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71話 勇者と勇者


 時は、少し前に遡る。



「…ここは…?」


 ふと気が付くと、どこか遺跡のような所にいた。


「俺は…何をしてたんだっけ…?」


 何だか記憶が曖昧だ。俺は──俺は──?


「たしか、そうだ、遺跡にいたんだ。…なんでだっけ? ああ、そうだ。思い出してきた…」


 俺は確か──


「僕の剣に触れてここに引き込まれたってわけだ。や、ようこそ。ウェルカムウェルカム」


「うおっ!?」


 一体いつからそこにいたのか、すぐ横に人の好さそうな青年が立っていた。


「ど…どなたか存じませんが…ここはどこですか?」


「ここ? ここはなー…。なんていうか…。どこでもない場所? 的な…。僕のセンスに言わせれば、『狭間の世界』…かな」


「は…はぁ…」


 俺の質問にその青年は、口をにやけさせながらそんなことを言った。狭間の世界とか言っていたが、よく見たらここはさっきまでいた遺跡のような…。

 …いや、違う。部屋の形や構図は同じだが、なんというか少し…新しい?というか、綺麗な感じがする。それに、魔王と皆の戦闘音が聞こえ──


「──あ!? そ、そうだ、皆は──!?」


「大丈夫じゃない? ここ現実世界じゃないし。あっちじゃ時間は経ってないと思うぜ」


「え…、あ、そう、なんですか? …ていうか、あなたは誰ですか? …あ、俺はサイっていいます。冒険者やってます」


「ご丁寧にどうも。俺はエリック。人呼んで──ふふ、…勇者、さ」


 俺が名乗ると、その青年──エリックは、口元のにやつきを抑えきれない様子でそう答えた。


「あ、そうなんですか、エリックさん…、…って、勇者!? え!? 勇者って、あの伝説の勇者ですか!?」


「あ、やっぱり伝説になっちゃってる? いやー僕もね? もしかしたらって思ってたのよ? でもさぁ、ほら、封印に成功したとはいえ、魔王倒しきれなかったし? 不評が広まってても文句言えないって思ってたんだけどなぁ。いやーそうかー伝説になっちゃってたかー! 困るなーもー!」


 エリックさんは全く困ってない様子で顔をさらににやけさせる。


「それで、勇者様と俺はなんでここに?」


「そりゃ、君の勇者だからさ! だからまぁ、そんなにかしこまらなくてもいいぜ、後輩君よ」


 と、何でもないようにそんなことを──


「え、勇者? 俺が、ですか?」


 たしか、勇者の再臨とか言われてたのはジェシカだったはずだ。大体俺は、自分一人じゃ何もできない雑魚だというのに。


「ま、君が外の世界でどんな扱い受けてるかは知らないけど、ここに来た以上は剣が勇者として選んだのは君だ。よかったじゃんか! 後世にまで語り継がれるぜ! 僕みたいに! …まぁ、なんか陰謀的なのに巻き込まれなけらばだけど…」


「で、でも…! 俺の力じゃぁ、魔王を倒すなんてとても無理ですよ! 仲間たちでさえ防戦一方なのに…! 俺、皆にしてやれることはもう何も──!」


「そこでコイツ──聖剣の出番ってわけさ。いいか、これはな──所有者と認めた人間に、何か一つ、加護を与えるんだ。元々持っている加護とは別にもう一つ、な。ちなみに僕は、『魂を操る加護』を手に入れた」


「魂…?」


「君が『加護の力』とか『光』とかって認識してるものさ」


「──! それってつまり…」


 魂を操る力。そして、魂とは加護の光のこと。つまり、俺が持っている力と同じ力というわけだ。


「僕は元々身体強化の加護を持っててね。聖剣の加護で皆から少しずつ力を分けてもらって、最強無敵状態! 魔王ボッコボコ! ってなわけさ」


「そうか…加護の力を一人に集中させて…。と、と…」


 エリックさんの話を聞きながら、魔王への戦法を思案していたその時、突然視界が揺らいだ。


「そろそろ時間のようだ。じゃ、最後に一つアドバイス」


 まるで世界そのものが歪んでいるかと錯覚するほどの眩暈の中、彼だけはその姿を保ったまま、俺の目を真っ直ぐ見て語り掛ける。


「魔王は死なない。体を殺しても、魂を起点にして蘇る。私も結局、あれを滅ぼすことはできなかった」


 もはや立っていられない。それどころか、自分が立っているかどうかすらわからない。


「魂を狙え。それができる力を願え。……あとは、君次第さ」


 何も見えなくなった世界に、声だけがはっきりと聞こえる。


「新しき勇者よ。その勇気を示し魔を滅ぼすのだ! …なんてな。…ま、気楽に頑張りな。聖剣の祝福があらんことをってね」


 その声を最後に、世界が途切れた。



──────────────────────────────────


「────ここは」


 遺跡の中だ。どうやら、あの世界から戻ってきたらしい。

 眠りから覚めた時のようにぼんやりとする頭で、状況を何となく理解する。


「──聖剣…」


 ふと気が付くと、台座に突き刺さっていたはずの聖剣が、いつの間にか抜き放たれた状態で右手に握られていた。

 

「──」


 聖剣を両手に持ち直し、刀身を見つめる。仄暗い部屋の中に、僅かに光が煌めいた。

 感覚が研ぎ澄まされているのがわかる。加護の力の流れ──魂の光が、今まで以上に手に取るようにわかるようになっている気がする。


「よし──いこう」


 その場で剣を一振りして、俺は皆の所へと駆け出した。

 



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