第16話 手のひらの傷
正直俺は目立つと思う。
自分で言うのもなんだが、まぁまぁな顔。
運動神経もまぁ良い。頭もまぁ良い。
そして努力というか何かを続けるのが嫌いじゃなかった。
当たり前だがもとから少しできるやつが少し努力するとそれなりになる。
しかも例えば運動だけ、勉強だけ、音楽だけ、顔だけ、性格だけ。
なんか1つや2つできるやつならいくらでもいる。
それこそ子供のころから努力してる奴には普通に勝てない。
でも全部がまぁまぁ出来る、顔もまぁ良いそんな奴ほとんどいない。
潜在的にはたくさんいるだろう。学年にも数人いる。
でもどの方向へも努力もできてしまうとなると急に異次元になる。
もうそれは、実は幼少の時に体感していた。
同級生が子供過ぎて会話が合わず、様々なことへのしわ寄せが自分だけでなく幼馴染にまでいきそうになったことで、俺がとった解決方法。
それは自分のレベルを下げることだった。
努力の成果は自身が納得する形へ昇華させる。
部活に入らない、大会に参加しない、委員会に入らない、長のつく役職に就かない、一つのことに注力しすぎない、テストでいい点数を取らない。
髪を整えてもクシャっとさせ、学校では無気力に過ごす。
これが俺の処世術。無気力系脱力男子の完成だ。
ただ今回それがあだになる事態が起きた。
翔子が事故に遭って、薔薇子という人格になってから、薔薇子は優秀すぎた。
考えてみれば当たり前だ。
現代で言う総理大臣か、皇族かという立場になる人だったのだ。
異世界であっても、その国で一番優秀な人材。子供のころから英才教育を受けた人間なのだ。
そんな高貴な人間が一般市民の学校へ来たら目立つ。
所作やふるまいがもうお嬢様のそれだし、愛想のふりまき方も一流。
なにより翔子は内気な性格だっただけで、もとからポテンシャルはあった。
人間は個人のスペック自体にそんなに大きく開きはなく、個人の生まれ持った性格がその人間の成長に大きくかかわりがあるのだとどこかのネット書き込みで見たのだが、それが当たっていたと実感せざる終えなかった。
成績も運動も翔子は苦手ではなかった。しかしそれは本人にやる気がなかっただけなのだ。
正しい頭の使い方、身体の使い方で、翔子の身体は以前よりも筋肉が付いたように思うし、成績も聞いたら偏差値が10は上がっていた。
薔薇子はもとからかなり頭に入っていましたからあとは引き出す練習をしましたと言っていたが、大学受験までの暗記科目を短期間でほぼ網羅したっぽかった。
気が付けばずっと勉強していたもんな…。ポンポンペンも夢可愛いノートもたまに色が違うことがあったから、多分すごいスピードで使い倒され、新しいものと入れかわっていたのだろう。
そして勉強が落ち着いて、空いた時間を薔薇子は手芸に充てていた。
手芸といっても趣味とは少し違った。
ある程度ドレスの試作を繰り返し、ネットで売った経歴を重ね、次に自分でブランド名をつけてタグを作り、作品へつけ始めた。
そして次はオリジナルレースの原案デザイン、ドレスのデザインをドレスを売っている会社にデザイナーとして持ち込みで売り始めたのだ。
さらには流行りのインフルエンサーでドレスを着そうなキャラへドレス案を無料提供したり、他企業とコラボし始めた。しかも一人でやり始めたのだった。
そしてそれで儲けたお金で次は株をやり始めた。実際には母親に言って動かしているみたいだがそれが相当儲かっているらしい。
まだある。
学校の美術選択で賞を取り始めた。
定期音楽祭でいつのまにかピアノの伴奏をしてた。
いつの間にか駅前のイベントで軽音楽部とギターとしてライブに参加していて、その動画を大地からもらったところでやばいと思った。
薔薇子はハイスペックすぎるのだ。
上記のことがこの短期間で同時進行で起こった。正直おかしいだろ。
そもそも吉田先輩の登場の時点でおかしいと思った。
いつの間にか学校でも噂の人となっていた。
そして薔薇子と一緒にいる俺への周りの反応。
このままだと俺は薔薇子の隣に立つことを許されなくなってしまう。
俺も生き方をかえなければいけないかもしれない。そう思った。




