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俺の彼女が急に異世界令嬢になってしまいました。俺ってこのまま彼氏でいいの?  作者: 長嶺暦


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第3話 俺の彼女は死にました 3

 今日の俺たちは図書館併設のカフェではなく図書館の方にいた。図書館には大体週三日ほど通っているが、そのうち二日ほどはカフェに行く。よって今日はその貴重な?カフェに行かない日であった。

 

 俺たちが通い詰めているこの図書館はとにかく広い。飲食は禁止だが、机はびっくりするほどたくさんあるので安心だ。

 俺たちはカフェに行かない日は図書館の2人席に座り、各自のやりたいことを日々こなしている。


「なぁ、さっきから何やってんだ?」


 相変わらず彼女は、例のピンクのポンポンのついたボールペンでノートに何かを書きなぐっていた。


「この世界のことをおさらいしていますの。」

「おさらい?記憶があるのに?」

「えぇ、やはり以前興味がなかったことは頭に入っておらず学びなおしが必要ですし、自分の記憶であっても引き出すのに時間がかかったり、きっかけがないと思い出せない時が多いのですわ。」

「うーむ、よくわからんが、なるほど?」


 翔子はそんなに頭がよくなかったし、内気でインドア派だったから確かに知識が偏っているだろうな。気が付いていないのかもしれないが、彼女の知りたかった知識なぞ初めからインプットされていなかったと思われる。それを思い出そうとしても思い出されないと悩んでいる時があるのだから、なんともまぁ可哀そうだが見ている方は面白い。



「それより、わたくし考えたのですが、あなたは以前わたくしのことを翔子と呼び捨てでしたよね。」

「あぁ、まぁそうだな。」

「でもわたくしはもう翔子であって翔子ではありません…。

それで考えましたの。ニックネームで呼んでくださいませんか?」

「ニックネーム?」

「えぇ。それも考えましたわ。

わたくしのことは薔薇子ばらこそうお呼びになってください。」

「薔薇子?」

「えぇ。わたくし、翔子になる前はローゼリエという名前でしたの。

 そして翔子さんのお母様は翔子さんに薔薇子と書いてしょうこと名づけたかったそうですの。これはもう運命としか言いようがありません!

わたくしの新しい名前は薔薇子ばらこで決まりですわ!」

 なんかどこかのアイドルがそんな話してた気がするな…。

 それにこっちだとばらこって魚卵のことだけど、なんか外人の入れた面白漢字タトゥーネタみたいだな。

 まぁ本人が良いならいいか?多様性の時代だもんね。


「わかった。とりあえず君のことは薔薇子って呼ぶよ。」

「ふふふ、よろしくお願いしますわ!」




「なぁ、さっき翔子になる前はローゼリエって名前だったって言ってたよな?」

「えぇそうですわ。」

「どういう人物だったんだ?異世界で、お前はどうしてこっちに来たんだ?ありがちな展開だがもしかして翔子と入れ替わっていたりとか?」



「いいえ、多分向こうのわたくしはもう死んでいますわ。」


 薔薇子は自身が翔子の身体に憑依する前のことを思い出していた。


「わたくしは侯爵家の娘ローゼリエでした。わたくしは・・・。」




「わたくしは侯爵家の令嬢。そして未来の皇太子妃でした。

 本来でしたら王の側近や野心家の貴族が皇太子誕生に合わせ子を成すのですが、

偶然というか丁度、皇太子様が御生まれになる頃、お国ごとでなんやかんやありましたために、年頃の身分の高い娘がわたくししかいなかったのです。

 ですが…。

 会議でわたくしが皇太子の妃としての決定が下されたその日の夜に暗殺されました。

 

 つまりわたくし死んだんですわ。」


「は?死んだ?」


「そうです。翔子さんもそうでしょう?車に轢かれたと。」

「あぁそうだけど…。というかそれなら、翔子はもしかしたら薔薇子のいた世界で薔薇子の身体で生きているかもしれないってことか?」

「わたしくもその可能性は考えました。ただ…。」

「ただ?」

「実はわたくしは自分が死んだと確信がありました。」


 そう話す薔薇子の手は震えていた。顔色も悪い。血の気が引いて真っ白だ。その時のことを思い出しているのか。

 

 翔子のことだ。聞きたい。もしかしたら翔子が戻ってくるヒントになるかもしれない。俺はまだ翔子が戻ってくることを諦められていないんだと思う。


 だけど薔薇子のこの様子をみたら急に心がいつもと違った痛みで苦しくなった。


「おい。無理に話さなくていい。」

「いえ…。大丈夫です。少し思い出してしまって…。大丈夫ですわ。」


 深呼吸を繰り返す薔薇子の手はまだ震えている。俺はいてもたってもいられず、少しでも早く落ち着けるように、机の上に置かれた薔薇子の手を握った。

 薔薇子はまだ苦しそうに、口をあける。

「ありがとうございます。でも話したいのです。聞いてくださいまし。

 あの日、わたくしは確かに死にました。

 自分の血が体からどんどん流れ出てゆき、自身がどんどん冷たくなっていくのを感じたのですわ。

 そして真っ暗になり痛みが消え寒さが消え意識が途絶えたとき、多分夢の中で?翔子さんに会ったのです。

 解かるのです。わたくしと翔子さんの魂は同じ。だからわたくしは翔子さんになれた。

 翔子さんも解かっていたようなのです。


 だから翔子さんは最後に死にたくないと強く思ったわたくしにチャンスをくださいました。

 そう、あの瞬間。

 わたくしが死ぬ瞬間、翔子さんも事故に遭った。

 

 一つの魂をもつわたくしたちが偶然にも同じ時に。

 

 その偶然が奇妙な奇跡を呼んだ。

 

 わたくしは死ぬ予定ですが、翔子さんは生死を選ぶことが出来たようでした。

 翔子さんが死を選択し、なので空いた身体を使っていいよとそういうことでした。

 翔子さんは…、疲れてしまったようでした。


 後から病室で翔子さんの記憶を見返しましたが、自殺するような感じではなかった。ただ漠然と疲れていたように思いました。

 そこにふと死ぬチャンスがあった。それだけのことのように思います。


 ですが、わたしくが翔子さんの居場所を奪ってしまった。そういう気がしてならないのです。

 すみませんあなたもつらいのに。

 本当はもっと早く謝るべきでした。もっと早く話すべきでした。

 遅くなって申し訳ありません。

 これがわたくしが翔子さんが死んだといった根拠ですの。」





「あいつなんか最後に言ってた?」


「あなたに、ごめんと伝えてほしいと…。」


「そっか。」


「すまん…、気分悪い、先帰るわ。」


 我慢できなかった。

 嘘でも、本当のことでも。

 

 考えたくない。


 翔子がいない現実を受け止めたくなかった。

 薔薇子が悪いわけじゃない。


 でも同じ顔で目の前に座ってて。

 こんな話されて。

 もう俺の知ってる翔子は戻ってきませんよ死にましたなんて。

 頭では解かっていても受け入れられるわけがない。


 あぁくそ。

 

 今俺絶対やばい顔してる。

 せっかく話してくれたのに、逃げ出してしまうなんて気を悪くしたかもしれん。

 あいつだって苦しいはずなのに、俺は…。



 図書館を出たら雨だった。

 ははは、作品における心情表現ってやつ?

 物語で主人公が辛いとき、涙を流したいのに流せないとき、代わりに雨が降る。



 ここは駅まで屋根付きで濡れないで行ける広大な駅前の公共施設、併設ってのが売りなのに。

 慌てて近くの出口から出てきちゃったから濡れるし、傘は学校に忘れてきたわ。


 どうしようかも考えられず呆然と立ち尽くしていると、俺の視界ギリギリにめちゃめちゃ派手なピンクのフリフリレース付の花柄の傘がさされた。




「背が小さいやつに傘持たれると、前が見えねー」


「紳士は何も言わずとも持ってくださるものですわ。」


 俺は薔薇子の傘を奪いながら歩きだす。

 薔薇子は当たり前のように俺と腕を組んだ。


「残念。今の世の中は男女平等だ。」

「そういうことを言っている男はモテませんのよ。結局は紳士な男性から先に売れますわ。」

「俺はもう売れてる。」

「物好きですわね。どんな人かしら。あなた絶世の美女の下僕かなんかと勘違いさなってるのでは?」

「メンヘラ異世界令嬢お守りだよ。」


 組んでいる薔薇子肘がどすっとみぞおちに入ったのだった。




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