第26話 恭ちゃんと私が幼馴染になったとき
怖かった。
記憶が曖昧。
でも、希望もあった。
私は幼いころ祖母と叔母から虐待を受けていた。
小学校低学年のころだ。
そのころの記憶は、もう正直曖昧。
学校から帰ると、納屋や押し入れに閉じ込められて、様々なことを言われたと思う。
もし今日のことを話したら、包丁でお父さんとお母さんを八つ裂きにするからね。
これが叔母さんの口癖だったのは覚えてる。だから私は誰にも言えなかった。
おばあちゃんはすべてを見て見ぬふりをした。私が叔母さんに髪を引っ張られながら、押し入れに閉じ込められようとしていた、目が合っても助けてくれなかった。
私はストレスでどんどん痩せてきて、仕舞いには食事をこっそり吐き戻すようになった。
ある日家族で夕食を食べているときに、我慢できずに吐き戻してしまったとき、やっぱりおかしいと気が付いたお母さんが、私をみてくれているはずのおばあちゃんと叔母さんと喧嘩しだした。
そこからは記憶がない。しばらく入院していたから詳細はよくわからないし後からお母さんに聞く勇気もなかった。
幸いにも、遅かったけど、お母さんが気が付いてくれた。助けてくれた。
そして気が付いてくれなかったくせに、祖母と叔母を庇ったお父さんは私たち親子を追い出したようだ。
退院して、あの家に戻りたくないと病院でパニックになった私を根気強く諭して連れてきてくれた家が今の家だった。
昔お母さんが住んでいた家だそうだ。
ボロボロだけど、しっかり掃除が行き届いていた。
すっかり人間不信。特に大人の女性が好きじゃなくなった私に、お母さんは恭ちゃんを紹介してくれた。
恭ちゃんは新しい家の隣に住んでいる。
なんにも喋らない私にいつも手を差し伸べてくれた。
毎日手をつないで一緒に学校へ行ってくれた。
いつも私を気遣い、私のペースで歩いてくれた。
小学生の間は、どんなに同級生にからかわれても、その手を離さなかった。
どうしてこんなに私に良くしてくれるの?
こう聞いたことがある。
恭ちゃんは、ただ俺がしたいからしているだけ。
これしか言わない。
私の心のわだかまりは少しずつ、少しずつ、氷が解けるように、なくなり、
いつの間にか恭ちゃんがいなくても一人で立てるようになっていた。
まだ自分に自身なんてない。
でも、でも、いつの間にか好きになっていた恭ちゃんを誰にも渡したくないって、そんな欲をいつの間にか持っていた。
親戚か兄妹のように育ってきた私たちは、本当の家族のようで。
私は恭ちゃんに女として見られている自身がなかった。
というか絶望的だった。
だって一番悲惨で格好が悪い。骨と皮みたいな私をみられてる。
それにあんな私にも優しくできる心の優しい恭ちゃんはきっと、誰だって好きになる。
私は恭ちゃんがいつか、私以外の人を好きになってどこかへ行ってしまうのが怖かった。
だから勇気をもって、私から告白した。
そしたら恭ちゃんはすごくうれしそうに了承してくれた。
なんだ私たちの気持ちは同じだったんだ。
私は本当にとっても嬉しくて、幸せで、こんな幸せが続くと思ってた。
おとぎ話のように、めでたしめでたし。
でも違った。
あの日。
あの日はいつもと同じだったけど、雨が降っていた気がする。
あの日は恭ちゃんと一緒に帰らない日だった。
なんにも打ち込むことがない私は、少し駅前をぶらぶらしてから、一人で帰る予定だった。
「ねぇ、あなたもしかして、翔子だよね。」
年配の、お母さんと同じくらいの年の女性に声をかけられた。
怖い。新手の詐欺?名札とかないのに何で名前知ってるの?
「私だよ私、覚えてないの?」
私はまだお母さんくらいの女性が苦手なのだ。
大丈夫なのはお母さんと、恭ちゃんのお母さんと、知っている先生くらいで、スーパー店員さんにさえ挙動不審になってしまう。
キモいと思われないように、なるべく目を合わせないように相手の顔をみないようにしていた。というかする訓練をしていた。
だから当然突然話しかけてくるような女性の顔なんて見ないようにしていた。
けど、私はこう声をかけられて、顔を上げて、その人の顔をまじまじと見てしまった。
私、この人のこと知ってる。
そう思ったときには体が動いていた。
怖くて走り出していた。
あの場に居られなかった。
こわいこわいこわい。
恭ちゃんたすけて。
あの人は叔母だ。私を虐待していた人。
早く逃げないと。
「待ちなさいよ!」
叔母さんは私を追いかけてきているようだ。
私は運動神経が悪くて足が遅い。いくら年の差があっても追い付かれちゃう。
私は地の利を生かすため、小道に入り曲がり角を曲がる。
その時、ドッと身体に強い衝撃が走って目の前が真っ白になった。
え?何?
そこからの記憶がない。
最後に聞こえたのは
「私じゃない。私知らないわ。」
そういった叔母の声だった。




