72話 反逆の光
「身体が…悪魔化が、治ってる…?」
「サイ、あんた…何したの…!?」
悪魔化の呪いが解けたルゥフ達が、調子を確かめるように身体を動かす。
「…俺は加護を使いこなせてなかった。力を強くするだけだと思っていたから…。でも、そうじゃない」
加護の強さは魂の強さ。加護の能力は魂の形。
魂を操る加護。強さではなく、形を操る──。
「身体強化──」
自らの加護の力の一部を使い、一つの形を作り上げる。感覚が鋭くなっている今だからこそできる、加護の模倣だ。
加護を通して、肉体に力が溢れるのを感じる。全身にエネルギーが満ち、五感が研ぎ澄まされるようだ。
「──む…!」
その場で何度か軽く飛び跳ね、そのままの勢いで深く膝を曲げ、魔王へと飛びかかる。今までとは比べ物にならない程の速度が出たが、しかし自分でも見えないなどということはなく、動きを認識して反応することができた。
「これが…加護の力か…!」
勢いよく振り下ろした聖剣と魔王の翼が交差する。金属音のような音が響き、互いに弾き飛んだ。
「…勇者というのはあながち嘘ではなさそうだな…。その剣、見覚えがあるぞ」
魔王が憎らし気な顔で、俺の右手に握られた聖剣を凝視する。
物凄いプレッシャーだ。加護を完全に使いこなせるようになった今でも、視線だけで体の底が凍り付くような恐怖を感じる。皆は今まで、こんな化け物と戦っていたのか──。
それにしても、今の攻撃で全くダメージが入らないとは…。今も加護の能力で自分の力を上げ続けているが、それも万能じゃない。力を無限に強めることはできないし、魂の形を変えられるといっても、魔王を人間にしたりすることができるわけではないのだ。
「かといって…」
魔王の攻撃を警戒しながら、皆の様子を確認する。命に別状はないようだが、戦闘は困難なようだった。ただでさえ魔王との攻防で怪我を負っていたというのに、悪魔化の呪いまで受けたのだ。呪いを解いたといっても、肉体を強制的に変質させることによる、物理的な負担が消えてなくなるわけではない。そんな状態では動けるわけがないということだ。
「となると、残された手段は…」
「…! サイ!」
「ルゥフ?」
ルゥフが、傷を抑えながら俺を呼ぶ。体こそ傷だらけだが、その目には確かな信念が宿っているように感じた。
「ごめん…! 今、ちょっと動けそうにないけど…、でもまだ加護の力はあるはず…! 私の力を使って…!」
「…! ルゥフ、お前…!」
加護の力を他人に移すことが出来ることを実体験して知っていたルゥフが、力の限り訴えかける。
「そんなことが…! じゃあ、私の力も使ってください! これくらいしか力になれないけど…!」
「っ…! 体力が回復するまで…、貸して、あげるわ…。あり、がたく…、ごほっ! …はぁっ…」
「ヒート…! ジェシカも…! ありがとう、力、借りるぞ!」
怪我に影響がない程度に、3人から加護の力を借り受ける。今までとは比較にならない程の力が流れ込んでくるのを感じた。
「その力…! そうか、やはり貴様も聖剣の加護を」
「残念だが、これは自前だ!」
再び、聖剣と魔王の翼が交差する。先ほどと全く同じ光景、しかし違うのはその結果だ。
「何ィーーっ!?」
光輝く聖剣が、今まで傷一つつかなかった強靭な翼を切り裂いた。
切り裂かれた翼からは、血ではなく黒い霧のようなものが溢れ、それを見た魔王は焦りを露わにする。
「まだまだ…! ──ハァッ!」
間髪入れず、魔王に向かって連続で斬りかかる。手の中で刃が翻るたび、魔王の身体に傷が刻まれていった。
流石の魔王も余裕が崩れ、必死の形相で反撃をするが、今の俺はそれでやられるほどヤワではない。
「小癪な…! 人間の分際でっ…!」
魔王の周囲に無数の魔力の球体が浮かび、魔王の身体を守るように周囲を旋回し始める。先ほどのジェシカ達との戦いで放っていた魔力弾と同じものだろう、小さいが油断できない威力を秘めていることは想像に難くない。
「遺跡が崩れると面倒だからと抑えていたが、この際仕方あるまい…! 死ぬがいい!」
魔王の叫びと共に、周囲を浮遊していた魔力弾が一斉に発射される。凄まじい威力だが、問題ない。今の俺なら対処できる。しかし問題は他にある。
──加護の力を使い、後方にいる皆の位置を確認する。
「まずいな…この位置…」
躱すのは危険だ。直撃するかもしれない。そうでなくても、爆発の余波をくらうことは間違いない。かといって、あれを全て防ぐのは、流石に今の俺でも──。
「くそ、やるしかないか…!」
「いや…! 大丈夫だ…!」
俺が防御のために剣を構えようとしたその時、ルゥフ達が光る壁に包まれる。
「すまないが、今はこれくらいしかできない! こっちは気にせずに存分に戦ってくれ!」
「…! レイさん、助かる…! これでずっと楽になる!」
雨のように絶え間なく飛んでくる魔力弾を、最小限の動きで躱し、斬り、打ち落とす。剣を盾にして、魔弾の爆発の中を強引に突き進む。
「馬鹿なァ…! なぜ死なん!?」
魔王が叫びながら翼を広げると、翼から黒い光線が四方八方に撃ち出される。魔力弾とは違い、俺を狙っているわけではなく、とにかく物量で押し切ろうとしているかのようだった。もはや魔王の姿を見ることすら叶わない。
途切れのない光線、さっきまでのように剣で防ぐのは不可能に近い。しかし避けるのも悪手、逃げ道を狭めるだけだ。となれば、ここは──!
「仕方ない、使うしかないか…!」
聖剣を真上に掲げ、加護の力を剣に集中させる。すると、まるで巨大な剣のように、見えないはずの加護の力の塊が光を放った。
そしてそれを力のままに振り下ろし、文字通り道を切り拓く。光線が消し飛び、魔王の姿が見えた!
「…なっ……」
さしもの魔王も呆気にとられ、一瞬の隙を晒す。そして、次の瞬間。
「これで…終わりだ!」
魔王の胸を、聖剣が貫いた。




