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月光を射る。【獣と人の狭間で揺れる恋物語】  作者: 譚月遊生季
第四章 人生はただ影法師の歩みだ
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第42話 不死の正体

 たくさん遊んで疲れたのか、セレナは夕食後すぐに船を()ぎ始めた。


「眠いのかい? ほら、こっちにおいで」


 パトリシアはセレナを手招き、自らの膝をぽんぽんと叩く。


「んー……」


 ローブにすっぽりと覆われた小さな身体で、セレナはパトリシアの膝に頭を預けた。そのまま、すやすやと心地良さそうな寝息を立て始める。


 ディアナはその様子を微笑ましそうに見ていたが、すぐに顔を曇らせた。


「……兄さん」


 (かたわ)らのデイヴィッドに声をかける。……想いが通じたのは、彼らが双子だったからか、否か。


「……ああ、分かってるさ」


 デイヴィッドは真剣な面持ちで呟き、ふっと目を伏せた。


「オレらは、()()見送らなきゃならねぇ」


 それは、受け入れざるを得ない「事実」。

 セレナは兄や姉と違い、不死ではない。




 ***




「『不死』について、ねぇ」


 別室に移動した双子を尻目に、パトリシアはランドルフ、サイラスと共に酒を()み交わしていた。

 膝枕で眠るセレナの頭をひと撫でし、パトリシアは棚を指さす。ウィスキーの瓶が動き出し、テーブルの上へと飛んできた。


「なんか、心当たりあるか。俺はそういうのさっぱりで……」


 ランドルフの言葉に、サイラスも静かに頷く。


「……オルブライト家の『神獣』はみな頑丈かつ強靭(きょうじん)な肉体を持つ。でも、過去に滅びる直前にまで至った以上、全員が不死の肉体であるはずがない。……どうして、ディアナ様たちだけが……」

「……そうなんだよなぁ。ディアナとデイヴだけなんだよ。『不死』なのは」


 場にいる三人が三人とも酒には強いらしく、テーブルには空になったウィスキーの瓶が次々と積み重なっていく。


「これは、あくまで推測だけどね」


 パトリシアは瓶ごと酒をあおり、ぼやくように呟いた。


「『次』が産まれてないからじゃないかい?」

「……次?」


 ランドルフは怪訝(けげん)そうに呟き、首を傾げる。


「ああ……理屈はよく分からないけど、例の『神獣』ってのは、全世代の記憶を持つそうじゃないか」

「……ディアナが苦しんでたアレか……?」

「なるほど、彼らは世代すら超えた『群れ』が重要なのか。……そういうことだね」

「えっ、何が? どういうこと?」


 頷くサイラスと、話に全くついていけないランドルフ。

 パトリシアは神妙な表情で、ウィスキーの瓶をテーブルに置く。


「ああ、そうだね。あんたの言う通りさ。サイラス兄さん」

「……やっぱり、そうか」

「あれ!? もうコレ兄妹だけで会話してない!? 俺、置いてけぼりなんだけど!?」


 理解できていないランドルフに向け、パトリシアは大きくため息をつく。面倒そうにガシガシと長い赤髪をかきむしり、彼女は吐き捨てるよう告げた。


「……要するに!」


 苛立たしげに、パトリシアは言葉を紡ぐ。

 蒼い視線が、一瞬だけ双子が向かった扉の先へと向けられ、すぐにランドルフを捉える。


()()()()()()()()()()()()、あの双子は『まだ』死ねないのさ。……『群れ』を絶やさないためにね」

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