその不安を受け止められるのは…、現状医者とうちの家族のみである。
うちの母親からも、中野家の母子のことに関しては全力で協力するように仰せつかっている。
なので数日、少なくとも最低でも週一で、おばさんに薔薇子の日常を報告しに行っているわけだ。ついでに精神的に辛いであろうおばさんの様子も見ている。
ただ…、おばさんは娘ラブなのだった。
俺が報告するというよりは、おばさんの親ばか娘愛談を聞く会になっている。
「翔子はいつも私にお母様いつもありがとうって言うのよ。ほんといい娘だわ。あなたも京子ちゃんにちゃんと言わなきゃだめよ。」
「はい、わかっております。」
ちなみに京子はうちのお母様の名前です。
おばさんはこういうとき、あとで俺がちゃんと母さんにありがとうと伝えたかをわざわざ母さんにチェック入れるから辛いんだよなぁ。
話を聞いていると、いつの間にか無限にお菓子とみかんを食べてしまうのである。
「ただいま帰りましたわ~。」
やっべもうそんな時間か、薔薇子が帰ってきてしまった。
「あら~、もうそんな時間?恭介君ごめんね引き止めちゃって。
そうだ夕飯食べてかない?
翔子~、今日の夕飯当番翔子だよね?恭介君の分まである?」
「あらあなた来ていたのですね。
ありますわお母さま。丁度安かったので多めにお肉を買ってきてしまったところですの。キャベツも1玉99円でしたし、生姜焼きがはかどりますわ!」
「あ、え、いやこんな時間だし、母さんももう用意してるだろうし遠慮して…」
「何遠慮してんのよ!
美少女のお手製料理なんて、世のおじさん共が一食一万出したって食べたいのに!
遠慮せずに食べなさい!私が京子ちゃんに今電話するから!なんなら家でも食べればいいでしょ。」
無茶苦茶である。
「おばさんは世の高校生の食欲のポテンシャル過信しすぎ…。俺運動してないし量はそんなに食えないっす…。」
「何言ってんの!毎朝外ランニングしたり筋トレしてるの知ってるんだからね!まったく!」
そういいながらこの家に馴染みすぎて横たわってる俺の服をべりっとめくり、腹筋に一発パンチした。
なんで?
ギリギリ力を籠めるのが間に合って軽傷だ。
力籠めなったら絶対痛かったぞ…。
母子共にすぐ腹を狙って殴ってきやがる。
おばさんが電話しながら居間から立ち去るのを見送ると俺は素早く捲れた腹を隠した。
「何盗み見てるんですかねぇ。チラ見料とりますよ。」
俺が手をハイっと出すと、薔薇子はよくもわからず手を差し出した。
お金をくれってジェスチャーなんだが伝わってないのか?
俺の腹をガン見していたことに気が付き羞恥心に悶えていたせいか判断力を失ったのか?
仕方ないからおかれた手にキスをすることにした。
ななな
と言いながら薔薇子は手をひっこめた。
あはは、面白い。
「なぁ、この前も思ったがエスコートしてもらうのに当たり前に腕を組んだり、手を出されたら手を出し返すことなんて現代社会ではやらないぞ。あと手の甲にキスもな。」
「!!!
…。そうなんですの…?」
俺は無言で頷いた。
しばしの間
「わたくしはあなたの目にどう映っているのかしら?」
「事情が事情だから仕方ないけど、普通だったら遊んでる女扱いだろうな。
端から見たらただのラブラブバカップルだな。」
「確かに思い返せば街で腕や手さえ組んだり握ったりしてる人がほとんどいませんでしたわ…。
わたくしったら本やアニメ、ネット漫画の悪役令嬢異世界転生もので出てくる概念だったから違和感なく…、うぅ…。
でもよかった思い返しましたけど、あなた以外にはやっていなさそうですわ。
男子友達がほぼいないせいね。担任も女性でしたし、奇跡ですわ…。
現代社会では殿方と腕は組まない…。手の甲にキスされない。気を付けなくては。」
めっちゃ早口でブツブツ言ってるな。
「なんでもっと早く言ってくださらなかったんですの!?」
「いやだって、どうせお前の周りに男なんていないし、ということは俺得だろ?それに結局今ちゃんと言った。」
「くぅ、してやられましたわ。」
「なぁ、もう一ついい?」
俺は起き上がって薔薇子の正面に立ち、まじめに言った。
「な、なんですの改まって、他にも何かありますの!?
言ってごらんなさい!受けて立ちますわ!」
「あぁ、わかった。じゃあ言うぞ。
よく少女漫画のロマンチックなシーンでヒーロー役の男が、ヒロインの髪の毛つかんでキスするシーンあるじゃん?あれって変態過ぎない?」
「はぁ?ど、どういうことです?」
わからんみたいなので、薔薇子の肩にかかってる巻き毛をひとすくい手に取り、キスした。
意外に顔を近づけないとだめだよな。
「こういうこと、ほら変態みたいだ「この変態!」」
うっ
丁度髪を触るために挙げた腕を死角にしていいパンチが腹に入ってきた。
親子そろっていいパンチ繰り出すぜ…。
俺は床にひれ伏しサムズアップした。髪いい匂いだったぜぇ…。
悪いと思ったのか生姜焼きが大盛りだったが、家に帰って母さんが作ってた料理も生姜焼きだった。
あぁ同じスーパー通ってますもんね。




