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月光を射る。【獣と人の狭間で揺れる恋物語】  作者: 譚月遊生季
第四章 人生はただ影法師の歩みだ

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第43話 未練

 賑やかなリビングから離れるなり、デイヴィッドの身体がわずかに傾いた。


「……ッ」

「大丈夫か、兄さん」


 兄の身体を、妹の手がしっかりと支える。


「記憶を一気に思い出した上で、『呪い』を受けたんだ。辛くて当然だろう」

「……記憶に関しちゃ昔のことだし、『呪い』は寝てるうちに『神獣の力』とやらが吹き飛ばした。休むのは後でいい」


 ディアナは気遣うが、デイヴィッドは頑なに首を振る。

 真剣な視線が、ディアナの瞳を射抜いた。


「セレナのこと、どう思う」


 ディアナはふっと目を伏せ、重い口調で語り始めた。


「……『呪い』は、強いエネルギー源でもある。今、セレナを『生かしている』のも……多くの人を苦しめた『呪い』と同質のものだろう」


 そこで、ディアナは言葉を区切る。デイヴィッドも、すぐには追求しない。

 酒の席で盛り上がる別室を、ちらりと扉越しに見やり、デイヴィッドは確認するように呟いた。


「ランドルフは、セレナの近くにいて大丈夫か?」

「……彼は、『呪い』との付き合い方が上手くなった。元はと言えば、セレナの『呪い』もランドルフから受け継いだものだ。今のところは大丈夫そうに見える」

「……かもな。()()()()()()()()、心配しなくて大丈夫か」


 そこで、デイヴィッドも言葉を切る。

 二人ともが、理解していた。


「『呪い』は、負の感情で強くなるんだろ」

「……そうだな」

「なら……幸せになったセレナは……もう、長くねぇんじゃねぇのか」

「…………ああ」


 重い沈黙が部屋の中に落ちる。

 別れの時は、近い。




 ***




 一方、「不死」についての仮説が出たことで、リビングの空気も変わりつつあった。

 ディアナとデイヴィッドの「不死」は、オルブライトの「群れ」を絶やさないためにある、と……


「……二人には……伝えるか?」

「伝えてもいいと思うけど……何を迷ってるんだい?」


 悩ましげなランドルフに、パトリシアが問う。


「……それは……」


 ランドルフは答えに迷い、サイラスが顎に手を当て、呟く。


「ディアナ様は……まだ、死を望んでいるのかな」

「……たぶんな」

「ああ、なるほどねぇ……。『自分が死ぬために子どもを作る』なんてのは、確かに正気の沙汰じゃない」

「……もし可能性があるとするなら、マーニ様の方が……ということも……?」

「デイヴは……そういうのは苦手だよ」


「吐き気がする」とまで言った姿を思い出し、ランドルフは静かに首を振る。


「……()()()()()があったんだ。『(きず)』が癒えないうちは、そっとしておいてやりな」


 パトリシアは、過去の惨劇を覗いたことがある。

 ランドルフ、サイラスは具体的な内容には触れず、押し黙った。

 部屋はしんと静まり返り、セレナの穏やかな寝息だけが場を満たす。次に口を開いたのは、サイラスだった。


「何はともあれ……その子が大人しくなって、『魔獣』騒ぎは格段に落ち着いた。それは、森に詳しい君たちも感じているだろう」


 森に潜んで暮らした「魔女」も、森と共に生きてきた「狩人」も、二人ともが揃って頷く。


「僕としては、これで一件落着……と言っても、別に構わないのだけど……どうだい?」


 蒼い瞳が、ちらりとセレナの方を見る。


「俺も、別に構わねぇが……」


 問いに対し、ランドルフは、何か言いたそうなパトリシアの方に視線を投げた。パトリシアは、強ばった表情で問う。


「……セレナには、何もしないってことで良いのかい?」

「このまま無力化できるならね。無害化と言ってもいい。僕だって手を汚したり汚させたりしながら『領主』の座にいるんだ。今更、潔癖(けっぺき)なことは言わないよ」


 サイラスは淡々と語りつつ、胸の前で指を組む。


「でも、分かってるね」


 凛とした言葉が、パトリシアに投げかけられた。


「その子のために君が()()間違えるなら、僕は止めなきゃいけない」


 蒼い瞳が、同じ色の瞳をじっと見つめる。

 パトリシアははっと息を飲み、膝の上で眠るセレナの方を見た。


「……あたしは……もう、間違えたりなんか……」


 パトリシアの声は、震えていた。

 サイラスは静かに目を伏せ、ハッキリと意志の宿る瞳を再びパトリシアの方へと戻した。


「僕は領主になった。……だから、領民を守らなくちゃいけないんだ」


 ……しっかりとした声音は、自らに言い聞かせるようでもあった。

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